ようこそ現役ホストのいる教室へ 作:カスのホスト
主人公は自分の実力に絶対の自信を持っていますが、それと同時に半分は運によるものだとも自覚しています。もちろん努力もしていますが。
投稿時間は基本0時か6時です。間に合わなかったら6時の投稿になります。
誘いを受けるまでひと悶着あったが、俺と有栖ちゃんは2人で校舎内の様々な場所を見て回った。
一見すると何の変哲もない、金のかかった小綺麗な校舎といった様子だ。教室に置かれた2つの監視カメラの他に違和感はない。
「坂柳って聞いてもしやって思ったけど、やっぱり理事長の娘さんだったんだね」
2階から1階に降りる階段を有栖ちゃんの手を取りながら降りていく。関係者とは言っていたが、まさかこの学校で一番偉い人とは思わないだろう。
生徒会の先輩、理事長の娘と、魅力的な肩書を持つ美少女と出会っていくのはギャルゲーのようだ。
「ええ。ですが他の方と比べて情報を持っているとか、そういうことはありません。父は優しい方ですが、世間に公表されている以上のことを語ることは一度もありませんでしたから」
「理事長の娘だからって、あらぬ疑いをかける人もいそうだからね。採用方法が不明瞭な以上、そうなっても仕方のない部分はあるけど」
「やはり気が付いていましたか。私もその疑いを持っていたので嬉しいです」
お互いに面接という言葉を出しはしないものの、共通の話題について話しているのは空気感で感じ取れる。テンポよく会話が進むため、彼女との会話は退屈しないね。
「監視カメラの件もそうだけど、物事の考え方とかが似ているのかもね、俺たち」
そして、相手との共通点を認識させることで好感度アップを促すことも忘れない。
この会話を楽しく感じてくれているなら、彼女も笑って受け入れてくれるはずだ。
「ふふっ、そうですね。私もそう思います」
このわざとらしいかどうかギリギリの仕草、女性耐性の無い生徒だったら既に落とされていても何ら不思議じゃない。これを、何の気持ちもない相手に行うのだから怖い子だ。
「さて。他の生徒がくる頃合いですし、そろそろ教室に戻りましょうか。高辻君のような格好いい方と一緒に居るところを見られたら、あらぬ噂を広められてしまいますからね」
「有栖ちゃんは俺じゃ不満かな?」
「魅力的な方だとは思いますが、生憎と私には待たないといけない方が居るので。それに、まだお互いのことを全然知りませんし」
だろうな。そんなとこだろうとは思ったわ。
言い方に若干の違和感はあれど、彼女が別の人を好いている……いや、微妙だな。
「残念。振られちゃった」
ともかく、彼女には好意に近い感情を抱いている相手が居るのだろう。ならば、ここで無理に押すのは悪手だ。
「まあ、これから3年苦楽を共にする同級生ですから。そこまで焦る必要は無いでしょう?」
「そうかもね。じゃ、最後に3年生の教室だけ見てさっさと帰ろうか」
有栖ちゃんのフォローを
────これ以上踏み込めないと悟った瞬間、少し距離を取って冷たくする。
普通なら「好意を断った途端に冷たく接してきた」と不満を持つだろうが、残念ながら『一緒にいるところを他の生徒に見られないようにするため』という大義名分……言い訳を有栖ちゃんが作ってくれたので問題はない。
今までは気を使ってすぐ隣を歩いてくれたのに、唐突に距離を取られたら文句の一つも言いたくなるだろう。しかし、早く帰りたいといったのは自分という手前、それを口に出すのは憚られる。
「……」
後ろを見ると、そこには整った顔を小さく歪めながら、それでも理不尽な不満を口にしないよう口を結ぶ、それはそれは可愛い有栖ちゃんの姿があった。
「ごめん。ちょっと急ぎすぎたね。一緒に行こうか」
「……いえ。お構いなく」
極力取り繕ってはいるのだろうが、拗ねていることなんてバレバレだ。
大方、俺に対して優位に立っているという認識があったのだろう。だから、急に冷たくされて気が動転した事実に対して苛立ちを覚えた。そんなところだろう。
当てつけのようにすたすたと俺を置いて前へ進む有栖ちゃん。その背中からはまるで「急いでいるのでしょう?」という声が聞こえてくるようだ。
