嘘吐きは勇者の始まり   作:柴猫侍

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第八十一話:聞き込みは結婚の始まり

 

 

 

 王都ペトロを発って数日。

 スーリア教国を目指す俺達は今、危機に直面していた。

 

「気を付けろ! 魔物だ!」

 

 行く手を阻む三体の魔物。

 後肢で立ち上がり、自身の体を大きく見せようと前肢を掲げてみせるポーズは、紛れもなく俺達を外敵と認識しての行為だ。

 

 ただ……。

 

「……カワイイ」

 

 アータンが不意に一言零した。

 魔物は千差万別だ。見るからに恐ろしい魔物も居るならば、一見すると普通の生物と何ら変わりのない魔物だって居る。

 中には容姿が愛くるしいという理由だけで貴族に飼われている魔物だって存在するのだ。見た目全振りの魔物が居てもおかしい話ではない。

 

 俺達の前に立ち塞がる魔物──そいつは体長50センチメートルほどの猫っぽい熊。ふさふさな縞々尻尾がチャームポイントの人畜無害著しい見た目。

 

 レッサーパンダみたいな魔物と言えば早いだろうか。

 

「カワイイですね……」

「うむ、カワイイな……」

 

 アスとベルゴもレッサーパンダっぽい魔物に絶賛骨抜き中だった。

 

「おい、油断するな! カワイイ見た目してるからって相手は魔物だぞ!」

「こんな小さな魔物が危険なはずないじゃないですか~」

「おい馬鹿!」

 

 警告も虚しくアスは呑気に魔物に近寄っていく。

 

「迂闊に近寄るな! そいつは──」

「ほ~ら、干し肉ありますよ? 食べますか~?」

 

 

 

「Let’s sir!!」

 

 

 

「ッ痛ァーーーッ!!?」

下蹴小熊猫(ローキックマ)だぞ!!」

 

 名は体を表す。

 ローキックマは不用意に近づいたアスの懐まで一瞬にして潜り込み、無防備なスネ目掛けてキレッキレの下段蹴りを見舞う。

 スパァン!! と蒼天に木霊する破裂音からも察しの通り威力は壮絶なもの。

 最初の悲鳴後、アスは声も上げられず地面でのたうち回っていた。

 

「アス!!」

「ベルゴ、待て!!」

「待っていられるか!! すぐにアスを助けねば……!!」

 

 

 

「Let’s sir!!」

 

 

 

「ぬ゛ぅ゛う゛ーッ!!?」

中蹴小熊猫(ミドルキックマ)も居るぞ!!」

 

 アスの救援に向かおうとしたベルゴであったが、一瞬の隙を衝いて背後に回り込んだレッサーパンダ──ではなく、ミドルキックマ。

 そいつが短い脚を超速で振り抜き、脚甲の装甲がないベルゴのふくらはぎに一撃加えた。

 

「ッ……ッ……!!」

「そんな! ベルゴさんが声も上げられないなんて!」

「馬鹿野郎!! だから気を付けろって言ったのに!! こうなったら俺が……」

「気を付けてね、ライアー!」

「ああ! 二の轍は踏まねえ!」

 

 

 

「Let’s sir!!」

 

 

 

「ですよね゛ッ!!」

「ライアーッ!!?」

 

 加勢しようとしたところに突き刺さるレッサーパンダ擬きの上段蹴り。

 そう、こいつはローキックマでもミドルキックマでもない。鋭い上段蹴りと尻尾の上めに入った縞々模様からわかる通り、こいつは上蹴小熊猫(ハイキックマ)だ。

 

 超絶とした攻撃力を前に防御は無意味。

 ハイキックマのハイキックは脚甲を無視し、弁慶の泣き所へ突き抜ける衝撃を叩き込む。あっ、これワンチャン骨に罅が入ったかもしれない。

 

「「「Let’s sir!!」」」

 

「んぅ……ふぅ゛ー……!!!」

「ッ……ッ……!!!」

「ひっひっふー!!! ひっひっふー!!!」

 

「ヒ、ヒドい……体格差がありすぎて結果的に全部ローキックだった……!」

 

 つまり全員スネを蹴られたってわけだ。泣いてもいい?

