ようこそ現役ホストのいる教室へ 作:カスのホスト
また長くなっちゃった…ということで原作開始です。
この主人公はEQが滅茶苦茶高いです。そんでもってすこぶる顔が良いです。
第1話 早起きは三文の徳
4月。待ちに待った入学の日。俺はいつもより少しだけ早起きをして、洗面台の前で身支度を済ませていた。
黄色いラインが入った真っ赤のブレザータイプの制服、濃い緑のスラックスを身に着けたイケメンが鏡に映っている。黒髪をマッシュにそろえ、さらさらとした前髪を櫛で微妙に調整する。この一ミリが人生を変えるかもしれないのだ。丁寧に行わなければならない。
「清夜? ご飯できたわよ」
扉から顔を出してきたのは母さん。俺が生まれてからは経営者として実践からは足を引いたのだが、元ホステスとだけあってその美貌はいまだ健在だ。俺が卒業するころには50近くになるはずだが、息子である俺から見ても滅茶苦茶若く見えるし美人だ。
「はーい。今行くよ」
あとちょっとだから。ここをもう少し左にして……よし、いい感じ。
テーブルには既に朝食が並べられている。献立は古き良き鮭をおかずに添えた和食。丁寧な塩加減の味噌汁はとても家庭的だ。
「気合入ってるわねー。髪型は全然違うけど、顔は昔のお父さんに似てきたわ」
対面に座る俺の顔をまじまじと見て、懐かしそうに呟く母さん。
「女子受け抜群。黒髪ナチュラルマッシュだよ」
髪型や色に関する規定は無い……何なら敷地内のお店で染められるらしいが、高校生なんて黒髪が最強に決まっている。初っ端から染めたら印象悪そうだし。
食事を終え、忘れ物が無いかを確認して玄関に向かう。
「行ってらっしゃい」
何か気の利いたことでも言おうと思ったが、エプロン姿で手を振る母さんの様子はいつもと変わらない。これから3年間会えないというのに強い女だ。
だが、その態度が虚栄であることは容易に想像がつく。何せ母さんは俺の母親であり、人生で一番長く共に過ごしてきた女でもあるのだから。
「今まで育ててくれてありがとう。立派になって帰ってくるから、それまで元気で待っててね」
靴を履いて玄関に立ち、振り返って母さんに向けて頭を下げる。
顔を上げて最初に目に入ったのは、張り付いていたようなにこやかな笑みを崩し、目元を腫らして涙を流す母さんの姿だった。
「っ! ……そうね。行ってらっしゃい……!」
予想していた反応だったが、いざ面と向かって泣かれると中々クルものがある。あまり長居するのは得策では無いようだ。
「行ってきます!」
小さく震える右手でドアを開け、俺は新たな一歩を踏み出すのだった。
感動の別れとはいえマンションのエントランスを抜けたら薄れるもの、忙しなく車が往復する大通りの手前で、俺はこれからやってくる高校生活に胸を踊らせるのだった。
楽しみだな……可愛い子いるかな。
天気は快晴。地面を桃色のまだらで染める桜の花びらと暖かい空気は、まるで俺を祝福しているのかとさえ錯覚させる。
今日に限って開かれる、高度育成高等学校の校門に向けて空港や最寄駅からバスが出る手はずとなっている。それに乗れば、もしかしたら可愛い子と出会えるかもしれない。
そんな俺が次に向かったのは、隣にあるマンションの駐車場。そこで俺が乗ったのは……
「どちらまで?」
「高度育成高等学校でお願いします」
「分かりました。安全運転で行かせていただきます」
うんそうだね。タクシーだね。
……しょうがないだろ! 家からめっちゃ近いんだから!
東京都のど真ん中にある高度育成高等学校だが、新宿にある俺の家からは車で十数分しかかからないのだ。わざわざ乗る必要は無い。……ここまで都会で育ったことを後悔したのは始めてだ。ちくしょう……! 俺もバスとか電車で可愛い子と出会ってみたかった!
