嘘吐きは勇者の始まり   作:柴猫侍

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第百五十一話:夜明けは明星の始まり

 

 

 

──巨人が大人数を運ぶのに最適な方法とはなんだろう。

 

 

『頑丈で長い紐をください!!』

 

 共に聖都に向かいたいと申し出た騎士団の内、元気な狐っ娘が口にした言葉だ。

 

 

 

『空ならば場所を取る必要はございません!』

 

 何を言っているか正直(ぶっちゃけ)意味が分からなかった。が、いそいそと彼女達が外套(マント)を手足に縛り付けた当たりで察したよ。

 パラグライダー──いや、どっちかと言えばハンググライダーの方が近しいだろう。

 要は人間凧揚げだ。

 この人達、聖都に向かう予定の巨人に掴まって移動しようと考えていたのである。軽く数百キロはあるという道程をだ。

 

『えーっと……死ぬ?』

『はい! 民を守る為の戦場に赴けぬくらいならば死にます!』

『うん。いや。そうじゃなくてですね』

 

 このライアーさんが敬語になるって相当よ。

 大抵聖堂騎士団の方々は覚悟がガン決まっていることが多いが〈鬼の涙〉はその比ではなかった。

 

『ライアー怖いよぉ』

『大丈夫だアータン。俺も怖い』

 

 手を握り締めてくるアータンは震えていた。ブルブル震えていた。生まれたての子犬よりも震えていた。

 

『……これが、恐怖心……』

 

 よりにもよって味方から新たな心を学び、マインは呟いた。

 そうした彼女の手心もあってか、道中〈鬼の涙〉は脱落なく空の旅を終えたのだった。

 

 

 

 そして、今に至る。

 

 

 

「覚悟!!」

 

 

 

 影より飛び出す無数の人影。

 中でもとりわけ目を引く風貌の狐っ娘──タマモは勇ましい声を上げると共に諸肌脱ぎする。他の騎士も同様だ。

 

 そうして晒される傷痕だらけの上半身。

 直後、背中に掘られた厳つい刺青──聖痕が妖しい魔炎を噴き上げる。

 

「詠唱始めェ!!」

 

 旗鼓堂堂(きこどうどう)の詠唱が唱えられれば、分厚い影の海に眩い星が浮かび上がった。燦然と光り輝く五芒星だ。

 

「これは」

 

 ルキフグスの目に明らかな驚愕が浮かび上がる。

 当然だろう。一度は退いた木っ端が、自分の〈聖域〉を塗り替えようとしているのだ。だが、すぐさま奴は平静を装った。

 

「無駄だ。どのような〈聖域〉だろうが……」

「そいつはどうかな?」

 

 再び悪魔の視線が俺を向く。

 ハハッ、怒ってら怒ってら。殺気が込められた視線が痛いほど突き刺さってくる。気をしっかり持たなきゃチビっちまいそうだぜ。

 

 けどなぁ。

 

「こちとらお前の能力も弱点も全部頭の中に入ってンだよ」

 

 アイにも言ってやった。

 〈黄金の愛(アウロ・コンキリアトゥル・アモル)〉には驚かされたものの、あれはあくまで能力の延長線上にあるもの。感覚的にはクリア後に戦える強化ボスだ。弱点は変わらないし、事前に用意していた策も通用していた。

 

 なら、こいつだって同じはずだ。

 

「一体いつまでその余裕ぶっこいた面を保てるか」

 

 

 

 

「──〈不知火(シラヌイ)日馬富士(ハルマフジ)〉!!」

 

 

 

 

 

「我慢比べといこうぜェ!!」

 

 瞬間、戦場が光に包まれる。

 発生源は地面に描かれた五芒星、そして騎士からだった。一人一人が光源となり、ともすれば目を開けていられぬほどの暴力的な光を放っている。

 

 それを受けた俺達はと言えば。

 

「ぐおおおお!? 目が、目がぁーーーッ!?」

「ライアーさんがやられてどうするんですか!?」

 

 網膜を焼かれそうだった。

 具体的には、肉の薄い部分が光に透かされて、視界がお肉色と化している。世界がミディアムレア一色だ。

 

「ま、前が見えん……!!」

「奴は一体どうなってます!?」

 