 野郎共が死屍累々と化している間、レッサーパンダ擬き共は残る獲物──アータンの方へとにじり寄っていく。

 

「ヒッ……!?」

「に、逃げろアータン……!」

「でも……!」

「なら威嚇をするんだ! こいつらは本来臆病だから、自分より大きな相手に喧嘩は売らない……!」

「威嚇!? 急にそんなこと言われたって」

 

 

「「「Let’s sir!!」」」

 

 

「来たぁ!? わっ、あっ、が……がおーっ!!」

 

 一斉に迫りくる魔物共へ、両手を掲げて威嚇するアータン。

 俺達からすれば毛ほども怖くない光景であったが、相手にとってはそうでなかったらしい。突如として体が大きく、そして、大きな声を上げた獲物にビビったのか、レッサーパンダ擬きは蜘蛛の子を散らすように草むらの中へと逃げていった。

 

「……」

 

 この場には残るは死屍累々。

 地面に転がる情けない野郎共と、威嚇ポーズを決めるアータン。

 

「よくやってくれた、アータン! これなら今後奴らが出てきても怖くねえな!」

「……レッツ・サー!」

「痛い!?」

 

 賞賛の言葉を投げかけた途端、動き出したアータンが転がる俺達の尻を蹴り上げ始める。

 その顔色は羞恥と怒りによって赤く染まり、輪郭を大きく見せようと頬も膨らんでいた。どうやら今度キックマ共に出会っても、アータンに頼ることは難しそうだ。

 

 

 

 ローキックの鬼、ここに爆誕。

 

 

 

 ***

 

 

 

──などと、色々あったのも数日前。

 

 俺達は無事に王国領を抜け、スーリア教国領に足を踏み入れていた。

 スーリア教国はミレニアム王国から見て南西に位置する国。ディア教国からは南、インヴィー教国から西といった具合である。

 

 国土としても七大教国中最大の面積を誇り、その所為もあってか気候は場所によって様々だ。寒い場所もあれば暖かい場所もある。砂漠もあれば雨林もあるし、年中冠雪した山岳地帯だって存在している。

 

 さて、そうなると必然的に住みやすい土地へ人口が集まるわけだ。

 スーリア教国とてそれは例外ではなく、最もミレニアム王国の国境近く、それでいて住みやすい場所に玄関口となる都市を形成した。

 

 その名を『フロールム』。

 関所を通れば、石造りの建物と華やかな自然の調和が取れた光景が広がる、スーリア教国最大の歓楽街である。

 

「わぁ~! 色んなお店が並んでる~!」

 

 開口一番、眼前に広がる異国情緒溢れる風景と活気に満ちた人々を見て、アータンが瞳を輝かせていた。

 

「ハハッ。アータン、はしゃいで転ぶなよ~」

「言われなくたってわかってるって……きゃあ!!?」

「言わんこっちゃNothing」

 

 言った傍から転ぶアータンを受け止める。

 まったく、子供じゃないんだから。

 

 しかし、右を見ても左を見ても活気づく人々の往来は、初めてフロールムを訪れた人間にとって目を見張るものがあるらしい。

 長年ディア教国の聖都に住んでいたベルゴでさえ、犇めき合う建物と人波を前には感嘆の息を漏らしていた。

 

「凄い活気だな……。なあアス、ここは昔からこうなのか?」

「え? さあ……」

「ここに来たことがないのか?」

「以前は修行がてら山を越えたので。ここのことはあまり知らないんですよね」

「おぉ……なんと凄まじい足腰よ」

 

 ベルゴ、そこ感心するところじゃないから。

 

「関所通らず国境越えは黒寄りのグレーだろうが」

「え~。でもお師匠様は『修験者に限り山越えの関所破りは裁かれない』って……」

「法の穴を突いたってわけか」

「不潔です!」

 

 不潔なのはお前だよ、法的にな。

 っつーか、お前のお師匠はなんてこと教えてんだよ。裁かれるに決まってんだろ。現代社会ほど国境が整備されているわけでもないし、実際山を越えられたら自白でもしない限りわからないわけだが……まあ、言わぬが仏って奴だろう。

 

「じゃあアスの土地勘に頼るのも無理か」

「それなら一度ギルドに立ち寄って聞き込みをするのがよかろう。何かわかるやもしれん」

 

 そうベルゴと話し合った時、不意にどこかから腹の虫の鳴き声が聞こえてきた。

 一斉に三人が振り向いた先には、真っ赤な顔でお腹を押さえるアータンが恥ずかしそうに俯いていた。

 

「……その前に腹ごしらえだな。うちのお姫様がお腹を空かせあそばされている」

「空かせあそばされているって何!?」

 

──グゥ~~~……。

 

「ほら、あそばされている」

「あそばされてるな……」

「あそばされてますね……」

 

「あそばされてないから!?」

 

 茹蛸みたく赤面するアータン。カワイイですね。

 