「着きましたよお客さん」
だが、出来ないことを憂いている暇はない。自らがやれる最善を尽くすのみだ。
ということで学校前に着いたのだが、校門こそ空いてはいるが前にも後ろにも人っ子一人見当たらない。
「……流石に早すぎたか」
登校一時間前程度なら誰かしらは居ると思ったんだけどな……
仕方がないので校門横に建てられた警備員の待機所へと向かい、入校許可書を登録して入場を試みる。
「よし。登録できたぞ。校舎は入ってまっすぐ行けばあるから迷うことはないはずだ」
「ありがとうございます。ちなみに何ですけど、他の人たちが何時ころ来るかとか分かりますか?」
「んー? ちょっと待てよ……一番早いバスで20分後とかだな」
うげっ……そうか、基本学校が用意したバスとか特別便で来るのか。そりゃギリギリまで来ない訳だ。……仕方ない。校舎内の散策でもするか。敷地の地図はまだ渡されてないし、遅刻でもしたら大目玉だ。
警備の人にお礼を言い、丁寧に舗装された通学路を歩いて行くとすぐに校舎と思われる建物にたどり着いた。
「……凄いな。一体いくら金かかってんだか」
東京のど真ん中に確か60万平米だったか。それだけでも土地代で相当な額になるだろう。更に3年間幽閉される学生が困らないように、購買と娯楽の場としてでっかいショッピングモールまで建てられているという。その位してもらわないと困るんだけどさ。
それにしても、高い金を出して破格の立地に建てた癖に、どうして生徒を閉じ込める仕組みにしたのだろう。それだったら無料で寮を貸し付けて通学させた方が百倍ローコストで済むのに。
そう言えば、俺って親父と繋がりのある、黒めの政治家の人に依頼されてここに来たんだっけ。……中でデスゲームが開催されてる可能性もゼロじゃないな。覚悟は決めておこう。
そんな冗談を考えながら歩いていると、いつの間にか校舎の入り口までたどり着いた。上履きに履き替えて中に入る。
────そこで、廊下の奥の方に、まるでアニメの様な高さの紙束を抱えて歩く女子生徒の姿が見えた。
「っとと……ううぅ……欲張らなきゃよかった……」
自分でもやり過ぎた自覚はあるのか、そこそこ大きい独り言を呟いている。
「手伝いましょうか?」
「うひゃあ!?」
「あっ」
親切心から声をかけたのだが、驚かせてしまったようで女子生徒は尻もちをついてしまった。ひらひらとA4のコピー用紙が宙へ床へと舞い落ちる。
「す、すみません。大丈夫ですか?」
「いたたた……」
申し訳なさを演出しながら右手を差し出すと、これまた女子生徒も苦笑いを浮かべながらその手を取った。立ち上がると同時に隠されていた顔が明らかになる。……おっ、可愛い。
温和な表情を浮かべる女子生徒は、青みがかった紫色の髪を両側でお団子にまとめ、後ろは肩に掛からない程度に降ろしている。くりくりと丸い目も人当たりが良さそうで可愛らしい。
「あははは……入学式で渡す資料を運んでたんですが、つい欲張りすぎちゃって」
パンパンとスカートや背中に着いた汚れを手で払う女子生徒。
「そうだったんですか。すみません、驚かせてしまって」
その間にちゃっかり落ちた資料を集めていたため、上の3割くらいを女子生徒に手渡す。
「ある程度埃は払いましたけど、一応後で汚れてないか確認してください」
「ありがとうございます。……えっと、1年生ですよね?」
何故か訝し気に聞いて来る女子生徒。どこかおかしな所でもあっただろうか。
「そうですけど……」
「ああいや、面識が無いから1年生だと思ったんですけど、それにしては堂々としてるなー……なんて思っちゃって」
じーっとこちらを見上げて語る女子生徒。確かに入学式となれば緊張する生徒が大半だろう。
