ようこそ現役ホストのいる教室へ   作:カスのホスト

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地の文の講釈は私が心がけていることです。文献などありません。ですので信憑性に欠けます。
正直長すぎるんで飛ばしても大丈夫だったりします。


プロローグ
高辻清夜の独白


 

 

 

 ホストという仕事を聞いて、君たちはどのような感想を抱くだろうか。

 金のためなら何でもする、浮ついている、女の敵、ヤクザと繋がっている……少なくとも、良いイメージを持つ人は多くないだろう。

 

 だがしかし、風営法が厳しくなった昨今においても、その仕事は昼夜問わず広い人間に知られている。とあるテレビ番組では無くなった方が良い仕事ランキングで堂々の1位を取り、チャンネルを変えればホストがホス狂いの女に刺されたというニュースも流れて来る。

 

 

 

 

 

 ────ではここで一つ問おう。何故ホストという仕事はいつまでたっても無くならないのか。俺の日常を見てもらって、その上で考えて欲しい。

 

 

 

 

 

「初めまして! 湊かえでと申します。隣、よろしいですか?」

 

 白と黒を中心とした配色がなされた薄暗い部屋に、いかにも今時のOLといった風貌の女性が肩身が狭そうに座っている。

 店内には壁や天井に備え付けられたスピーカーから大音量でBGMが鳴っており、自然と話しかける声も大きくなる。

 

「は、初めまして……はい。大丈夫です」

 

 年の功は20半ば。長い髪型を後ろにまとめ、両耳にはリングのピアスを付けている。

 様相的にはこういった場に慣れてそうなステレオタイプの都会の女といった印象だ。しかし右往左往する目線や、忙しなく太ももの上を走る手を見ればこういった場に慣れていないことは容易に想像がつく。

 

「失礼します。短い時間ですが、よろしくお願いします」

 

 頭の中で構築した選択肢の内から適切な接客方法を選択し、足を揃えて丁寧に皮張りのソファに腰掛ける。

 肩との間に拳4つ分ほどの距離……姫*1と隣に座る際に取る距離の中で、最も遠い選択肢を取ったのだ。姫は驚いたように体が少し浮いた。……OK。相当男慣れしてない子だな。把握した。

 

「こういったお店に来られるのは初めてですか?」

 

「……はい。だから何もわからなくて」

 

「最初は皆そうですよ。楽しむことだけ考えましょう」

 

 温和な笑みを心がけながらヘルプ*2の人が注いでくれたドリンクを手に取る。と言っても俺の方はソフトドリンクだけどね。

 

「緊張してますか?」

 

「そりゃあ……もちろん」

 

 お、言葉崩れたな。根っこは割と男勝りなほうかな? 

 

「そうですか。僕だけじゃなくてよかったです」

 

 小さなグラスを両手で持ち、あえて子供っぽい飲み方をしてみる。

 

「えっ? 君……えーっと「かえでです」……かえで君もなの?」

 

「そりゃそうですよ。だって、僕初回*3の姫様を担当するのほとんど初めてですもん」

 

 意外だと目を丸くする姫に対し、ここだけの話ですよ、と耳打ちをするように語る。因みに嘘です。ほとんどってつけたのも嘘が追及された時逃げるためです。

 

「へー……若そうだもんね。年いくつとかって聞いても良いのかな?」

 

 苦笑いを浮かべて話した途端、少しだけ緊張が解けたのか目を合わせてくれた。

 自分も緊張していると相手に同調してみる。すると俺のことを『金を使わせて来ようとするホスト』から『気弱そうな年下の男の子』という認識にすり替えることに成功した。これによって姫の警戒心を大きく下げ、相手から会話を引き出すことも出来た。

 

「いいですよ! ちょっと前に18になりました!」

 

「嘘ぉ! 超若いじゃん! 確かに大学生くらいと思ったけどさ!」

 

