嘘吐きは勇者の始まり   作:柴猫侍

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第二十三話:釣りは恐怖の始まり

 

 

 

「おーい、あんちゃん。木材こっちに持ってきてくれ」

「あいよー」

 

 マーライオンが討伐され、リーパの村は活気を取り戻し始めていた。

 手始めに漁師は破壊された漁船の修理に取り掛かっていた。そこに駆り出されたのが暇を持て余していたライアーである。

 

「ここに置けばいいっすかー?」

「おう! ありがとよ、あんちゃん。意外と力持ちだなぁ!」

「ったりめえよ。こう見えて鍛えてますんで」

「そんなら船が直ったら一緒に漁でも行こうや! 網を引いてもその余裕保ってられるかな?」

「おいおい、俺様を誰だと思ってるんだぁ? 網なんざ俺の力じゃピクリとも動きませんとも」

「フッ、良い威勢……じゃねえめちゃくちゃ弱腰なこと言ってんな」

 

 むしろ弁えてんな、と漁船を直していた漁師は呵々と笑う。

 

 ライアーはすっかり村の住民とは打ち解けている。

 昨日、マーライオン討伐を祝った宴会では住民の男と仲良く酒を飲み交わしていたくらいだ。

 

 鉄仮面を付けたままだというのに、何故ああも人との距離を詰められるのか。

 遠目から眺めていたアータンにはまるで理解できなかった。

 

 しかし、そんな自分も絆された一人だと思い至るや思考を中断した。

 

「アータン姉ちゃん~」

 

 するとどこからともなく釣り竿を携えた子供達がやって来た。

 彼らの釣り糸の先には、すでに一匹の魚がぶら下がっている。

 

「見てみて、魚釣れた~」

「わぁ、もう!? 私まだ一匹も釣れてないのに……」

「なぁんだ。アイベル姉ちゃんの妹って言うからどんだけ釣るのかなって思ったのに……」

「むぅ、言ったなぁ~」

 

 得意げな笑みを湛える少年の頭をワシワシと撫でまわしてから、アータンは自身の釣り竿に向き直した。

 今は村の子供達と一緒になって岸釣りをしている最中だ。

 しかし、川釣りの経験はあっても海釣りの経験がないアータンにとって、広大な海は余りにも大きな敵であった。釣り竿に向かって早30分。未だピクリとも竿は動かない。

 

「う~ん、全然釣れない……餌が悪いのかなぁ?」

「おっ、また来た!」

「えぇ、嘘ぉ!?」

「へっへっへ、姉ちゃんって雑魚なんだな」

「うぐぐっ……言わせておけば……」

 

 さらにもう一匹釣り上げる子供を横目に、アータンは揺れる海面をジッと見つめる。

 

 魚は泳いでいる。

 泳いではいるのだが一向に餌に食いつく気配がない。それどころか釣れないアータンを嘲笑うかの如く魚は海面から飛び跳ねていた。

 心なしか魚の面も笑っているように見えてくる。『釣れなくて残念ですねェ~、ギョギョギョ!』という幻聴さえ聞こえた。主に後ろの鉄仮面から。

 

 その鉄仮面には釣り餌のゴカイを投げつけて憂さを晴らすとして、それでも尚釣れぬ現実を前にアータンは歯がゆさにわなわなと震える。

 

「くっ、網さえ届けば……!」

 

「え~? アイベル姉ちゃんなら岸から魔法で撃ち抜いてたよなぁ~?」

「ね~? コマセ撒いて集まってきたところをズバババーン! って」

 

「釣り全否定?」

 

 どうやら姉はズルをしていたらしい。

 だが、やってもおかしくはないと(アータン)は確信する。何故なら(アイベル)はすぐ結果を求めたがる短気な性格だったからだ。

 思い出の中のザリガニ釣りでも、自分がミミズを餌に釣りしている横で手掴みしていた情景が思い起こされる。

 

「……あれ? でも、撃ち抜いた後はどうするの? 網で掬ってたの?」

 

「ううん。海に飛び込んでたよなぁ~?」

「ね~? 海から陸に投げてたよね。ポポポポーイ! って」

 

