嘘吐きは勇者の始まり   作:柴猫侍

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第七十七話:お泊りは同行の始まり

 

 

 

 大銭湯スプラッシュブラザーズを経て、俺達は酒場へと移動していた。

 

 

 

「わたしもご一緒していいんですか?」

「いいよいいよ。お泊りは人数多い方が楽しいからな」

「どういう理屈ですか?」

 

 そこに赤裸々な裸の付き合いをしたアスも加えればあら不思議。

 傍から見れば如何にも王道なRPGパーティーが出来上がったではないですか。

 勇者、魔法使い、騎士、僧侶……いつの時代も王道ってのは外れないよね。まあ勇者(おれ)は偽物だし、僧侶はおちんちんシスターなわけなんだけど。

 

「それじゃあ依頼達成祝いってことでお疲れぇ~!」

「お疲れ~!」

 

 適当な飲み屋を見つけての打ち上げだ。

 風呂上りに冷えたエール……最近アータンが頑張って〈氷魔法(ラキエ)〉を使えるようになったら味わえる至福の一杯に、俺とベルゴはグビグビと喉を鳴らしてジョッキを空かした。

 

「ぶはぁ~! ガキの頃は苦ぇと思うばかりだったこいつも、すっかり旨く感じるようになってきやがった……」

「これもまた大人の特権という奴だな」

 

 そう言ってベルゴは二杯目を頼む。

 ここ数年、子育てやらが急がしくてロクに酒飲みも楽しめなかったのであろう。今日だけは好きなだけ飲ませてやろうじゃあないか。

 

「アータンも飲んでるかぁ!?」

「すみません。ホットワインおかわりで」

「もう飲んでるかぁ……」

 

 すでにアータンの目の前には空になったジョッキが二つほど並んでいる。

 これじゃあ〈嫉妬のアータン〉じゃなくて〈蟒蛇のアータン〉だよぉ……。

 

「アータン。お酒ばかりはよくないからお水も飲みなさい」

「うん!」

 

 内臓が不安になってくるお年頃のベルゴは、老婆心でちょくちょく水を勧めていた。

 頼んだぞ、ベルゴ。アータンの肝臓を守れるのはお前しかいない。

 

 そんなわけで、俺達はしばらくお酒と共に温泉街の料理を楽しんだ。

 温泉街の料理と聞くと温泉卵が一番に思い浮かぶが、それ以外にも温泉の蒸気を利用した蒸し料理が有名らしい。

 『地獄蒸し』という物騒な名前だが、中身は至って普通の肉まんやら蒸し魚などだ。種類は多岐に渡る為、各々が好きに頼んだものを各自で摘まんでいる。

 

「風呂上りのエールとつまみは最高だぜ。アス、お前も飲んだらどうだ? 背徳的な味がするぜぇ~?」

「お誘いは嬉しいのですが……」

「スーリア教の聖職者も酒駄目だったんだっけ?」

「そうですね。なのでお気持ちだけ」

「……ちなみに今飲んでるのは?」

「? ワインですが……あっ、ホットワインですよ! おいしいです!」

「おらぁ!!! 水風呂連行だぁ!!!」

「今から地獄へ逆戻り!!?」

 

 嫌だぁー!!! と喚くアスと引っ張り合うこと数秒。

 お互い無駄に息を切らしたところで席へと戻った。

 

「がっつりアルコール飲んでんじゃねえか。教えはどうなってんだ、教えは」

「わたしが教えを守っていない風に言うのはやめてください! お酒はお酒でも、ワインは神の血とされており、聖職者にも唯一飲酒を認められた飲み物なのです!」

「じゃあ最初にお酒飲めないっつったの無駄じゃねえか」

「それは──たしかに」

「おらぁ!!! 水風呂連行だぁ!!!」

「やめてぇー!!! ホットワインで温まった体が冷めちゃう!!!」

 

 無駄な争いが再び勃発する。

 ご察しの通り、俺達は酔っていた。

 だって温泉帰りだもの。酔いが回るのもそりゃあ早いよね。

 

 そんなこんなで酒と料理をたらふく楽しめば、後は寝るだけだ。

 火照った体に夜風を浴びながら、宿屋へと直行。町長の厚意で用意してもらった部屋へと向かったのだが……。

 

「まさか二部屋が二つとはな」

 

 一つの部屋に二つのベッド。

 何の変哲もない至って普通の部屋であるが、俺はスッとアータンの方へと振り向いた。

 

「……え? なんで私の方見るの?」

「……アータンを野郎と一緒の部屋に寝させるのはなぁ」

「どういうこと!?」

 

 どうもこうもないわよッ!