変に肯定しても微妙な雰囲気になりそうなので、緊張している体を装うこととしよう。
「そうですか? こう見えてけっこう緊張してますよ。そのせいで早く来すぎて暇なんですよね」
「ふふっ、そうですよね。やっぱり緊張しますよね」
穏やかなペースで話が進む。会話がひと段落付いた後、女子生徒はプリントを胸に抱えるように持ち直した。
「3年Aクラスの橘茜です。よろしくお願いします」
「1年の高辻清夜です。橘さんは何か委員会に所属してたりするんですか?」
じゃないとこんな早朝からプリントをせっせこ運んだりしないだろう。
「はい。一応、生徒会の書記をやらせて頂いてます。今ここにいるのもその一環ですね」
うん。超イメージ通り。会計とか書記とかやってそうな雰囲気だ。
入学早々偉い立場の美少女と出会えたことにほっこりしていると、橘さんは俺が持つプリントのタワーを見た。
「どちらまで持っていきますか? 時間も余ってますし、手伝いますよ」
「え、いいですよ。入学したての子に手伝わせたなんて知られたら、会長に怒られちゃいます」
「遠慮しないでください。また転んでプリント汚すかもしれませんよ?」
返して欲しいと言われる前に手伝いの提案をする。案の定断ってきた橘書記だが、先ほど晒した醜態を指摘したら恥ずかしそうに俯いてしまった。
「むぅ……やっぱり緊張してないですよね? 高辻君」
「そんなことないですって。ほら、新入生に校舎の案内するのも先輩の仕事ですよ」
最初に真面目な好青年の印象を与えて、会話を重ねながら少しずつ生意気さを足していく。
厳格な性格の人だと怒られる可能性もあるが、橘さんはそういう人ではないと思っての立ち回りだ。というより、顔の良い異性の後輩なんてちょっと生意気くらいがちょうどいいだろう?
「もう……分かりましたっ。ありがとうございます」
橘さんも遠慮が無くなったのか、可愛らしく語尾を跳ねさせて返事をしてくれた。さしずめ俺の評価は『小生意気だが親切な可愛い後輩』といったところだろう
これはもうちょっと押しても大丈夫だな。幸先良い出会いが出来た。
「いや~。最初に優しい先輩と出会えてよかった」
「まったく……私は良いですけど、生徒会長に生意気な口を聞いたら許しませんからね」
おっ、冗談っぽく言ってるけど結構ガチだなこれ。よっぽど生徒会長とやらを尊敬しているらしい。新しい話題みっけ。
「そりゃあ、こんな超名門校の生徒会長といったら凄い人でしょうし、そんn「そうです! そうなんですよ!」」
抱えたプリントをブンブンと上下に振りながら、丸々とした瞳に輝きを込めて身を詰める橘先輩。
おいおい。思ってた100倍食いついてきたんだが。怖いって。
「そ、そうなんですか?」
「そうですよ。会長は凄い人なんです! 「……橘?」うわわっ!?」
後ろから突然声を掛けられた橘さんは、まるで再放送のような同じ動きでつまずいた。
「っと」
両手に持っていた高さ50センチメートルほどの紙束をウェイトレスの様にして片手に持ち換え、正面に倒れた橘さんの前に回り込んで片手と体で抑え込む。
身長差から俺の胸に飛び込んでくるように倒れた橘さん。中々の衝撃が来たが、この程度仮に両手がふさがっていても耐えられる。
「むふっ! ……ご、ごめんなさい!」
「セーフ」
恥ずかしそうにサッと俺から距離を取る橘さん。出会って間もない後輩の胸に飛び込んだのだ、そりゃあ恥ずかしくもなるだろう。
「怪我は無いようだな。……橘、1年生より落ち着きがないとは、生徒会の顔が立たないぞ」
「す、すみません……」
さっき俺に謝ったときの5倍は凹んでいる。話の流れから察するに、この人が生徒会長だろうか?