「釣り全否定?」

 

 とんだストロングスタイルだ。

 せめて一貫してほしいものである。魔法で撃ち抜いた魚くらい魔法でかき集めるぐらいしてほしい。

 

 などと呆れかえっていたアータンであったが、不意に手元に違和感が走った。

 

「うん? ……あれ、何か掛かってる!?」

 

 ピンと張る釣り糸の先に魚影が見える。魚影が右に動けば釣り糸も右へと動く。

 間違いない、ヒットだ。

 ようやく到来したチャンスに口角を上げるアータンは、グッと釣り竿を引き上げて完全に針を魚の口に食い込ませる。一層魚の動きが激しくなるが、釣り糸が外れる気配はない。

 

「来た来た来た来た……!」

 

「魚に引っ張られて海に落ちんなよ~」

「よ~」

 

「落ちないって。そこまで非力じゃ……ほらぁ!」

 

 ザッパァーン! と水飛沫を上げながら魚を釣り上げるアータン。

 見よ、釣り糸の先には丸々と太ったアジがピチピチと踊っているではないか。刺身になめろう、焼きにつみれとなんでもござれな万能な食材だ。

 

 今から夕飯が楽しみでならないアータンの口からは涎が───。

 

「あっ、別の魚が食いついた」

 

「ウソォ!?」

 

 宙を舞っていたアジを狙い、一回り大きな魚が食い付いた。

 海中へ引き戻される釣り糸。その衝撃で海に引きずり込まれそうになるも、アータンは何とか岸の縁で踏ん張り留まった。

 

 だが、予想以上に魚の動きが激しい。

 強過ぎる引きにアータンの腕は小刻みに震えており、見かねた子供達が彼女の加勢に入った。

 

「姉ちゃん負けるな!」

「うぐぎぎぎ!? なっ、何が掛かったの!?」

「多分ブリ!」

「ブリ!? 美味しいお魚!?」

「刺身、照り焼き、煮つけ! 全部うまい!」

「よーし、頑張って釣り上げる!」

 

 海老で鯛を釣るのではなく、アジでブリを釣る展開にアータンは燃え上がった。

 原動力は今日の夕食が豪華になった光景だ。夢想を力に変え、アータンは暴れるブリに粘り強い抵抗を続ける。

 

 それが数分間続くと、流石にブリの方も疲れてきたのか動きが鈍くなってきた。

 そして魚影が岸壁に近づいた瞬間、アータンは残された力を振り絞り釣り竿を引き上げる。

 

「や、やった……!」

 

 そこには丸々と太ったブリが空を泳いでいた。

 体の側面に走る黄色いラインが輝いて見えた。あの鱗一つ一つの煌めきこそ、自分達が流した汗の結晶だ───感動に打ち震えるアータンの目尻には自然と涙が浮かんでくる。

 

「あっ、また別の魚食いついた!」

 

「にぎょあああ!!?」

 

「姉ちゃーん!」

 

 乙女に似つかわしくない絶叫を上げながらアータンは蹲った。

 彼女の股間には釣り竿のグリップがめり込んでいる。ブリを釣り上げようとした際、固定しようと股間に挟んでいたのが仇となった。海中に引きずり込まれる釣り竿が海側へと傾いた結果だ。

 

「姉ちゃん、釣り竿放せ!」

「は、放したくても放せないの……!! 今放したらテコの原理でそのまま海にポーイって投げ捨てられる気がする……!!」

「あ……ブラッドマリンだ!」

 

 鬼気迫る子供の声に海面に目を向ける。

 すると、他の魚では見られなかった背びれのような物体が海面を割っている光景が見えた。血に濡れたの如きおどろおどろしい色合いは、本能的な危機感を呼び起こさせる。

 反面、サァッと顔から血の気が引いたアータンは頬を引き攣らせながら問いかける。

 

「ブラッドマリンって……!?」

 

「サメの魔物だよ! 血の臭いを嗅ぎつけてやってくるんだ!」

「人間もバクバクー! って食べちゃうんだよ!」

 

