ようこそ現役ホストのいる教室へ 作:カスのホスト
試験が始まって3日目。今日は間に設けられた完全休養日だ。
一部の意識が高い生徒を除いて、ほとんどの生徒はいつもより惰眠を貪ったり、プールで遊んだりと休暇を楽しんでいた。
「竜グループ以外は動く気配が全くないわね。4日目でこれとなると、大半のグループは結果2で終わることになりそうね」
そんな中、目の前で何やらノートにメモをしている堀北は、間違いなく一部の意識が高い生徒に分類されるだろう。
「懸念だった龍園君も特に動く気配は無し。こういっては何だけど拍子抜けね」
「そうだな。今も多少オレや一之瀬に絡むことはあるが、基本的には消極的に見える」
もちろんその協力者であるオレも堀北に合わせて朝早くにカフェに集合させられていた。
ここまではいつも通りの何気ない日常だ。しかし、交友関係が広がれば自ずと関わる人も変わるもの。今までとは異なる点が1つだけ、この場には存在した。
「このコーヒーゼリーパフェ凄い美味しそう! 一人じゃ食べ切れないから一緒に食べない綾小路君?」
「……松下さん、あまり関係ない話は控えてもらえないかしら」
ノートから目線を上げ、オレの隣に座る松下を見て苦言を呈する堀北。
いつもはオレと堀北の2人だけだった作戦会議だが、偶然松下と遭遇して一緒にいることになったのだ。
「あ、ごめんね堀北さん。でも今日くらいは張り詰めなくてもいいんじゃない? もう船の旅だって終わりなんだし」
「それとこれとは別の話よ。いくら休養日とは言え試験期間中なのは間違いないし、他のクラスに後れを取るわけにはいかないわ」
意外と引かない松下に堀北が反論する。どちらの言い分も理解できるが、なるべくならオレの居ないところで討論して欲しいものだ。
「んー……まあ、そっか。じゃあ話し合いが落ち着くまで我慢するね」
しかし、ここは大人な松下が引き下がる形で決着がついた。
「私としては、何故あなたがここに居るのかが気になる所だけど」
「まあ、それはいいんじゃないか? お前も先の試験で交友関係が大切なことは自覚したんだろ?」
須藤や池、山内の様に話の腰を折ったりもしないだろうからな。松下なら新しい視点から話を進めてくれそうだ。
「……そうね。確か綾小路君と同じ、兎グループだったかしら」
少し間を開けて、堀北は渋々と言った様子で話し合いの参加を認めた。このまま2人だけでは何の進展もしないという自覚はあるのだろう。
個人的な感情を差し置いて、そういう判断ができるようになったのは大きな成長と言っていい。
「うん。一応みんなちゃんと出席はしてるけど、話し合いなんか全然してないよ。まあどこのグループの子たちもそうらしいけど」
櫛田や平田程ではないが、オレたちに比べたら十二分に交友関係が広い松下からそんな情報が入ってきた。
「確か竜グループの優待者は櫛田さんだったよね。他のクラスに言っちゃって大丈夫だったの?」
「ええ。優待者を指名された時点で隠す意味もないし」
第二段階で裏切り者を追放できた場合でも、結果4とは異なり優待者が得られるポイントは0だ。恐らくだが、これは第二段階に移行した際に優待者が名乗り出ない事態を防ぐためのものだろう。3クラスの中から裏切り者を探すだけでも苦労しているのに、優待者がポイント欲しさに隠れ続けたら裏切り者が圧倒的に有利になるからな。
「それでも分かんないんだ。……うーん、裏切り者が不利な状況だと思ってたけど、案外そうでもないみたいだね」
首を傾げながら現状の厳しさに悩まし気な声を上げる松下。これ以上何も情報が無いのだから言いようがない。
結局新しい結論が出ることはなく、オレは松下とパフェを食べて話し合いは解散となった。……オレと松下に対する堀北の『お前たちは何をしに来たんだ』みたいな目が怖かった。
────────────────
1日だけの休養日なんてあっという間に過ぎ去るもの。昼食を食べ終えた俺は、例のごとく有栖ちゃんとの電話に花を咲かせていた。