「ごめんね。最後まで付き合わせちゃって」
「……私が言い出したことですし。問題ありません」
こちらを振り返ることなく冷たく言い放つ有栖ちゃん。ふんっという擬音が今にでも聞こえてきそうだ。
そんな有栖ちゃんに対して、俺はあくまで紳士的な態度を崩さない。……ククク、さぞ悔しいだろうね。自分がワガママな子供の様な態度を取ってしまっている事実が。
客観的に自分を見られる頭を持つ有栖ちゃんだからこそ、この作戦は大いに刺さる。
「そっか。ありがと」
恋愛の駆け引きにおいて大切なのは、自身が相手より優位な、振り回せる立場に立つことだ。
有栖ちゃんはプライドが高く、頭も良いからそれをするのは非常に難しい。だが彼女も1人の人間。好意を持っている相手との会話にはドーパミンが出るし、否定されたら悲しくもなるだろう。
「……ほら、着きましたよ。目当てのものは見つかりましたか?」
少し意地悪し過ぎただろうか。有栖ちゃんはすっかり投げやりモードに入ってしまった。
……まあ、いくら大人ぶってても所詮高校1年生。夜職の女性にも効果的な立ち回りに耐えられるはずもない。
「そうだね。これはかなり大きな情報を得られたかもしれない」
────もっとも、それに耐えるのは生まれてからたった一度も愛情を受けずに育った人間でもない限り不可能だろう。そんな人間が仮に存在したとして、羨ましくもなんともない。
「大きな情報……ですか?」
苛立ちよりもそちらが気になったのか、有栖ちゃんは首を傾げながらこちらを見つめてきた。
「そうさ。良かったね有栖ちゃん。君はこの学校で最も優秀な生徒の1人だと、認められたかもしれないよ」
AクラスからDクラスまで、
「それじゃあ、もし何かわかったら連絡するね」
「はい。よろしくお願いします」
3年生のフロアに戻ってきた俺は、有栖ちゃんと別れてCクラスの教室へと向かっていた。
ご機嫌斜めだった有栖ちゃんも先ほど言った仮説がよほど意外だったようで、好感度が上昇する音と共に上機嫌に去って行った。本人はその情報にたどり着かなかったことを悔しそうにしていたが、あれは堀北さんたちのリアクションからクラス分けに何かしらの意味を推察できた故の結論だから仕方がない。そもそも当たってるか分からないし。
そんな話はさておいて、俺はCクラスの教室に足を踏み入れる。既に教室には半分ほどの生徒がいるようで、それぞれざっくりとグループを作って会話を進めていた。
「……分かってはいたけど」
……めっちゃ人来てるじゃん。本来はもっと早く解散する予定だったが、有栖ちゃんがもっと話を聞きたいと言ったから長引いてしまったのだ。まあ俺としてはなんのデメリットも無いから良いけどさ。
といっても、入学初日の生徒はこれから過ごすクラスメイトがどんな人間か気になるものだ。扉を開けた瞬間、俺はほぼ全員の視線を集めることとなった。
「えっ……」
奥の方で談話していた女子数人のグループの会話が一気に止まり、どこからか息を吞んだような声が聞こえて来る。
目が合った生徒に微笑みながら会釈をすると、止まっていた時が動き出したかのように女子達は顔を合わせて話しだした。
「やっっば! ……超カッコいいんだけど!」
「それな! え、話しかけに行ってよ!」
「無理無理無理! 絶対無理っ!」
興奮するのはいいが、少しボリュームを抑えて欲しいものだ。反対側を歩く俺の方まで聞こえてくるぞ。ちなみに俺の席は窓際近くの一番後ろ。もし教室の座席に上座下座があるとしたら、俺は社長か一国一城の主となっているだろう。
注目を集めていることを自覚しながら、さっと席について鞄から一冊の本を取り出す。
話しかけに行かないのかって? ……ふっ、まだまだ甘いね君たちは。
「チッ、何だよアイツ」
別の方では、俺の顔を一瞥して舌打ちをする素行の悪い生徒もいた。まあ、この反応も想定通り。顔が良い人間というのは、それだけでも注目を集めるもの。異性からは好意的な目を、そして同性からは嫉妬の眼差しを一身に受けることになる。
では仮に、ここで俺が彼女たちに話しかけに行ったらどうなると思う?
