ようこそ現役ホストのいる教室へ   作:カスのホスト

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第37話 出来レース

 

 

 

 優待者試験も最終日を迎えた。未だ他のグループには動きは見られない。

 

「これを食べられるのも、今日で最後と考えると寂しいですね」

 

 対面に座り、出てきた料理を前に眉尻を落とすのはひよりちゃん。

 

「そうかもだけど、俺はひよりちゃんの料理が恋しいよ」

 

 船内に備えられたレストランの一角で、俺はひよりちゃんと二人で朝食を食べていた。かれこれ戻って来てからはずっとここで朝を過ごしている気がする。

 数ある食事場の中でも人気のためか、周りにはクラス問わず大勢の生徒が座っている。

 

「ふふっ。帰ったら、また作ってあげますから」

 

 俺の言葉に微笑み、小さな口でモーニングのトーストをたべるひよりちゃん。醸し出している雰囲気も相まって、小動物的な可愛さを彷彿とさせる。

 そんなひよりちゃんに笑みを返しつつ、俺は和気あいあいとした雰囲気の店内に目を向けた。

 

「試験の話し合いって、寝坊したら何かペナルティ貰うのか?」

「知らね。まあでも、もうちょっと寝ていたいよなー」

「な。昼頃にしてくれればいいんだけど」

 

 試験初日こそ、優待者を見つけて他クラスに差をつけてやろう、なんて意志や動きを見られたが、みんな残り2回の話し合いで何かが動くとは到底思えないんだろうね。みんな試験中とは思えない程気が抜けている。

 

「やったね」

 

 そんな緩み切った周りの空気に内心ほくそ笑みながらも、それを表に出すことなく穏やかな会話を進める。

 モーニングの味もそうだけど、こうして皆の雰囲気を観察できるのも、この店の良いところだった。

 

 朝食を終えひよりちゃんと並んでグループ部屋へと向かう。話し合いが始まるまで残り10分、割とギリギリだが毎回こんな感じなので問題は無い。待つのはあんまり好きじゃないからね。

 部屋の扉を開けると、竜グループの皆の視線がこちらに集まった。同じ部屋、同じ席順ということもあり、既に見慣れた光景ではあったが、円卓を囲う様に置かれた椅子にはちらほらと空きが見える。

 

「また俺たちが最後か」

 

「遅刻ではありませんし、問題はありませんよ」

 

 空席の場所を確認し、そのうちの一つに腰掛け、その隣にひよりちゃんが座る。

 

「随分と寂しくなっちゃったね。3人減るだけでこんなになっちゃうんだ」

 

 背もたれに寄りかかりながら左右を見渡し、そんな言葉を口にする。

 そう。今現在空席になっているところは、試験の第二段階にて追放され、後の試験参加権を剥奪された人たちの席だった。

 

 話し合い5回目時点での、竜グループのメンバーは以下の通りとなる。

 

 Aクラス:葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春

 Bクラス:安藤紗代 神崎隆二 津辺仁美

 Cクラス:椎名ひより 高辻清夜 園田正志

 Dクラス:櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音

 

 A、B、Cと順々に追放したは良いものの、未だ試験が終わる様子は見られない。

 

「早く終わらせたいところだな。ポイントの云々以前に、この状況は疲れる」

 

 俺の言葉にため息とともに返したのは神崎君。インターバルとなる一日でも疲れが抜けることは無かったのか、若干目の下に隈を作っている様は少々痛々しい。きっと夜遅くまで試験についての話し合いをしていたのだろう。

 

「順当に行けば今日はAクラスの中から決めるんだよね?」

 

「そうだね」

 

 桔梗ちゃん、平田君と確定白のDクラスの生徒を中心に話が進んでいく。

 

「……」

 

 しかし、何の進展もないまま4回目の話し合いとなると、作戦や話す話題も尽きていくもの。

 皆表にこそ出さないが、心の中では現状で裏切り者を追放することなど不可能だと思っているようだ。

 

