ようこそ現役ホストのいる教室へ 作:カスのホスト
2度目の話し合いを終えた俺たち竜グループは、追放後試験が終了しないことを確認して解散となった。
人数調整のための追放だったから仕方ないけど、心のどこかで裏切り者であってほしかったというのはあったのだろう。もう帰っても問題ないのだが、皆黙り込んでしまっている。空気が重いったらありゃしないね。
「行こひよりちゃん」
「はい」
そんな中でも何食わぬ顔でちょこんと座っている、我らが天然美少女ひよりちゃんに声をかけて一緒に席を立つ。
「どっか夜ご飯食べてから帰ろー。最近全然食べれてなかったし」
「良いですねっ。どこにしましょうか」
ぱっと表情を明るくし、両手を合わせてにっこりと笑うひよりちゃん。かわいい。
皆ピリピリしている竜グループの中で唯一と言っていい癒しだ。
「いつも食べない系統のにしようよ。カタログあるからリンク送っとくね」
ご飯食べるって言っても、大体2人で飯作ってひよりちゃんの部屋で食べるだけだからね。一緒に料理するの楽しいし、金がかかるから外食は控えめだ。ひよりちゃんが家庭的な料理、俺がイタリアンとかフレンチとかの洒落た料理が得意だから飽きがこないのも続いてる理由だろう。
うーん、個人的には高級な料理とか言うよりはジャンキーなものが食べたい気分だ。ハンバーガーとかその辺。
そんなことを考えながら扉を開くと、そこには複数人見覚えのある生徒の姿があった。
「よう。裏切者は追放できたのか」
ひよりちゃんと出てきた俺にニヤニヤ笑いながら話しかけてきたのは龍園君。その後ろには帆波ちゃんや清隆君の姿も見える。
「うわっ、何しに来たんだよ」
「あはは……ごめんね大変なときに。やっぱり色々と気になっちゃってさ」
周りの目があるため険悪モードで接する。
眉をひそめ、露骨に嫌な顔をした俺に帆波ちゃんが苦笑いを浮かべながら謝罪してきた。
「帆波ちゃんは全然いいんだけどね。……やっほー清隆君。お前も野次馬?」
「ああ。どうせ話し合いが終わったら堀北に呼び出されるからな。ついでにって感じだ」
表情こそ全く動いていないが、声色から自分に触れてくれた喜びが少し漏れている。段々とコミュ力をつけてモテ始めていると思ってたけど、根っこにある陰キャ精神は変わっていないみたいだね。
なるべくならそのままで居て欲しいかな。「君可愛いね? てかラインやってる?」みたいなことを言う清隆君は見たくない。
「一之瀬に鈴音。こいつはお前と同じで女のケツを追いかけ回すのが好きらしい」
「清隆君むっつりだからしょうがないよ」
「えっ」
あっ、つい弄りたくなって龍園君の軽口に乗ってしまった。仲悪いキャラで通してるのにミスったなこれ。
この場の最適解は何だろうな「一緒にすんじゃねえよ」……は清隆君ショック受けちゃうだろうし……むずいな。
「話し合い終わったら速攻来るのは別に良いけど、1時間話し合った後に10分の投票タイムがあるから、次からは少し待ってから来た方が良いと思うよ」
「そうなんだ。ありがとう」
デートするときはちょっと待たせるくらいがちょうどいいんだけどね。
これからデートすることに対しての期待感や、変な恰好じゃないかな、ドタキャンされないかな? などの焦燥感が、会ったときに一気に安心感へと変わるのだ。
「じゃ、俺は先行くから頑張ってね」
勿論人によるけどね。有栖ちゃんとか桔梗ちゃんみたいなプライド高い子は、その後のご機嫌取りに時間がかかるから止めた方がいい。帆波ちゃんは……1時間でも2時間でも待ってくれそうだよね。いや根拠はないんだけどさ。
「……おい、帰るならオレの名誉を回復させてからにしてくれないか」
「やだ、バイバイ清隆君」
まあ、多少モテ始めたからって調子に乗ってる清隆君にお仕置きってことで。
不満げな顔でこちらを見つめる清隆君に手を振って、俺はひよりちゃんとその場を後にする。
「良かったのですか? 重要な話をしそうでしたけど」
「いいよいいよ。もう俺はそこまでクラス間闘争には興味ないし、ひよりちゃんとご飯食べる方が楽しいからさ」