彼女たちは自分達こそが俺と仲が良いと周囲に吹聴し始め、男子からはいけ好かない奴だと思われる。……自意識過剰だって? クラスのカースト上位の女子に縛り付けられているイケメン君なんて百万人いるだろう? 何なら、イケメンの彼女ってだけで下剋上を果たせるほど、クラスカーストというのは脆い制度なんだ。
ちなみに、騒いでいる子たちがそこまでタイプじゃないっていう理由も大いにある。有栖ちゃんといちゃいちゃしたのは失敗だったかもしれない。どうやらあのド級の美少女と話していたせいで、目が麻痺してしまったようだ。
ということで、俺は大人しく読書にふける。入学式の後は自由だろうし、そこで打ち解ければ何も問題ない。
ククク……女の子たちは後ろの席のイケメンが気になって仕方ないだろう。活字に集中しながらも、突き刺すような視線を肌で感じられる。……さあ、その欲求を貯め続けるんだ────
「────オリエント急行の殺人ですか。その本、面白いですよね」
「ん?」
あれ、滅茶苦茶サラッと話しかけられた。しかも声的に女の子じゃないか。
「あっ、すみません……好きな本を読んでいる方がいたので、つい話しかけちゃいました」
話しかけてきたのはふんわりとした雰囲気を持った、青い髪をセミロングにした女の子だった。彼女もまた、有栖ちゃんや橘さんとは違ったタイプのド級の美少女。
……もしかしたら俺は明日死ぬのかもしれないね。こんなにも可愛い子と立て続けに出会えるなんて。
「大丈夫だよ。これを読むのは2回目なんだけど、最初に読むのとはまた別の楽しさがあるね」
奇抜な結末だと評されがちだが、こうして読んでみると各話に伏線が張ってあって面白い。ミステリーの面白さをふんだんに詰め込んだ名著といっていいだろう。
「挨拶が遅れましたね。椎名ひよりと申します。趣味が合う方が隣の席だなんて、私凄い嬉しいです」
隣の机に置かれたネームプレートと同じ名前を名乗ったひよりちゃんは。こちらに対する好意を隠そうともしない。
まあ、今時読書好きな人間なんてかなり珍しいだろうからね。俺も母さんに教養は大事だと無理やり読まされてからハマった口だ。「いつか文学少女と仲良くなるかもしれないでしょう?」だなんて言われた時は呆れたが、まさか本当にそんな展開になるとは。
「高辻清夜です。好きな作家さんは米澤穂信。よろしくねひよりちゃん」
登場人物の背景や人物像が緻密に練られていて、尚且つあのほろ苦い雰囲気は読んでいて実に心を動かされる。『儚い羊たちの祝宴』や『ボトルネック』は本当に面白いから読んで欲しい。
「やはりミステリーがお好きなのですか?」
「そうだね。ページをめくりながら結末を想像するのが楽しくて。特に登場人物の心理描写や背後設定に力を入れている作品が好みかな」
その人物を生み出した作者の背景を考えながら読むと、意外と新たな発見があって面白いのだ。予想してなかった結末が来るとなお良い。
「日本作家が好きなのであれば、湊かなえの『告白』は読みましたか? ミステリーの中でも心理描写に特に力を入れていて、登場人物一人一人の背景が想像できて面白いですよ」
「確か少し前に映画化されてた本だよね。気にはなっていたけど読んでないかな」
好みを聞いて一瞬でオススメ出来る辺り、本当に読書が好きなのだろう。少し天然な所もありそうだが、話していて退屈しないし良い子だ。
「では、放課後一緒に図書館に行きましょう。この学校の図書館は、全国の高校でも有数の蔵書量を誇るそうなので。おすすめしたい本も他に沢山ありますし」
初日からいきなり図書館へのお誘いか。女の子なら化粧品とかそういうのを買いに行きたがるだろうに、中々大胆な子だ。といっても、この子は仮に俺の顔が良くなくても同じように誘っただろうな。さっきから目を合わせたり少し距離を詰めたりしたけど、一切反応を見せないし。
他の女子生徒からの注目も気にしていない様子だし、そもそも色恋沙汰に疎い性格なのだろう。
「最初は身の回りのものを揃えないとじゃないかな。家具とかはあるって聞いてるけど、シャンプーとか洗剤とかは自分で買わないとでしょ?」
新生活に向けての準備は必須になるし、流石にそちらを優先した方がよさそうだ。
「そう……ですよね。すみません、勝手に話を進めてしまって」
お誘いを断られ露骨に落ち込んでしまったひよりちゃん。
んー……何だろう。有栖ちゃんに意地悪するのとは違って、こっちは少し心が痛むな。純真無垢な気持ちで接してくれたかどうかの違いだろうか。ホストとしての化けの皮が剥がされている感覚がする。
「日程だと昼前までには終わるし、もしかしたら色々揃えてからでも間に合うかもね。もし時間ありそうなら連絡するよ」
「……! はい! よろしくお願いします!」
サラッと連絡先の交換を取り付け、俺とひよりちゃんはお互いの好きな本についての会話に、しばらく花を咲かせるのであった。
原作との変更点
・綾小路清隆の誕生日が半年ほど早くなっている。(4月10日生まれ)
・???
カスホストの弱点:天然な女の子←new!
ということで、これからは6000文字前後を目標に投稿したいと思います。
ちなみに米澤穂信は僕の趣味です。氷菓を見てから原作を読み、そこから小説、ラノベにハマりました。作者は現在大学生ですが、バイト先でも学校でも本好きの人ってマジで居ないですよね。よう実も原作を見ようぜ…マジで面白いから!
高評価、感想頂けると作者の励みになります。モチベは投稿頻度にも露骨に作用するので、面白いと思ったらよろしくお願いします!
どこを重点的に見たいですか?(ヒロインは1章ごとに1,2人増やす予定です)
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