ようこそ現役ホストのいる教室へ 作:カスのホスト
お久しぶりです。
「人様の過去を盗み聞きするのは楽しかった? さっさと出てきなよ、清隆君」
船舶を動かす巨大なエンジンの音が鳴り響く機関室でも、俺の声はかき消されることなく通った。
到底自分の口から出たとは思えない、無感情な冷たい声。
そんな声を向けられた人間は、配電盤の裏に身を隠していた清隆君ただ一人だけ。
「まさか、お前が来るとは思わなかったぞ」
彼もそれを理解しているのだろう。少しの間を置いてゆっくりとその姿を現した。
「じゃあ誰が来ると思っていたのかな。平田君? 龍園君?」
地べたに座り込み、金網に背を預ける俺に対し、清隆君は何を言うことも無く視線を向けている。
想定していたよりも数倍冷たいその瞳。向けられただけで心の奥が見透かされているような……そんなありえない感覚になる。
「はたまた……誰も真鍋さん達の凶行に気づくことなく、軽井沢さんがリンチされるのを期待していたのかな」
固い地面の感触を感じながら、俺は視線を落として声を震わせた。
「違う」
「上っ面の言葉なんて聞きたくないね。……心身ともにボロボロになった軽井沢さんに、さも偶然現れたナイトのように声を掛けるつもりだったんだろう?」
清隆君の言葉に被せるように言い放つ。
「そして、
どの時代も早口で喋る男なんてモテるはずもないんけど、生憎そんなことを気にしている暇は無い。
「あんまり俺を舐めないでほしいね。君がこの状況でも一切動揺をしていないことくらい、俺には分かっちゃうんだよ?」
「……軽井沢に言った話は、本当のことなのか?」
俺に対する嘘や誤魔化しが通じないと分かるや否や、こちらの弱みを握ろうと事実の確認ね。
どうやら否定する事すら諦めたらしい。自身の置かれた状況を理解し、その上で少しでも実利を得ようとするその動きは、非人間じみた効率性を感じられる。
「それを君に答える義理はどこにあるのかな」
そのアグレッシブさも踏まえて、普段の清隆君からは想像がつかないものだった。
クラス間闘争や定期テスト、はたまた友人である池君と山内君の借金問題にも首を突っ込みたがらなかった清隆君が、なぜ突然こんなリスクを冒してまで駒を手に入れようとしたのか。
「誰かから袖の下でも渡されたのかな。いや、そんなわけないか」
今の清隆君に金を払ってまで何かを依頼する人がいるとは思えないし、仮に居たとしてもそれを承諾するはずがない。依頼を受けて成功させれば、清隆君の能力を相手に知らせることになる。
実力の一端を知る堀北さんも、そんなことをする人じゃないだろうしね。
「なぜこんなことをしたのか教えて貰えない限り、俺がその質問に答えることはないよ」
「平田に頼まれたんだ。本当は、彼女たちが手を出す前に助けるつもりだった。……少々強引な手段だったが、軽井沢を落ち着かせるにはこれしかなかった」
「随分と嘘がうまくなったんだね。清隆君」
まるで予め用意していたかのように、すらすらと言葉が出てくる清隆君。
俺のアドバイスをしっかり聞いているようだね。入学式の日の自己紹介を盛大に事故った人とは思えない。
「君が平田君に頼まれたのは軽井沢さんを助けることだけのはずだ。あの日和見主義のヘタレ君が、軽井沢さんのトラウマをほじくり返すような方法を許可するはずがない」
『嘘を吐くときは真実をほんの少しだけ、欺瞞の中に混ぜるといい』
それこそ料理にかけるスパイスのように、全体に締まりができ、調和がとれた結果良いバランスとなる。
「軽井沢さんは平田君と待ち合わせをしていたと言っていた。つまり、君は平田君に軽井沢さんをここに呼んで欲しいと頼んだんだろう?」
良い人選だと思うよ。軽井沢さん程洗脳しやすい人間は他に居ないだろうし。
学力やその他の能力自体は平凡そのものだけど、彼女にはクラスでの立場と、それを維持するだけの人間関係における勘の鋭さを持っている。
「何故俺が君の魂胆をことごとく当てられているか、分からないって思ってる顔だね」
清隆君の中で俺に対する評価が変わっていくのを感じる。
それは、入学してから数か月の間で積み上げてきた友人同士のソレではなく、自身の目的を邪魔する敵に対するもののように思えた。
「簡単な話だよ。
「……高辻」
前から分かっていた話だ。表面的な性格こそ正反対だが、芯の部分では俺と清隆君は
だから一緒に居て気を遣わずに済んだし、対人関係に不器用な部分を見過ごせず、性に合わないお節介をかいていたのは、昔の自分を見ている様だったから。
こうして言葉にすると、今までの自分の感情に納得がいった気がした。
「まあ、君が動いた理由についてはもう聞かないよ。元からクラス間闘争には興味ないしね」
俺の過去について教える気はない。だけどその代わりとして、清隆君のことを掘り下げるつもりもない。
言葉自体は折り合いをつける和解のための言葉だったが、それはある種の決別だったのかもしれない。
「そうしてもらえると助かる。少なくとも、今のお前を敵に回すつもりはない」
俺たちが元の関係に戻ることは無いかな。お互いに見たくないものを見てしまったわけだしね。
疎遠になるのか、はたまた目を瞑って友人関係に戻るのか、それは成り行き次第といったところか。
「悪いね清隆君。君の狙ってた子は俺が取っちゃった。……馬鹿な女だよ。ちょっと大げさに演技したらすぐに落ちるんだから」
まあ、女なんて大抵そんな生き物なんだけどね。
奪った側が言うのもなんだが、学生同士の男女関係なんてそんなもんだから、いい経験にはなったんじゃないかな?