「それにしても試験も残り一日ですか……今回の試験は拍子抜けですね。竜グループ以外にも何か動きがあると思っていたのですが」
坂柳派の生徒から試験の進捗は聞いているようで、電話越しにそう語る有栖ちゃんは、それはそれは不満そうなご様子だった。
「しょうがないんじゃない? みんな適当なことは出来ないだろうし」
自分の予想外の動きを期待していたのだろうけど、クラスポイントが掛かってる状況でそんな道楽を求めるのは酷だと思うけどね。
「ですが、退屈な日々ももうすぐ終わりです。葛城君の求心力も大分落ちてきているでしょうし、次の試験からは私がAクラスを取り仕切ります」
そんなカッコいいことを言う有栖ちゃん。きっと今頃遠く離れた場所で小さな胸を張って、自身がクラスを率いていく姿を想像しているのだろう。
「寂しい思いさせちゃってごめんね。帰ったら2人で遊びに行こっか」
「……寂しいなんて一言も言ってないのですが。清夜くんは随分と都合の良い頭をしているのですね」
嘘つけ。わざわざ合鍵まで作って俺の部屋に勝手に住み着いてる癖に。
マジで常日頃入り浸ってる有栖ちゃんだってのと、見られて困るものを部屋に置いてないから許してあげてるけど、性別が違えば退学になってもおかしくないからね?
「ごめんごめん。じゃあ遊ぶのもやめた方が良いかな?」
もっとも、そんなことを言ったら面倒なことになるのは目に見えているため、ここは大人な俺が引いてあげようじゃないか。
「そうは言ってません。清夜くんも
昨日知恵先生抱いて発散したから大丈夫なんだけどな。それにお前ずっと暇だろ。
むしろ2週間お預け食らってる有栖ちゃんの方が溜まってるだろうし……襲われないように気を付けなきゃね。
……日に日に重い女になってきてるよね。このタイミングで2週間放置したのはマズかったか? いやでも不可抗力だよな。
「はいはい。前回の試験で安定した収入もゲットしたし。先生に掛け合って教職員用の広い寮を借りるつもりだから、その時は1番最初に招待してあげるよ」
「ふふっ。葛城君と一之瀬さんとの取引ですね? やっぱり清夜君は悪い男です。新しい部屋、楽しみに待ってますねっ」
その言葉とは裏腹に、声色から嬉しそうなのがひしひしと伝わってくる。
……よし。とりあえず問題を先送りにすることには成功したね。後は帰ってからの俺に任せよう。
有栖ちゃんとの電話を終えると、チャットに一件のメッセージが届いている事に気が付いた。差出人は龍園君のようで、通知からアプリを起動しトーク履歴を開く。
基本的に事務的な話しかしない俺たちのトーク履歴はとても簡素なものだが、その中でも一際簡潔な一言がそこには記されていた。
『真鍋、山下、薮が軽井沢と揉めている。面倒ごとになる前にお前の方で解決しろ』
こいつ面倒事押し付けてきやがった……とは言えないね。人間関係、それも女子の問題については俺が解決するのが一番効率がいい。
仕方ない。とりあえず詳細な話聞いてみるしかないな。
『どういう状況?』
直ぐに既読が付き、返事が返ってきた。
どうやら諸藤さん……真鍋さん達と仲がいい女の子が軽井沢さんと揉めたらしく、偶然グループが同じになった真鍋さん達が詰め寄って言い争いになったらしい。
「めんどくせぇええぇぇ……!」
思わずそんな独り言が出てきてしまった。でも仕方がないだろう。女の面倒事、それも当人同士じゃなくて仲介に入った側が相手と喧嘩したとなれば、解決するのは非常に困難だ。
お互いの仲を取り持とうとした結果、立ち回りをミスって最終的に俺が悪者になる可能性も全然あり得る。「てか高辻君が間に入ってなかったらウチらもっと早く仲直りできたよね」「それな~。マジで余計なことすんなし」みたいな会話が容易に想像できる。
しかも原因が大人しい性格の諸藤さんと、言い方は悪いがキツめの軽井沢さんというのもマジで良くない。だって両者を引き合わせた所で軽井沢さんが詰め寄って終わりだもん。
