ようこそ現役ホストのいる教室へ   作:カスのホスト

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第28話 船上試験

 

 

 

 学校からのメールで呼び出しを受けたオレは、2階フロアに足を踏み入れる。指定の時刻まであと5分ほどのところで、オレは目的地にたどり着いた。廊下には同様に呼び出しを受けたであろう生徒が複数人ウロウロしている。

 

「Dクラスの綾小路です」

 

 最初は入口の前で待っていようかとも考えたが、既に中では何かしら始まっている可能性もある。何より別の生徒に姿を見られるのも嫌だと思い、行動を開始することにした。ノックするとすぐに返事があった。

 

「入りなさい」

 

 許可を受け一室に足を踏み入れる。するとそこには、Aクラスの担任真嶋先生が椅子に腰掛けていた。

 そして、真嶋先生の前には1人の男子生徒と、2人の女子生徒が座っていた。

 

「残りの1人は綾小路くん? これどういう組み合わせなわけ?」

 

 椅子にもたれかかって足を伸ばし、こちらを見るなりため息を吐いたのは軽井沢。試験中にもかかわらず、緊張感などは一切ないようだ。

 

「妙なことになっているな。綾小路」

 

 椅子を1つ開けて左側に座っていたのは、船でのルームメイトでもある幸村だった。

 交友関係の少ないオレにしては珍しく、ある程度会話が可能な生徒の一人だ。この場にいる生徒の関係性に関してはさっぱりだが、女子3人のグループとかに放り込まれるよりかは遥かにマシだろう。

 

「何をしている。早く座りなさい」

 

「すみません」

 

 顔を上げることもなく真嶋先生に座るよう指示される。一言謝罪をし、軽井沢と幸村の間に座った。

 軽井沢はこちらを一瞬ちらりと見ると、少しだけ椅子を持ち上げてオレから距離を取った。僅か数センチの開きだが、1ミリでも距離を広げられると結構クるものがあるな……。

 

「平田君が良かったー。そう思わない? 松下さん」

 

 軽井沢から親し気な様子で名前を呼ばれたのは、同じくDクラスの松下という女子生徒。

 目立つ性格をしているわけでは無いが、篠原や軽井沢たちと親し気にしているところを何度か見たことがある。

 容姿も堀北とはまた違ったタイプの落ち着いた美人で、男子の中でもその評価は上々だった気がする。……5月に入ってからはそういう話をするクラスメイトも居なくなったけどな。

 

「あはは……どういう組み合わせなんだろうね」

 

 しかし、先ほどからオレが気になったのは軽井沢の態度ではなく、その更に右隣に座る松下だった。

 もちろん、一目惚れしたとかそういう類の話ではない。

 

「……私も2人とは話したことないし」

 

 こちらをチラチラと見ながら、小さく呟いた松下。軽井沢は特に違和感を覚えなかったのか、そのまま端末を見て時間を潰している。

 そう。入室した段階から、やけに松下がこちらを見てくるのだ。

 

 これが一度や二度なら、一緒のグループになった人物の顔を見たいのかと納得がいくのだが、入ってからずっと視線を向けられると流石に気になってくる。同じく話したことがないらしい幸村の方は見ていないし。

 

 今までのオレならモテ期が来ただの何だの妄想して盛り上がっていたのだろうが、生憎とそんなに人生甘くないことは既に学習している。

 ここで問いただして間違いだったら目も当てられないため、気が付いていないふりをしておこう。

 

「Dクラスの幸村、綾小路、軽井沢、松下で間違いはないな? ではこれより特別試験の説明を行う」

 

 メールが来た時点で推測できていたことだが……やはり試験の説明だったか。 

 しかしこの4対1という謎のメンバー。個室の状況。面倒な予感しかしない。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。意味わかんないんですけど、試験の説明ってなに? だってもう試験は終わったじゃん。それに他の人たちは? おかしいんですけど」

 

 黙って人の話を聞けないのか、即疑問を口にする軽井沢。

 こいつはちゃんとメール文を読んだのだろうか。

 

「今の段階では質問は一切受け付けない。黙って聞くように」

 

 案の定真嶋先生は呆れたような冷ややかな視線を軽井沢に送った。 

 学校側がそんな疑問に易々と答えてくれるわけがないな。

 

