「お前、うちはとか言う割には気難しくないんだな」
「ふん、一族の他の奴らとは一緒にするな」
「なかなか独特だな」
夏の熱気に目の前の炎の熱気が重なり汗が滝のように流れる。彼らキョウナ班の三人はあの下忍試験から一日をおいて明日からの任務に備えるため、そして全員の下忍昇格を祝うために木の葉某所の焼肉屋に来ていた。正午の焼肉屋というものは食欲を脳みそから刺激してくるようで三人ともあり得ないほど食いまくっていた。
「くあぁ、やっぱホルモンとコーラが最高だ」
ミズナの皿は十歳らしくなく大量のホルモンが並べられていた。それを口いっぱいにほおばったと思えば手元のコーラを一気にがぶ飲みする。
「お前、食うの早すぎだろ。それにどんだけ食ってんだよ」
「お前もたいがいだけどな!」
カガミがミズナにそういうとシンゾウがカガミの食べた量を思ってそう叫ぶ。唯一常人並みの食欲で食べる速度であったシンゾウはこの二人の異様な食欲と速度に驚きを隠せない。何なら軽い劣等感すら抱くほどである。
「まあ、忍者たるもの食える時に食っとかなきゃな」
「それに早く食べれるほうが任務中にも便利だろ」
「いや、まあ、そうだけどさ」
シンゾウとてそんなことは百も承知である。そしてやっぱり二対一となれば自分がおかしい気がしてくる。
「ママ―、あの人たちお皿が山みたいに積んであるよ」
「こら、人のことをとやかく言うのはやめなさい」
近くを通った小さい女の子とその母親との会話が耳に入ってカガミとミズナは少しきまづくなって目を合わせ苦笑する。対してシンゾウはやっぱり自分は常人だとほっと一息をこぼす。三人の間には絶妙な空気が流れている。
「みんな―、まったー?」
その空気をぶった切るようにやはり今日も高いテンションでキョウナがやってきた。キョウナももともと一緒に来るはずだったのだが急用で遅くなる、とミズナから伝えられていた。
「いや、そんなに待ってないですよ」
「え? そんないっぱい食べた形跡があるのに? まあミズナはいっぱい食べるとしてカガミ君とシンゾウ君もそんな食べるの?」
「僕じゃないです!! こいつだけです!!」
一緒にされたくないのか必死に否定するシンゾウが面白かったのかキョウナはそれを聞いて爆笑している。対してカガミとミズナはまたも目を合わせて苦笑していた。
「あ、そうだ。一つ聞きたいことがあって」
ある程度静かになってキョウナの注文が終わったころにカガミがそうきりだした。
「ミズナとキョウナさんってどういう関係なんですか? 今日のキョウナさんが遅れるっていう報告もミズナから聞きましたけど… 同じ一族ってだけですか?」
「あー、こいつ? ただの妹だよ。愚妹だな!」
「は?」
「愚妹」を強調したキョウナにミズナが口喧嘩を吹っかけて二人の間には剣呑な雰囲気が漂う。それとは関係なしにカガミとシンゾウは驚きと納得の念を浮かべ、双方に顔を見あって同じ考えを持っていると確認しあっていた。
「ていうか、そもそもあんたらもさあ…」
「いいよ、いいよ。もういいって。あーミズナさんってすごく優秀ですよねー」
ちょっとした怒りの矛先が自分たちに向きそうになっていることに気づいたカガミはとりあえずミズナを褒めて矛先が向かないようにしてみる。
「思ってもないようなこと言うなよ!」
ただし、逆効果だったようだが。
「カガミ君とミズナってもともとあんな感じだったの?」
なぜかちょっと叱られているカガミを横目にキョウナはシンゾウに尋ねる。
「僕もあんまり知らないんですけど… 少なくともこんな感じではなかったと思いますよ」
「お前もだぞ!」
「え?」
知らぬ間にミズナの矛先はシンゾウにも向けられていた。困惑の声とともにミズナからよくわからない愚痴を聞かされる。