「話に上がっていた生徒会長の堀北学だ。そこの橘とは同じクラスに所属している」
「あっ、なるほど。高辻清夜です。よろしくおねがいします」
如何にも優等生といった風貌の堀北さんだが、制服の下にはガッチリと鍛え上げられた筋肉が薄っすらと見える。体のラインが分かりづらい制服でこれなのだ、脱いだら相当凄いタイプと見た。拳ダコがあるから空手とかそっち系のスポーツだろうな。
だが一番気になったのは、俺の名前を聞いたときに堀北さんが見せた反応だ。
「高辻……なるほどな」
「?」
橘さんは気が付かなかったのか、小首をかしげて俺の方を見つめている。
見つめあう俺たちを見て思ったのか、橘先輩は状況の説明をしてくれた。
「入学式に使うプリントを運ぶのを手伝ってもらってたんです。それにしてもさっきのすごい動きでしたね! わちゃわちゃーって感じで!」
……わちゃわちゃーって感じ? なかなか独特な擬音を使う人だな。
「そうだな。咄嗟の判断にしてはよく動けていた」
あっ、スルーする感じですか堀北さん。まぁいいけど。
「自分小さい頃ダンスやってたんで、その恩恵かなーなんて」
半年くらいで飽きちゃったから辞めたんだけどね。体幹とバランス感覚に関してはそれで培われた。
「なるほど。あとは俺が持とう。ご苦労だった」
そう言ってプリントを受け取る堀北さん。ここでお別れかと思ったが、それを止めたのは橘さんだった。
「ついでですし、一緒に体育館まで来てもらいませんか? 時間もありますし、ここでお別れっていうのも」
「そうだな。入学式の際は案内が着くが、
……何だ? やけに強調して言ったな。
確かにこれから3年間過ごす校舎なのは間違いないが、体育館の場所なんてすぐ覚えられるだろうに……いや、この場合見て回る方が有益っぽい言い方だな。
「じゃあ俺も持ちますよ。先輩二人に持たせて歩くわけにも行きませんし」
そうして歩き出した俺たちの会話は、先ほどの堀北さんの反応へと戻る。
「さっき俺の名字に反応してましたけど、どこかでお会いしたこととかありましたっけ?」
もしこれで父親の関係者とかだったら最悪もいい所だ。ホストの倅だということがバレたら、学校生活に支障をきたす恐れがある。
「いいや。優秀な生徒だということを聞いているだけだ。……入試の順位は同率で2位。面接での評価は最高評価だったと聞いている」
そんな俺の懸念は杞憂だったらしく、ポケットから取り出したスマホを操作しながらそんなことを教えてくれた。タイミング的に俺の情報を確認したのだろうが……
「生徒会にはこの学校に所属する生徒のある程度の情報が入ってくる仕組みだ。全ての上級生に開示されるわけでは無い」
「あ、そうでしたか」
そんな疑問に先回りして答えてくれたのは堀北さん。流石生徒会長とだけあって気が回る人だ。話し方からも知性を感じさせるし、文武両道タイプかな。
「面接で最高評価ですか!? そんな生徒今まで一人も居ませんでしたよ!」
凄い凄いと興奮した様子で声を上げるのは橘さん。確かに受験者の人格を測る面接で安易に最高点が出ていたら困るからね。全校生のデータが見れる彼女がこれほど驚いているということは、素直に喜んでいい事実なのだろう。
「コミュ力には自信ありますから。まあ、あの面接がどれだけ入試に影響しているかは分かんないですけど。形だけの面接かもしれませんし」
「……ほう。何故そう感じた」
おっ、雰囲気変わったな。これは……驚きと興味か。
「受験要項に面接でどこを重要視しているかが書かれていなかったので質問したんですよ。その時の返答が不自然だったのでそうかなと」
「では、この学校はどのような方法で合否を決めていると考える。面接が関係ないとしたら、自ずと入試の結果ということになるが」