「櫛田。一つ聞いて良いか」

 

 そんな沈黙を打ち破ったのは、それまで瞑目して腕を組んでいた葛城君の重厚な一言。

 

「いいよ。どうしたの?」

 

 名指しされた桔梗ちゃんが、可愛らしく小首をかしげて質問を促す。

 それを受けて、葛城君は一瞬俺と視線を合わせた後に、桔梗ちゃんに問いかけた。

 

「優待者だと当てられたときの状況についてだ。その時点で、お前が優待者だと知っている生徒は、堀北と平田しかいなかったんだよな?」

 

 葛城君の質問に対し、首を縦に振って答える桔梗ちゃん。

 漂う重苦しい雰囲気から発せられた言葉は、この場に居る誰もが知っている事実の確認だった。

 

「そして、優待者が当てられた旨のメールが送られてきたとき、偶然高辻と一緒に喋っていた。それで間違いないな?」

 

「うん。結構人がいるところだったから、見てたって子もいると思うよ」

 

「どういう意味かしら、葛城君」

 

 要領を得ない葛城君の質問に説明を求める堀北さん。

 

「おかしいとは思わないか。何故、裏切り者は櫛田が優待者だと分かったんだ?」

 

「……私が緊張してあんまり喋れなかったから、それで見抜かれちゃったのかも……」

 

「自分のクラスを抜けば10人近くが一堂に会する初回の話し合いで、櫛田だけの様子を見て投票したと? あの時点での話し合いは残り5回。外せばマイナス150クラスポイントの大博打に、裏切り者が打って出たと、本気でそう言えるのか?」

 

「……確かにな。失敗すれば、先の無人島試験での努力を水泡に帰する行為だ」

 

 葛城君の言葉に同意したのは、ことの成り行きを見守っていた神崎君。改めて現状を説明されたことにより、その違和感に気づき始めたようだ。

 

「気が狂った裏切り者が、何の根拠も無しに優待者を当てた可能性も、全くの0とは言い切れないだろう。だが、俺はそれ以外の可能性もあると思っている」

 

「それ以外の可能性?」

 

 問いかけに対し、葛城君は桔梗ちゃんを見つめて言い放った。

 

「ああ。()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう考えるのが最も自然だとは思わないか」

 

「っ、そんな……!」

 

 その内容は、Dクラスのアイドル的存在の桔梗ちゃんが、自分のクラスを裏切ったという信じがたい話だった。

 

「あり得ないわね。私はそれほど彼女と深い関わりがあるわけではないけれど、それでもクラスを裏切るような人とは思わないわ」

 

 葛城君の言葉を真っ先に否定したのは堀北さん。

 疑いの目を向けられて言葉が出ないのだろう。悲痛な顔で震えている桔梗ちゃんに代わり言葉を発した。

 

「そもそも理由が無いわ。わざわざ自分のクラスを陥れるようなことをして、一体何のメリットがあるというのかしら」

 

「裏切り者が逃げ切った場合、150万ものプライベートポイントが報酬として与えられる。仮に折半したとしても、優待者が得られる予定だったポイントより遥かに多い」

 

「ポイントの為にクラスを裏切る発想があるとは驚いたわ。随分と下賤な考えを持っているのね」

 

「感情論で可能性を潰すのは愚かだと思うが?」

 

 続く堀北さんと葛城君の攻防。両者共々一歩も引く様子は見られない。

 皆そのやり取りに思う所がありつつも、二人の間に漂う殺伐とした空気が介入を許してくれなかった。

 

 まあ、ここで後手に回ってあげる程俺も落ちぶれてはいないんだけどね。

 

「まあ、言い方はともかくとして、葛城君の話もあり得ない話じゃないと思うよ」

 

 呼吸を整え、自然な表情を心がけて言葉を放つ。

 一瞬こちらを見る桔梗ちゃんの表情が凄いことになっていた。……お叱りは後で甘んじて受け入れることにしよう。

 