 こんな盛りのついた野郎共をアータンと同部屋にしてごらんなさい……何が起こるかわからないでしょう!

 

「私、別に誰と一緒の部屋でもいいけど……」

「俺が嫌」

「個人の所感!?」

 

 と言ってもですねぇ。

 

「ベルゴはどう思う?」

「年頃の男女を同部屋はなぁ……」

「あれ!? ベルゴさんもそっち側なの!?」

 

 ベルゴはすっかりパーティーのお父さんポジションだ。

 アータンに対してもある時は父親、ある時は母親の役割をこなしている以上、ほぼほぼ娘扱いしている子が野郎と同部屋なんて許しがたいのだろう。

 

 アータンと同部屋したきゃあ、俺とベルゴの屍を超えてゆけ……!

 

「で、アスだが……」

「……あの、お邪魔なようなのでわたしは別の部屋を取らせてもらいますから」

「いや、ここに残れ」

「なんで!!?」

 

 おちんちんシスターはフィールドに残してターンエンドだ。

 

「折角の厚意を無駄にして、金を払うのも馬鹿馬鹿しいだろう」

「そう……ですかね?」

「あと、なんか面白そうだから」

「そっちが本命じゃありませんか?」

 

 よく気付いたな。

 人生ってのは楽しんだモン勝ちなのさ。生き死にの掛からねえところはドンドン面白おかしくやってやろうじゃあねえか!

 

「そこで! ここに二つのベッドを掛けたトランプ大会を開く!!」

 

 俺は背嚢から取り出したカードセットを取り出し、テーブルの上へと叩きつける。

 

「おお、トランプか」

「トランプってなあに?」

「いいか、アータン。トランプとはな……」

 

 トランプ初見のアータンにベルゴが解説する一方、俺は華麗なショットガンシャッフルをするぜ! このシャッフル方法はカードを傷めるが……今更だぜ!

 

 それはさておきギルシンシリーズは、大体のナンバリングでカジノ的な施設が出てくるし、その度にトランプも登場してきた歴史がある。唯一和風な世界観だったⅢではチンチロとかだったが、大体の賭け事はこのトランプによるカードゲームだった。

 

 なので、トランプは異世界に居ながら現代と同じルールが通用する数少ない娯楽というわけだ。ちなみにお値段は……結構するぜ!

 

「ルールは簡単だぁ!! 今から全員でババ抜きをして、最下位だった奴が床で寝る!! それでどうだ!!?」

「なるほど……面白い。受けて立とうではないか」

「いいでしょう。快適なベッド就寝はわたしのものです」

 

「待って待って!」

 

 闘志を燃やす野郎三人とは裏腹に、アータンが慌ててストップを掛ける。

 

「ベッドは全部で四つあるんだよ!? 私と一緒の部屋が駄目なら、せめてベッドを移動させるとかさ……!」

 

「いや、アータンにはベッド二つを横付けしてキングサイズで寝てもらう」

「成長は良質な睡眠からだからな。異論はない」

「アータンちゃんは心置きなく快適な睡眠をしていただけたら結構ですので……」

 

「今この時に限り私に味方がいない!?」

 

 もう一度言おう。俺達は酔っている。

 酔っ払いの戯言に合理性やら整合性を求める方が間違いなんだよぉ!

 

「うおっしゃあああ!!! 第一回チキチキベッドを賭けたババ抜き大会、開催だぁー!!! ドンドン!!! パフパフパフ♪」

「フッ……かつて〈灰かぶり(シンデレラ)〉で恐れられたオレの腕前を見せてやろう。賭けに負けた相手を片靴だけを残して脱衣させたことは数知れず……」

「逆シンデレラじゃないですか、それ」

 

 変なテンションのまま始まるババ抜き大会。

 それを一人取り残されたアータンが困惑して眺めているわけだが……。

 

「アータンもやる?」

「……やる!」

 

 うちのお姫様は仲間外れがお嫌いな様子だ。

 ちなみに結果は俺が負けた。

 

 

 

 ……クソがッ!!!