 嘘です。本当は14歳です。老けてるように見えるのもメイクと髪型のおかげ。そもそも鍛えてて体大きいってのもあるけど。

 

「えっ、ってことはこの仕事もそんなにやってないよね」

 

「はい。18になったとほぼ同時に始めたんで、大体歴は3か月くらいです」

 

 これは本当。というよりホスト歴は明確に記載されるため嘘ついたらすぐばれる。

 

「だから初めてだったんだ~。……研修とか色々大変だったんじゃない?」

 

 いくらか緊張がほどけた様子だが、こちらに質問するときは依然表情が硬いままだ。……なるほど。俺の予想が正しければ、彼女は次に俺が吊るす餌に食いついて来るはずだ。

 

「そりゃあもうね。知らないマナーとかいっぱいありましたし。例えばさっきヘルプの人がドリンク注いでくれたけど、あの30秒の間に4つホストのマナーがあったんですよ?」

 

「4つも? ホントに?」

 

 はいビンゴ。ここまで興味を示してくれるとこっちも楽しくなってくるな。

 食い気味でこちらに視線を向ける姫様。その姿はまるで、面白い話題を見つけたと目を輝かせる週刊誌の記者のようだ。

 

「そうですよ。1つ、椅子に座るときは跨がずに足をそろえて。2つ、グラスに氷を入れるとき、マドラーで混ぜるときは必ず両手で行う。3つ、ドリンクを混ぜる時は反時計回りで回す。4つ、おしぼりの折り目を姫様に向けない」

 

「ええー? そんなの気にする人いるのかな?」

 

「お客様に楽しんでいただくためのマナーですよ。気にする人は気にしますし」

 

 そういうもんかなぁと首を傾げる姫様に、思い出したかのようにあっと声を上げる。

 

「……って、あんまりこういうこと言っちゃいけないんだった……ほ、他の人には内緒にしてくれると助かります……!」

 

「……確かに。こういう気を使ってますよってあんまり言わない方がよさそうだね」

 

「ごめんなさい……うぅ」

 

 両手を軽く合わせて上目遣いで謝罪の言葉を告げる。実際はチクられても怒られることはほとんどない。基本から外れた行動で客が取れればそれもアリなのだ。売上カスな奴がやったら怒られるけど。

 

「あははっ、大丈夫だよ。私が聞いちゃったんだし」

 

 口元を抑えて笑う姫……ネイルはしてないな。

 

「良かったぁ……優しい人で安心しました」

 

「ちょっとー、かえで君が安心してどうするのよ」

 

「だってやらかしたら超怖いんですよ! 僕なんて何回怒られたか分かんないですし」

 

 意外に思われるかもしれないが、ホストは働く際に言われたことさえ守り、真面目に働いていれば早々怒鳴られることなんてない。ルールには確かに厳しいが、理不尽にキレられたりすることが少ないため、ブラック企業と呼ばれるところなんかより数倍マシだったりする。

 

「ふふっ、良かったね。優しいお客さんで」

 

「はい! って、僕の話ばっかりじゃないですか! 姫様のことも聞きたいです!」

 

 残り時間は約半分。印象を付けることは完了した。後は好感度だ。

 女というのは単純なもので、自分の話を他人に聞いてもらうだけでその人への好感度が上がる生き物なのだ。だから女は男に3時間を超える長電話をすることが出来る。そしてその苦行に耐えられる器の大きさを持つ男がモテるのだ。

 

 ちなみに長時間電話をしたからといって自分が異性として好かれていると考えるのは早計である。大して興味のない男だからこそ自分をさらけ出して話すことが出来る場合もあるからね。

 

「えー、わたし? そんなに話すことないけどなぁ」

 

「いいからいいから。もっと姫様のこと知りたいな」

 

「そう? じゃあ────」

 

 

 

 ────そうして5分ほどの姫の話を聞く時間を終え、後に続くホストへと交代する。

 