 なんにせよ冒険者が行方知れずとなった場所の中心はこの町だ。その聞き込みの一発目として冒険者が立ち寄るギルドは寄らない理由がない。

 ついでに腹も満たせば元気が出て聞き込みも捗るってもんよ。

 

「うぅ……最近私が食いしん坊みたいに思われてる……」

「アータン、スーリア教国ではたくさん香辛料を使ったカレーがおいしいぞ」

「カレー食べるぅ!」

 

 素直でよろしい。

 カレーは『Butter-Fly』でも食べられるけれども、本場の一品を食べておいて損はない。特に兵隊鶏(アーミーチック)の肉と乳生鳩(ミルクピジョン)から採れたミルクから作ったバターチキンカレーは絶品だと言うではないか。

 

「現地のグルメを堪能する……これこそ冒険を楽しむ作法ってな」

「楽しみ~!」

「よしよし。お腹いっぱい食べてもいいからな~」

 

 金なら道中倒した魔物の素材を売ればどうとでもなる。

 唯一苦戦したのはあのレッサーパンダ擬きぐらいだ。なんでこの世界のクマはあんなに格闘に傾倒してるんだよ、ざけんな。

 

「……」

「お~い、アス。ボーっとしてたら置いてくぞ~」

「あ……は、はい!」

「綺麗な踊り子でも気になったか? ……このむっつりスケベが」

「誰がむっつりスケベですか!?」

「悪い、間違えた。……ドむっつりドスケベが」

「ドが二つ増えた!?」

 

 一人呆けていたアスを呼び、俺達はさっさとギルドを目指す。

 今言ったように、往来には扇情的な衣装を着た踊り子が路上パフォーマンスをして投げ銭を貰っていた。

 風紀的にどうなんだとも思わなくもないが、通行人が熱中して見物して誰も言わない辺り、ほとんど公認されているのかもしれない。

 

「これのどこが純潔を尊ぶ宗教の国なんだってな」

「……」

 

 誰に言うでもないセリフは群衆の歓声に掻き消される。

 俯くアスの耳に届いたか、それは定かではなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「緊急会議~」

 

 俺達は今、とある宿屋に居た。

 フロールムに来てから数日。あれからギルドの職員やら冒険者、その他町の住民に聞き込みを実施したわけだが──ある一つの問題へと直面した。

 

 その為、現在この場にアータンは不在。

 今頃ベッドでスヤスヤと就寝中だろう。いい夢を見ていてほしいものである。

 

「さて、色々と聞き込みを実施したわけだ。結果から言えば、未だに行方不明になった冒険者を見つけられてはいない」

「だが、僅かだが足取りは掴めた。そうだな?」

「そして、ちょうど聞き込みができていない場所にも合致していた……ってことですよね?」

 

 野郎三人、小さいテーブルを囲みながら神妙な面持ちを囲んでいた。

 こんな真剣な会議、シルウァの村でドゥウス潜入作戦を練った時以来だ。つまり、件の()()とやらはそのレベルで潜入が難しいとも言える。

 

 その場所とやらが……うん。

 

「娼婦街かぁ……」

「不潔です!!」

「るせえ!! 俺の責に帰すべき事由じゃねえわ!!」

「す、すみません。つい反射で……」

「駄犬がぁ……」

 

 パブロフの犬かよ。

 そんな難儀な宿命を抱いたシスター(男)はさておき、俺は深々と溜め息を吐いた。

 

「で、一番の問題が何か……お前らわかるな?」

「うむ。なんとなくはな……」

「わたしもうっすらとは……」

「よし」

 

 ここに居るのは薄汚れた現実を知ってしまった汚い大人だ。

 だがしかし、健全とは程遠いからこそ手を付けられる汚れ仕事があることもまた事実。

 

「じゃあ娼婦街の聞き込み、アータンは待機って結論でよろしいか?」

「「……」」

「沈黙は了解と取るぜ」

 

 三人の心が一つになった瞬間だった。

 交わした固い握手こそ俺達の決意の証。天使のように純粋無垢なアータンには、まだ薄汚れた人間の情欲渦巻く娼婦街を見せられないだろう。

 

 いや、別にそこで働いている人が薄汚れているとかではない。

 汚れているのはいつぞや見かけた往来で『わたくしめを踏んでくださいませ、女王様~!』と叫んでいた中年のおっさんと、それに類する変態共である。

 

 あれは中々に強烈だったからな……。

 

「今んところ、あそこが唯一の頼みだ。気合い入れて()()ぞ」

()()……? ふ、不潔です!」

「おいコラ淫乱シスター貴様。その下着で守り切れてねえ無駄に肉のついた太ももに蹴りブチ込んでやろうか、おぉん?」

「す、すみません! つい反射で……!」

「中学生かよ」

 