隣を歩くひよりちゃんに、俺はにっこりと笑ってそう答えた。
「そう言って頂けると嬉しいです」
とりあえず、あのメンツの前で試験に参加する気が無いことを表明しておけば、警戒も少しは薄くなるだろうし。
少し露骨だったかもしれないけど、気づいているであろう生徒は葛城君だけだしさしたる問題じゃない。
「あ、これなんてどうですか? 本格アメリカンなハンバーガーだそうです。頂いたことが無いので気になります」
「いいね。学校だと食べられないだろうし」
食事を終え、ひよりちゃんを女子のフロアまで送り届けた俺は、自室に戻ってベッドの上で寝転んでいた。
ジャンクフードと言えどやっぱり侮れないね。久しぶりに食べたハンバーガーは中々美味しかった。
「あー……マジで腹いっぱいだ」
でも3分の1だけ食べてお腹いっぱいになるのは良くないと思うんだひよりちゃん。……いや、想像の倍くらいのサイズだったから仕方ないんだけどさ。
本当に申し訳なさそうな顔で食べれますかと聞かれたため、男の意地を見せたが流石に食べ過ぎた。明日はジムでもうちょっと頑張ってカロリーを消化しないとね。
「……珍しく帰って来たと思えばそれかよ」
隣では同部屋の石崎君が呆れた様子で話しかけてきた。そんなに珍しいかな。
無人島試験が終わってから1日目と2日目は知恵先生と夜中まで密会してて、昨日は試験の説明を聞いた後に有栖ちゃんと遅くまで電話してて……うん、何も言い返せない。
「こういう時に遊ばないでいつ遊ぶって話だよね。何やっても金掛からないなんてマジで最高じゃん」
「大量にポイント貯め込んでる癖によく言うぜ」
俺と龍園君の関係を知っている石崎君には、俺がどれだけ儲けているかは筒抜けなんだよね。
金持ち金持ち言われるのはウザいけど、他の同部屋の子たちが出払っているときにだけ、こうやって文句を言う気配り自体は割と嫌いじゃない。
「別にそんな貯め込んでないけどね」
「ケッ、だとしても来月からは全く困んねえだろうが」
これから300クラスポイント分のプライベートポイントを貰えるようになるから、その内50ポイント分……Bクラスのリーダー情報を売った分は俺が丸々もらえる約束になってるんだよね。
カジノの収入が10万くらいで、そこに20万と学校からの支給分が合わさると、大体毎月35万ポイントは入ってくる計算になるのかな?
「まあねー。文句があるなら龍園君に直接言えばいいのに」
「言えるわけねえだろ!?」
「じゃあ文句言うな。俺がクラス間闘争に協力するっていう事に対して、龍園君はそれだけ価値を感じてくれてるってことなんだからさ。ってか、お前だってカジノでバイトして金貰ってんじゃん」
「……それを言われちゃ弱ぇんだけどよ」
うちのカジノの筆頭ディーラーだもんね石崎君。腕がいいVIP担当の彼の時給は1200ポイントだ。
この辺の設定はもう龍園君に任せっきりにしてるけど、不満なく働いてくれているようで何よりだよ。
石崎君との口喧嘩に勝っても何も嬉しくない。
「……なあ、お前ってなんで龍園さんについて行ってんだ?」
仰向けで未読のチャットに返事をしていると、石崎君は妙にシリアスな雰囲気でそんなことを聞いてきた。
「どしたの急に」
「ウゼぇけど、正直お前の実力は龍園さんに並ぶもんだと思ってる。Bクラスのリーダーを暴いたときとか、Dクラスの罠見抜いた時だって、想像もつかねえようなことを考えるって驚いたぜ」
これは驚いた。石崎君はずっと俺の事嫌いだと思ってけど……いや、この雰囲気は違うか。
個人的な感情だと気に食わないんだけど、悔しいが実力自体は認めてるって感じかな?
「カジノだって0から先輩に掛け合って作っちまうしよ。自分でクラスのリーダーやってポイント稼いだ方が効率良いんじゃねえの?」
「何言ってんのよ。それをしようとしたらお前らが呼び出してリンチして来たんじゃん」
懐かしい話だね。あれからまだ4か月しか経ってないと考えると、中々濃い時間を過ごせたと言っていいのかな?