「いやー、凄い盛り上がってましたね。初回であんだけ打ち解けられるのマジで尊敬っす!」

 

「ヘヘッ、まあねー」

 

 ヘルプに来てくれた仲の良い先輩ホストがおしぼりを渡してくれた。先輩と言っても、売り上げでは俺の方が上のためあちらが敬語を使い、俺はタメ口だ。

 

「にしたって、何で初回の客の担当続けてるんですか? もう本指名だけでランキングは固いでしょうに」

 

「それ聞いちゃう~? 企業秘密だってのに~」

 

 ホスト同士は同じ店で働くライバルだ。安易に自らの戦略を他人に流布するのはやめておいた方がいい。

 

「す、すいません」

 

「ははっ。いいよー、教えてあげる。と言ってもそんなに深い理由はないよ。強いて言うなら経験を積んだ方が良いと思ってね」

 

「かえでさん程売ってても……ですか?」

 

「そう。いくら売り上げが高くても、俺はまだ経験3か月のひよっこだ。偶然ついた太客に胡坐をかいているようじゃ、何時か足元をすくわれると思ってね」

 

 15の餓鬼が他人を知った気になっているなんて痛いにも程があるからな。これからも俺はホストを通じて色々な人と交流したいと思っている。だって人と話すのは楽しいもん。

 

「すげぇ……流石っす! 参考になりました!」

 

「ふふん。苦しゅうないぞ」

 

 先輩は確か……27だったか。()()を除く店の人には18と言っているが、実際のところ一回り以上年下の子供に大人が頭を下げているのは歪に思えるだろう。だがホストの世界はこれで良いのだ。

 

「って、忘れてた……清隆社長が呼んでましたよ」

 

 おいおいおい……マジで言ってんのかよ!? 

 

「お前早く言えよ!? だから売れねぇんだぞアンポンタン!」

 

「す、すみません……」

 

 今更急いでも無駄だとは思うが、ぶつからない程度に小走りで移動する。

 豪勢な両開きの扉を開けた先には、キッチリとしたスーツに身を包んだホストが、碇〇ンドウみたいなポーズで座っていた。その傍には秘書である杉下さんが立っている。

 

「遅かったな。大方英孝の奴が伝えそびれていたか」

 

 俺を信用してくれているのか、はたまた英孝先輩(某つけ麺イケメンの人に顔が似ているためこの源氏名となった)の信用が無いのか……どちらでもいいが、流石の読みだ。

 

「すみません清隆さん。以後気を付けます」

 

「ふん。いいだろう。杉下、お前は席を外せ」

 

「はっ」

 

 杉下さんが部屋から退出する。……そして、周りに誰も居ないことを確認した後、社長はその威圧感のあるポーズを崩し、背中をだらんと背もたれへとくっ付けた。

 

「はー……ったく。お前ちゃんと教育しとけって言っただろ。俺これからお得意様の方行くから時間ねえんだよ、分かる?」

 

 数千万はする腕時計をペチペチと人差し指で叩きながら、親父はそんな嫌味を飛ばしてきた。

 

「いや俺のせいじゃないでしょ。なんで27にもなって伝言の一つも出来ないんだよ。雇った()()側に文句あるだろ」

 

「お? てめぇ言うようになったな? その達者な口は美香譲りか?」

 

 痛いと所を突かれたと眉間に皺を寄せながら、親父は拳を握っている。

 

 ────このやり取りから分かったと思うが、新宿歌舞伎町……欲望渦巻く日本一明るい夜の街で、20代で売り上げナンバー1の店を作った天才ホスト清隆は、実は俺の父親だったりするのだ。店が軌道に乗ってから十数年。本人はしわと肌ツヤを気にしているようだが、その顔面は衰えることを知らないな。

 まあ、厳格そうな口調は何処へやら。今の社長……親父はフレンドリーなオッサンそのものだが。

 

「で、何の用だよ」

 