 相も変わらずおちんちんシスターの鼓膜には淫語フィルターが掛かっているらしい。

 言葉狩りならぬ淫語狩りだ。中世の魔女狩りだってもうちょっと標的を見定めるだろうに。まるで過剰に淫語を規制したが余り、普通の言葉すら使えなくなったオンラインゲームのようだ。

 

「こんな調子でアスは役に立つのか……?」

「な、何ですってぇ!? わたしを余り舐めないでください! これでもわたしは修道士! 困っている人を救う為ならば、たとえ火の中水の中!」

「あの子のスカートの中?」

「不潔です!」

「ご臨終ですね」

「ご臨終!?」

 

 手遅れ通り越してご臨終である。

 

 一目瞭然やろがい。

 火のない所に煙は立たぬどころか、炎が空まで舞い上ってるレベルだわ。

 

「娼婦街に入った途端発作が出そうだな……」

「うぐぅ!? そ、そもそもですねぇ! スーリア教は純潔を尊び、色欲を罪とする宗教なんですよ! いくら他国からの来訪者が多い玄関口の町とは言え、娼婦街があること自体がおかしいんです!」

「あー、たしか婚姻している男女以外エッチ禁止なんだっけ?」

 

 たしか前にそんなこと言っていた気がする。

 宗教も千差万別ではあるが、国教と相反する風俗店があること自体が一種の問題……かもしれない。詳しいところはよくわからん。

 

「でも、あるからにはちゃんと許可取ってるんじゃねえの?」

「そんなはずはありません! ここはスーリア教国! プルガトリアにおいて真実の愛を尊ぶ神を信仰する土地です! そこで男性と女性がふしだらな行為をするなんて──」

 

 

 

「もちろんオッケーよぉ♡」

 

 

 

「ッ……!!」

 

 翌日、予定通り娼婦街を訪れた俺達三人であるが、客引きのお姉さんがすんなりと事実を告げたのであった。

 衝撃の真実に絶句するアス。顔面は真っ赤であるが、これは怒りというよりも羞恥からくる顔色だろう。

 

 その裏付けとして、なんだかアスがだんだんと前屈みに──。

 

「ごほん。でもスーリア教国って婚姻前のエッチって禁止なんじゃなかったのか?」

「そうよぉ? だから、ここのお店は結婚相談所なのぉ」

「ほぉ?」

「結婚したいお客さんを案内してぇ、それで女の子を紹介するのぉ。顔合わせが済んだらちゃちゃっと婚姻結んでぇ、あとは個室でイチャイチャ♡」

「あー、なるほど……」

 

 つまり、そういう()()ってことか。

 現代でも風営法がある手前、そういう大人なお店は法の穴を突く形で営業されているって聞いた記憶がある。

 国や宗教といった価値観も違えば、こういうお店の建前も変わるってことか……いい勉強になったぜ。

 

「ちなみにイチャイチャが終わったら?」

「ん~? 基本的には離婚しちゃうって感じぃ~?」

「軽っ。結婚って病める時も健やかなる時も永遠の愛を誓うんじゃないのかよ」

「ここじゃあヤる時とズッコンバッコンする時の愛を誓うのよぉ」

「おっと。歯が衣着ずにすっぽんぽんだぜ」

 

 ここに通っていたらバツがいくらあっても足りなくなりそうだ。

 人によってはマジでバツ100とかの強者も出てくるんじゃないのか?

 

「だ、そうだぞ。なあ、アス──」

「フフフフフ不不不不不不不ケケケケケ……」

「まずい!! アスのエッチセンサーがオーバーフローを起こして壊れた!!?」

 

 ちくしょう! これだからチェリーボーイシスターは!

 相反する属性が衝突を起こして暴走を起こしやがったか!?

 

「正気に戻れ、アス!」

「ハッ!? わたしは今どうなっていましたか……!?」

「俺が聞きてえよ」

 

 一体全体どういう精神状態だったのか。

 その真実を知れる者は、この場に誰一人として存在していなかった……なんて言ってみたり。

 

 そもそも論だ。

 別にこの町の娼館の建前を聞きたくてやってきたわけではない。

 

「お姉さん。少し前にここを訪れた冒険者について聞きたいことがあるんだが……」

「もう……そういうことなら付き合わないわよぉ」

「あれぇ?」

 

 さっきまでノリノリだった客引きのお姉さんだが、途端に俺達から興味を失ったように踵を返し、従業員として働いているであろう娼館へと戻っていく。

 その後ろ姿を見て、アスは大慌てで追いかけようとする。

 