「うわ出た。すぐそれなんだから」

 

 仲の良い松下が一緒にいることもあってか、軽井沢の尊大な態度は先生を前にしても収まることを知らない。

 

「今回の特別試験では、1年全員を干支になぞらえた12のグループに分け、そのグループ内での試験を行う。試験の目的はシンキング能力を問うものとなっている」

 

 そんな軽井沢の態度にも言及することなく、真嶋先生は説明を始めた。

 意味深な発言を皮切りに説明された内容は以下の通りだ。

 

 ・この部屋に集められたオレたち4人は同じグループとして試験を進める

 ・同時に別の部屋に集められた()()()()()生徒3~4人とグループを組む

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。なにそれ、ますます意味わかんないんですけど。他のクラスとグループ組むって、めちゃくちゃじゃない。敵同士じゃないわけ?」

 

「そうです先生。俺たちは今までそうやって他クラスと競ってきたんです。ここに来ていきなり他クラスとグループを組むなんて理解に苦しみます」

 

 軽井沢たちの言いたい事もわからなくはないが、ルールは学校側が決めるもの。

 

「今まで競ってきた? おまえたちの学校生活は始まったばかりだ。この段階で右往左往しているようでは先が思いやられるぞ幸村」

 

「う……失礼しました」

 

「今考えるべきは理解することではなく考えることだ。君たちの配属されるグループは『卯』。ここにそのメンバーのリストがある。これは退室時に返却させるので必要性を感じるのであればこの場で覚えておくように」

 

 渡されたハガキサイズの紙。そこにはグループ名と合計14名の名前が記載されていて、真嶋先生の言葉通りオレたち4人を除いた生徒はすべてA~Cクラスで構成されていた。

 卯とは聞かされたものの、グループ名には括弧で同じ意味合いを持つ『兎』とも書かれてある。ここは読みやすい方で使い分けた方が良いだろう。

 

 Aクラス・石田優介 町田浩二 森重卓郎 

 Bクラス・一之瀬帆波 浜口哲也 別府良太 

 Cクラス・真鍋志保 藪菜々美 山下沙希 龍園翔

 Dクラス・綾小路清隆 軽井沢恵 松下千秋 幸村輝彦

 

 中々面倒な組み合わせ。メンバーを確認して最初に思ったことはこれだった。

 BクラスとCクラスからはそれぞれリーダー級の生徒が配属されている。学校側が意図的に行っているとしか思えない選出だ。

 

 今の段階ではどんな試験になるのかの想像はつかない。

 軽井沢や幸村が懸念するように、他クラスと組まされる状況で競い合うことなど出来るのだろうか。

 

「安心しろ。疑問に思っていることは今から説明する。恐らくそれで理解できるだろう」

 

 恐らく、と付け加えたのは、これまでの軽井沢の発言を聞いていれば仕方のないことだ。真嶋先生はこの不可解な組み合わせをした理由を説明した。

 

「今回の試験では、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性を一度無視しろ。そうすることが試験をクリアするための近道であると言っておく」

 

「関係性を無視する……ってなに?」 

 

「まあまあ、一旦話を聞こうよ軽井沢さん」

 

 都度都度口を放む軽井沢に、苦笑いを浮かべながら優しく咎めたのは松下。松下が居なかったら幸村と軽井沢の喧嘩で説明が終わりそうだったから助かった。

 そして、真嶋先生が語った内容は以下の通り。

 

 ・オレたちはこの試験ではDクラスとしてではなく、兎グループとして行動を行う

 ・試験の結果はグループごとに定められており、その種類は()()定められている

 ・試験の内容はグループ内で1人選出された『優待者』にまつわるものである

 

「分かりやすく理解してもらうために結果を記したプリントも用意してある。ただし、このプリントに関しても、持ち出しや撮影などは禁止されている。この場でしっかりと確認しておくように」

 

 真嶋先生から渡された紙には以下の様に記されていた。

 

『────夏季グループ別特別試験説明』

 本試験では各グループに割り当てられた『優待者』を基点とした課題となる。定められた方法で学校に解答することで、5つの結果のうち1つを必ず得ることになる。 

 