「お前がそう言うとは驚きだ。その場合、必然的に裏切り者はお前になるはずだが」

 

 確かに順当に行けば、指名された時に二人でいたからという理由で、桔梗ちゃんに確定で白だと言われていた俺が一番怪しいことになる。

 

「そうとは限らないんじゃないかな?」

 

「……何?」

 

 だが、俺だって何の考えも無しに葛城君に援護射撃をした訳じゃない。

 

「ごめんね桔梗ちゃん。あくまで桔梗ちゃんが情報を渡してたらっていう体で話してるだけだから」

 

「……うん。大丈夫だよ」

 

 とりあえず後が怖いのでそんな前置きを忘れずに。

 あくまで葛城君が言うことを信じるならっていう体で話すことをアピールしておく。

 

「さっきの言い方からして、結構前から桔梗ちゃんが裏切っていたかもしれないとは思ってたんだよね? 何で今になって言い出したの?」

 

「このまま平等に各クラスを削っていく方法では勝てないと判断したからだ。俺だって櫛田の評判くらいは知っている。だが、真実がどうであろうと、一石を投じる必要はあるだろう」

 

「ふーん。じゃあ、今回人数合わせでAクラスの子が追放される予定だったこととは、何の関係もないんだね」

 

「何が言いたい」

 

 言葉尻から自身に疑いの目が向けられていることを悟ったのだろう。葛城君はこちらを鋭い眼光で睨みつけてきた。

 

「いや、だっておかしくない? もうちょっと早い段階で言って俺を追放すればさ、桔梗ちゃんが裏切ってて、俺をかばってたかなんてすぐに分かるじゃん」

 

 追放して試験が続行すれば、桔梗ちゃんが言っていることが正しいことが証明されるし、俺が黒だったらそれはそれでオーケーだ。

 

「とすると、俺を追放したくてもできなかった理由があるわけだ。すると、前提が変わってまた別の()()()が浮かんでくる」

 

 実際のところ、俺に疑いをかけてこっぴどく仕返しされた直後だから言うに言えなかったんだろうね。下手に俺に疑いをかけていると判断されて自分が追放されかねない。津辺さんと園田さんが追放されてやっと言い出せたって感じかな。

 

 貴重な追放枠を自分に使いたくない。石橋を叩いて渡る性格がこれまた裏目に出た瞬間だったね。

 

「葛城君が言ってた、『桔梗ちゃんが裏切り者である俺を守るために、指名するときに一緒に居てアリバイを作った』って話だけど、こう考えることもできるんじゃないかな? 『本物の裏切り者が指名する瞬間に、あえて桔梗ちゃんと俺を接触させてた』って」

 

 葛城君の反撃を許さないよう間を置かず、かつ悠々と早口にならぬよう詰めていく。

 

「最初の段階で俺を追放して白だった場合、決定権を持つDクラスからの心証は最悪だ。次に追放されるのは言い出した葛城君になるだろうね」

 

「だが、それは今回においても同じことじゃないのか? 仮に高辻を追放できたとしても、まだ6回目の話し合いが残っているだろう」

 

 神崎君の言う通り、俺たちは後2回生徒を追放することができる。俺が白だった場合、最後の話し合いで葛城君が追放されるのは確実だ。

 

「それでもいいんだよ。だって、葛城君は裏切り者じゃないんだから」

 

「……まさか」

 

 その言葉で結論にたどり着いたのだろう。神崎君は目を見開いて小さく呟いた。

 

「恐らく裏切り者は葛城君以外のAクラスの生徒……西川さん、的場君のどっちかだろうね。葛城君にとっては、俺を先に追放するか、葛城君を先に追放するかなんてどっちでも良かったんじゃないかな?」

 

 葛城君の表情が一瞬歪んだのを確認し、内心ほくそ笑みつつもそれを面に出すことはしない。

 一体葛城君は今どう思っているのだろうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()言い負かされている現状を。