 同様に視界を潰されたベルゴとアスも呻いている。

 普通の人間でさえこうなのだ……あれ、じゃあなんで俺だけダメージ大きいの? って考えたら、俺は罪化で視力上がってたんだった。テヘペロ。

 

 だが、俺よりも堪えている奴がこの中に一人居る。

 

「ぐっ……!」

 

 光と正反対の存在。

 ()()()()()()()()()が、地表から空に伸びる光の柱の中、苦悶の声を漏らしながら膝を突いていた。

 

「効いているぞォ!!」

「ざまあみやがれってんでぃ!!」

「このまま干物にしたらぁ!!」

 

 騎士達が血気盛んな声を上げる。

 迷宮でしてやられた分を一矢報い、歓びを隠し切れないといった様子だ。しかし、すぐさま険しい顔のタマモが檄を飛ばす。

 

「油断しない!! 相手は〈六魔柱(シックス)〉だぞ!!」

「塵共が……!」

「むむッ!? また影が!?」

 

 彼女の懸念通り、ルキフグスはすぐさま立ち上がる。

 すると、一時は光に飲まれて消えかけていた足元の影が再び広がり始めた。

 

「〈虚飾〉の入れ知恵か。俺に対抗する術は考えてきたようだな。だが」

「総員!! ありったけの魔力を注げ!!」

()()()()。子供でも考え付きそうな作戦を、今迄誰もやってこなかったと思うか?」

 

 問いかける悪魔に対し、タマモ達は足元の魔法陣──〈聖域〉に注ぐ魔力を増やす。魔力量に比例して光度を増す〈聖域〉により影の侵食速度は衰えるが、それでもまだ拮抗している状態だ。

 

 おいおい、マジかよ……。

 

「広範囲を照らし、俺の〈聖域(かげ)〉を潰す……()()()()()()()()

「一瞬たりとも気を抜くな!! いいか!?」

「それがどういう意味か理解(わか)らない塵は要るか? さもなくば──」

「ここが正念場だ!! 命を懸けられぬ騎士が居るなら──」

 

 

 

「「──ここで死ね!!」」

 

 

 

 悪魔と騎士の言葉が重なり、生死と勝敗の境目そのものである光と影の綱引きが始まる。

 

 ここが天王山。戦局を左右する重要な場面だ。今はまだタマモ達の魔力が残っている為、ルキフグスの〈聖域〉を押し留めるだけの光量を保てている。

 

 いわば魔力量勝負。

 先に魔力の尽きた方が負ける訳だ。

 

「……?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 ルキフグスとは影の肉体を持つ悪魔。不定形な肉体は物理的な攻撃を無力化する一方で、極端に光に弱い性質を持っている。

 

「この〈聖域〉は」

「どうしたルキフグスさんよォ。す~ぐ押し勝てると思ってたら『あれ? 意外とこいつら保つな。やばいやばい!』みてェな面晒しやがって」

「貴様……」

「お? 今度は『こいつ、調子に乗りやがって……!』か?」

 

 悪魔の双眸に浮かび上がる感情を次々に代弁してやる。

 しかし、そうしている間も光と影は拮抗したまま。

 

「言っただろ。こちとらお前の能力も弱点も全部頭の中に入ってンだよ、って」

 

──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何回も見た手口なら当然“最悪”も想定してんだろ? なァ!?」

 

 〈聖域〉とは基本的に、複雑で強力な術式ほど魔力消費が激しい。

 ルキフグスの〈空亡(ニヒル・スブ・ソーレ・ノウム)〉は強力無比極まる〈聖域〉だ。奴という存在の根幹をなす〈聖域〉と言っても過言ではない。

 

「おやおやァ!? 天下の〈六魔柱(シックス)〉ともあらせられる悪魔様が、ただ光るだけの〈聖域〉にしてやられちゃってんのかァ!?」

 

 ()()()()()()()

 当然のように魔力消費も激しい。それでも奴が平然と〈聖域〉を展開し続けられているのは、ひとえに奴自身の魔力量が化物級だからだ。

 

 しかしながら、化物にも限界はある。

 

「そこまでっ……」

「見越してやってるに決まってんだろ、馬ァーーー鹿!」

 

 光るだけで〈六魔柱〉の頭を止められる。それどころか相手の魔力を尋常でない速度で削っていくのだ。お釣りどころか全額キャッシュバックされるレベルの大盤振る舞い。これをやらない手はないぜ。

 