 ・試験開始当日午前8時に一斉メールを送る。『優待者』に選ばれた者には同時にその事実を伝える

 ・試験の日程は1日の完全自由日を挟む、明日から4日後の午後9時まで行う

 ・1日にに2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと

 ・試験の解答は試験終了後、午後9時30分~午後10時までの間のみ優待者が誰であったかの答えを受け付ける。なお、解答は1人1回までとする

 ・解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける

 ・『優待者』にはメールにて答えを送る権利が無い

 ・自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする

 ・試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝える

 

 これが基本的なルールとして目立つように書かれてあった。更に細かく、ルールの説明や禁止事項などについても記載されている。無人島の試験よりも定められている項目や細かな注意書きが多い。

 

「うわ……頭痛くなってきた」

 

 確かに今までの試験に比べればかなり複雑なものとなっている。

 無人島試験では団結力が試されたが、こちらの試験はどちらかというと個人の考える力が求められるだろう。

 

 そして、ここからがその4つの定められた『結果』というやつだ。

 

 ・結果1

 グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員に50万プライベートポイント、優待者には100万プライベートポイントを支給する

 

 ・結果2

 優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解があった場合、優待者に50万プライベートポイントを支給する。

 

「ひゃ、ひゃくまん!? やばっ……」

 

 これはどのクラスの誰であっても欲しいと思える凶悪な額の報酬だ。優待者はその倍の報酬を受け取るため、学年でも資産家として、一気にトップに躍り出るだろう。高辻あたりが飛びつきそうな試験だ。

 

「そして結果2だが……これは優待者だと学校から知らされた者が、そのことを誰にも教えない、あるいは嘘の優待者へと誘導するなどして、試験終了時まで正体を悟られなかった場合だ」

 

「この優待者の役目って羨ましいっていうかずるいんだけど! こんなの選ばれなかったら損じゃん! どっちにしたってポイントが貰えるし! しかも一つは100万も!」

 

 優待者というだけあって最初の時点で扱いが特別だ。

 いや、あまりに優待者が得すぎる。有利だからこその『優待者』か? しかし結果は2ではなく5つ。明かされていない残り3つにこそカラクリがあるはずだ。

 

「先生残りの結果は? その条件がわからないんですが」

 

「説明した2つの結果は理解したか? これが分かっていなければ次に進めないのでな」

 

「ええ、大丈夫です……教えてください」

 

 幸村の質問に一呼吸置いた真嶋先生は、プリントを裏返すように指示を出した。

 

「グループの中には1人だけ優待者が存在すると説明したが、いち早く優待者を暴き出すことで第3、第4……そして第5の結果が新たに現れる」

 

 そこに書かれていた残りの2つはこうだ。

 以下の3つの結果に関してのみ、試験中24時間いつでも解答を受け付けるものとする。

 

 ・結果3

 優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合、試験続行の旨がメールで送られ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この場合、試験結果は3-1、3-2にそれぞれ分岐する。

 

 ・結果4

 優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ不正解だった場合。答えを間違えた生徒が所属するクラスはクラスポイントを50ポイント失うペナルティを受け、優待者はプライベートポイント得ると同時に優待者の所属クラスはクラスポイントを50ポイント得る。答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる。

 

「分岐?」

 

「そうだ。仮に幸村が優待者で、結果1で試験を終わらせようと自身が優待者と開示したとする。話し合いが終わった後、グループの生徒……『裏切り者』が幸村が優待者だと回答した場合、試験は第2段階へと移行する。間違えた場合は結果4の通りとなる」

 

 全員がポイントを貰える結果1で終わらせるのが理想だと考えていた幸村だが、現実はそう優しいものではなかったようだ。

 

『夏季グループ別特別試験・第2段階』

 

 優待者が『裏切り者』によって正解を告げられた場合、各話し合いの後に一度、投票によって追放する生徒を決めることができるようになる。なお、追放された生徒は以降の話し合いに参加できなくなる。

 

 ・結果3-1

 優待者を当てた裏切り者を追放することが出来た場合、裏切り者の所属するクラスにペナルティを与え、それ以外のクラスにクラスポイントを支給する

 