「へえ。もともと変わった妹だとは思ってたけど… まあ仲いい子ができたならいっかなー。それにあの子の成長もまじかで見られる。あー、無理して頼んでまでこの役職についてよかったー」
二人に聞こえないほどの、あるいは声にすら出していないほどの心の叫びとともにどこかうれしそうな表情でキョウナは自らの部下となった三人を見つめていた。
「お前ら、気を引き締めていくぞ」
キョウナが木の葉の上忍らしい真剣な口調で言う。昨日までのおちゃらけた雰囲気など一切感じさせないほどだ。
「はい」
そのような雰囲気となればおのずと班員たちも真剣な雰囲気となっていく。
彼らが今いるのは木の葉の門の前、大きな「あ」と「ん」というに文字が書かれあまたの忍者たちを送り出してきた。ここから出るということは木の葉のために己の身を危険にさらす、ということであり死というものは単純な自己責任へとなり替わる。そのことを改めて認識しつつカガミは今回の任務を思い出す。
今回の任務は木の葉の里から草隠れへと支援を行う基地への物資の輸送である。岩と木の葉は直接的には戦争はしておらずあくまで代理戦争であるため危険度としては低いがそれでも本来は少なくとも中忍以上が行うはずの任務である。しかしそんな任務も下忍になったばかりの子供にやらせるほどには人手不足も深刻化している。もちろん下忍でも行えるという判断のもとでの任務であり危険度は非常に低いが。
「でも… こんないっぱい持ってかなきゃいけないですか?」
カガミが山積みの物資を巨大な荷車に乗せる作業を横目にそう尋ねる。なおその作業を行っているのも所謂一般人である。
「あぁ。もちろん馬とかエンジンとかそんなので通行できるほど道は整ってないから手押しでな」
キョウナ班の面々はさわやかにそう言い切るキョウナへと無言の驚愕と抗議の視線を送る。
「あぁ、あと私はあたりを俯瞰して索敵しなきゃいけないから君らで運んでね」
「えー」という不満の表情でキョウナを見つめる。
「ふっ。でもあんたらまともに索敵、できないでしょ。もしも何かあったらすぐに駆け付けて教えてあげるから、そこは安心しなさいよね」
「まあ、そうか。」と多少の納得と仕方なさを覚えながら任務に向けて気持ちを整えていく。初めての任務であり、初めての里の外への任務だった。緊張で震える手を押さえつけながらカガミは荷積み作業が終わるのを待つ。
正午、太陽が頂点に達しやはり夏らしい熱気を届けているころ。
「はー、はー」
規則正しく息をして体に流すチャクラを整える。巨大な荷車は見た目の割にはかなり軽く拍子抜けするほどだった。一人だけでもチャクラによる身体強化を行えば十分に運べるほどだった。だがそれでも長距離を一人で、というわけにはいかないので三人で時間ごとに担当を決めて運ぶようにしていた。
もう輸送路も中腹に差し掛かりもう任務も二日目に突入しており定期的に連絡を取りに来ているキョウナの話ではもう今日中には拠点まで到着する予定であるらしい。
「飛べ!!」
キョウナの怒声が聞こえカガミたちは一斉に飛んで先ほどの場所と距離をとる。そしてまさに間一髪というタイミングでクナイが先ほどの場所に突き刺さる。
「岩の奴らだ。大方支援ルートの破壊を目的に任務でも行っているのだろう」
キョウナが森の中から姿を現した大柄の男三人組を見てそういう。
「お前ら、これが意味することが分かるのか」
カガミが警告の意を込めて岩の忍者にそう尋ねる。
「もちろん。承知も承知だ」
バカにするように真ん中のひときわ大柄な男がこたえる。彼が襲撃を敢行した小隊のリーダー格のようである。
その言葉が言い終わった直後であろうか、キョウナは一気にリーダー格の男へ距離を詰める。その眼は赤く輝いておりリーダー格の男とその眼を見つめ合わせる。距離を詰めた勢いのまま強烈な一撃をリーダー格の男へと繰り出し後方へ大きく飛ばす。しかし、手ごたえを感じなかったのか、その男を追って森へと入る。
