ようこそ現役ホストのいる教室へ   作:カスのホスト

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第14話 一晩の過ち

 

 

 

 セットした髪や首元の蝶ネクタイを不思議そうに触るひよりちゃん。この近すぎる距離感もいつも通りで逆に安心する。

 

「いつもは家帰って着替えてから来てたんだけど時間なくてさ。似合ってる?」

 

「似合っていると思いますよ。でも不思議なものですね、髪型と服装だけでここまで印象が変わるなんて」

 

 桔梗ちゃんにも言われたが、上品な恰好をしたというだけで別に意識した訳じゃないんだけどな。

 それなのに悪そうに見えると言われるのは結構不服だ。ホストやってる時点で悪い男ではあるんだけど。

 

「ありがと。何か手伝おうか?」

 

 まだ料理の途中らしく、キッチンには食欲をそそる香りが漂っている。

 

「では、そこに置いてある取り皿とコップを持って行ってください。飲み物はこの前のお茶が冷蔵庫に入っているので」

 

 邪魔にならないように洗面台で手を洗った後、言われた通りに準備を済ませる。

 このやり取りからも分かる通り、俺がひよりちゃんの家にお邪魔するのはこれが初めてじゃない。ここ最近はカジノの準備で帰宅が遅いため、食事を作るのが面倒だと愚痴っていた所でお誘いが来たということだ。

 自炊って正直結構大変だし、人とご飯を食べるのは好きなので願ったり叶ったりだ。

 

「制服じゃないということは、今日もサークルの活動ですか?」

 

 食事の準備を終え、いただきますをして食べ始める。

 俺もひよりちゃんも外食中はあまり喋らないタイプだが、部屋で食べるときはその限りではない。

 

「うん。支給日ってこともあって賑わってたよ」

 

 ちなみに本日の収益は+46000ポイント。その大半は池君や山内君を筆頭としたVIP会員の人だ。ディーラーの人たちの給料(時給1000ポイント×2時間×7人で14000円)を引いても32000ポイントの利益となる。

 もちろん客が勝つ日もあるため油断はできない。だが最初に低レートで還元してハマらせ、後のVIPで搾り取るという構造は中々効果的と言えるだろう。

 

「良かったです。カジノ自体には正直あまり惹かれませんが、高辻君がディーラーをしている姿は少し気になりますね」

 

 ひよりちゃんを含めた他の学生には、カジノ好きな2年生の先輩に誘われて所属したという説明をしている。

 実際は俺が周りを巻き込んで始めた事だし、公開されていないがサークル長には龍園君の名前が登録されている。頭から尻尾まで嘘で詰まっているね。

 

「賭け方とか遊ぶゲームにもよるけど、2,000ポイントもあれば一日遊べるから来てよ。水曜日と金曜日の放課後。ゆくゆくは休日も開く予定だからさ」

 

「そんなに少額で遊べるんですか? なら来週行ってみますね」

 

 実際にやっている姿を見たことが無いから断言はできないが、ひよりちゃんはトランプゲームとかはかなり得意そうなイメージがある。

 今日の堀北さんみたいに確率論を考える頭があるというのもそうだけど、なんか単純に運が良さそう。

 

「配置のディーラーはランダムだから一緒にできるかは分かんないけど、運が良かったら目の前で見せれるかもね」

 

 実際のところインカムを使えば自由に調節し放題なんだけどね。

 そこそこの音量でBGMを流しているのは雰囲気造りの他に、やり取りの音声をかき消すためでもあるのだ。

 

「ポイント支給日とのことですが無駄使いしていませんか? 最初に比べたら改善されたとは思いますが、私はまだ高辻君の金銭感覚が心配です」

 

「大丈夫だって。ほら」

 

 眉を八の字にしながら、こちらを心配そうに見つめてくるひよりちゃん。食事を世話をしながら財布の中身を心配してくるとは。

 そんなひよりちゃんに正直にポイント管理画面を見せる。

 

「8万ポイント……安心しました。しっかり貯金もできているみたいですね」

 

 元々持っていたポイントと支給された含めると大体35万ポイント程持っていたが、その大半はカジノ開設にあたっての設備や先輩たちの給料、客の勝ち分に持ってかれてしまった。