「もしかしたら、最初から入学できる生徒は決まってたりして」
「えっ」
マジか。適当に山張って答えたのに正解かよ。橘さん反応分かりやすすぎだし。
「橘……」
「す、すみません会長!」
「冗談のつもりだったのですが、どうやらその反応を見る限りいい線行ってそうですね」
どうやら、やはりこの学校は普通の学校とは根本的に異なる形態で生徒を評価するらしい。……やっぱりデスゲーム説が濃厚になってきたな。
「冗談? 今のお前はまるで何かの確信に至っていたような様子だったがな。まるで俺たちの反応を見て、真実を探ろうとしてたようにも思える」
凄いな……まさかそこまで読まれているとは。相手は2つしか歳が変わらない学生なのに。母さんの店に来る成金社長の数倍は鋭い洞察力を持っている。
「そんなつもりは無かったんですが……礼に欠ける聞き方でしたね。すみません」
「いいや。中々有意義な時間だった。お前がこの学校にかなり向いている生徒だという情報も知れたしな」
「今年も凄い子が入ってきましたね……」
どういう心境かは分からないが、中々高い評価をしてもらえたようだ。予想外の立ち回りではあったが、結果としては最高といってもいい。
丁度そのタイミングで体育館に着いた。中にはズラリとパイプ椅子が並べられているが、やはり先生を含め誰も居なかった。
「おー……凄い大きいですね。設備も最新のものばっかり」
「凄いですよねー。空調も効いているので、冬の冷たい床におしりを付ける必要もありませんっ」
まるで自分のことの様に誇らしげに語る橘さん。生徒会をやっていることもそうだし、この学校のことが好きなのだろう。
指示された机の上にプリントを置く。これで彼らともお別れだ。
「じゃ、俺は失礼します。まだ自分が何クラスかも分かってないので、早めに確認しないと」
まだまだ他の生徒が来る気配はないが、気になることもあるので早めに撤収したい。先輩たちも仕事があるだろうし。
連絡先を交換するという選択肢もあったが、生憎とスマホは没収されているためそれも叶わない。次に会ったときのお楽しみとしよう。
「今から戻るのも面倒だろう。お前の所属はCクラスだ。教室に関しては本棟に戻ってすぐ左の階段から3階に行けばいい」
「ありがとうございます。助かります」
ふむ、
2人ともずっと何かを隠している様子だったし、この学校には間違いなく何かがある。とりあえず、感謝を告げる橘さんに挨拶をして本棟へ戻るとしよう。
「……退屈することはなさそうだね」
途切れることなく視界に入り続けるとある機械を一目見て、俺はそう小さく呟いたのだった。
ということで、早速Cクラスの教室へと向かう。誰も居ないだろうが、これからお世話になる場所を見ておいて損はないだろう。
「デカい階段だな……ん?」
案内された通り左手側の階段を上って行くと、踊り場のところで、綺麗にたたまれたハンカチが落ちている事に気が付いた。
白を基調としたサテン生地に、薄紫のレースが編み込まれている。明らかに高そうな女物のハンカチだ。汚れや皺が一切ないことから、恐らく下ろしたてのものだろう。
もしかしたら先に来ている同級生が居るかもしれない。職員室に行くのも面倒だし、このまま教室に行ってみよう。
階段を上って3階に上がると、案の定廊下には杖を持った背の小さな女子生徒が斜め上を見て立っていた。視線の先にあるのは……監視カメラか。
こちらの気配に気が付いたのか、振り向いた少女と目が合う。お互いに軽く会釈をすると、彼女の視線は俺の右手へと移って行った。
「そのハンカチ……」
驚いた様子でポケットを見る少女。やはりこのハンカチの持ち主だったようだ。