 仕事モードじゃない時はアホなオッサンそのものだが、親父が俺をわざわざ仕事中に呼び出したのには相当の理由があるのだろう。

 何故なら、湊かえで……ホストとしての俺ではなく、息子としての俺に用があるなら、家に帰った後にいくらでも話ができるのだから。それをしないということは火急の用事ということ。

 

「うちの店では3か月の間は10万の基本給が貰えるのは、お前も知ってるよな?」

 

「……まあ、俺も貰ってるからね」

 

 腕を組んでうんうんと頷きながら話を続ける親父。

 

「本来給料の最低保証っつうのは、お荷物が半人前になるまでに辞めねえように、店の戦力として育てていくために与えられるもんなんだ。大体のホストは、最低保証が終わった後は基本給より稼ぎが低くなる。そんでもって半年くらいでようやっとそこそこの金を稼げるようになるんだ。お前も見てりゃ分かるだろ。苦悩してる先輩とかいっぱいいるぜ?」

 

 先輩の先月の給料は22万円ほどだったか。立川の外れから電車を使って通勤しているらしい。俺が色々教えてから給料も増えて来たそうだし、頑張って欲しいものだ。

 

「だがお前は何だ! 初月の売り上げ190万。2か月目680万。……そして今月はあと10日を残して1680万!俺は自分の息子の才能が怖くなるぞちくしょう! 」

 

「……急に何だよ」

 

 そう面と向かって言われると照れるからやめてほしい。

 

「お前はこれがどれだけ凄いことか知らないからそんなスカしてられるんだ間抜け! 俺だって月の売り上げが1000万超えるのに半年はかかったんだぞ!?」

 

「普通に凄いじゃん」

 

「嫌味かっ!?」

 

 立ち上がってひとしきり叫んだ親父は、咳払いをして席に着き直す。

 

「お前には才能がある。面も良いし頭も良い。幼少期に死ぬほど金掛けて習い事やらせてたから運動もピカイチだ」

 

「生々しいから止めてそれ」

 

 嫌なんだけど、死ぬほど金かけて育てられたって親から言われるの。いやありがたいし嬉しいけどさ。

 

「俺たちみたいな水商売やってる奴の息子にしちゃあ、素直でいい子にも育った。ホストなんて向いてねえと美香と笑いあったもんだ。……今だから言うが、やりたいって言ったお前をコッソリ体験させたのは、ホールという戦場でお前をボコボコにしてやる気をなくさせるためだったんだ」

 

「おい」

 

 実の息子に何て残酷な仕打ちだ。信じられねえぞこいつ。

 

「俺はお前に、普通の子供として育って欲しい。ホスト何ていう金が稼げるだけの仕事を、お前にやってほしくないんだ。普通に友達と遊んで、勉強して、良い大学に行って、公務員にでも就職しちまえばいい。お前には俺たちと違ってそれが出来る環境があるんだからな。金ならいくらでも出してやる。母さんだって同じ考えだ」

 

「親父……」

 

 そんなに俺のことを考えてくれたなんて……思えば、誰も隣に居ない夜に泣いたり、親がホストということでレッテルを貼られて辛い思いもした。

 その度に「何でこんな仕事をしているんだ」なんて言って親父を悲しませたっけ。

 

 大粒の涙がポロポロと零れ落ちてくる。抑えていた感情が、堰を切ったようにあふれ出した。

 

「お父さん……ごめん。俺、勘違いしてた……」

 

「分かってくれるのか……清夜」

 

「うん……俺の名前も、そういう意味で付けたんでしょ?」

 

 清く正しく、それでいて穏やかな夜の様に生きて欲しい。そう言った願いが込められているはずだ。……俺はこの名前が誇らしいよ。

 

「……そうだな(……言えない。俺の源氏名に2人とも夜職だから夜ってつけようなんて決め方したなんて言えない……女の子だったら美夜にするつもりだったなんて言えない……)……ということで、お前には今月いっぱいでホストを止めて、受験に専念してもらう」

 

 だから、この現状を憂いて発破をかけてくれたのだろう。社長としては店の売り上げを取りたい。しかしそれよりも息子である俺のことを優先して考えてくれた。

 そんな、子供想いな優しい親父の言葉に俺はもちろん────

 

 

 

「え、やだ」

 

 

 

 ────NOを突き付けてやった。

 

「??? すまん。もう一回言ってくれ」

 

 おいおい。話はちゃんと聞いとけよ。ホストだろお前? 