 六月の支給ポイント数が6万のため、何も事情を知らないひよりちゃんからすると自然な数字に見えるだろう。

 

「おかげさまで楽しく暮らせてますよ。今日の食費いくらだった?」

 

「えっと、今日は500ポイントくらいですね。後でレシートの写真送ります」

 

 こんな感じで食事を作ってもらっているが、ひよりちゃんの分を含めた食事代は俺持ちである。

 1人分も2人分も大して変わらないから対価はいらないと言ってくれたけど、俺的には食事代に上乗せしてチップを払いたいくらいだ。

 その結果、俺だけじゃなくひよりちゃんの食事代も俺が払うという落としどころとなったのだ。

 

「それにしても、この部屋の本も大分増えて来たね。もう一個本棚置かないといけないんじゃない?」

 

 ひよりちゃんの部屋のレイアウトは非常にシンプル。

 寮に備え付けられたベッドと勉強机に、白色のシンプルな4段の本棚にはびっちり本が埋まっている。

 かと言って寂しい部屋という訳ではなく、部屋の隅にある観葉植物とベージュのベッドシーツは穏やかな雰囲気を演出している。読書をするときに使っているという白いデスクライトも良い感じだ。

 

 ちなみに俺たちが食事をしているのは、ベッドの前に置かれたローテーブルだ。

 床に敷かれた黄緑色のラグの上に座っている。体面に座るひよりちゃんはそのまま正座だが、足が痺れないのは茶道部に所属しているからか。

 

「そうですね。気に入った本は書店で買っていつでも読めるようにしているのですが、中学生のときと比べて自由に使えるお金が多いので、ついたくさん買ってしまいます」

 

 本棚をびっしり埋め、その上勉強机まで侵略してきている本を見てひよりちゃんは困ったように呟いた。

 

「あはは、あんまり俺のこと言えないんじゃない?」

 

 机の右奥は立てられた本たちが占領しており、正面も読んでいる最中であろう本が横に積まれている。

 机にはB4のノートをギリギリ開けるかというレベルの狭いスペースしか残っていなかった。これじゃあ勉強もろくにできないだろう。

 

「自由に使ってもいい金額はあらかじめ決めているので大丈夫ですよ。どこかの誰かとは違って、『10万ポイントじゃパジャマしか買えないよー』なんて言ったりはしませんので」

 

「……反省してます」

 

「よろしい」

 

 ここ2か月ですっかり俺はユニクロとH&Mの信者となってしまった。

 値段にしては異様なほどの品質と着心地だし、デザインに関しては無難なものが多いがそれ故万人受けを狙いやすい。友達からはかなり好評だ。

 

「それにしても面白い話ですよね。どんな環境で育ったらそんな金銭感覚になるんですか? 今の時代珍しいと思いますよ?」

 

 4月当初は本気で困っていたひよりちゃんだったが、過ぎてしまえば笑い話になるようで上品に口元に手を置いて笑っている。

 

「親バカなんだよ。2人ともね」

 

 個人的には親父と母さんが一般家庭上がりなのが余計に信じられなくなったけどね。あの人たちは化け物級に金遣いの荒い息子を見て何も思わなかったのだろうか。

 もっとも、一般の学校に通うべきという親父の発言はこういう意味だったんだろうと、今考えればよーく分かる。本人たちもどこか焦りはあったのだろう。

 

 腕を組んでドヤ顔でこちらを見下ろす親父の姿が脳裏に浮かんだ。……元気にしてるかな。刺されたりしてないと良いんだけど。

 

「ふふっ。高辻君はご両親のことが好きなんですね」

 

 俺の顔を見て微笑ましそうに笑うひよりちゃん。

 別に否定はしないけどなんで? 別に今の発言にそんな要素無かったと思うんだけど。

 

「顔に出てましたよ。いい笑顔でした」

 

「……マジかよ」

 

 意図しない感情の露出につい動揺して口調が素に戻ってしまう。

 清隆君とか龍園君みたいに仲の良い男友達なら素で接することの方が多いけど、女性の前でこうなるのは最近だとほとんどなかったのに。

 

 ────自分の中に『完璧な人格』というものがあって、他人と接するときはこの仮面を被ってコミュニケーションを取る。これはホストになる前からずっとそうだった。

 別に負の感情から自分を偽り始めたという訳ではない、むしろ逆と言っていいだろう。幼少期からそうやって人から好かれている両親を見て、憧れを抱いたのがオリジンだからね。