後者に関してはそこまで深い関わりがないため分からないが、話は色々聞いている。平田君の彼女で、性格は典型的な頭の悪いカースト一軍のギャル。クラスメイトからポイントをカツアゲするなど、あまり関わり合いになりたくない部類の人間と言っていいだろう。
桔梗ちゃんから悪口と言う形で得た情報を脳内でまとめてみるが、考えれば考える程首を突っ込みたくない案件だ。しかし、放置する方が後々面倒になるのは今までの経験上理解している。
『試験中の解決は多分無理。あと2回の話し合いだけそっちで何とか取り持っといて。適当に脅してでも良いから』
どこまで問題が進行しているかは分からないが、試験のストレスさえ無くなってしまえば解決する可能性もある。
ひとまず龍園君には真鍋さんたちの凶行を止めるようにお願いし、俺は真鍋さんに電話をかける。こういうのは早めに行動するのが吉だからね。
『おかけになった電話は、現在電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかけれません』
数回のブザー音の後に聞こえてきたのは無機質なアナウンス。この時間帯に電源が入っていないというのはどうにも考えにくかったが、こういう時もあるだろう。仕方がないので森下さんに電話をかけてみる。
『おかけになった電話は、現在電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかけれません』
流石にきな臭くなって来たぞ。2人とも電話をかけて繋がらない事ってありえるか?
そこで俺は、チャットアプリから位置情報共有機能を立ち上げ、真鍋さんたちが今どこにいるのかを検索した。……そして、
「流石にヤベェだろ……!」
真鍋さん、藪さん、山下さん、諸藤さんの位置情報は、船から少し離れた海上の一点に集まっていた。位置情報交換アプリは、電源が落ちるか機内モードにするとその場で点が止まるようになっている。つまり、
船内で電波の届かないところ……地下の機関室だな。
デッキから室内へと足を踏み入れ、絨毯で張られた廊下の上を走り抜ける。周りの奇怪な視線や、船員の注意などが耳に入ったが気にしている暇はない。
杞憂ならそれでいい。だが、もしかしたら俺が思っている以上に、状況は悪い方へと動いている可能性が高い。
何事もないように祈りながら地下へと続く非常階段へと辿り付いたが、いつもは閉まっている筈の扉には隙間が空いていた。
階段を下へ下へと降り進んでいく。……すると、深く重い機械音と共に、部屋の奥から声が聞こえてきた。
「はは、あははは! 今更泣いて謝ったって許してあげないんだから!」
「見て志保ちゃん! この軽井沢のぶっさいくな顔! ビッチなあんたが男たぶらかせないように、顔に傷つけてやるんだから!」
「駄目だよ~ 見えないところにしないとバレちゃうでしょ?」
耳をつんざくほどの機械音が鳴り響く機関室の奥には、横になって体を丸める軽井沢さんと、それによってたかって暴行を浴びせる真鍋さんたちの姿があった。
その光景は、
「アンタ先生にチクったら分かってるよね? これ一回じゃ終わらせるつもりないから。あんたの学生生活滅茶苦茶にしてあげる」
「いや……やめて……ぐっ!?」
許しを請う軽井沢さんを嘲笑ながら、真鍋さんが腹に蹴りを入れた。
「良い場所でしょ? ここじゃ電波も繋がらないし監視の目もない。あんたが大好きな平田君も助けになんか来ないから」
「こんなんじゃ終わらないからね。ほら、リカと沙希ちゃんで抑えてよ」
うずくまって苦悶の声を上げる軽井沢に跨り、拳を握って振り上げる真鍋さん。
状況を把握するとか、隠れて携帯で証拠を押さえるとか、冷静になればやれることはたくさんあっただろう。しかし、今更それを考える意味も無い。何故なら────
「おい。何してんだクソ女」
────そんなことを考える前に、俺は振り上げられた真鍋の拳を握り込んでいたのだから。
どこを重点的に見たいですか?(ヒロインは1章ごとに1,2人増やす予定です)
-
主人公とヒロインの絡み
-
主人公と龍園、綾小路等との絡み
-
バチバチのクラス間闘争