 

「やだ」

 

 十秒程フリーズした後、親父は椅子から倒れるように立ち上がって、目の前に座る俺の肩をぐわんわん揺らし始めた。

 

「なんでだよ、何でその流れではい以外の選択肢が出るんだよ!?」

 

「だって女誑かすの楽しいもん。それで金稼げるんだからホストなんて最高じゃん」

 

 さっきまでの涙は何処へやら、ケロッとした様子で言い放つ俺に、父親は困惑の様子を隠せない。

 

「ジーザス、母さん! 俺の息子がクズに育っちまった! 後そのウソ泣きは何処で身につけやがった!」

 

「母さんだよ」

 

「母さん!? 何してくれてんの!」

 

 虚空に向かって叫ぶ父。今頃家で洗濯をしている母さんが聞いたら、「きっとあなたに似たのよ」と言い返されそうな発言だった。

 

「普通にホストやって稼げるならそれでいいじゃん。学校の友達と喋っててもつまんないし」

 

「若いうちじゃないと出来ないこととか色々あるの。お前、今までに何人の子とお付き合いしてきた。正直に答えなさい」

 

「28」

 

 なんか長続きしないんだよな。付き合って最初の方はいいんだけど、同年代の子も年上の人も3か月以上続くことが無かったんだよな。大体は俺が飽きて振っちゃうか、自然消滅して終わりって感じだ。

 

「もちろん。色恋営業は抜いてだぞ「当たり前じゃん。あんなの誰が本気にするんだよ」……そうか」

 

 あれが恋愛経験に入らないことなんて、親父が一番分かっているはずだ。

 迷うように目元を親指で抑えて唸る親父だが、観念したのかため息を吐いてこう語った。

 

「……はぁ。仕方ない」

 

 ようやく諦めてくれたようだ。華の高校生活というのも魅力的だが、俺としては少しでも早くこの業界に入り込んで周りと差を付けたいのだ。

 

「お前の気持ちはよく分かった。……そういう所は父さんそっくりだな」

 

 売り上げが全てを決める残酷なまでの実力主義。店に貢献できないホストは、10年後に入ってきたひよっこにも頭を下げなくてはならない。しかし、努力した分だけ報われるこのシステムは、俺にはすこぶる合っている。売り上げという数字が上がるごとに、自らの成長を実感できるのが嬉しくて仕方がないのだ。

 

「だが!」

 

 シックな色合いのテーブルの上に、叩きつけるように一枚の紙を置く親父。

 見ると、そこには大きな文字で『入学届け』と書かれていた。

 

「とある方から依頼があった。この店のケツ持ちのヤクザとも関係の深い、大事な取引先の方のな。お前も会った事がある人だ」

 

 会ったことがある人なら普通に言えばいいのに。俺が一度会った人の顔を忘れずに覚えていられるのは親父も知っている筈なのに。

 

「……誰?」

 

「そいつは言えねえな。何せ言うなってお達しが来ているんだから。……漏らした瞬間俺の首は飛ぶ。二つの意味でだ」

 

 この言い方だとヤクザ関係者……って、それはさっき言ってたよな。直接的な関わりがあって、親父の首を飛ばすことができるというと……政界の重鎮か。とすると、候補は必然的に絞られてくるが……正直特定までは厳しいな。情報が無さすぎる。