「助けてライアーーーッ!!」

 

 堪らず救援要請を出す。

 すると、数秒後には『呼んだ?』と危機感の欠片もない声色の鉄仮面がやってくる。頭にはリボンのように先ほどのゴカイがくっ付いていた。

 

「どうした……うぉ!? 血鮫(ブラッドマリン)じゃねえか」

「ラ、ライアー……ち、力を貸して……!」

「分かった! ブラッドマリンはフカヒレスープが美味いぞ!」

「物理的な力を貸してちょうだい!?」

「あれ、違った?」

 

───なんだ? 美味しい調理法聞いて力出せってか、おぉん?

 

 生まれて初めてかつ突発的な反抗期だった。

 ライアーにぶつけるアータンの瞳はガン決まっていた。

 

 これにはライアーもたじたじだ。

 『反省してます』と頭に手を置いた彼は、その後慣れた手つきで剣を抜くや、釣り糸をパッと切ってみせる。

 直後、引っ張られる力から解放されたアータンは後ろへと転がる。彼女は二、三回転したところでやっと停止する。その姿はお尻を天へと突きあげる、見事なまでのでんぐり返し状態だった。

 

「わ、私のお魚さん……」

 

 アータンは落胆した。落胆アータンである。

 

「それにしてもブラッドマリンか。ここいらじゃよく見かけるのか?」

「いや。こいつらは大体遠洋に住んでるんだがなぁ。たま~に迷い込んでくるのが居るんだよ」

「マーライオンほどじゃないがこいつも危険だしなぁ。さっさと帰ってほしいもんだが……」

「なるほど」

 

 その間、岸壁にわらわらと集う漁師達とライアーが会話をしていた。

 本来ブラッドマリンは遠洋に棲む魔物。まれに陸地近くに姿を現すが、その場合漁に危険が伴うことは間違いない。

 

「じゃあ仕留めた方がいいか」

「いいのかい? 悪ぃが俺達ゃ大した報酬は出せねえぞ?」

「いいよいいよ。それにサメの肉っていっぺん食ってみたかったんだ」

 

 抜き身の剣を肩に担ぐライアーが言い放つ。

 頼もしい言葉に海の男達は沸き立った。『いいぞぉ!』や『いよっ、冒険者!』と威勢の良い掛け声を上げている。

 

 しかし、沸き立つ観衆を後目に立ち上がったアータンは、至極当然な質問を投げかける。

 

「ねえライアー。どうするつもりなの?」

「パン粉つけてフライだなぁ」

「食べ方から離れて?」

 

 問題は倒し方である。

 

「二メートルぐらいありそうだよ? あんなの流石に釣りあげられそうにないし……」

「何を言っているんだねアータン君? 我々には魔法という素晴らしい武器があるではないか」

「……あ」

 

 言われてから気づく。

 手持ちの武器が届かないのであれば魔法で攻撃する。魔法が使える者ならば当然の発想だ。

 

 その思考がすっぽり抜け落ちていた事実にアータンは赤面した。

 

「なんでそんな単純なことに気づかなかったんだろう……」

「よくあることだ。ま、ここはライアーさんにお任せなさいな」

 

 そう言うとライアーは掌に魔力を集中させる。

 

「海の藻屑になりやがれ! 〈魔弾(マギ)〉!」

 

 ライアーは 〈魔弾〉を くりだした!

 しかし 攻撃は 当たらなかった……

 

「あっ、潜ってっちゃった」

 

 水柱を上げる威力を発した〈魔弾〉であったが、魔力の弾丸はブラッドマリンに掠りもせず海中で塵となって消えた。

 それどころか攻撃されたと理解したブラッドマリンは、海面から遠ざかるべく潜水する。

 

 こうなってしまってはいよいよ陸地からの攻撃手段はない。

 

「……へへっ、アータン先生。ここは先生の魔法であの魔物をやっつけてくだせえ!」

「腰低っ」

「あっし、アータン先生の魔法が見てぇな~」

 

 やり過ぎなくらいの三下ムーブ。

 アータンの応答も実に冷淡であった。冷淡アータンだ。

 

