ようこそ現役ホストのいる教室へ 作:カスのホスト
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無人島生活も3日目の夜を迎えた。皆疲れがたまってくる頃かと思いきや、むしろBクラスの雰囲気はどんどんと良くなるばかり。
今は点呼を終えて夜ご飯の時間。Bクラスの生徒たちは、テントから離れた開けた場所で焚火をし、そこを囲う様にして地面に座り込んでいた。
「みんな今日もお疲れ様! いっぱい食べて明日に備えてね!」
隣に立つ一之瀬さんが代表して声をかけ、皆で食事の挨拶をする。そして、それぞれが自身の皿によそられた料理を食べ始めた。
仲の良い数人のグループでやんわりと固まり、皆が楽し気に談笑しながら食事を進めている。
そんな中、食事に手を付けずに集団から離れ、何やら一人で作業を行っている一之瀬さんの元へと向かう。
「何してるの?」
「あっ、高辻君。片付けの準備だよ。ちゃんとやらないとペナルティ貰っちゃうかもだからね」
アウトドアテーブルの端にガムテープでビニール袋を張り付ける一之瀬さん。皆が快適に過ごせているのも、リーダーである彼女が率先して行動しているからだろう。
「これ、一之瀬さんの分持ってきたから一緒に食べようよ」
「大丈夫だよ。私は後で食べるから」
手に持った皿と箸を渡すと、一之瀬さんは苦笑いを浮かべながら両手を左右に振った。
「早く食べないと冷めちゃうよ? 片づけは皆で一緒にやればいいって」
やんわりと断ろうとする一之瀬さんに皿をグイグイと近づけて応戦する。
「でも……」
「俺も手伝うからさ、こういうときくらいゆっくり休まないと」
自ら雑務をこなそうとする姿勢は凄く評価できるが、だからと言って団欒の時間にやるほどの作業でもないと思うんだけどね。きっと何かしら行動していないと落ち着かないのだろう。
「……そうだよね。せっかく作ってくれたんだもんね」
「よろしい」
強く押されると断れない、彼女の人の良さを利用したやり取りだった。
因みにこの手の頼まれたら断れない性格はホストからしたら格好の餌だから、自覚がある偉い子はお店には来ないようにしようね!
そんな冗談を挟みつつ、テーブルの上に置かれたビニール袋を1つ取り、地面に敷いて隣に座るように地面を叩く。
「ありがと」
ジャージが砂で汚れないように配慮してくれたと思ったのか、一之瀬さんは何の疑問も抱かずに隣に体育座りをする。
自然と肩が触れ合うかギリギリの距離になってしまった。まあデカいゴミ袋一枚の上に2人で座ったらそうなるよね。狙ってやってます。
「あっ……」
「ごめん。ちょっと近かったかも」
「ううん、大丈夫……2枚使うのももったいないし」
ここから離れたら隣が嫌だと言っているようなものだからね。優しい一之瀬さんなら多少恥ずかしくても離れないだろうという打算も込めている。
一之瀬さんは無言でチラチラと、自身の手元と俺の顔に視線を移している。こっそりやっているのだろうけどバレバレである。
どことなく気まずい雰囲気になってしまったが、冷める前に食べてしまおう。
今回はポイントで購入したご飯に、おかずとして昼間に釣ってきた魚を煮たものを添えている。
「いただきます……美味しい! こんな本格的に作れるんだね!」
「道具とか調味料が充実してたからね。食事調達班の人たちも頑張ってくれてたし助かるよ」
驚いたように舌鼓を打つ一之瀬さん。こういう反応をされると苦労して作った甲斐があるね。
個人的にはもうちょっと手の込んだものを作りたかったのだが、調味料をレンタルできただけでもありがたいと思った方がいいだろう。
「でも良かったの? こんなに色々レンタルしちゃってて。言いたくなかったら言わなくていいんだけど」
調理器具や調味料など、合計20ポイント近くをレンタルしていたことについて聞いてみる。クラスの事情のため部外者の俺に教えて貰えない可能性も考慮していたが、一之瀬さんの反応は予想と異なるものだった。
「……そっか。高辻君は知らないもんね」
「ん?」
申し訳なさそうに眉を八の字にしてこちらを見つめる一之瀬さん。