 だけど、それなら親父がビビって口を開かないのにも納得がいく。

 

「はぁ……で、それが俺に何の関係があるんだよ」

 

 いくら俺が父親の接待やパーティに参加しているからといって、政治家なんかに直接の知り合いは居ない。この話をわざわざ俺にする意味が分からない。

 そう思っていたのだが、親父は俺の予想の斜め上を行く言葉を発した。

 

「依頼の内容は『高辻清夜を高度育成高等学校に入学させ、卒業させること』。言い換えれば、お前に対する依頼ともとれる」

 

「は?」

 

 政治家が何のメリットが合って俺を入学させたがる。……アテが外れたか? ってか、

 

「高度育成高等学校って……超名門校じゃねえか。受験対策とかなんもしてねえよ俺」

 

 同年代に勉強の遅れを取っているとは思わないが、流石にここまでのレベルの高校に受験対策無しで行けるなどと驕ってはいない。

 国立の超名門高校ともあれば、それ相応の対策も必要だろうからな。

 

「そこに関しては問題ない。お前なら必ず受かるとのことだ」

 

 何で断言できるんだよ。……まあ、依頼というのであれば断ることも可能なはずだ。

 

「……悪いけど、断っt「成功報酬は1億」……は?」

 

「そして、お前がこの依頼を遂行した暁には、俺からも卒業祝いとしてこれをプレゼントする」

 

 そうして親父が机の下から取り出したのは、艶消しの黒の本体に、磨き上げられた銀色のフレームが巻かれたアタッシュケースだった。

 それを開くと、中にはパンパンに詰まった一万円札の束が入っている。

 

「これっ……マジか」

 

「合計2億。これが、3年後のお前の手元に丸々入る。これを開店の資金にでも何にでもすればいいさ」

 

 こんな大金が……って、今親父開店っていったか? 

 親父は呆然と立ち尽くす俺の隣に立ち、そのまま肩に手を乗せて優しく語り掛ける。

 

「卒業してもお前の気持ちが変わらなかったら、グループ店のオーナーになることを許可しよう。だから、父さんの願いを聞いてくれないか?」

 

「親父……! 分かった。俺、頑張ってみるよ」

 

「おう! その意気だ!」

 

 そのまま感極まったように俺を抱きしめる親父だが、その瞬間社長室の扉が4回ノックされた。

 

 慌ててアタッシュケースを机の下に隠し、椅子に座り直す親父。

 

「入れ」

 

「……失礼しますっ」

 

 緊張した面持ちで入ってきたのは英孝先輩。

 

「お話し中すみません。かえでさんに送り指名*4が付きました。どうなさいますか?」

 

 どうするか、という意味を込めて親父……社長へ目線を送る。

 

「行け」

 

 とのことなのでお辞儀をして部屋を後にする。話したいことは全て話し終えたということだろう。

 

「はい。失礼します」

 

 

 

 ────そのまま速足で姫の席まで向かい、お見送りを終えたら後は待機となる。

 

「最後まで盛り上がってましたね。これは次回指名間違いなしじゃないっすか?」

 

「いや、正直今のままだと多分無理」

 

 裏にある喫煙所で煙草をふかす先輩の隣、スマホを片手に弄りながら話をする。

 

「え、どうしてですか?」

 

「だってあの人、仕事でこの店来てたもん。多分来週にはネットに記事が上がってると思うよ『ホスト未経験の私が潜入してみた!』みたいなタイトルでね」

 

 姫様は上手く隠してたつもりだろうが、俺からしたらバレバレだ。

 

「マジすか!? ……ってか何で分かったんですか?」

 

「服装とか色々かな。開店とほぼ同時にラフな服装で来たじゃん」

 

「まあそうっすね」

 

「あれが許されるのはITとか出版系のOLだけさ。鞄の中に入っていたのが仕事道具な事を考えると私服という線もなし。泥酔して終電を逃す前に帰ったことから、昼職の女であることはほぼ確定だね」