 ・結果3-2

 試験終了までに裏切り者を追放することが出来なかった場合、裏切り者の所属するクラスはクラスポイントを得ると同時に、裏切り者にプライベートポイントを支給する。またそれ以外のクラスにペナルティを与える

 

「……なるほど。……しかしこれでは余りに裏切者が有利すぎる」

 

「だよね。6回目の話し合いが終わった後に学校に言っちゃえば、ノーリスクで報酬が貰えるってことだし」

 

「えっ、どういうこと松下さん。私全然分かんないんだけど」

 

 試験を理解したであろう幸村と松下がそんな疑問を露わにした。軽井沢に関しては理解が追い付いていないのか松下の袖を引っ張って助けを求めている。

 

「要は優待者を当てる話し合いから一転、裏切り者を処刑する人狼ゲームに変わるということだ。投票によって追放するという形でな」

 

「あー。そういうことね。そういうことならさっさと言ってくれればいいのに」

 

 幸村がかみ砕いて説明すると、軽井沢もようやく理解したのか手をポンと叩いた。

 

「結果に関しては2人の言う通りだ。だから移行した時点での残りの話し合いの回数によって、報酬とペナルティが変動する仕組みになっている」

 

 ・結果3-1

 裏切り者が所属するクラスに与えられるペナルティ:残り回数×30クラスポイント

 それ以外のクラスに与えられる報酬:残り回数×10クラスポイント

 

 ・結果3-2

 裏切り者に与えられる報酬:残り回数×30万プライベートポイント

 裏切り者が所属するクラスに与えられる報酬:残り回数×30クラスポイント

 それ以外のクラスに与えられるペナルティ:残り回数×10クラスポイント

 

 なるほど。話し合いの回数が計6回だと考えると、裏切るタイミングが早ければ早いほどハイリスクハイリターンになるわけだ。

 

「仮に初回の話し合いを終えてすぐに裏切り、追放されることなく逃げることが出来た場合、裏切り者と所属するクラスには150万プライベートポイントと150クラスポイント。その他のクラスには50ポイントのペナルティ……200をもの差をつけられるということだ」

 

 無人島試験といい、特別試験のスケールはここまで大きいものなのか。

 定期テストでのポイント差が10程度しかつかない中で、1グループのみの結果で200ポイントの差がつくのは大きすぎる。もちろん話し合いの回数が多ければ多いほど裏切り者の選択肢は絞られてくるだろうし、そもそも初日で優待者を当てられるとは到底思えない。

 

「150万ポイント……卒業まで使いきれるか分からない額ね」

 

 手に入ったときのことを考えて楽し気に指折り数える軽井沢。だが、かなり夢のある試験だというのは間違いないだろう。

 最後に細かな禁止事項を教わり、特別試験の説明は終わった。

 

「……ねえ、どうする? 話し合いとかしてみる? 優待者が出てからじゃないと何とも言えないけど」

 

 廊下に出た後、意外にも松下がそんな提案をして来た。

 

「えー、私はパス。────あ、もしもし平田くん? ちょっと聞いてよー」

 

 仲の良い松下の提案であるにも関わらず、気にも留めず通話を始める軽井沢。そのまま廊下を歩いて姿を消してしまった。

 

「はぁ……全く、やる気あるのかあいつは」

 

「あはは……ごめんね。無人島試験からちょっとピリピリしてるんだ。軽井沢さん」

 

 無人島試験では色々あったからな。軽井沢の下着が盗まれた件に関しては伊吹の仕業だと結論付いたが、それによって生じた男女の亀裂は未だに埋まっていない。

 これで結果を残すことが出来たならある程度は誤魔化せたのだろうが、そう易々と勝たせてもらえるような甘い相手ではないようだ。

 特別試験において、個人で出来ることはかなり限られてくる。その点において、個人技の龍園と交友関係の高辻のコンビにやられたのは必然ともいえる。

 

「あんなことがあったんだから仕方ないだろうな。役に立つかは分からないが、オレも協力する」

 

 だから、オレも目立たないで結果を残すのは不可能ということだろう。平穏な学生生活を続けるには、ある程度の犠牲を払う必要がある。

 

