ようこそ現役ホストのいる教室へ   作:カスのホスト

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第32話 種火

 

 

 

 特に進展することもなくオレたち兎グループは4回目の試験を終えた。

 当初は龍園や一之瀬が所属するグループということもあって、何かしら動きがあるだろうとは思っていたが、予想に反して怪しい動きは見せていない。一之瀬はいつも通り皆が仲良くなれるように取り計らい、龍園は携帯を弄って時間を潰しながら、時折オレや一之瀬に絡むだけといった感じだ。

 

 だが、何も問題が起きていないという訳ではない。クラス代表者である彼らよりも、オレは軽井沢とCクラスの女子たちの軋轢の方が気になっていた。

 

「疲れたっ。行こー松下さん」

 

 携帯を弄っていた軽井沢が、試験終了の合図と共に伸びをして席を立った。

 

「……うん。じゃあね綾小路君、幸村君」

 

 それについて行く形で部屋から出ていく松下に軽く手を振る。

 松下がどこか周りを気にしていそうだったのは、決してオレの勘違いではないだろう。

 

「……チッ、何が疲れたよ。ずっと携帯弄ってた癖に馬鹿じゃないの?」

 

 小声でそう呟いたのは、真鍋というCクラスの女子だった。

 同じCクラスで両隣に座る山下と藪と何やらコソコソと話しているが、その内容を聞き取ることは叶わない。

 

 そう。オレが気にしている軽井沢とCクラスの女子たちの軋轢というのは、彼女たちと軽井沢の間に起きたものだ。

 そのきっかけは些細なもの。彼女たちの友人と軽井沢がトラブルを起こしたようで、それについての謝罪を求めた真鍋だが、軽井沢がそれを受け入れなかった事から始まったものだった。

 

「……俺たちも帰るか」

 

「おう」

 

 この場に残っても得られるものはあまりない。むしろ面倒ごとに巻き込まれる気がしたので、幸村の提案を受け入れ部屋に戻ることにした。

 試験中、軽井沢抜きの作戦会議を数回通して、松下や幸村とはかなり仲良くなれた気がする。特に幸村からは『意外とちゃんと意見を出せる奴』という評価を貰うことに成功した。

 

「どいて」

 

 扉に手をかけて部屋を退出しようとしたそのとき、オレたちの脇を真鍋たちが通り抜けていった。

 

「危ないな……一体何なんだあいつら」

 

 半ば扉に割り込むような形で抜かしていった真鍋たちは、そのまま軽井沢と松下の後を追うように速足で廊下を歩いて行った。

 

「ひと悶着あるんじゃないか?」

 

 幸村はどうする、とオレに視線を向けてきた。

 

「一応追いかけるか。暴力沙汰にはならないと思うが、騒ぎになるかも知れない」

 

「全く軽井沢のやつ。他人に恨まれるようなことを勝手にして……こっちは優待者を探すのに精いっぱいだというのに」

 

 オレと幸村は5人の後を追うことにした。

 特に深い意味は無かったが、後ろを振り返って部屋の中にいる龍園の方を見る。

 

「何をしている。早く行かないと見失うぞ」

 

 片手で携帯を弄り続けている龍園からは、特に怪しい様子は感じ取れない。

 だが、この一連の騒動に口を出さないその姿勢が、嫌に気になって仕方がなかった。

 

「……ああ」

 

 だが、優先すべきは軽井沢と松下のこと。2人に何かあったら大変だ。

 角を曲がるとバタンと非常口の扉が閉まる音が聞こえた。エレベーターが混雑しているわけでもないのに非常階段を使う理由は無い。つまりそれ以外の目的があるということだ。

 

「ちょっと、こんなところに連れ込んでどういうつもり!?」

 

 こっそりと非常口の扉を開けると、階段を下がった踊り場からそんな声が聞こえて来た。

 

「松下さんからも何か言ってあげてよ、こいつらおかしいって!」

 

「……軽井沢さんの言う通り、話があるなら別の場所にした方が良いと思うよ? ここ立ち入り禁止の場所だし、見つかったら大変だよ?」

 

 その場は一触即発な空気だが、冷静に相手を諭そうと語り掛ける松下。しかし、それで止まるような精神状態ならこんな暴挙に出るはずがない。

 

「松下さんには関係ないでしょ。私はこいつがリカを突き飛ばしたかどうかを確認したいだけ」

 

「は、はぁ? 違うって言ったじゃない。しつこいんだけどあんたたち!」

 

 端の松下には目を向けることなく、3人は壁際に囲い込むようにして軽井沢を逃げられないように追いやる。

 こんな状況でも軽井沢は強気な姿勢を崩さず、謝罪することもしない。

 