「ま、待ってください! まだ話が……!?」

「ふぅ……ここをどこだと思ってるの?」

「どこって……」

「いい? 良い店ってのは部外者にホイホイお客の情報を言いふらさないの。おわかり?」

「うぐっ!?」

 

 こう突き放されてしまっては弱い。

 アスはそれ以上お姉さんを追いかけることができなくなった。

 

 しかし、お姉さんの主張も一理ある。

 店の信用という一点において、顧客情報の漏洩は信用の失墜につながるだろう。この時代、信用を築き上げるのも一苦労なのだ。それをわざわざ自分から貶め、回復させようとするならば、尋常でない労力を費やすことになる。

 

「そういうわけだから、じゃあねぇ~」

「そ、そんなぁ……」

「……あ、でもぉ……」

「?」

「お金をいっぱい落としてくれるお客さんにだったら、サービスしちゃうかもぉ♡」

 

 パチリとウインクをするお姉さん。

 その妖艶な立ち振る舞いを前に、アスは瞬時に前屈みとなった──ので、俺が全力で尻を蹴った。『痛い!!?』と悲鳴が上がるが関係ない。

 

「聖職者ともあろう者が骨抜きにされてるんじゃないよ」

「す、すみません。うちの息子が」

「そうそう。親御さんもしっかり謝ってね、ってバカ」

 

 お前と息子は一心同体だろうが。

 チンチンにばかり十字架を背負わせるな。

 

 そんな漫才をアスと繰り広げる傍ら、ベルゴは難しい顔をしてうんうんと唸っていた。

 

「弱ったな……この様子だと聞き込みもままならんな」

「話を聞くなら店ん中に入らなくちゃってことだな」

「それってつまり……?」

 

 未だに頬の紅潮が収まらぬアスは耳まで真っ赤になる。

 

「ナ、ナニをするつもりですか~!?」

「情報収集だよ」

「エッチなことするつもりなんでしょう!?」

「情報収集だよ」

「官能小説みたいに」

「おい誰かこいつを黙らせろ!」

 

 ベルゴと二人してアスの首へと腕を回し、つい先ほどお姉さんが消えていった店へと引き摺り込んでいく。

 

 

 

「ふ、不潔です~~~!!?」

「うるせえ、ヤらなきゃいいだけの話だろ! すいませ~ん! スケベ、ドスケベ、ドドスケベの三名様ご案内でよろしくお願いしま~す!」

「おい、誰がスケベだ」

「俺はスケベ、お前は存在がドスケベだ」

「ちょっと待ってください!? それだとわたしがドドスケベってことですか!?」

 

 

 

──ドドスケベで通されたくない~!

 

 

 

 アスの悲鳴が娼婦街に響き渡る。

 残念だったな。今だけ聖職者から生殖者に転職しやがれ。

 

 

 

 




Tips:キックマ(蹴小熊猫)

──キックマ達が短すぎる。

 この愛くるしい見た目のレッサーパンダはキックマといい、例に漏れずクマ型の魔物です。
 一見ただのレッサーパンダと思われがちな彼らですが、その名からもわかる通り攻撃手段としてキックを多用する種族であり、その肉体は見た目にそぐわぬ筋肉の塊です。
 その筋肉の生み出す威力は凄まじく、並みの魔物であればキック一発で撃退してしまうほどです。

 このように可愛さと強さを兼ね備えた完璧な魔物として生を受けたキックマ達ですが、一つだけ話にならない欠点を見落としてしまっていました。

 それは足が短すぎるという点です。
 見てください、この短足を。何にも届きやしません。
 これにより非常に強力なキックを繰り出せるキックマも、そもそも相手にキックを当てられません。辛うじて当てられたとしても頭のような弱点を狙うことはままならず、ただただスネを蹴るだけに留まります。
 それでも十分強力な蹴りではあるのですが、一部の魔物には間合いを見切られ、射程外から蹂躙されます。

 そうなってしまえば彼らはアイデンティティを失い、ただひたすらに蹴りを空振りする哀れなレッサーパンダとなります

 このように常軌を逸した生態を持つキックマ達ですが、彼らは生物学上、ある魔物の仲間となります。
 それは拳を握るパンダ、パンチパンダです。
 パンチパンダは常軌を逸した気の狂い方をしている為、何かにつけて相手に拳を振るおうとします。
 リーチも長く、仮にパンチパンダと相対した場合、キックマではどう足掻いても勝ち目がありません。

 それがパンダには足元にも及ばぬ魔物、キックマです。
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