「お前ら、残されちめってねぇ」
子供をバカにするかのように残りの二人がカガミたちにニヤニヤとした表情を崩さないまま自らの武器である忍び刀を取り出す。
「でもよお、手加減なんてできねぇよなぁ」
その言葉を合図に岩隠れの忍びが一気にカガミとシンゾウの懐に入りその刀を振りぬく。
「火遁・豪火球の術」
それをよけられたという信頼のもと唯一敵が来ない後方に位置していたミズナがすばやく印を結ぶ。それによって生じた強大な炎の球が岩隠れの忍びたちのいた場所を焼き払う。何とか先ほどの攻撃をよけきれたカガミとシンゾウを見て安堵する。しかし…
「なんだよ、こんなやわっちぃ火遁ごときで俺たちをヤれるとでも思ってんのか? 木の葉もおちたなぁ」
「その速度で土流壁を?」
土流壁が豪火球の攻撃を完全に受けきりほとんど無傷である状態を見てシンゾウは驚きを隠せない。
カガミが横の二人に何かを耳打ちする。
三人でまとまって片方の忍者へと詰め寄る。しかし彼らのクナイによる攻撃はすべて見切られてしまう。クナイを横に振っても縦に振ってもすぐにすべてよけられてしまうし、よけたところをもう一人が狙ってもそれもすぐによけられる。それに加え面白そうに見守るもう一人の忍びもまだいる。
幾度とないクナイと忍び刀のぶつかり合いは三対一であるにもかかわらず明らかに岩隠れの忍び有利で運ばれていた。渾身の一発としてクナイを振りぬきいたカガミはそれをあっけなく躱され体勢を崩してしまう。それを見たもう片方の忍びは「待ってました!」といわんばかりに楽しそうな表情で一気にカガミのもとへと走り出す。雲隠れにとって絶対的な優勢である。故に生まれる、「慢心」
「風遁・裂空覇!」
その忍びの前に現れたのは待ってましたと言わんばかりの表情で現れたシンゾウだった。シンゾウは手に風遁をまとわせ、がら空きになった腹にめがけて会心の一撃をはなつ。
「ぐはぁっ」
その忍びが悲痛な声を漏らすと風遁の風の流れに任され後方へと飛ばされる。
「風遁・疾風檻」
シンゾウが追い打ちとばかりにその術をかけその忍びを囲むように五角形に形作られた檻が出現し上空から地面に向かって強烈な風が吹いていく。段々と押しつぶされていくその忍びは打開策を見出すために何とかあがこうとするもそれはただ寿命を削っていくのみである。
「ひゃっはっは。あいつを無力化するなんてな。でも三人でもダメだったのに二人ぽっちで勝てるのかなぁ?」
再びあおるようにカガミとミズナが近接戦を繰り広げる忍びが二人を蹴飛ばし距離をとってからそう尋ねる。
しかしカガミとミズナはそんな言葉など気にも留めずに同時に走りだす。クナイを振って蹴りを入れ殴りも入れる。タイミングをうまく合わせて交代を繰り返すことでずっと相手を受け身に回させることができており一見有利な状態である。
「だからぁ、いみねぇんだって言ってるだろぉが」
激高した様子の岩隠れのものはカガミの攻撃などは全く気にせずに無視して交代したミズナを狙って一撃を加える。
「はぁっ」
ミズナは直撃を確信していたがそれが彼女に伝わることはなかった。
「カガミ!」
カガミが代わりとなってその攻撃を受けたためであった。
「そ、そんな」
冷静さを失ったように目を大きく見開いてその場に膝から倒れこむ。
「はー、残念、で、し、たー」
岩隠れは大きく刀を振り下ろしカガミの体を蹴り上げてミズナへとそれを振り下ろす。
「天泣」
その時倒れこんでいたカガミがその忍へと太い水の針を口から繰り出す。その針はその忍の胸あたりに突き刺さり岩の忍者をのけぞらせる。そのすきに起き上がったカガミは思いっきり首をクナイで切り裂きその忍を蹴飛ばす。