 

 実際にこうすることで友達も増えたし、自分を魅力的だと思ってくれる女性も数多く居た。欠点を上げるとすれば、その『完璧な人格』と俺本来の人格が混ざってしまうことくらいか。

 だから俺は両親の前ではあえて嘘偽りなく自分をさらけ出してたし、そのおかげで自分の人格と人と接するときの人格をキッパリ分けることが出来るようになった。

 

 もちろん、1人で居る時とそうじゃない時で性格が変わるなんてありふれた話だろう。しかし、それをどこまで意識するかは個人差がある。

 俺に似た例を挙げるなら桔梗ちゃんだろう。あの子に関しては俺以上に人格がキッパリ分かれている。桔梗ちゃんの不幸なところは、俺と違って仮面を被る際に大きなストレスがかかるということだろうか。

 

 だからこそ確信していることがある。

 桔梗ちゃんはそう遠くない内に俺に依存するようになる。それがどのような形になるのかは俺次第だろう。

 

「この年で親大好きとかちょっと恥ずかしいけどね……っ」

 

 ヤバい。やらかした。

 思考が分散していたせいもあるだろうが、やっぱりひよりちゃんといると素の自分が出やすくなるようだ。

 

「そんなことは無いと思います。少なくとも、仲が悪いよりはずっといいと思いますよ? そういう私も両親のことは大好きです」

 

「……そっか」

 

 しかし、そんな俺の失言に対してもひよりちゃんは眉一つしかめることなく笑顔で答える。

 それを最後に会話に区切りがついたのか、俺とひよりちゃんは黙々と食事を進めていった。

 

「ごちそうさまでした。今日も美味しかったよ」

 

「おそまつさまでした。そう言って頂けるとこちらとしても作った甲斐があります」

 

 食べ終えた皿を2人でキッチンに持っていく。

 狭いシンクで2人並んで皿を洗うところまでが俺たちの夕食のルーティンだ。

 

「ん……少し身長伸びましたか?」

 

「んーどうだろ。まだ成長止まってないからもしかしたらって感じかな」

 

 入学当初は175センチメートルくらいだったかな? 

 親父が確か180中盤、母さんが160後半くらいあったはずなのでもう少し伸びてくれるとありがたいけど、そんな1,2か月で伸びれば苦労はしないよね。

 

「そうですか。心なしかこの前よりもキッチンが狭く感じたので」

 

「そうかな? ……でも、最近また筋トレ始めたからそのせいかもね」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、不思議とそれを言う気にはなれなかった。

 

「水泳の時間に見ましたが、凄い引き締まった体してましたよね。何か運動していたのですか?」

 

「サッカー、バスケ、体操、空手、柔道……親がいろいろ通わせてくれてさ。受験期は運動してなかったから少し衰えたけど、最近は結構復活してるんだよね。ほら、触ってみる?」

 

 右手でシャツと下着をまくり、8つに割れた腹筋を見せる。

 学校には最先端のトレーニングジムが置かれており、部活動に入っていない生徒も無料で使用できるため惜しみなく使っている。休日1日、平日2日の週3日のトレーニングと、毎朝敷地内を30分ランニングをしている。

 学校の設備や監視カメラの位置などを詳しく知ることが出来るし、ジムでのトレーニングや早朝のランニングは知らない人と出会う機会にもなる。現に今はランニング中に知り合った2年生の先輩と一緒に走るのが日課となっている。

 

「わっ……凄い硬いですね。私のお腹とは大違いです」

 

 指先でおっかなびっくり腹筋を触って興味深そうに呟くひよりちゃん。

 女の子は少しプニプニなくらいが丁度いいんだから、あんまり気にしなくても大丈夫だよ。

 

「上の方はどうなってるんですか?」

 

「えっ」

 

 もう片方の手に着いた泡を水で流し、こちらを向いてシャツの下に肘まで手を入れて来るひよりちゃん。

 

「男性が鍛えるとこうなるんですね。私の父とは大違いです。肌も凄い白くてすべすべで羨ましいですよ」

 