「綾小路君って、意外と女の子に理解あるタイプだったりする? ほら。堀北さんとずっと一緒に居るしさ」

 

「そんなことは無いと思うぞ。別に堀北ともプライベートで遊ぶような仲じゃないからな」

 

「そうなんだ」

 

 思ったよりも会話がスムーズに進む。軽井沢とその友達というキラキラ女子とチームを組まされた時には少し心配だったが、松下とのコミュニケーションに関しては問題はなさそうだ。

 

「そんなことを話すために残ったわけじゃ無いだろう。まずは試験の方針を決めるべきだ」

 

 そんな舞い上がるオレの感情は、幸村に喝を入れられたことで沈められる。

 

「そうだね。……でもどうしようね。クラスポイントを獲得するためには結果3を勝ち取る必要があるし」

 

「基本的にはどのクラスも結果2、あるいは1を目指そうとするだろうな。第2段階で追放されるプレッシャーに耐えられる生徒はそう多くないと思うぞ。少なくともオレは嫌だな」

 

「ああ……旨味は少ないが、リスクが最も少ない5回目の話し合いが終えた段階で当てるべきか?」

 

 上から松下、オレ、幸村と話し合いが進んでいく。

 2人ともクラスポイントを狙いに行くという方針は同じようだ。

 

「こちらに優待者が居たなら結果4を狙いに行くというのもあるな。3つのグループで結果4を出せた場合、それだけで150クラスポイントだ」

 

「3つ? 優待者がどのクラスに何人いるかって言われてたっけ」

 

 3という数字を指定したオレに対し、松下は何故その数字にしたのかと疑問符を浮かべている。

 

「この試験は優待者がグループに居るクラスが圧倒的に有利だ。そんな優待者を1つのクラスに偏らせるとは思えなくてな。丁度12グループあるようだし、1クラス3人優待者が居ると考えると自然じゃないか?」

 

「確かにそうだな……気が付かなかった」

 

 感心したように呟くのは幸村。顎に手を当てて何やらブツブツと呟いている。

 

「実際にメールが届かない内は何とも言えないけどな。ポイントが少ないDクラスを優遇してくれる可能性も万に一つはあり得るかもしれない」

 

「それだと良いんだけどね……」

 

 こう言ってはみたものの、恐らく各クラスに平等になるように優待者が決められるので間違いないだろう。

 

「まずはクラスのグループチャットか何かで情報を共有するところから始めたほうがいいな。自分が優待者だったら名乗り出てもらうようにしよう」

 

 そう語る幸村だが、オレはその作戦が上手く行くとは思えなかった。

 

「……でも、優待者が名乗り出ない可能性もあるよね」

 

「どういうことだ?」

 

 松下も同じことを思ったのか、1つの可能性を幸村に説明する。

 

「自分が優待者だと当てられない限り、大量のポイントが貰えるんでしょ? もしそれを打ち明けちゃったら、自分だけポイントを貰うのはズルいとか言われちゃいそうじゃない?」

 

「ズルいも何も、後で獲得したポイントを皆で分ければいい話だ」

 

「それは幸村君がクラスの勝利を目的にしているからでしょ? Dクラスの中には、Aクラスに上がることを諦めている人も結構いるんだよ」

 

 だから、クラスメイトにポイントを獲得したことを隠して、手に入った大量のポイントで学生生活を謳歌したいと考える生徒も少なくない。

 

「信じられないな……Aクラスの特権を放棄するというのか」

 

「そもそもAクラス以外とも凄い差がついちゃってるしね。私も諦めるのは早いと思うけど、そういう人の気持ちも分からなくはないかも」

 

 松下の言葉に頭を抱える幸村。

 

「平田や櫛田に呼びかけてもらうのはどうだ? あの二人なら、ある程度協力してくれる人もいるだろう。いざとなれば全員に教えるんじゃなくて、平田にだけ教えるようにすればいいしな」

 

「それだったら隠したがる人も減るかもね。私の方から提案してみるよ」

 

「助かる」

 

 オレから提案しても良かったが、まずは堀北を通して話を進めないといけないからな。

 

「とりあえず今日話せることはこのくらいか。……意外とまともな話し合いができたかもな」

 

「意外って一言余計なんですけど」

 