 

 

 

 ***

 

 

 

 盛りに盛り上がったババ抜きが開けて一夜。

 いや、実際はあの後おねむになっちゃったアータンを寝かせて、野郎三人で大富豪とかポーカーで楽しんでいたんだけども。

 

 アスとのポーカーは白熱したぜ……。

 負ける度に一枚脱衣する条件で勝負していたが、あいつがブラジャーとガーターベルトを着けていたせいで先に()()切れた俺が負けた。いや、あれは実質俺の勝ちだろ。

 

 というわけでフルチン(鉄仮面装着)のまま起床した俺は、寝ぼけた頭を覚ますべく朝日を求めて窓を開ける。

 

「ふぁああぁ……」

 

 久々に夜更かししてトランプに興じていただけあって、寝覚めはあんまりだ。

 

『フンッ! フンッ!』

「……やってんなぁ~」

 

 だというのに、外からはベルゴの日課である素振りの掛け声が聞こえてくる。

 ベルゴもベルゴで昨日は結構飲んでいたというのに、朝からよくまあ素振りをウン百回もするものだ。

 

「……着替えるかぁ」

 

 しばらくボーっと素振りを眺めていたが、そろそろ体が冷えてきた為、服を着ることにした。

 一通り着替え終わり、顔を洗いに井戸の近くへと赴けば、ちょうど素振りが終わったばかりのベルゴと鉢合わせになる。

 

「グッドモ~ニ~ング」

「ああ、おはよう」

「昨日、俺に毛布掛けてくれた?」

「寒そうだったのでな」

「ん、ありがとう」

 

 オカン気質を発揮するベルゴのおかげで風邪を引かずに済んだ俺は礼を告げる。

 親しき中にも礼儀ありってな。

 

 二人して顔を洗ったり、素振りで掻いた汗を拭ったりする。

 さっぱりした後は朝飯だ。宿屋にお金さえ払えば朝食は用意してもらえるが、最近はもっぱらベルゴが朝食作り担当みたいになっている。

 

 だってぇ……ベルゴの料理美味しいんだもん……。

 

 流石はシングルファーザー。

 十数年男手一つで娘を育ててきただけのことはある。パンにスープ、さらには焼いたベーコン、そして朝市で買ってきた牛乳……現代日本と比べてもなんら遜色ない朝食だ。

 ちなみにベーコンは俺が趣味で作ったブツだ。野営の時とか、寝ずの番の暇な時間に〈もう一人の自分(アルター・エゴ)〉に任せて作っている。

 

「お肉があるだけで人生幸せよねぇ……」

「違いないな」

 

 おかしそうに笑うベルゴは、作ったスープを小皿によそって一口含む。

 仕上がりバッチリだったのか、『うん』と唸ったベルゴは、そのまま取り皿にスープをよそい始めた。

 

「ライアー。そろそろ皆を起こしてやってきてくれ」

「あいよー」

 

 朝食がもうそろそろ出来上がる直前といったタイミングで、俺はお寝坊さん二人を起こしに行く。

 まずは昨日、俺の衣服を全て脱がしたおちんちんシスターの下である。

 

「おらぁ!!! 起きろぉ、アスぅ!!!」

「ふぁっ!!? ななな、何事ですか!!?」

「朝ごはんよぉ~♪」

「声音の緩急で風邪ひきそう……っくしゅん!」

 

 下着姿で眠っていたアスが寒そうにくしゃみをする。だろうな。

 っていうか、改めて見るけどなんでお前ブラジャーとガーターベルト着けてるんだよ。たしか『信者からの貰い物だったので……』と言っていた気がするが、絶対そいつら邪な考えを持ってただろ。

 

「ほら、朝飯にスープあるからそれ飲んで温まれ」

「ありがとうございます……」

「……あ、いいこと思いついた」

 

 え? と呆気に取られるアスを捨て置き、俺はベルゴのよそったスープを一皿手に取った。

 そいつを持って向かうはアータンが寝ている客室だ。

 扉の前に辿り着いた頃、着替えが終わったアスともちょうどよく出くわす。向こうはと言えばスープを片手に持つ鉄仮面を見て、実に怪訝な瞳を浮かべていた。

 

「……何してるんですか?」

「アス、共犯者になろうぜ」

「はぇ?」

「よし、来い」

「ちょいちょいちょい!!? 選択!! せめて選択権を与えてください!!?」

 