「チィ……!」

「顔色悪いぜ? って、見える訳ゃねーか。()()()()()()()()()()()()

 

 ファンタジーって不思議な世界だ。

 転生前(むこう)の世界で言うところの幽霊に近い生き物がうじゃうじゃと居る。そういう奴らは肉体の大部分が魔素で構成されている為、死んだら肉体が霧散してしまう。魔人や悪魔が死ぬと消える現象はこれが原因だ。

 

 そして、時に生まれ堕ちる埒外の存在がいる。

 

 肉体の全てを魔素で構成された怪物が。

 

「このまま魔力(おれ)(ころ)すのが狙いか……!」

「徹頭徹尾そうに決まってんだろぉ~がよォーーー!!」

 

 純度100%の魔素の塊。

 それこそが魔王軍大幹部こと〈邪見のルキフグス〉の正体だ。

 

「おかわり欲しいか? 味わいな!」

『──〈極大光魔法(ルクシエル)〉!!』

「くっ──!?」

 

 ベルゴとアスが駄目押しの最上級魔法を浴びせれば、とうとう余裕を保てなくなってきた悪魔から苦悶の声が漏れ出た。

 

 魔素とは魔力の源。即ち魔素100%のルキフグスは、常人を遥かに上回る魔力量を持てる訳だ。その一方で無視できぬ弱点が一つ。魔力が形を成したような存在である以上、奴にとって魔力が体力(MP=HP)

 

「どうだ!? ここまでメッタメタにメタ張られたことねーだろッ!?」

 

 つまり物理攻撃など最初から無意味──0点だ。

 魔法攻撃なら部分点。弱点属性の魔法や武器を用いて、ようやく及第点ってところだろうか。

 

「おのれ……この程度で!!」

 

 

 

「──告解する」

 

 

 

「? ……ッ!」

 

 ルキフグスが目を剥いている。

 だが、その目が映す世界を焼き切らんばかりに光が強さを増していく。

 

──いいや、それだけじゃない。

 

()()()……()()……!?」

「我が〈(シン)〉は〈嫉妬(しっと)〉」

 

 切り札は、ここぞって時に切るから切り札なんだぜ?

 

「貴様……〈嫉妬〉ォ!!」

「私は──〈嫉妬のアータン〉!!」

 

 少し離れた場所に隠れていたアータンの分身(アルター・エゴ)を睨み、ルキフグスが怒声を迸らせる。

 けれど、もう遅い。

 〈嫉妬〉の〈昇天〉で増幅した魔力により、タマモ達が築き上げる〈聖域〉は刻一刻と輝きを増す。

 

「さてと」

 

 光に焼かれる闇の中、唯一浮かんでいた番の星が瞬いた。

 その双眸は、ただでさえ輝く大地よりも──それこそ、地平線より上る太陽の如く幻想的な緑閃光を目の当たりにする。

 

「その剣──!?」

虚飾(イリテュム)じゃねえぞ」

 

 振りかぶる剣は空虚(ヴァニタス)の方だ。魔力を注ぎ込むことで、一瞬本物を再現する〈虚飾〉の罪器。

 

 ただし、顕現するのはもう片方の愛剣。

 

 〈虚飾(イリテュム)〉の原型(オリジナル)

 

 とある贋作師の夢の始まり──。

 

「本命は最初からこっちだ」

 

 〈浄罪〉でも〈断罪〉でもない。

 

 俺が握るのは、かつて〈傲慢の勇者〉が振るったとされる聖剣。

 空を埋め尽くすほどの堕天使の軍勢を切り伏せ、昇らぬ太陽に代わり、夜明けを人々に知らせた伝説の罪器があった。

 

 

 

 その名は──。

 

 

 

明星(みょうじょう)聖剣(せいけん)

 

 

 

 緑閃光を放つ刀身がその証。

 地獄でしか採れぬその鉱石は、注がれた魔力を魔力の斬撃に変換し、流星の如く解き放つ。

 

 たったそれだけ。

 たったそれだけの、実にシンプルな能力(ちから)

 

 たったそれだけの剣で、一人の傲慢な少年は、世界を堕天使より守り抜いた救世主と化した。

 

 そいつに俺はありったけの魔力を注ぎ込む。

 輝きを増す刀身に照らされて白む視界に、とある親子の顔が過った。

 