「……やっぱり、まだオレはお前の嘘を見抜けないみたいだな」
そんな、俺の冗談交じりの謝罪に返されたのは、清隆君の何の気もない一言。
お互いに落としどころを見つけたと、緩んだ雰囲気から発せられた和解の言葉。普段の俺なら、小さく笑って彼の背を叩いているだろう。
「何言ってるの? 全部本当のことだよ」
疲れているのだろうか。俺はどうしてもその言葉を見過ごすことができなかった。
「は? だが現に……っ」
何か言いたげだった清隆君だが、俺の顔を見るや否や、顔を強張らせて口を閉じた。
「あはははは! 俺が、あの程度の過去にトラウマを植え付けられていると、本当に思ってたのかよ?」
腹を抱え、目尻に涙を浮かべて大声で笑う。
「馬鹿ばっかりで滑稽だな。俺は月に億を売り上げるホストだぜ?」
……我ながら、よくもまあこんなに口が回るものだ。ホストを引退した後は落語家でも目指してみるのもアリかもしれないね。
適正で言うと政治家になるべきだろうけど、あんなストレスが溜まりそうな場所に身を置く気にはなれないかな。
「アイドルや女優、その他腐るほど美女を抱いてきた俺が、いつまでも初恋のガキを引きずってる訳ないだろうが。何年前の話だよって感じ?」
笑いすぎた影響だろうか、上手に動かない足で立ち上がり、清隆君の正面に立つ。
「……清隆君」
「何だ」
そんな俺に対し、清隆君は理解できない化け物を見るような瞳をこちらに向けて来た。
酷いなぁ。友達に向ける目じゃなくない?
「俺、嘘つくの上手でしょ」
「まあな」
だが、どこか安心した自分がいる。
その瞳は、未知のものを見る興味こそあれ、嫌悪や恐怖の感情が含まれていなかったからだ。
「いつか、俺の嘘を見抜けるようになってよ」
そうすれば、君は誰にも負けない最強の人間になれるはずだ。
目の前の男を見てよく分かった。俺は清隆君にはなれないってね。
『ホワイトルームの最高傑作』……誰からも愛されることなく育った男に、致死量の愛を受けて育った男。その性根が似通っているからと言って、育った環境が違いすぎる。
もっとも、勝利以外の全てを捨てる人生なんてごめんだけどね。
「努力はしよう」
そんな隠された俺の感情を、清隆君が暴いてくれるのはいつになるだろうか。
せめてその時までは、退学しないでいて欲しいものだ。
「あはは。楽しみにしてるよ」
そう言って清隆君の背中を叩き、部屋を後にした。
フロアへと続く階段を上る。やけに足が重い。
「
つんとなる鼻を鬱陶しく思いながら、スマホのインカメで顔を見る。
「よし。いつも通り、超がつくほどイケメンだ」
人に見せられる顔に戻ったことを確認し、部屋に戻るのだった。
リハビリなので短めです。
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どこを重点的に見たいですか?(ヒロインは1章ごとに1,2人増やす予定です)
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主人公とヒロインの絡み
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主人公と龍園、綾小路等との絡み
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バチバチのクラス間闘争