「……実は、Bクラスは龍園君と取引をしたんだ。Cクラスの物資を200ポイント分私たちが使っていい代わりに、200クラスポイント分のプライベートポイントをCクラスに渡すっていう内容の」
そこから少し迷う様に視線を逸らした後、一之瀬さんは懺悔するように打ち明けた。
「なるほどね」
一之瀬さんは一切濁すことなく契約の内容まで教えてくれた。元々の関係値からある程度信頼はされているだろうと思っていたが、ここまで無警戒だと逆に心配になる。
「ごめんね黙ってて。あんまりいい気分じゃないと思ってさ。龍園君と喧嘩しちゃったんだし」
申し訳なさそうにしているのは、きっと俺と揉めた龍園君と裏で繋がっていたからだろう。
そんな一之瀬さんに俺は頬をポリポリとかきながら苦笑いを浮かべる。
「んー……まあ大丈夫だよ。大方何かしらしているだろうとは思ってたから」
「そうなの?」
「うん。龍園君けっこう適当に見えて、しっかり考えてるタイプの人だから。やり方は正直好きじゃないけどね」
ここで『龍園君のことは嫌いだけど仕方なく実力を認めている』という雰囲気を醸し出しておく。
これにより今後誰かが龍園君の裏で暗躍していることがバレても俺までたどり着きづらくできる。無意識下で俺という選択肢を外してしまう、交友関係を利用した心理誘導だね。
「そっか……やっぱり強敵かもね」
「今だけならいいけど、こういう試験が続くならちょっと考えないといけないかもね」
更にここで龍園君は今回の試験でポイントを取る気がないことも刷り込んでおく。
Cクラスの俺をクラスに招き入れている時点で警戒などしていないようなものだろうが、今後動くにあたって警戒心は下げておいて損はない。
「Cクラスも大変そうだよね」
「まあね。悪い人たちって訳じゃないんだけど、みんな結構個人主義っていうか、あんまり全員で協力! って感じの人は少ないかな。Bクラスが羨ましいよ」
「ふふっ、みんな良い子たちばっかりだよ」
俺の言葉に嬉しそうに微笑む一之瀬さん。本当に自分のクラスのことが大好きなんだろう。
その正直な気持ちでリーダーを務めているからこそ、クラスメイトからも慕われているし学年一の団結力を持つクラスになっているのだろう。集団としては理想と言っても良い。
だからこそ、この試験でその結束に綻びを入れたかった。
「一之瀬さんが良い人だからみんなついて来てくれるんじゃない?」
正直、一之瀬さんを知る人なら皆がこう思うはずだ。彼女は言うなれば裏の面が無い桔梗ちゃんだからね。
分け隔てなく人と接することが出来る上、他人ために献身することにストレス感じず、友達や仲間の幸せを自分のことのように思える。現代社会においてはかなり珍しい部類の人と言えるだろう。
「……そうかな。私、そんなにできた人間じゃないと思うんだけどね。この前の白波さんとのときだってそうだし」
しかし、そんな彼女にも裏が無いと言えば嘘になる。
先ほどまでの和やかな雰囲気から一転、どこかその表情に影を潜ませる一之瀬さん。
「仕方ないよ。ああいうのは経験していくしかないんだからさ」
────以前、俺は一之瀬さんからとある相談を受けたことがある。
その内容は、『これからBクラスの女子生徒に告白されるのだが、どうやって断ればいいか』というもの。
正直一之瀬さんなら告白されなれているだろうから、わざわざ俺に聞く意味を見いだせなかった。しかしその話が嘘じゃないことをすぐに悟ることとなる。
信じられないことに彼女は俺と付き合っていることにして告白を断るという、考えうる中でも最悪の対処法を実行しようとしていたのだ。
正直言って悪手もいいところである。最初に聞いたときは一之瀬さんからの好意を感じ取っていなかったにも関わらず、俺と付き合うための口実を作る嘘なのではないかと疑ってしまうほどだった。
もちろん、懇切丁寧に説明して正面から断らせたが、その際に見せた一之瀬さんの反応が少し引っかかったのだ。
「凄いよ高辻君は。私が
「大げさだよ。あの件に関しては君が白波さんのことを真摯に考えたから円満に済んだんだよ? 俺はその手助けをしただけだから」