 遠慮よりも興味の方が勝ってしまったのか、ひよりちゃんはそのままシャツを上まで捲り上げて両手でペタペタと胸やお腹を触ってきた。

 トレーニングしている身としては自分の体を褒めてもらえるのは嬉しいが、期待していた斜め上な反応で困惑の方が大きい。

 

「くすぐったいよひよりちゃん」

 

「……すみません。つい夢中になってしまいました」

 

 そこで恥ずかしそうにするところがひよりちゃんの良いところだろう。ちゃんとはしゃぎ過ぎた自覚はあるのがまた可愛い。

 有栖ちゃんなら「あなたが触れと言ったんじゃないですか」と開き直ってきそうだし、桔梗ちゃんに関しては罵倒と共に腹筋にビンタが飛んできそうだ。

 

「後でまた見せてあげるからさ」

 

「……いえ、遠慮しておきます。はしたない人だと思われてしまいそうなので」

 

 気まずそうに目線を逸らし、再び皿を洗い始めるひよりちゃん。

 うん、ちょっと迷う所もポイント高いね。

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 あの後好きな本について語り合っていたら10時を過ぎてしまった。

 

「結局遅くなっちゃた」

 

 既にスーパーは閉店しているため、仕方なくコンビニで足りない食材を買い揃え、現在時刻は10時30分。夜遅くのコンビニは客も居ないし、店員も居ないため会計は全てセルフレジとなるため少し物寂しい。

 

 通学路の脇に置いてあるベンチに座りながら、コンビニで買ったペットボトルの水を飲む。

 今日は朝から授業、カジノと続いてひよりちゃんとご飯を食べるという、中々充実した一日を送らせてもらった。

 開店準備期間よりは暇になったが、まだまだ忙しい時期は続くため、カジノが開いている水曜日と金曜日はひよりちゃんのお世話になろうと思う。

 

「明日の予定は……特にないか」

 

 端末のカレンダーアプリを開いて予定を確認するが特に何も入っていない。

 ジジ臭いと言われるかもしれないが、基本的に何かしらの約束や予定が入っているため登録した方が楽なのだ。それにこうやって人と遊ぶ予定を詰め込むのは楽しいからね。

 よし。清隆君誘って映画でも行くか。

 

 たまには家でゴロゴロしてろよと自分でも思うが、予定無い日ってなんかモヤモヤするんだよね。貴重な時間が無くなってく感じがして。

 理解してくれる人は居ないため俺が特殊なんだと思う。多分職業病だ。昼まで寝てるくらいなら営業しろと言われる世界だからね。

 

『明日今やってるゴ〇ラの映画見に行こうぜ』

『行く』

 

「ぷっ、返事早すぎだろ」

 

 即答で帰って来た。大方眠れずに端末に張り付いていたのだろうが、余りの即答に笑ってしまった。

 午前中ジム行って、その後寮でシャワー浴びて着替えて飯食って……13時集合にしよっか。

 

『昼飯食って13時集合でどう?』

『ヾ(๑╹ヮ╹๑)ノ いいぞ』

『おけ。席予約しとくわ』

『٩(ˊᗜˋ*)و ありがとう』

 

 俺があげたスタンプちゃんと使ってて偉いじゃん。ちょっと使いすぎな気もするけど、面白いからこのままでいて欲しいものだ。基本表情が動かない清隆君だが、こういうスタンプを打つ時はどんな顔をしているのだろうか。

 男特有の簡潔なチャットを済ませ、明日の楽しみが出来たので早めに帰宅することとする。

 

 飲みかけのペットボトルを袋に入れ帰路についていたその時、奥のベンチに人が横たわっていることに気が付いた。

 

「……う゛ぅ……気持ち悪ひぃぃ……」

 

 明らかに体調が悪そうな女性の声が聞こえてきた。

 このまま放置するのは流石に気が引けるため近くによって声をかける。女性には優しくしろと母から常々言われてきたからね。

 

「大丈夫ですか? ……って」

 

 暗がりでよく見えなかったが、近くまで寄ってみるとどこか見覚えがある気がする。

 

「ぜんぜぇん大丈夫じゃないわよー! せっかく仕事早く終わらせて合コン行ったのに最悪よっ! イケメン居るって聞いて行ったのにー!」

 

「星之宮先生……?」

 

 そう叫びながらこちらを振り返った女性は星之宮知恵。1年Bクラスの担任兼保険医の先生だった。

 

「んー……? うわっ、すっごいイケメン。常駐の業者さん?」

 

 龍園君に殴られて保健室に行った時から仲良くさせてもらっているが、酔っぱらいすぎて気づかれていない。

 というより、服装と髪型のせいかそもそも学生だとは思われていない。確かに頻繁に出入りしている業者だったら教師の名前を知っていてもおかしくないが、先生という呼ばれ方に疑問は無いのだろうか? 