 

 今日は水曜日、明日も仕事が待っている。

 

「ホストが姫様の職を聞くのは爆弾*5だ。だけど心の中で推察して、行動に移すことは売り上げにつながるもんだよ。両手首にあるマウスだこに気が付いた?」

 

「ま、マウスだこですか……?」

 

「両手首にマウスだこが出来ていたことを考えると、四六時中マウスとキーボードを相棒として仕事をしてる人なのは間違いない。利き手である左手ならともかく、右手にもタコができるというのは相当。ネイルをしていなかったのもそのため。タイピングしにくいからね」

 

「え? あの人左利きだったんですか」

 

「飲み物左側に置いてたからね。だから俺あの人の右側に座ったんだよ」

 

 飲み物を持つ手側に座るとぶつかってこぼす危険性があるし、手が動かない方に座った方が距離を詰めやすい。

 

「2人組の姫を案内するときはそういう所も考えなきゃだめだよ。受付でどっちの手でペンを持ったとかも見れるようになったら最高だね」

 

 そして最後に、スマホの録音機能をオンにしていたこと。もちろん画面を開きっぱなしというヘマはしていなかったが、彼女は録音中画面の右上が小さく光ることを知らなかったようだ。

 

「いやぁ、やっぱ大変だ」

 

「ま、一つずつ覚えてけばいいよ。一気になんて覚えられる人の方が少ないし」

 

 決定的な証拠だが、あえて口に出さなかった。許可を取らずに録音をするのはマナー違反だからだ。

 仮に先輩から広まって、バレたとしても親父なら出禁になんてしないだろう。だけど印象は悪くなる。彼女は10人の中から俺を選んでくれた大事な姫様だからね。それくらいは大目に見てあげよう。

 

「ってことは、さっきのは無駄ってことですよね。甘くないですね。ホストの世界って」

 

「何言ってんだよ。俺がいつ無理って言った?」

 

「え? さっき多分無理って」

 

()()()()()()って付けたじゃん。諦めたらそこで試合終了だぜ?」

 

 ここで諦めるか諦めないかで今後が大きく変わってくる。高度育成高等学校のホームページから、先ほど交換した姫様のラインの画面へ飛ぶ。

 そして、湊かえでとして一通のメッセージを送るのだった。

 

「ま、やって損じゃない事は積極的にやってくのもいいと思うよ」

 

 

 

 ────そして、1週間ほどが経った土曜の夜。

 

 

 

「か、かえでくん!」

 

 皮張りのソファには、見覚えのある女の子の姿があった。

 隣には、先週の彼女のように緊張した面持ちで座る恐らく初来店の女の子。職場の同僚か、はたまたプライベートの友達か。

 

「えへへ、来ちゃった……」

 

 先週よりも派手に着飾って、化粧も少し濃くなっている。全く崩れていないことからメイクアップしたばかり、俺に会うために気合を入れてくれたのだろう。

 

「わぁ! お久しぶりあおいちゃん! 指名ありがとねっ!」

 

 そんな、健気で可愛い姫様にオーバーなリアクションを返しながら、心の中で小さく笑うのだった。

 

 

 

 

 

 ────というのが、俺の少し前までの日常だ。

 進学を決めた翌月から俺はキッパリとホストをお休みした。それを期に指名してくれたあおいちゃんは店に通うのを止めたらしい。多分このまま行ってたらハマってただろうから、是非とも俺に感謝してもらいたいものだ。

 

 3年間、親父や母さんと会えないのは少し寂しい。だが、親父に認められるように俺は男を磨くしかない。

 

「くくく……」

 

 手始めに同学年の女を全員落とす。目標は高い方がやる気も出るからね。

 学園という箱庭で、俺はハーレム王になるのだ! がはははは! 