告白を断り、彼女の気持ちを嘘で誤魔化すところだったと気を落とす一之瀬さんに、俺は「間違う前に直せてよかった」と、そんな雰囲気の言葉を掛けた。
その時は何の変哲もないただの慰めのつもりで放った言葉だったのだが、俺はそこで彼女の闇に触れた。
「……でも、私一人じゃ解決できなかったと思う。きっと白波さんを傷つけることになってた」
恐らくだが、一之瀬さんは過去に起こした大きな過ちに今も囚われている。
しかし彼女の善性は恐らく演技ではなく本物。となれば悪意を持って人を傷つけたなどといったものではないだろう。
寒さに身を震わせる人類を哀れみ火を与えた結果、人々を戦争へと導いてしまったプロメテウスのように、善意から取り返しのつかないことをしてしまったのか。それが何かは分からない。
だが、一つだけ確信できることがあるのだ。
「なら、一之瀬さんを助けたのは、一之瀬さん本人の人格じゃないかな。もし一之瀬さんが酷い人間だったら、俺はきっと協力なんてしなかっただろうし」
「……そうかな」
「そうだよ。ほら、暗い話はここまでにしよう? 色々大変なのは分かるけど、君がそれだとみんなが不安になっちゃうよ?」
俯いたまま小さく呟く一之瀬さんに対し、笑いながら慰めるようにして肩を叩く。
きっと彼女のためを思うなら、このままズルズルと過去を引っ張り続ける前に、無理やりにでも話を聞いてサクッと解決しちゃうのが手っ取り早いだろう。
「……そうだよね。ごめんね楽しい時間にこんな雰囲気にしちゃって。美味しいご飯が台無しになっちゃうもんね!」
そう言っておかずを口に運んで美味しいとほっぺを落とす一之瀬さん。傍から見たら俺の言葉に元気を取り戻したと思うだろう。
だがそれは違う。
「ふふっ、そうだよ。……一之瀬さんはやっぱり笑っている姿が一番可愛いよ」
「にゃっ!? や、やめてよ~ 急にそう言うこと言うのズルいと思うんだわたしっ」
「ごめんごめん。本心だから許して?」
肩越しにビクッと一之瀬さんの体が揺れたのを感じながら、俺はいたずらっ子のような笑みを浮かべて謝る。
ずっと引っ張られ続けた糸がいつか切れてしまうように、そのやり方には必ず限界が来る。
その糸が切れた時こそが、彼女の心を掌握するチャンスとなるだろう。その時を待ってもいいし、自分から切れ込みを入れてしまうのも悪くはないだろう。
「やっぱり意地悪なところあるよね高辻君って」
「好きな人を虐めたくなっちゃうのは男の性だからしょうがないよ」
「っ……そ、そういうところだよっ!」
頬を朱に染めながら、プンプンと可愛らしく怒るその姿は、年相応の高校生といった様子で非常に分かりやすい。
「でも、私って高辻君に助けてもらってばっかりかも。この試験だってそうだし」
「じゃあさ、俺のお願い一つだけ聞いてもらってもいい?」
「……意地悪なことじゃなかったらいいよ」
疑いの目をこちらに向けて来る一之瀬さん。こういうところで警戒するならもうちょっと他にした方がいいと思うんだけど。
そんなチグハグな一之瀬さんに内心苦笑いを浮かべながら、俺は真剣な表情で彼女の目を見た。
「下の名前で呼んでいい? 俺のことも清夜って呼んでいいからさ」
「えっ……」
予想外の提案だったためか、一之瀬さんは目を丸くして思考を停止してしまった。
先ほどまでからかわれていた状況で、突然真面目に下の名前で呼び合いたいという提案をされるのだ。
「……いいよ」
自身への好意を匂わせるような俺の行動に、一之瀬さんは恥ずかしそうに視線を逸らし、小さく呟いた。
「ありがとう、帆波ちゃん」
「う、うん……清夜君」
夏の夜空の下、東京と違って辺りを照らすのは月あかりのみで星空がよく見える。
「……ちょっと恥ずかしい、かも」
「そうだね。でも嬉しいよ」
遠くからは焚き火の薪が弾ける音と、クラスメイト達の喧騒が聞こえて来る。
ーーーーそんな中肩を並べて見上げる星空は、それはそれは美しく輝いていた。
ーーーーーーーーーーーーーー
夜。楽しげな喧騒に包まれるBクラスとは対照的に、誰も足を踏み入れない森の奥深くで、小さな焚き火に薪をくべる男の姿があった。
「…今回の試験、本当に上手く行くんですかね」