「そういう意味で言ったんじゃない。……いや、確かに少しは含まれてたかもしれないが、何とかなる気がして来たぞ」

 

 松下と幸村も話し合いの結果に満足が行ったようで、先ほどまでのピリピリとした雰囲気も鳴りを潜めている。

 

「でも、綾小路君がここまで喋れるの意外だったかも」

 

 そして、何故か話の矛先はオレへと向かってきた。

 

「そうだな。堀北の付き人をしているだけはあるのかもしれん」

 

「言い方悪いな……」

 

 幸村の辛口評価にツッコミを入れてつつ、あたまをポリポリとかく。

 ともかく、この2人にある程度認めて貰うという当初の目的は完了した。話し合いが大事になってくるこの試験で、発言権が無いのは致命的だからな。

 

「じゃあ、俺は先に部屋に戻ってるぞ。明日に備えて早く寝ないといけないからな」

 

「そうだね。おやすみ幸村君」

 

 松下の言葉に軽く手を上げて返し、幸村は廊下の向こうへと歩いて行った。オレと同部屋のはずだが、2人で帰るのは気まずいのだろう。

 

「……じゃあ、オレも帰るぞ」

 

 だが、それ以上にほとんど話したことの無い女子と2人でいるというのも気まずくてしょうがない。さっさと退散するとしよう。

 しかし、そんなオレの試みは袖を引っ張られたことによって阻害されてしまった。

 

「ねえ、もうちょっとだけ話していかない? まだ色々話し合いたいこと、実はあったんだよね」

 

「幸村が帰る前に言えばよかったんじゃないか?」

 

 袖を軽くつまみながら、遠慮がちに笑いながらこちらを見上げる松下。

 予想外の展開だ。こうして興味を持たれることは悪い気分ではないが、そのきっかけがつかめないと尻込みしてしまう。

 

「……軽井沢さんのことなんだよね。幸村君はほら、ちょっとね……?」

 

 なるほど。そういうことならオレにだけ話しておきたいというのも理解できる。幸村はあからさまに軽井沢のことを嫌っているからな。

 ……モテ期が来たと勘違いするところだった。危ない危ない。

 

「いいぞ。屋上のラウンジデッキなら誰も居ないだろうしそこで話そう。人の目は無い方が都合が良いだろうからな」

 

「あー、確かに行ったことなかったかも。いい場所知ってるね綾小路君」

 

 やるじゃんと肘でこちらの腕を小突いて来る松下。オレのような健全な男子高校生には刺激が強いからやめて欲しい。

 

「友達に教えて貰ったんだ。オレもまだ行ったことはなかったからな」

 

 友だちと言うのはもちろん高辻である。

 

『日中は暑いし、日が差して肌焼けるからほとんど誰も来てないよ。女と密会するにはちょうどいいかもね』

 

 なんて言われたときにはそういう予定が無い俺を煽っているのかとも思ったが、これを見越しての発言だとはな。流石はオレの親友だ。

 

「あ、そうだ」

 

 思い出したかのように声を上げ、松下はポケットから端末を取り出した。

 

「チャットの友だち登録してなかったよね。これ私のQRね」

 

「……おう」

 

 驚いている暇もなく、オレの少ない連絡先に女子の名前が追加される。思考停止せずにアプリを起動できた自分を褒めたいくらいだった。

 

「うん。じゃ、行こっか」

 

 そうして上機嫌に歩き出す松下。今時の女子は皆こういう感じで押しが強いのか? 櫛田で耐性を突けてなかったらコロッと惚れてもおかしくはなかった。

 

「ああ」

 

 だが、高鳴る心とは裏腹に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 





 影響力を強めるために実力を徐々に開示していく綾小路と、高辻から話を聞いて見定めをしている松下が上手く嚙み合っていますね。

 試験のルールが変わった理由については後程説明します。

 高評価、感想頂けると作者の励みになります。モチベは投稿頻度にも露骨に作用するので、面白いと思ったらよろしくお願いします!

どこを重点的に見たいですか?(ヒロインは1章ごとに1,2人増やす予定です)

  • 主人公とヒロインの絡み
  • 主人公と龍園、綾小路等との絡み
  • バチバチのクラス間闘争
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