「あたしこれから用事あんだけど。どいてくんない?」

 

「だったら確認させてよ。今からここにリカ呼ぶから。それであんたじゃなかったら許してあげる」

 

「意味わかんないし。先生に言い付けるから」

 

「先生になにを? 私たち別に暴力振るってるわけじゃないし。なんならリカを突き飛ばしたことを問題にしたっていいんだからね」

 

 向こうも勝負を仕掛けると決めた以上引き下がるつもりはないようだった。逃げようとした軽井沢の腕を掴んで再び壁に押し付けるようにして囲い直す。本当に違うのならば、実際に姿を見せて確認すればいいだけの話だが、それをしないということは軽井沢自身にも心当たりがあるということだ。

 

「だから知らないって言ってるでしょ! ぶつかっただけで何なのよ!? そんなどんくさい女のことなんかいちいち覚えてるわけないし!」

 

 責任を認めるのかと思いきや軽井沢は強気にそう言い放った。それが彼女らの神経を逆なですることは分かりきっていたにもかかわらずだ。

 ここまで譲歩する姿勢を見せないのは、隣に松下が居るからなのか、それとも別の理由からなのか。

 

「は……? こいつマジでムカつくんだけど! ふざけんじゃないわよ!」

 

 真鍋はさっきよりも強く軽井沢を壁に押し当てた。バンという大きな音が鳴ると同時に、後頭部を打ったのか軽井沢はその場に座り込んでしまった。

 

「志保ちゃん。私も我慢の限界。マジで軽井沢許せないかも」

 

「でしょ? 絶対リカにも同じ態度だったと思うんだよね。本気で虐めちゃう?」

 

 幸村が咄嗟に扉を開けようとしたが、オレはその腕を掴んで制止する。

 

「おい! 見過ごせっていうのか!?」

 

「待て、ここで止めてもまた同じことが起きるだけだ」

 

 カメラを向けるようにして持った携帯を幸村に見せつけ、多少暴力を振るわれた方が後々の抑止力になることを暗に伝える。

 程度によっては学校側に訴えると脅して有効に利用できる可能性もあるからな。

 何より軽井沢恵の存在そのものの見かたが、今変わろうとしていた。

 

「はあ、はあっ……」 

 

 荒くなっていく軽井沢の呼吸。痛みを感じ出したのか、両手で頭を押さえている。

 その苦しんでいる姿は同情を買うどころか、真鍋たちの神経を余計に逆撫でした。

 

「今更女の子ぶったって許してやらないから」 

 

 髪の毛を掴み、うな垂れる顔を強引に上げさせる。

 その手を止めたのは、真鍋たちの輪から離れた所で事の成り行きを見守っていた松下だった。

 

「これ以上するなら私が先生呼ぶよ。軽井沢さんも悪いと思うけど、あなたたちも────きゃっ!?」

 

 端末を片手に真鍋の腕を掴んだ松下だったが、真鍋はその腕を強引に振り払った。

 

「邪魔しないでよ。あんただってこのビッチに手焼いてるくせに。ねえ、そいつの携帯奪って」

 

 隣に立つ山下と藪に指示を出す真鍋。二人はそのまま松下につかみかかると、壁に押し付けるようにして端末を無理やり取り上げた。

 

「痛っ……!」

 

 そのはずみでバランスを崩したのか、そのまま軽井沢の隣に倒れる松下。強く体をぶつけたのか、苦悶の声を浮かべてぐったりとしている。

 

「馬鹿な奴。あんたから先に虐めてやっても良いんだけど?」

 

 松下の胸倉を掴み、無理やり状態を起こさせる真鍋。

 良くない状況だ。軽井沢の本性を暴く前に松下に被害が及ぶ。……待て。()()()()()()()()()()()()() 目的を果たせるであろうこの状況で? 

 

 判断に迷ったことを自覚し驚いたその瞬間、我慢できなかったのか幸村が余計な正義感を見せた。制止を聞かず扉を開いてしまう。来訪者の登場に当然3人は大きく驚く。

 

「綾小路くん……?」

 

 何故か最初に飛び出した幸村よりオレの方を見て、安心したように呟く松下。

 

「怪我は無いか?」

 

 階段に倒れている松下の元にしゃがみ、ゆっくりと体を両腕で起こして声をかける。

 

「……うん、ありがと」

 

 目元を若干潤わせ、俯きながら小さく頷く松下。

 その奥では幸村が真鍋たちを睨みつけている。

 

「お前たち何をしているんだ」

 

「何って……。別に? ねえ。軽井沢さんと話してただけよ。そうでしょ?」

 

 余計なことを言うなと真鍋は軽井沢を睨みつけるが、そんなことで怯む人間じゃない。

 