 

 

 

 ……そう、思っていたのだが……

 

 

 

「高辻君、今日の放課後一緒に図書館に行きませんか?」

「……ひよりちゃん。俺の記憶が正しければ、3日前に5冊くらい借りた気がするんだけど」

「もう全部読んでしまいました。高辻君にはもっと面白い本をおすすめできますよ」

「ふざけんな!? 俺まだ半分も読んでねえよ!?」

「大丈夫です。私の名義で借りるので」

「そういう問題じゃねえ!?」

 

 読書大好きな天然少女に粘着されたり。

 

「おい高辻。お前Aクラスの坂柳にハニトラ仕掛けてこい」

「いやいやいやいや、無茶過ぎるだろさすがに」

「案外行けるだろ。チェスの勝負受けるって名目で会って襲っちまえばいいさ」

「ふざけんな! 誰があんな爆弾の擬人化みたいな女と……」

「誰が爆弾ですって?」

「えっ」

 

 稀代の暴君であるドラゴンボーイに無茶な命令されたり。

 

「なあ。異性にモテるにはどうすればいいと思う?」

「ん? ホストになればいいんじゃない?」

「……真面目に聞いてるんだ」

「こっちも真面目よ。お前顔良いし、卒業したらうちの店で雇ってやるよ」

「……遠慮しておく」

 

 性格は正反対だが、どこか波長があう事なかれ主義者とまったり過ごしたり。

 

「あ゛ーもうウザイ! 堀北のやつガチでキモイんだけど! ほんとストレス溜まる! 私偉くない!? あんな奴と仲良くしてやってるの!」

「はいはい。偉いよ桔梗ちゃんは。優しいし、頭もいいし、可愛いし本当に良い子だ……だから夜中に部屋に来るのはやめよう? ね? 他の人に見られたら大変だしさ」

「いや! それに褒め方雑になってきてるし。もっとちゃんと褒めないと帰らないから」

「そんな理不尽な……」

 

表裏の激しい聖人君子の美少女の愚痴を聞かされたり。

 

「ねー。清夜君って本当に高校生?」

「まあ、一応は」

「ふーん。その割には女慣れしてるわよね。テクも今まで抱かれてきた男の中で1番上手だし。それで一之瀬さんも誑かすんでしょう?」

「誑かしてないですし抱いてもないんですけど!?」

「今後の予定は?」

「それは帆波ちゃん次第っすね」

「あらあら、悪い男」

 

行きずりで抱いてしまった飲兵衛教師に笑われたり。

 

 

 

 ────人生上手くいくことの方が少ないが、それでもこの実力至上主義の教室で楽しく過ごしていく……この物語は、そんなお話である。

 

 

 

*1
ホストでは客の名前を聞くまでは客のことを姫、姫様と呼ぶ

*2
担当ホストが席を離れている間に変わりのホストが接客すること。それ以外にも飲み物を注いだり色々な仕事がある。サブ的要員だが大事な役割

*3
文字通り最初に入店した姫へのプラン。1~2時間程度の時間を10人位のホストを選んでローテーションで相手をする

*4
初回での会計時に見送り担当のホストを指名すること。売り上げにつながる第一歩! 

*5
ホストがやったらNGな行動全般を指す





原作との変更点

・綾小路清隆の誕生日が半年ほど早くなっている。(4月10日生まれ)
・???


ということで、プロローグが長すぎると思いましたか?僕も思います。
この小説ではよう実の魅力的な女の子を、カスの主人公がホストの力を駆使して落としたり、もしかしたら落とされるかもしれないお話です。

ヒロインは未定。話の流れと僕の性癖で決めます。感想で推しの娘を語ってくれても良いですよ笑

高評価感想いただけると作者の励みになります!

どこを重点的に見たいですか?(ヒロインは1章ごとに1,2人増やす予定です)

  • 主人公とヒロインの絡み
  • 主人公と龍園、綾小路等との絡み
  • バチバチのクラス間闘争
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