「あれだけ大見得切ってたのに……」

「いやさ、水面って屈折率とかなんとかで実際の距離とは違って見えるじゃん?」

「最初から考慮しなよ……」

「おっしゃる通りでございます」

 

 だが、こんな問答を繰り広げたところで魔物を倒せるわけもない。

 今も尚、ブラッドマリンは意気揚々と泳いでいる。海の方を見遣れば、血に濡れた背びれがどこかへ向かって───。

 

「……ん?」

 

 アータンは何かに気づく。

 少し離れた海の上に漂う生き物の影。それは短い腕を懸命に振り下ろし、何かを割ろうと試みているところだった。

 

「あれ、なんだろう?」

「姉ちゃ~ん。魔法で望遠鏡作れないの~?」

「望遠鏡? そんな魔法ないよ」

「ウソだァ~。だって、アイベル姉ちゃんは水の魔法で遠く見てたもん」

「水の魔法で、って……」

 

「お? あれラッコじゃね?」

 

「ラッコ?」

 

 手でひさしを作っていたライアーに続き、アータンも目を凝らして眺める。

 

「う~ん、やっぱり見えないよ。というかラッコって何?」

「海のカワウソみたいな生き物だ」

「えっ、見てみたい!」

 

 オオウソカワウソで若干トラウマにはなったが、アータンは普通のカワウソならば好きな見た目だ。

 それに近しい生き物ならば必然的に可愛いだろう。そう思い込むアータンは必死にラッコをその目に焼き付けようとする。

 

 しかしだ。

 

「あっ。もしかしてブラッドマリンの奴、あのラッコ狙ってるか?」

「えぇ~!? ヤダヤダヤダヤダ! ライアー、助けてあげて!」

「急にとんでもない無茶言うじゃん?」

「じゃあ私が……!」

 

 役に立たない剣士を横目に、アータンは魔力から水の弓矢を作り出す。

 これはマーライオンの硬い皮膚にも刺さった一撃。ブラッドマリンと言えど、これを急所に貰えばただではすまない。

 

 魔力で生成した弓に矢を番えるアータンは、限界まで弦を引き絞る。

 そして、

 

「───〈水魔弓(オーラ・アルクス)〉!」

 

 圧縮された水の矢がブラッドマリンへと飛んだ。

 

「「「おおっ!!」」」

 

 アータンは 〈水魔弓〉を くりだした!

 しかし 攻撃は 当たらなかった……

 

「「「……」」」

 

 ぽちゃん、と虚しい音が遠くから響いた。

 ブラッドマリンには掠りもしなかった。

 

「───あああああラッコさぁぁぁああああん!」

「諦めるな、アータン! お前が救わずして誰がラッコさんを助けるんだ!」

「でも、私なんかじゃ……お姉ちゃんならこんなことには……!」

「今はそんなことを言ってる場合か!」

「うううっ、ごめんなさいラッコさん……!」

 

 アータンは絶望に打ちひしがれながら、ブラッドマリンに迫られるラッコを遠目に眺める。

 

───せめて最期は見届けよう。

 

 涙に濡れてぼやける視界の中、アータンはしかと視界にラッコの姿を収める。

 

 海面に出ていた背びれが海中に消えた。

 すると次の瞬間、大きな水柱と共に海中からブラッドマリンが現れる。ラッコは下半身を現れたサメの魔物に食いつかれていた。

 

「ラッコさぁーん!!」

 

 

『ゴラァ゛ッッッ!!』

 

 

「ラッコさぁーん!?」

 

 しかし、ドスの利いた声と共にラッコの振り下ろした腕が鮫の脳天をかち割った。

 水飛沫に代わり、血飛沫が海面を打ち付ける。沈黙したブラッドマリンの周辺一帯は瞬く間に血の海と化した。

 

「ラ、ラッコさん……ラッコさん? え、ラッコさん? ラッ、ラッコサン?」

「あー……あのラッコ、頭砕猟虎(ヘッドクラッカー)か」

 

 困惑する少女の隣でライアーが納得する。

 