可愛い女の子とも沢山仲良くなれたし、素の自分を見てくれる友達もそこそこできた。入学前の俺に言っても信じてもらえないと思うけど、入学したことに対する後悔は一切ない。
「返り討ちにされたけどな。それも含めて、何でお前がクラスをまとめないのかが気になるんだよ」
最初は親父からの報酬目当てだったけど、途中からは割とそのことを忘れて楽しんでたのは恥ずかしい話だ。そんなんだから堀北さんに得意のポーカーで負けるんだよ。思い出したら顔が熱くなってきた。
「じゃあさ、石崎君が見据える先って何?」
「は? 何だよ急に」
漠然とした質問に石崎君は困惑している。あんまりこういう話はしないからね。だが、たまには悪くないだろう。
「いいからいいから」
「何って……将来のことなんて何もわかんねぇし、とりあえずは
「そう。
こいつ馬鹿な癖して意外と核心突いたこというから良いんだよな。
「この学校の良い所は、実力さえあれば家柄とか親の仕事とか関係なしに上に登れるところなんだよ。貧乏人だって、どんな名家に生まれたお嬢様だって、小遣いの額はクラスポイントっていう成果に応じてだし、目指す先は皆Aクラスに上がることだ」
「そりゃそうだろ。家が金持ちだからって、毎月貰えるポイントが他の奴より多かったら堪ったもんじゃねえ」
「だから家柄とか気にしたことないでしょ? 明らかに育ち良さそうな子とかは別としてさ」
「まあな」
家がどれだけ金持ちの坊ちゃんだったとしても、Dクラスに配属された瞬間昼飯が山菜定食になることは確定だからね。
……この話は誰にも言ったこと無かったか。別に隠してる訳じゃ無いからいいんだけど。
「俺、小中って私立の学校行ってたんだよね。結構倍率高い、受験勉強が必要って言われてる頭いい所……ってそんな顔しないでよ。意外とシリアスな話だからさ」
言葉にこそ出さないが『いきなり自慢話かよ』と言いたげな顔をしている石崎君。よっぽどいけ好かない奴だと思われててちょっと笑いそうになっちゃう。
「俺の両親は自分の代で店立ち上げて成功させた人でさ、いわゆる成金って呼ばれてるタイプの金持ち。そんでもって入学したのは、財閥系企業の社長とか、政治家とか、医者や弁護士とかを親に持つ、坊ちゃん嬢ちゃんばっかりがいる名門校ね」
「高円寺みたいなやつらってことか?」
「そんな感じだね。そういう学校ってね、親が偉ければ偉いほど子供が幅を利かせるんだよね。いじめっ子とかはみんなそんな感じだったかな」
「凄い世界だな……想像もつかねぇぜ」
そんな中、両親がホストクラブとキャバクラで財を成し得た人物だと知られたら、どうなるのかは想像に難くないでしょ?
「俺も目立たないようにひっそりと過ごせば良かったんだけどねー。何分昔っからお調子者なのは変わんなくてね。テストではずっと学年で1位。運動も得意だったし、その上でこんなに顔が良いんだからモテない訳ないじゃん?」
「自慢か? やっぱり自慢だよなテメェおい」
あはは。そりゃそういう反応になるよね。誰しもが皆から褒められたい、凄い人だともてはやされたいっていう願望は持ってる訳だし。桔梗ちゃんなんかはその典型例だ。
でもね石崎君。皆から注目されてチヤホヤされるっていうのも、別にそこまで良いものでもないんだよ?
「そんなある時、俺の机の中に1通の手紙が入ってたんだ。お母さんの趣味だったのかな? 丁寧に折りたたまれた手紙に、シーリングワックスでハートのスタンプが押されてて……まあラブレターだね」
「……シーリングスタンプ?」
「ほら、よく昔の手紙とかについてる赤いスタンプみたいな」
「ああ、あれか」
よく動画サイトでスタンプ押し続けるだけの動画とかあるよね。あれ見るの結構好きなんだよね。時間無限に溶けてくけど。
「話が逸れたね。体育館裏に来てくれって言われたから何も考えずに行ったら、そこに居たのは同級生の中でも1,2を争うレベルで可愛い、他クラスの女の子がいたんだよ。ただの友達だと思ってたんだけど、そのまま告白されて付き合ったのが、俺にとっての初めての彼女だね。……1か月も続かなかったんだけど」
言葉だけ聞けば明らかに自慢話だけど、石崎君がそれを指摘することは無かった。
俺の哀愁漂う表情を見て何も言えなくなったのだろう。
「ここまではただのハッピーな話。でもそこから俺の学校生活はガラッと変わってね。端的に言うといじめられるようになったんだ」
「……あれか? 可愛い女と付き合ったから嫉妬された的な感じか?」
「そうそう。さっきも言った、ガキ大将だった政治家の息子がその子のことが好きだったみたいでさ。集団で殴られたり、教科書隠されたり色々されたんだ」