 

「うえっ、この辺トイレあったわよね」

 

「……ええ。隣の公園の端にあります」

 

 名前を名乗ろうとしたが、その前に肩を掴まれてそんなことを聞かれた。……嫌な予感がする。

 

「イケメンくんそこまでつれてってー。じゃないとここで吐いちゃうぅー」

 

「……はぁ。分かりました。肩貸してあげますけど、ここに吐かないでくださいよ。ヤバかったらこの袋に吐いてください」

 

 悪い予感が当たってしまった。仕方がないため公園の女子トイレの個室に一緒に入る。

 酒に酔った女の相手も大得意だが、仲の良い女性教師の吐いている姿など見たくなかったな。

 

「ほら、背中さすってあげますからさっさと吐いちゃってください」

 

「ありがとぅ……」

 

 ────星之宮先生の名誉のためにここから数分間カットを挟むよ。

 

 

 

 

「落ち着きました?」

 

「んんっ……ある程度は……」

 

 吐き慣れているのか、思ったよりも早く胃の中身を吐き出した星之宮先生。

 

「これ、俺の飲みかけでいいなら水です」

 

「やったぁー。イケメンと間接キスだー」

 

 にぱーっとした笑みで水を口にする星之宮先生。酒に酔って赤くなった頬、と口元からこぼれた一筋の水が妙にエロい。

 

「ぷはぁ……ありがとー」

 

 空のペットボトルを路上に投げ捨て、感謝の言葉と共に抱き着いてくる星之宮先生。サラッとポイ捨てしたぞこの女……それでも教育者かよ!? 

 

「初めましてよね? こんなイケメンなら覚えてないはずないもん。今年度入ってきた業者さんでしょ」

 

 むふーと胸を張りながらドヤ顔でそう言って来る星之宮先生だが全然間違ってる。普段廊下ですれ違ったら休み時間終わるまで雑談するレベルで仲良いのにちょっとショックだぞ。

 まあ、確かに生徒に思い入れがなさそうだなとは思っていたが、まさか服装と髪型が違うだけで忘れられるとは。

 

「もー……入口から寮まで遠いのよ。学生の子たちはどうせ校外に出ないんだから、職員の寮と場所交換しろーっていうの。君もそう思うでしょ?」

 

「今日はタクシーでお迎えですか?」

 

「そうよ! あの男共タクシー代もよこさないし、顔もかっこよくないから帰ってきちゃったの」

 

「それは残念でしたね。ほら、夜も遅いですし帰りますよ」

 

 万が一この場面を見られでもしたら面倒なことになるため、体に負担が掛からないように体を支えて立ち上がらせる。

 

「むぅ……雑に扱ってるでしょ! ……えいっ」

 

「ちょ、何して」

 

 星之宮先生は頬を膨らませるという年不相応な表情をした後、何を思ったのか俺の背中に飛び乗ってきた。

 

「わっ、君結構力あるのね。私こう見えて結構体重重いのに」

 

「鍛えてますから。全然重くないですよ」

 

「ホントだー。筋肉凄いね」

 

 おんぶされた状態でシャツの上から体をまさぐってくる星之宮先生。ひよりちゃんと違ってやらしい手つきだ。

 

「このまま私の部屋まで送ってってー。業者さんなら同じ寮でしょ?」

 

 ……言い出すタイミングを見失ってしまった。俺が出会ってきた女性の中でも断トツで酒癖が悪い。

 

「それまで先生の大きい胸を堪能しちゃっていいからーお願いー」

 

 そう言って、わざとらしく胸を背中に押し付けて来る星之宮先生。この自分が美人だと心底理解している立ち回りも厄介だ。

 このまま置いて行っても余計面倒なことになりそうだし、ちょっと遠いが送ってってあげよう。監視カメラでバレて何か言われても先生のせいにすればいいし。

 