 ないよ、そんなもの。

 というわけで共犯者となってくれるアスを引き連れ、いざ客室へと忍び込む。

 

「(おはようございまぁ~す)」

 

 寝起きドッキリ風に挨拶をした。

 よし、これで免罪符は得たに等しい。

 

「(アータンさんは……おやおや、まだお休み中のようですねぇ)」

「(ぐっすり眠ってますね)」

 

 今回のドッキリを仕掛けられるのはアータンさん(18)です。

 昨日はたくさん飲み食いしましたからね。すっかり朝日が昇った時間となりましたが、未だにプヤプヤと寝息を立ててお眠り中です。

 

「(そんなアータンさんにお持ちしたのはこちら! ベルゴさん特製のスープです)」

「(いい香りですね)」

「(最近彼女は毎朝こちらを飲んでいるようですからねぇ。もう習慣ですよ)」

 

 さてさて。

 そんなスープをアータンさんの顔に近づけてみましょう。

 

「うみゅ……」

 

「ッ……!」

「くっ……!」

 

 こちらをご覧ください。

 スープの香りを嗅いだ瞬間、穏やかな寝息を立てていたアータンがお口をモムモムし始めました。

 お口には何も入っていないはずなのに、夢の中でご飯を食べているのでしょうか? 可愛いですね。

 

 それではもう少し近づけてみましょう。

 

「んぅ~……ぷちゅぅ……」

 

「ッ……ッ……!!」

「ンフフフフ……!!」

 

 これはこれは。

 アータンさんはきっと微睡みに揺られつつ、スープを啜っているつもりなのでしょう。ちょこんと唇を尖らせ、空気を吸い込む音を響かせました。

 部屋に木霊する吸引音には、わたくしの隣に立っているアスさんも腹を抱えて床に蹲っています。

 かく言うわたくしもスープが零れぬよう細心の注意を払いつつも、天井を仰いで爆笑中です。

 

「お~い、そろそろアータンを起こしてやったら──何をしているんだ?」

 

 おっと、ここでベルゴさんが参戦しました。

 抱腹絶倒中の我々を見て呆れているご様子。我々を放り、ご就寝中のアータンの下へと歩み寄っていきます。

 

「アータン。アータン、起きなさい」

「ぷぇ……? あれ……スープ……」

「スープなら用意している。顔を洗ってきなさい」

「んっ……んぅ……」

 

 立ち去っていくベルゴに対し、ようやく起床されたアータンが目をゴシゴシと擦っております。

 依然としておねむなご様子ではありますが……お~っと、ここで我々と目が合った!

 

「……?」

「「ッ……!」」

「……ライアー……と、アスさん……?」

「っ……お、おはようアータン……くふっ!」

「おはようございます、っ……!」

「……ぷゃ……」

「「ッ……!!」」

 

 アータン選手! ダウンだ!

 二度寝の状態に入りました!

 恐らく我々を見て夢だと勘違いしたのでしょう!

 

 しかし残念~!

 現実! これは現実です!

 

「アータン、おっはよぉ~~~!」

「むみゃあああ!!?」

 

 スープをアスに託し、布団にくるまるアータンを布団諸共持ち上げる。

 さながら吊り上げられた漁網だ。布団の中から悲鳴が聞こえた後、わずかな隙間からアータンがニョッと顔を出してきた。

 

「あ、ライアーおはよう」

「おはよう。朝ごはんの時間だぞ」

「もう? わかった」

「じゃあこのまま連れていくか」

「えっ……ちょっと待って!? こんなお布団ミノムシ状態で!? ア、アスさん助けて!」

 

「ヒィ~~~ッ!! ──熱ぃ゛!!」

 

「スープの洗礼が!?」

 

 ミノムシアータンを担いで、いざ朝食へ。

 ──行こうと思ったんだけど、笑い過ぎて渡されたスープをちょっと零したアスが火傷した。

 

 

 

 混沌過ぎるだろ、この状況。

 

 

 

 ***

 

 

 

 スープをちょっと零した罪で、俺とアスはベルゴに拳骨を食らった。

 しっかり反省させられ、着席。

 さて、テーブルにはご機嫌な朝食が並んでいる。食事は体の資本だ。バランスのいい食事を取ることで一日の調子が決定づくと言っても過言ではない。

 