「ちょっと幸村くん、何か言ってやってよ! こいつらあたしを強引に引っ張ってきて暴力を振るってきたし。ウザいから消えろとか言われたんだから」

 

 普段幸村のことを全く相手にしていない軽井沢だが、この場に現れてくれたことをありがたいと思っていることだろう。少し安堵した様子が窺えた。 

 

「軽井沢さんとリカの問題で手を貸してるだけ。ぶつかった話は聞いてるでしょ?」

 

「その割には随分と揉めていたようじゃないか。扉の奥まで音が聞こえて来たぞ」

 

「あんたには関係ないでしょ」

 

 話に割り込んできたオレに真鍋から強烈な視線が突き刺さる。しかしこの場で引くつもりは毛頭ない。

 

「関係ない? 事の成り行きは分からないが、友達が暴力を振るわれていたんだぞ。それを見過ごせって言っているのか?」

 

 松下が驚いたように目を大きく見開いてオレを見つめるなか、オレは携帯を手にして耳元に当てた。

 

「ちょっと! 何するつもりよ!?」

 

「この場じゃ解決が出来そうにないから先生を呼ぶだけだ。大人しく引くならこれ以上は追及しないと約束しよう。面倒事はお互い避けたいだろうしな」

 

 それを言われたら弱いのだろう。真鍋は大きく舌打ちをして軽井沢から離れた。

 

「絶対リカに頭下げさせるから」

 

 それは、どんな手でもする、というある種の脅迫だった。軽井沢は必死に強気な表情を作っていたが、そこに余裕がないのは見れば明らかだ。向こうはそんな軽井沢の様子に、感じるものがあったのだろう。終始上からの態度を示し続けた。

 再び静寂を取り戻した非常階段には、過呼吸気味の軽井沢の呼吸音が響き渡っている。

 

「大丈夫か?」

 

 そんな状態で放置するわけにもいかず、幸村が声をかける。

 

「放っておいて……っ! なんでもっと早く来なかったわけ!」 

 

 近づいてきた幸村を、軽井沢はパンと手を払って遠ざけた。

 

「なっ、心配で様子を見に来てやったんだぞこっちは!」

 

「うるさい!」

 

 軽井沢はそう言い放ち、息も荒く一歩を踏み出した。 

 威圧されるように幸村が一歩下がる。 

 触らぬ神に祟りなしとオレも後ろに下がった。軽井沢はオレに対しても強烈に睨みつけてから非常口のドアを強く開け放った。そして思い切りドアを閉める。

 

「なんなんだあいつはっ! いつもいつも迷惑ばかり……!」

 

 憤慨する幸村の気持ちもわからないではない。トラブルメーカーもいいところだ。

 どっと疲れただろう幸村は、それ以上言葉を発さずに非常ドアから戻って行った。

 

「……大丈夫か?」

 

 2人その場に残った気まずさから、さっきと同じような質問が出てしまう。

 

「ぷっ……ふふ、あははっ」

 

 そんなぎこちないオレがツボに入ったのか、松下は小さく噴き出したと思ったら顔を背けて笑い始めた。

 

「……そんなに笑わなくてもいいだろ」

 

「ごめんねっ。だって、ふふふっ……」

 

 ひとしきり笑い終えた松下は、目尻に浮かべた涙を指先で拭いてにっこりと笑った。

 

「はー、面白かった。やっぱり面白いね、綾小路君って」

 

「個人的にはもっと別の評価が欲しかったけどな」

 

「えー? 格好いいとか言ってほしかったの? そんな不純な動機で私を助けたんだー?」

 

「いや、そういう訳じゃないけどな……そうだな。何でもない」

 

 随分と曲解した受け取り方をされてしまったが、そういう風にとらえる事も出来なくはないだろう。かなり怖い思いをさせてしまったのだから、これ以上言うのはやめておこう。

 そう判断して訂正した矢先、松下は両手でオレの手を両手で包んで胸の前まで持ってきた。

 

「でも、凄いかっこ良かったよ。ありがとう綾小路君」

 

「……おう」

 

 右手からは松下の柔らかく、ほのかに暖かい手の感触が伝わってくる。油断していた矢先に凄い不意打ちを食らってしまった。

 

「でも、次からは様子見してないで早く助けに来てねっ? 理由は何となーく想像つくけど」

 

「……悪い」

 

 しどろもどろになりながら答えるオレに対して、松下はいたずらっ子の様に小さく笑ってそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 青春の香りがふわふわと漂うのを感じる……新たな恋が芽生えているのかな? 