 

「っ……」

 

「君の敗因は善良な市民を演じ過ぎたことだね。人狼を勝利へと導く狂人なら、もう少し自分が疑われるように動かないといけなかった」

 

「違う……」

 

「はたまた、途中までは本当に市民だったのかな? クラスメイトが適当に指名したら当たってしまって、それを後から知ったとか。……ああは言いつつも、正直桔梗ちゃんが裏切ったとは思えないし」

 

「違う!」

 

 俺の言葉を遮ったのは、葛城君の怒声と机を叩く音だった。

 左に座るひよりちゃんが肩を震わせたのが目に映る。まったく、可愛い子を驚かせないでほしいものだ。

 

「……すまない。少し、取り乱した……」

 

 自身に向けられる視線から、しでかしたことの重大さを認識したのだろう。

 奥歯を砕かんとばかりに歯を食いしばって、途切れ途切れに謝罪の言葉を口にした。

 

 うーん。何とも後味が悪い結末だ。こいつ絶対良い奴だし。

 余計な首ツッコまなかったらサクッと介錯してあげたんだけど。優秀故の不幸って感じかな。ほら、格闘技の試合で、実力が近い者同士の方が大きな怪我に繋がりやすい話と同じでさ。

 

「……堀北さん」

 

 そんな中、突如として平田君が堀北さんの名前を呼んだ。

 

「ええ。タイミングを間違えたのは私たちも同じようね」

 

 脈絡のない呼びかけに対しても、堀北さんは疑問を呈することなく、おもむろにスマホを取り出した。

 

「まずは謝罪させて頂戴、特に葛城君」

 

 そんな、今までの堀北さんだったら絶対に言わないであろう言葉と共に、机の上に置かれたスマホ。

 

「……なんだ」

 

「私たちは、裏切り者の正体を知っていたの。本当はもっと泳がせて情報を得るつもりだったけど、まさかここまで口が回るとは思ってもみなかったわ」

 

 疑問符を浮かべる生徒たちの視線を受けつつ、堀北さんは机の中心にスマホを持っていき、画面に映っていた再生をタップした。

 暗転したままの画面から、ザーザーとしたノイズが流れてくる。

 

『よろしかったのですか? あんなに早いタイミングで指名をしてしまって』

 

 少し遅れて聞こえてきたのは、学校の生徒の中で最も聞きなれているであろう、女の子の声だった。

 

「これは……!」

 

 声の主の正体に気が付いたのか、神崎君がこちらに……

 

「……高辻君」

 

 正確には、隣に座るひよりちゃんに視線を向けた。

 

『まあね。アリバイ作りはもう済ませたから、後はただの出来レースだよ』

 

 そして、遅れて聞こえてきたのは、紛うことなき俺の声だった。

 

『解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける……そうは言いつつも、私が高辻君のスマホを使ったところで、証明なんてできない。よく考え付きましたね』

 

『……どっちかっていうと、初日に桔梗ちゃんが優待者だって見抜いた方が凄くない?』

 

『あっ、そうですよね。でも高辻君なら簡単にできてしまいそうですし、どっちも凄いと思います!』

 

『……そっか。ありがと』

 

 そこまで再生して、堀北さんはスマホを閉じた。……絶対最後の照れてる所いらないだろ。

 

「……」

 

 堀北さんを無言で見つめる俺の口元には、先ほどのような笑みは張り付いていなかった。

 対照的に堀北さんの口元には、小さな意地の悪い笑みが浮かべられている。

 

「今回はどんな言い訳を聞かせてくれるのかしら?」

 

 

 

 





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どこを重点的に見たいですか?(ヒロインは1章ごとに1,2人増やす予定です)

  • 主人公とヒロインの絡み
  • 主人公と龍園、綾小路等との絡み
  • バチバチのクラス間闘争
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