 

 

 真っ暗な教員寮のエントランスを抜け、エレベーターへと乗り込む。

 教員の寮は生徒と違ってセキュリティが緩いようで、エントランスやエレベーターにも監視カメラが設置されている様子はなかった。

 

「部屋何番ですか」

 

 そう言って体を揺らしてみるが一切反応がない。

 

「ん……zzz。むにゃ……」

 

「こいつ……」

 

 危ない危ない、思わずエレベーターの床に放り投げるところだった。

 仕方がないので後ろ手で膨らみがあるポケットから財布を取り出し、その中身を物色する……あった。103号室、1階じゃねえかよ。

 

 エレベーター出て、そのまま廊下を進んで部屋へと向かう。

 扉の前に着くと、俺はそのままカードキーを使って部屋を開け中に入った。面倒だからさっさとベッドで寝かせて帰りたかったのだ。

 

「あ……ついたー? ちょうどいいし、そのままベッドまで送ってってー」

 

 どこまでも図々しい星之宮先生だが、もう感情を動かすことも無駄だと悟ったため、無心で靴を脱いで部屋へと入る。

 

「……汚ぇ部屋だな」

 

 無心になった筈だが部屋に入るなりそんな声が漏れてしまった。

 学生と違って1LDKの広めな間取りだが、廊下には口を閉じてないゴミ袋が並んでおり、寝室には飲み終えた酒の缶やペットボトルが散乱していた。

 

「文句あるかー。女の部屋なんてこんなもんなんだよ普通」

 

「そうですよね。忙しいですもんね学校の先生って」

 

 若干的外れな回答の気もするが酔っぱらい相手だから気にしない。

 辛うじて生き残っているベッドの上にそっと乗せる。

 

「あ゛ー。家のベッドが一番落ち着くわねー」

 

「じゃ、俺は帰りますよ」

 

「ちょっとー。ここまできて、することしないで帰っちゃうの?」

 

 ベッドから立ち上がり帰ろうとする俺の腕を掴んだのは、いつの間にか上着を脱いでいたのか、下着姿でこちらを見つめる星之宮先生。

 

「……やっぱりか。何となくそうだとは思ってたけど」

 

「お世話してくれたお礼っ。それとも日和ってる? ふふっ……もしかして初めてだったりして」

 

「うるせぇな」

 

 にやにやと腹の立つ笑みを浮かべ、こちらを煽ってくる星之宮先生の口を塞ぐように口付けをする。

 正直ムードもへったくれも無いが、このレベルの美人に迫られて引くほど俺は男を捨ててないんでね。先生との会話は全部ボイスレコーダーに録音してるし、これを突きつければこの人も文句は言えないだろう。

 

「んんっ♡ やればできるじゃない」

 

 こういう所で大人の余裕を出すのは止めて欲しいものだ。歯止めが効かなくなるから。

 シャツと下着を乱雑に脱ぎ捨て、太ももの上に跨るように座る。

 

「凄い体ね~。……ゴムはそこに置いてあるから、見栄を張らないでちゃんとピッタリのサイズ選ぶのよ?」

 

「分かってるよ……んっ」

 

 そのまま覆いかぶさるようにキスをし、片手を先生の顎に添えながら舌を入れる。

 

「見た目通り経験豊富そうねっ。ほら……おいで?」

 

 少しだけ呼吸と鼓動を早めながら、赤らめた顔でこちらを見上げる星之宮先生。

 口に残るほのかな酸味を感じながら、俺と星之宮先生は深い夜へと身を堕とすのであった。

 

 

 





 椎名に惹かれながらも性欲に負けるカスホストでした。まだR15で大丈夫だよね…大丈夫か?
 やることやったら男を捨てる女とカスホスト。案外相性がいいのかもしれません。

 次話から本格的にドンパチ始めるのでお楽しみに! 
 高評価、感想頂けると作者の励みになります。モチベは投稿頻度にも露骨に作用するので、面白いと思ったらよろしくお願いします! 

どこを重点的に見たいですか?(ヒロインは1章ごとに1,2人増やす予定です)

  • 主人公とヒロインの絡み
  • 主人公と龍園、綾小路等との絡み
  • バチバチのクラス間闘争
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