 ラッコさん───否、ヘッドクラッカーはその間も瀕死のブラッドマリンの頭を叩きつけていた。とんだバイオレンスラッコである。その風景は遠目から見ていてもRは18-Gだ。

 

「己に食いついてきた愚か者のド頭をかち割るラッコの魔物だ。あいつの腕力と得物の石の前じゃあ鋼鉄の兜だってバキバキにされちまう」

「わ、わぁ……」

「良かったな、アータン。ラッコさんが食べられなくて……アータン? あれ、泣いてる? アータンさん泣いてます?」

 

 膝を折るアータンは涙を流していた。

 何もできぬ無力な自分に涙したのではない。ラッコさんが救われたことに安堵したからではない。

 

 それらすべてを上回る圧倒的暴力が見せつける光景。

 目に焼き付いて離れぬ赤と青の為す地獄。あの鮫の脳天の如く心をバキバキに砕かれたアータンはその場から動けなかった。

 

「ラッコさん、こわぁい……!」

「ニャ~」

「ほら、アータン。リコリスが来てくれたぞ。今はニャンコさんで我慢しろ」

「うん……すんすん、カカオの匂いがするぅ……」

「ニャ~」

 

 しばし、アータンは猫吸いで心に負った傷を癒すのであった。

 




Tips:ヘッドクラッカー(頭砕猟虎)
 海に生息するラッコ型の魔物。一見ただのラッコであるが、その膂力は凄まじい。たとえ貝だろうが鮫だろうが、彼の手に打ち砕けぬものは存在しない。
 毛皮は耐水性と防御力に優れており、このラッコを討ち取れた者だけが装備することを許される優秀な防具となり得る。

 鳴き声は『ゴラァ!!!』。

 シリーズ初出は『ギルティ・シンⅥ 嫉妬の反逆者』より。
 攻撃パターンが外れかクリティカルの二種類しかなく、クリティカルの場合、防御力を貫通して凄まじいダメージを与えてくるため、プレイヤーからは『海の番長』としてブラッドマリン以上に恐れられていた。『森の番長』カタパンダとは双璧を為す存在。

───ヘッドクラッカーがイカれ過ぎている。

 この愛くるしいラッコのような姿をした魔物はヘッドクラッカーと言い、主に海を縄張りとするラッコ型の魔物です。
 見た目はほとんどラッコのような姿であり、普通のラッコと違う点はリーゼントのように頭に着けた巻貝にあります。これは強力な貝型の魔物から奪い取った代物であり、メスへのアピールポイントになります。

 このように見た目は至って愛くるしい姿のヘッドクラッカーですが、その裏側にはとんでもない本性を隠し持っています。

 その本性とは、余りにも喧嘩っ早いという点です。

 このラッコは襲い掛かってきた愚か者には例外なく脳天をかち割ろうと武器の石を振り下ろします。この石もまたヘッドクラッカーが海の底で見つけた魔鉱石であり、並みの鋼鉄以上の硬度を誇ります。
 そんな代物をただのスレッジハンマーで岩を砕くヘッドクラッカーに持たせようものなら、大概の生物の脳味噌はイチゴ味のフルーチェと化します。そうでなくとも頭蓋骨は粉々の粉微塵と化す為、大抵の生き物は即座に瞼を閉じることとなります。

 このように暴力性と力を兼ね備えてしまったヘッドクラッカーですが、意外にも他種族と共生関係を持つ生き物です。
 特に海底に暮らすケルプマンとはその共生関係が顕著であり、ケルプマンの天敵である魚や人間からケルプマンを守ることにより、就寝時に海流に身を流されぬようケルプマンの昆布を借りるという関係を築き上げています。

 しかし、そこまでの関係を持っていながらも、ケルプマンが海流によって浜辺に打ち上げられた際はわざわざ海の中に引き摺り戻さない程度には薄情です。
 遠くから見守り、その終焉を見つめるだけです。
 所詮、獣は獣ということでしょう。

 それがネジの外れた頭で頭をかち割るラッコ、ヘッドクラッカーです。
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