「それでは、いただきます」

「「「いただきま~す」」」

 

 いただきますの音頭を取るベルゴに続き、俺達も手を合わせる。

 出身は違っていてもすんなり掛け声が合わさる辺り、どこの国でも食事の作法は変わらないらしい。元日本人としてはやりやすいところだ。

 

「それにしてもベルゴの朝飯は旨いな」

「おいしぃ~!」

「そうか。おかわりも用意したからたくさん食べていいぞ。アスもな」

「ありがとうございます。ご馳走になっちゃって……」

 

 てへへ、とアスは頬を赤らめながらも、食事の手は止めない。よっぽどベルゴ飯を気に入ったらしい。

 談笑を交えながら食事を進めること半刻。

 粗方全員食べ終わった頃合いを見計らい、ベルゴが切り出した。

 

「アス。そう言えばお前はどうするのだ?」

「わたしですか?」

「オレ達は一旦アッシドに戻るつもりだが……」

 

 一堂に会しているとはいえ、アスは今回の依頼とは無関係だ。

 わざわざギルドに戻る理由もない。

 

「わたしはここでの宣教活動は終わりましたので、別の土地を目指そうかと思います」

「そう言えばお前宣教師だったな」

「そう言えば? そう言えばって言いました、今?」

 

 信じられぬものを見る目で、アスが呟いた俺を見つめてくる。

 宣教師ぃ? 馬鹿言うんじゃない。お前はおちんちんシスターだよ。

 昨日の出来事を思い出しながらジッと見つめてやれば、突然アスは『ふ、不潔です!』と叫んだ。そういうとこだぞ。

 

「でもちょっと寂しいね。アスさんと別れるのは……」

 

 しかし、ぽつりと漏れたアータンの呟きが空気をしんみりしたものへと変える。

 

「アータンちゃん……」

「……ごめんなさい。こんな時に」

「いいえ。むしろ、そんな風に思っていただいてもらっただけで嬉しいです」

 

 アスはしょんぼりするアータンの肩に手を置いた。

 寂しいのは向こうも同じだ。浮かべている柔和な笑みにも、どこか寂しさの影が窺える。

 

「旅先での出会いは一期一会と言いますが……また会えるのを楽しみにしていますよ」

「アスさん……」

 

 そう言ってアスは手を組み、祈った。

 祈る相手はきっとスーリア神だろう。

 スーリア教の開祖は〈色欲の勇者〉デウス。神代の人物の教えが現代まで生きていると考えると、それだけでもうファンタジーである。

 

 純愛メスケモハーレムを築いた勇者が純潔を説くのは若干違和感があるが……いや、だからこそか?

 

 まあいいや。

 

「何を祈ってるんだ?」

「皆さんの旅に神のご加護があるように、と」

「じゃあとびっきりの加護をお願いしてくれ。なんたって俺達ゃ、家族探しのついでに魔王討伐に行くからな」

「え?」

 

 『何言ってんのこいつ?』とアスが目を向けてくる。

 かくかくしかじかと説明してやれば、それまで訝しげだったアスの表情が、どんどん険しいものへと変わっていく。

 

「なるほど、そんな事情が……」

「そういう理由でこんな凸凹パーティーを組んでるわけだ」

 

「「誰が凸凹だ」」

 

「俺がボコボコだ」

「……」

 

 神妙な面持ちで俺を見つめるアス。

 やめろよ……照れるじゃないか♡

 

「──これも、巡り合わせなのでしょう」

 

 ふいにポツリとアスは呟いた。

 

「事情はわかりました。その上で一つ皆さんにお願いがあります」

「お願い?」

「わたしを……皆さんの旅に加えていただけませんか?」

 

 聞き返したアータンが驚きと喜びに目を見張る。

 余程嬉しかったのだろう。『ライアー!』とはしゃぐ彼女は、ポコポコと俺の肩を叩いてくる。ハッハッハ、おやめさない。俺のボコボコ具合がもっと増えちゃうから。

 

「でも、どうしたんだ急に?」

「実は……わたしもなんです」

「ボコボコにされたのか」

「そっちじゃなくて」

 

 やんわりと同類を否定された。悲しい。

 俺がしょぼんとしている間にも、アスは意を決したように口を開いた。

 