「階段の踊り場に落ちていたんだ。もしかしたら上に居るかなと思って」
「ありがとうございます。私が言えたことじゃありませんが、随分とお早い登校ですね」
「あはは……家が近くてさ。タクシーで来たんだけど楽しみ過ぎて早く来ちゃったんだ」
一年生のフロアに居ること、そして制服を見る限り彼女も1年生だと予測してため口で話す。……それにしても物凄い美人だ。橘さんも顔立ちは整っていたが、この子はそれにプラスして何処か儚い雰囲気を感じさせる、別の魅力を持った美少女だ。
「そうでしたか。1年Aクラスの坂柳有栖と申します。以後お見知りおきを」
「1年Cクラスの高辻清夜。よろしくね有栖ちゃん」
「ええ。よろしくおねがいしますね」
名前+ちゃん呼びでも大した反応は無しと。まあ、ここまで美人だと今まで何回も男に言い寄られてきたはずだ。慣れてるだろうな。
「有栖ちゃんも近くに住んでる感じ?」
「はい。父が学校関係者なので、ついでに送って頂いたんです。見ての通り、あまり自由な体ではありませんから」
杖で軽く地面を突いて、小さく笑って語る有栖ちゃん。体云々はともかく。それならこれだけ早く学校に居るのにも納得だ。
「そっか。何か困ったことがあったら言ってよ。こう見えて力には自信があるんだ」
最近トレーニングサボりがちだけど、それでもそこらの運動部の同級生よりかは動けるはずだ。
「お優しいのですね」
上品に口元を抑えて小さく笑う有栖ちゃん。彼女の容姿も相まって、何とも絵になる光景だ。
「両親に散々言われたからね。女の子には優しくしろって」
当時は両親の仕事を知らなかったため素直に受け入れたが、親父にだけは言われたくない言葉だった。
「ふふっ、もしその時が来ればよろしくお願いします」
「任せてよ。……そういえば、さっきは何してたの? 上の方見てたけど」
「特に何もありませんよ。少しぼうっとしてただけです」
「あ、そうなんだ。てっきり天井に着いてる監視カメラでも見てたのかなって」
そんな質問を投げかけると、有栖ちゃんは先ほどの穏やかな雰囲気を潜め、どこかいたずらっ子の様な笑みを浮かべて視線を上げた。
「監視カメラですか。そう言えばそんなものもありましたね。気が付きませんでした」
凄いなこの子。それらしい仕草もなしにこんなにサラッと嘘をつけるのか。母さんと比較しても遜色ないポーカーフェイスだ。
「うん。入口からここに来るまで沢山付けられててさ。防犯目的とはいえびっくりしたよね」
「よく見ているのですね。中々鋭い勘をお持ちのようです」
普通の子相手だったら、監視カメラの位置を確認しているなんて絶対に言わない。だがどうにも有栖ちゃんがその先の発言を望んでいるように感じてならなかった。
すると、有栖ちゃんが目の前の教室に向かって歩き出した。彼女が開いた扉の上には、「1-A」と書かれた札が付けられている。
「付いてきてください」
……どうやら俺は自分のクラスよりも、先に別のクラスに足を踏み入れることになりそうだ。もちろん、教室の中には誰もおらず、閑散としている。大して問題にはならないだろう。
「この教室を見て、何か違和感に気づきませんか?」
堀北さんといい、この学校には人を試すことが三度の飯より好きな人種が多く在籍しているらしい。しかしこれはチャンスだ。正解の選択を引けば好感度アップ間違いない。
ということで、今俺の頭の中には3つの選択肢が存在する。この選択で、これからの彼女との関係性が大きく変化するだろう。知らんけど。
▶「……さあ、特には何もないけど……」⇐
▶「凄いね。廊下よりも厳重に監視されているみたいだ」←
▶「可愛すぎる女の子が俺の目の前に立っていること位かな?」⇐
さて、画面の前の君ならどの選択肢を選ぶ?