「散々塵とか滓とか馬鹿にしてくれやがったけどよォ」

 

 見てるか? シムロー。

 見てるか? フェルム。

 

 

 

 今、()()()()()()

 

 

 

()()()は──皆の願いを叶える星屑だ」

 

 

 

 ***

 

 

 

(見立て通りでした)

 

 

 

 悪魔を捕らえる光の柱諸共切り裂かんとする刃。それを見たタマモの口元もまた鋭く裂けた。

 

 国の命運を分かつ大一番。

 本来、真っ先に命を賭すならばタマモを含めた騎士のはず。にも拘わらず、実際に大悪魔(ルキフグス)と刃を交わすは、どこの馬の骨とも知れぬ冒険者だ。

 

 もっとも、これがいかに高名な冒険者だったとしても関係はなかった。

 国を──民を守るは騎士の責務。そのスタンス自体は未来永劫変わるまい。

 

 だが、物事には“例外”が存在するものだ。

 

(やはり、この御方こそ……!)

 

 〈金字塔〉を発つ前、タマモが言われた言葉がある。

 

『もしルキフグスと戦うことになったら──あいつは俺達に任せてくれ』

 

 一介の冒険者に過ぎない男が、あろうことか魔王軍の大幹部を相手取ると口にしたのだ。

 

『奴を倒す策がある。その為にも、あんた達には協力してほしい』

 

 その上での指示。

 これがプライドばかりの高慢な騎士であれば、冒険者風情が何を……と激昂していたかもしれない。

 

 しかしながら、タマモを含んだ騎士一同、彼の提案に異論はなかった。

 

『……民を守る為ならば背に腹は代えられません。乗りましょうとも、その大船に!』

『助かる。それと……済まないな。騎士の矜持を踏み躙っちまうか?』

『犬にでも食わせておきますよ。ですが、代わりに相応の礼をお返し致します』

 

 恩には礼を。

 だが、そんなタマモの考えにライアーはこう返したのだ。

 

『いいよいいよ。気にせんといて』

『いえ! そういう訳には……!』

『そう? じゃあ、〈悲嘆のエル〉。居るだろ? あの子に支援でもしてやってくれ』

『ひ、〈悲嘆〉殿に……ですか?』

『そうそう。ファンからのプレゼント♡ ってことでさ』

『!!』

 

 その時、タマモは確信した。

 

(この御方こそが、〈悲嘆〉殿の言っていた……!)

 

 彼女は以前、〈悲嘆〉に(まみ)えた機会があった。

 アヴァリー教国を揺るがす二つの大事件──罪派が駆りし罪獣と〈金字塔〉迷宮主の討伐。どちらも〈悲嘆〉を筆頭にしたパーティーを英雄と祭り上げるには十分すぎる偉業であったことは記憶に新しい。

 

 それ故、聖堂騎士団も彼らに報奨を与えようと動いたのだ。

 

 結果だけ先に言えば、失敗に終わった訳だが。

 

『──罪獣も迷宮主も依頼達成上の障害に過ぎなかったら倒した……それだけです。頂く金額は、元々の報酬金で構いません』

『し、しかし……!』

『何より今“金”を必要とするのは貴方達のはず。苦しむ人々から目を背けてまで頂くほどではありません』

 

 〈悲嘆〉は頑なに報奨金を受け取らなかった。

 後ろに立っていた〈嫉妬〉だけは『ちょっとぐらい……』と口走っていたものの、両隣に居た〈傲慢〉と〈色欲〉に『まあまあ』と宥められ、結局パーティーとしての方針は変わらなかった。

 

『で、ですが! 国の恩人に恩を返せぬようでは、騎士団(われわれ)の威信に関わって……』

『……でしたら一つお願いが。旅の道中、時折俺を騙る人物にまつわる話を耳にします』

『そいつをひっ捕らえればいいのですね!?』

『違います』

『あり?』

 

 食い気味に口を挟んで盛大に勘違いをかましたからこそ、強く記憶に残っている。

 ……いや、たとえそうでなくとも印象深かった。

 

『その人物は俺になりすまして人助けした後、『礼なら〈悲嘆のエル〉に』と言い残すらしいです』

『? するってぇと、それはつまり──どういうことです?』

『……偽物が本物に益している、とでも』

 