火の大きさを団扇で調整しながら呟いたのは石崎。その表情には汗と共に不安が滲んでいる。
「何だ。俺の作戦に異を唱えるとは根性あるじゃねえか」
そんな石崎の対面に腰掛けるは龍園。思わず本音が出てしまったという石崎に対し、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて返す。
「そ、そういう訳じゃないっすけど。…俺はまだ高辻のことは信用できないっす。この前だって、カジノで堀北に負けて台無しになったじゃないっすか」
「ああ。あれは完全に馬鹿な高辻が招いたことだ。電子機器でやり取りをしているのを知っていて出禁にしなかったあいつのな」
利用規約に違反として書かれていながらも、自身の欲望を優先して結果不利益をもたらした高辻。
「制裁を加えるべきだったんじゃないですか? 結局金は帰ってきましたけど、あの程度の額あいつにとっては何のダメージにもなってないはずです」
高辻の収入を知っている石崎が不機嫌に呟く。自分が尊敬する龍園に対し尊大な態度で接し、尚且つミスをしても大したお咎めがない状況が気に入らないようだ。
そんな石崎に対し、龍園は対照的に機嫌よく笑った。
「お前は気が付いてねぇようだが、今回の試験、あいつはマジでやるつもりだぜ」
「そうなんですか? 俺にはいつも通りに見えましたけど」
高辻の裏の顔をある程度知っている石崎だが、それでも入学当初と変わらなく見えているようで疑問符を浮かべている。
そんな石崎に、龍園は身を前に起こして説明を始めた。
「確かにあいつのやっている事は最初から何も変わってない。Bクラスに潜入して、自身のコミュニケーション能力で信頼を勝ち取り、今後の立ち回りを容易にする。俺とは真逆の方針だな」
「ですよね。だから気に食わないんすよ。敵であるBクラスに尻尾振るなんて」
「だが、あいつは堀北に大敗を喫してから変わったことがある」
「変わったこと…ですか」
石崎は時期を指定されてもピンと来ていないようだ。
「あいつは何処か他人を見下している節があったが、それが無くなったんだよ。女に対するスタンスは相変わらずだがな」
直接的な話は何も聞いていないが、最近は高辻がよく保健室に入り浸っているという噂を聞いている龍園。
その実情をある程度予想し、呆れを交えつつも説明を続けた。
「これは先月からずっとだ。この調子で驕りなく試験に挑んでほしいと思っていたんだが、こと今回の試験については驚いたぜ。
「楽しむつもりがない…あの高辻がですか?」
その言葉に目を丸くする石崎。
クラス間闘争の事実が明かされてもなお、自身を殴らせてまで龍園との協力関係を『面白いから』という理由で構築した高辻。
そんな高辻が最も得意とするであろうこの試験で、一切楽しむ気が無いというのだから驚くのも無理はないだろう。
「別にそこまでは言ってないんだけどね」
「なっ!?」
そのとき、突然と石崎の後ろからそんな声が聞こえてきた。
体を大きく震わせて石崎が振り返る。噂をすればそこにいたのはジャージ姿の高辻だった。
「お前っ、いつの間にここまで…ってかアルベルトは何してんだよ!」
交代で見張りをしていたアルベルトに苦言を呈する石崎を無視し、高辻は龍園に1枚の紙とデジタルカメラを渡した。
「島全体のスポットをまとめた地図と
高辻が持ってきたのは、この試験の結果を大きく左右するであろう重要な情報だった。
高評価、感想頂けると作者の励みになります。モチベは投稿頻度にも露骨に作用するので、面白いと思ったらよろしくお願いします!
どこを重点的に見たいですか?(ヒロインは1章ごとに1,2人増やす予定です)
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主人公とヒロインの絡み
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主人公と龍園、綾小路等との絡み
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バチバチのクラス間闘争