 

「……清夜君?」

 

「ああごめん。何でもない」

 

 なんか急に変な電波が飛んで来た。

 全く、俺としたことが目の前の女の子との会話に集中しないなんてホスト失格じゃないか。

 

「あはは、疲れてても無理ないよね。竜グループは大変そうだもん」

 

 そんなアホな俺を、疲れていると気使ってくれた大天使はそう、Bクラスの帆波ちゃんである。

 

 4回目の話し合いを終えた俺は、帆波ちゃんに誘われてちょっと遅めの夜食を楽しんでいた。

 明日は1日中試験がお休みのためか、バイキング形式のレストランには他の生徒もちらほら見受けられる。他クラス同士で食事をしているのは俺たちだけかな。

 

「追放できる機会はあと2回。裏切り者の目途はついてるの?」

 

 一応他クラスだしあんまり試験の話はしない方がよさそうだけど…まあ世間話ついでに情報を抜こうという意図はありそうだね。

 別のグループである帆波ちゃんからの誘いも、B側の情報を渡さないためっていうのが大きそうだ。

 

「さあ。D以外の各クラス1人づつ追放して、今回で残ったAクラスは的場君と葛城君だけだけど、それっぽい反応は無しって感じ?」

 

「やっぱりそう簡単にボロは出してくれないよね」

 

「ポイント差だけ考えると、Aクラスを全員追放しちゃえば大きな差が生まれることはないんだけど、それを俺たちが提案したらめっちゃ怪しいじゃん。それに葛城君率いるAクラスが、リスクを負ってまで指名するとは到底思えないし」

 

 それを葛城君が受け入れる訳もないしね。自分のクラスを掌握できていないというのは恐ろしい話だ。

 

「うーん…やっぱり今回の試験、みんなで協力できるところってなかったのかな」

 

「あるんじゃない? でもやるならもっと早いタイミングでやった方が良かったね」

 

 疑問符を浮かべる帆波ちゃんに続けて説明する。

 

「例えばAクラスを除いた3つのクラスで優待者を共有。後はそれぞれが平等になるように別クラスの優待者を当て合えば、Aクラスの一人負けにすることだってできると思うよ」

 

 仮に一回目の話し合いの後にBCDで3クラスづつ当て合えば、Aクラスに450クラスポイントのペナルティを与えて、他のクラスは150クラスポイントを得ることができる。

 

「投票だって話し合いなんかしないでAクラスの人を追放しちゃえばいいし。まあこれには自クラスの優待者を完全に把握するっていう条件が必要になるけどね」

 

「なるほど…確かに凄い良い案かも」

 

 言うは易く行うは難し。各々のクラスにそこまで信頼関係があるかと言われれば微妙だけど、そこまで非現実的な作戦じゃないはずだ。

 

「前々から思ってたけどさ、帆波ちゃんって食べ方綺麗だよね」

 

「お母さんそういうの厳しい人だったから。でもそう言ってもらえると嬉しいかも」

 

「良いお母さんだね。食べ方とかマナーとかの所作には、その人本人の品格が出るから。どこに出しても恥ずかしくないようにしたかったんだと思うよ」

 

「…そっか。そうだよね」

 

 んー…ちょっと思ってた反応と違うな。性格諸々見る限り家庭環境は悪くないと思ってたんだけど。問題とまではいかないけど、何か抱えてそうではある反応だ。

 

「帆波ちゃんは良いお嫁さんになると思うよ。俺もそういう人と結婚したいもん」

 

 とりあえずここは踏み込まずに迂回かな。見えてる地雷に突っ込むほど俺は馬鹿じゃ無いし。

 

「っ! げほっ、ん゛んっ…きゅ、急にそういうこと言わないでくれないかな!?」

 

 典型的な反応を見せてくれる帆波ちゃんは実に弄りがいがある。褒められるのとか慣れてそうな子がこういう初心な反応を見せるのも、ギャップがあって中々萌えるよね。

 

「ごめんごめん。本心だから許して?」

 

 申し訳なさそうに苦笑いを浮かべ、両手を合わせて謝罪の言葉を口にする。

 

「そればっかり…やっぱり意地悪しようとして言ってるでしょ?」

 

「そんなことないよ~。仮にそうだとしても、可愛い子に意地悪したくなるのは男の性だからさ」

 

 隙を生じぬ二段構えによって再び顔を赤くする帆波ちゃん。うんうん。食事はこうやって楽しくにぎやかにするのが一番良いよね。

 この様子だと俺から聞いた情報も忘れてそうだし、そのまま変な事を考えずに試験が終わるまで大人しくしていてもらおう。

 

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どこを重点的に見たいですか?(ヒロインは1章ごとに1,2人増やす予定です)

  • 主人公とヒロインの絡み
  • 主人公と龍園、綾小路等との絡み
  • バチバチのクラス間闘争
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