「凄いね。廊下よりも厳重に監視されてるみたいだ」
そんな冗談はさておき、対角に設置された2つのカメラに目を向けて答える。教室にカメラを置くこと自体珍しいのに、一切の抜けが無いような配置になっているね。
「そうですね。防犯目的なら、ここまで厳重に監視カメラを設置する必要性はありません」
「確かにね……ってか気づいてたんじゃん、カメラあること」
「すみません。そんな話をしたら、高辻君に引かれてしまうと思いまして」
ゆっくりと振り返り、上目遣いでお茶目に笑う有栖ちゃん。うん、可愛いしいい匂いするから許す。
「高辻君が良ければ、一緒に少し学校を見て回りませんか? 面白い発見ができるかもしれません」
どうやら選択肢選びには成功したらしい。有栖ちゃんの方から、そんな嬉しいお誘いが来た。
「こんな可愛い子のお誘いとあれば、断るわけにはいかないね。是非ともエスコートさせてもらおうかな」
杖を持っていない方の手に優しく触れると、有栖ちゃんは逆に俺の手のひらを持って持ち上げた。
「あらあら、お上手ですね。大した気持ちもないのに悪い人です」
「
そう言い返すと、有栖ちゃんは驚いたように小さく目を見開き、初めて感情を露わにした。
「……退屈しなさそうですね。生意気な殿方が同級生ともあれば」
好戦的にニヤリと笑い、一歩距離を詰めてこちらを見上げる有栖ちゃん。先ほどの穏やかな彼女は何処へやらといった様子だ。
「なるほど。こっちが素の君か」
「裏表のある女性はお嫌いですか?」
あと一歩踏み出せばくっついてしまいそうな立ち位置。そこで左手人差し指を俺の胸に当て、下から上につーっとなぞる有栖ちゃん。
それは到底高校生とは思えない程、蠱惑的でエロティックな仕草だった。
「女の子は多少裏がある方が魅力的だよ。ほら、行こう」
有栖ちゃんは俺が今まで出会ってきた同い年の女の子で、一番魅力的な女の子だ。
そんな子のエスコートが出来ることに喜びを感じながら、他の生徒が来るまでの十数分。俺たちは学校を歩いて回るのだった。
──高度育成高校データベース 7/1時点──
氏名:高辻清夜 たかつじ せいや
クラス:1年C組
部活動:無所属
誕生日:3月29日
身長:175㎝
体重:68㎏
【評価】
学力:A
知性:B
判断力:A
身体能力:A
協調性:B+
【面接官からのコメント】
学力、身体能力共に非常に優秀で、面接での受け答えも非の打ちどころがない。担任、同級生からの評判も概ね良好である。しかし異性絡みのトラブルを起こしたことが多々ある上、夜間外出や不純異性交遊で補導されるなど、生活にふしだらな点が多くみられたためCクラスの配属とする。別途資料の事実を含め、面接ではその人格を計り切ることが叶わなかった。よって学校生活を通して観察、指導を望む。
【担任メモ】
クラス内外問わず広い交友関係を持っています。今のところ問題行動はみられませんが、経過観察を続ける所存です。
原作との変更点
・綾小路清隆の誕生日が半年ほど早くなっている。(4月10日生まれ)
・???
主人公のタイプは顔の良い女です。顔が良ければ体形に貴賎はありません。
クラス間闘争始まったら関係性を築きにくそうな子たちに登場してもらいました。まあ坂柳からは『とある理由』から今後付きまとわれることになるのですが。
大丈夫。カスのホストは美少女を逃しませんよ。
どこを重点的に見たいですか?(ヒロインは1章ごとに1,2人増やす予定です)
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主人公とヒロインの絡み
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主人公と龍園、綾小路等との絡み
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バチバチのクラス間闘争