 本物を騙って悪行を働き、本物の名声を貶める訳でもない。ましてや本物が受け取るべき利益を横取りする訳でもない。

 知らぬ内に本物の名声が高まり、見知らぬ土地で労せずして支援を受けられるという、実に奇妙な話だった。目的が見えない余り、一周回って不気味でもある。

 

『その御仁は一体何の為に……?』

『分かりません。ただ話を聞くには『知人』とか『狂信者(ファン)』と……』

『……誰か心当たりは?』

『いいえ。まったく』

 

 まさしく迷宮入りだ。

 事件解決には、それこそ本人に会って話を聞くぐらいしか方法はないだろう。

 

『成程! では、タマモが見つけ次第正体を暴き、目的を問い質します!』

『いえ。その人が困っていたら手助けしてあげてください。それが俺の願いです』

『見ず知らずの偽物をですか!?』

『はい』

 

 〈悲嘆〉は頷いた。迷いなく。

 

『俺は彼を知らない。会ったこともない。でも、彼に助けられた人達から人となりを聞くくらいのことはできる』

『はあ……?』

『彼は悪い人じゃない』

 

 鉄仮面を被るが故に素顔が窺えない〈悲嘆〉だが、この時ばかりは彼が笑っているとひしひし伝わってきた。

 

『皆、口を揃えて言う。『おかしな人』、『変な人』。あと、『面白い人』──誰一人『悪い人』とは言わなかった』

『……だから彼を手助けしてほしいと?』

『ええ』

『正体とか目的とか……そっちは気にならないのですか?!』

『……正直気になってはいます』

 

 でも、と〈悲嘆〉は続けた。

 

『俺が直接会って教えてもらうべきことだから。それは』

『それが冒険の醍醐味! ──ってね。エル、この前そう言ってたもんね!』

『私は教えてもらった方がいいと思うんだけど……ま、本人がこう言ってる訳だしぃ?』

『実は皆で会うのを楽しみにしてるんだ。その人に会うの』

『ご馳走になったお肉、美味しかった』

 

 続けて発言する〈傲慢〉、〈嫉妬〉、〈色欲〉、〈強欲〉の面々。

 成程。偽物の正体を暴こうとするなど、彼女達の話を聞けば無粋な真似だったと理解できる。

 

『そうですか……では、そのように!』

『よろしくお願いします』

 

 一国を救ったに等しい偉業を成し遂げた勇者は、そう言って頭を下げた。

 ()()()()()()()()()()()

 

『その……できる範囲でいいので』

 

 ただし、〈悲嘆〉は一つだけ見誤っていた。

 

『ご安心を! ()()()()()()お助け致します!』

 

 タマモにとって、〈鬼の涙(ラクリマ・ラルウァ)〉にとって。

 

 できる範囲とは──命を懸けられる範囲だ。

 

 而してその瞬間は訪れた。

 再来する国の危機と共に。

 

(〈悲嘆〉殿。貴方の見立て通り、〈虚飾〉殿は『悪い人』ではありません)

 

 予想は遥かに上を行った。

 山を越え、雲を突きぬかん勢いで光は伸びていく。

 

(彼は正真正銘──

 

 

 

──()()()()()です!)

 

 

 

 偽物が振り翳す偽物の剣。

 本物を騙る聖剣は、流星となって空を。

 

 

 

 そして、地上の闇を切り裂いた。

 

 

 

 




Tips:明星(みょうじょう)聖剣(せいけん)
 ライアーの持つ罪器イリテュムの原型である剣。
 かつて〈傲慢の勇者〉シファーが振るっていた罪器であり、当然剣には〈傲慢〉の権能が宿っていた。
 〈傲慢の勇者〉の著名な伝説の一つ『堕天使堕とし』を成し遂げたのも、この聖剣である。

 明星の聖剣、その能力は魔力を込めると光の刃に変換されるというシンプルなもの。
 一見すると破魔の剣に近しいと思われるが、こちらは出力が桁違いである。〈傲慢〉の権能によって極限まで増幅された聖剣は、本来のスペックを遥かに上回る出力を発揮する。
 一説によると、シファーが全力で魔力を込めた光刃の長さは空にも届き、空を埋め尽くしていた堕天使の大群を一太刀で半数以上消し飛ばしたとされる。

 また、空まで伸びるその特徴的な緑閃光の輝きを目にした者達は、闇に覆われた世界に夜明けが訪れたと確信を抱いた。
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