「典型的なやつだな。俺の中学校もそういう感じの喧嘩はあったぜ」
「でもそこは流石の超名門校。すぐ生徒指導の先生が飛んできてくれたおかげでそういうのは無くなったんだけど、それからちょっとしてその子に振られちゃってさ。聞けば母親から付き合うのを反対されたんだと……それだけが理由じゃなかったんだけどさ」
その話を聞いて顔をしかめる石崎君。
そう、俺はあったことすらない相手の両親に反対されて振られてしまったというわけだ。
「まだ付き合うとかよく分かんない年だったし、別に何ともなかったんだけど……女って言うのは恐ろしい生き物だよね。俺を振ってから大体1か月くらいかな? その子は学校に来なくなったんだ。後から知った話だけど、当時俺のことが好きだった子たちが、付き合い始めたタイミングでこぞっていじめ始めたみたいでさ」
女のいじめってのは陰湿なんだよね。先生も気が付かなかったのだから恐ろしい話だ。
「当時の純粋な高辻少年はこう考えたんだ。『俺が家まで行って説得すれば、その子もきっと学校に来てくれる』ってね。だからわざわざ職員室まで行って、その子の担任の先生に住所を教えて貰って、一人で家まで行ったんだよ。
「……何となく想像がついたぞ。親の仕事のことで反対されたんだろ?」
「正解。ピンポンして出てきたその子の母親にプリントを渡したんだけど、名前を名乗った瞬間そいつは俺からプリントをひったくるように取って、『売女の息子が! 二度と顔を見せるな!』ってヒステリックに叫んで扉をバタン。最初は何が起こったか分かんなかったよ」
「最低だな。お前何も悪くねぇじゃねえか」
「しょうがないんだけどね。俺の両親については親の間では有名な話だったし、その子のお父さんはメガバンクの社長。付き合ってるなんてママ友の間で知られたら一巻の終わりだから。間接的だけど、いじめられた原因は俺にあるわけだし」
同級生の男子も、その子に嫉妬していじめたクソ女共も、その子の母親も、俺という人間ではなく俺の顔や立場しか見ていなかったんだよね。
そして、俺という人間を正面から見てくれた、その子だけが不幸になるという馬鹿みたいな話だ。
「そして更にクソなのが、その子が不登校になってから俺に告白してくる女子がこぞって増えたことなんだよね。多分自分も付き合えると思ったんんだろうけど、気持ち悪いから全員即答で振ってやったよ。……そしたら速攻で俺が総スカン食らうことになっちゃってさ。もうこの時点で、同じ学校の奴とは付き合う気なんか無くすよね」
「……苦労してたんだな、お前も」
いけ好かない奴に悲しい過去が! みたいな展開に思わず同情の言葉を掛けてくれた石崎君。
情に厚い良い男だなぁ。そりゃ龍園君も気に入るわけだね。
「話が変な方向言っちゃったけど、だからこの学校は結構気に入ってるんだ。少なくとも、家柄で俺を判断する人は居ないからね。可愛い子いっぱいいるし」
もちろん顔や外向きのキャラ、クラスカースト的な面で見てくる人もいるけど、それは俺自身が認めている俺の強みだから仕方ない。何なら俺が滅茶苦茶面食いだし。
「あれだけ女に酷い目に合わせられて、よくそうやっていられるな。俺だったらトラウマになってるぜ」
「んー……そこは割り切り方じゃない? 女の子の悪口言うところを嫌う男って山ほど居るけど、それって男女逆にしても成り立つことじゃん」
男だって普通にグロい悪口めっちゃ言うし。性別で相手を判断することほど馬鹿な行為は無いよね。
アルコール中毒者が大勢いるからって酒を廃止しろとはならないでしょ? 女の子もそれと同じで、良い側面だけを楽しめるかは当人の力量次第だ。
そんなことを思っていると、ベッドの上に置いていた端末が着信を知らせた。
画面を見ると、絶賛良い側面だけを楽しませてもらっている、可愛い女の子の名前があった。
「約束してたの忘れてたわ。ちょっと行ってくるね」
「……おう」
何か言いたげな石崎君を置いて、俺は人気のない場所へと足を運ぶのだった。
「────もしもし? ごめんね有栖ちゃん、ちょっと色々忙しくてさ。……いや、ホントだよ~ごめんって」
どこを重点的に見たいですか?(ヒロインは1章ごとに1,2人増やす予定です)
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主人公とヒロインの絡み
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主人公と龍園、綾小路等との絡み
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バチバチのクラス間闘争