「お前、もし俺が死んでもスキは絶対見せるなよ」
味方と敵その双方へとカガミが言う。
「すまない。もう二度としない」
立ち上がったミズナの目は二つの巴が赤く光っていた。
「さすがは『狂眼のキョウナ』と呼ばれるだけのことはある。俺はその醍醐味こそ味わえないけどな」
「なるほど。お前のことはどっかで見たことがあると思ってた。その謎は解けたが」
キョウナは写輪眼を保ったままクナイを両手に構え攻撃に備える。岩の男の目とその写輪眼とが視線を重ねあっても何も起こらない。
「『盲目のヤスリ』忍界随一の感知タイプ、そのその実力は素直に認めよう」
『盲目のヤスリ』それがこの岩の男の正体だった。その二つ名が示す通りヤスリは盲目である。しかし、それを補って余りあるほどに彼は才能で満ち溢れていた。ヤスリの感知タイプとしての素質は忍界でも有数でチャクラを感じることで正確な位置関係や動きを知ることができた。それに加えて研ぎ澄まされた四感もその正確性に拍車をかけている。その勇名は他国にまでとどろくほどである。
キョウナは相手の実力を再確認しながら闘志を燃やす。そして息を整え前方へと駆ける。それに合わせヤスリはすばやく印を結び術を展開する。
「水遁・水龍弾の術」
龍がかたどられた巨大な水の球は正確にキョウナのいた場所に飛んでいく。本当に盲目とは思えないほどの空間認知能力である。
「水のないところでこれほどの水遁とはな」
危機一髪といった形でそれをよけきったキョウナはそれを称賛する。水遁の術は基本的に水のある場所で用いられ水のない場所では成功させるのがとても難しい。しかし先ほどのものは水のある場所でやったとしても強力な術者であると思わせるほどの者であり改めてその実力を見せつけられる形となった。
「火遁・豪火球の術」
「水遁・水龍弾の術」
よけきったキョウナはすぐに印を結び豪火球の術を発動する。それを予期していたヤスリはすでに印を結び終えていたようで先ほどと同じ術をすぐに発動させる。強力な二つの術がぶつかり合い強い爆風が吹き荒れる。
「はあ」
それに乗じてキョウナは一気に詰め寄り両手に握ったクナイによる近接戦を仕掛ける。それをしっかりと感じ取っていたヤスリは何とかそれに対応する。しかし近接戦はヤスリにとって不利となる。ヤスリが感じられるのは体の動きのみでありそれをすぐに感じて反応するということは非常に難しくヤスリとしても何かをトリガーにして一気に後手後手となってしまう可能性もあった。
キョウナはクナイを武器としてヤスリと一進一退の勝負を繰り広げる。キョウナの攻撃をヤスリが防御し今度はヤスリが攻撃しキョウナが守る。それを繰り返し互いに突破口を探っていく。
キョウナはヤスリの攻撃を受けて蹴りで距離を少し広げる。するとクナイにチャクラをこめてそれを火遁に性質変化させ距離を詰めてヤスリに切りかかる。ヤスリはそのクナイの攻撃を止めるため距離を詰めてきたキョウナの右手の手首を握り動かせないようにする。そしてキョウナの左手が腹に向かって何かを突き刺すように動いていることを感じそれを防ぐためのタイミングをとる。しかし…
「ぐはぁ」
彼の腹が何かで突かれた。しかしクナイにしては手とそれとの距離は大きすぎた。なにがなんだかわからぬうちに怯んだ彼はキョウナのチャクラが込められたクナイで心臓を貫かれる。キョウナはそのクナイについた血をふき取りヤスリの腹に貫かれた刀を見つめる。キョウナはクナイではなく刀を左手に持っていたのだ。クナイよりも柄の長い刀であることは盲目であるヤスリは気づかなかったのだ。
ヤスリの死を確認したキョウナは自身の体についた傷を確認し班員たちの無事を祈りながら貨物のあった場所へと戻っていく。