「わたしが旅をしているのは、家族を探しているからなんです」

「家族……って……?」

「妹です。事情があって離れ離れになってから、それっきりで……」

 

 それまで喜んでいたアータンも、アスの語る内容に自然と落ち着きを取り戻した。内容が内容だから、喜んではアスに失礼だろうと考えたのだろう。

 

「わたしは死ぬ前にもう一度妹に会いたい! その一心でわたしは宣教師となり、各地を巡ってきました」

「にゃるほど」

「魔王をも倒そうとする皆さんの覚悟には到底及ばぬかもしれませんが、それでもわたしは……妹の為なら、この命、掛けられます!」

 

 だから、とアスは深々頭を下げた。

 額がテーブルへとぶつかりそうな勢いだ。というか、勢いを殺しきれずにぶつかっていた。

 

「お願いです! 皆さんのお役に立てるよう精進します! ですから何卒……!」

「いーよー」

「同行をお許し……あれ?」

「いーよー」

「い、いいんですか……? そんな軽い感じで」

「いーよー」

「ライアーさん、話聞いてます?」

「いーよー」

「聞いてないじゃないですか!? ……いや、聞いてる!? こっちガン見してる!? これで聞いてなかったらそれはそれで怖い!!」

 

 熱烈な視線を浴びたアスは、俺がしっかりと返答してくれていると信じてくれた。

 

「別に人数増えて困る旅じゃないし。なー、アータン?」

「うん! 他人事とは思えないし……一緒に来るなら大歓迎です!」

「旅は道連れとも言うしな。助け合える目的を持った同士なら、共に行動するのもいいだろう」

 

「皆さん……!」

 

 加入を受け入れられたことにアスは感極まっていた。

 うるうると揺れる瞳の目尻には、一粒の涙が今にも零れ落ちそうなくらい膨らんでいた。

 

「ありがとうございます! これもまた運命……! スーリア教のご加護の下、皆さんをお導きします!」

「いや……うち、そういうの興味ないんで」

「急に梯子を外された!!?」

 

 だって……うち、そういうの興味ないんで(2回目)。

 

「なんかそれ懐かしいね」

「前にもやったのか?」

 

 後ろでは感慨深げに頷くアータンに、ベルゴが得も言われぬ面持ちを浮かべていた。

 

 だって……うち、そういうの興味ないんで(3回目)。

 

「ライアーさん、スーリア教を信じてみましょうよぉ~! 聖職者でも結婚できるんですよぉ~!?」

「セールスポイントそこなのか?」

「同性とか他種族とかとも結婚できますぅ~!」

「それは──ちょっと詳しい話聞かせてもらっても?」

 

「ライアー!?」

 

 驚愕するアータンが俺の手を引っ張る。

 

 待つんだ、アータン!

 ちょっと話を聞いてみるだけだから!

 

 先っちょだけだから!

 

 

 

 そんなこんなで俺達のパーティーに一人加わった。

 

 

 

──計画通りだ。

 

 

 




Tips:サルファーサラマンダー

──サルファーサラマンダーがアホ過ぎる。

 このアホみたいな間抜け面を晒すトカゲはサルファーサラマンダーといい、主に火山地帯などに生息するトカゲ型の魔物です。
 その特徴はやはり背中に生えた黄色い結晶であり、それらは全てサルファーサラマンダーが主食とする硫黄が主成分です。

 サルファーサラマンダーはこれを自衛や攻撃に転用することで外敵から身を守っており、時には自ら火薬を生み出すという魔物にあるまじき知能も見せます。

 このように非常に強力な武器を有するサルファーサラマンダーですが、一つ話にならない欠点があります。

 それは泳ぎが苦手という点です。

 サルファーサラマンダーはその性質上、背中部分に重心が寄ることで、水などに浮かんだ際にひっくり返ってしまいます。しかも中々起き上がれません。おじいちゃんの方がまだ起き上がれます。
 それどころか温泉の近くに棲んでいる癖に、足には水掻きがないなど、明らかに両生類などに劣っている体の構造をしています。

 その為、溺れない為にも水の中に入らないよう暮らす彼らでありますが、時には背中の硫黄に着火し、火を消すために水の中に飛び込まざるをえなくなります。
 そして、命の火も一緒に消し、二度と陸に上がって来ません。

 それがアホロートルの方がまだ賢い魔物、サルファーサラマンダーです。
 
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