「早く退院してえな」
「そうだな」
「ほんとにね」
カーテンから漏れた暑い太陽の日差しが目にあたり窮屈そうにベッドでもじもじと位置をずらしながらカガミたちキョウナ班の三人はそう嘆く。
数日前の岩隠れの忍との戦闘でけがを負った彼らはけがの療養のため入院することとなっていた。けががそこまでひどくなかったシンゾウとミズナは今日中には退院できる予定ではあるがカガミはかなり深い傷を負っておりあと数日の間の入院は確定している。
「ミーン、ミーン」というセミの鳴き声を聞きながら段々気持ちよくなってきて眠りに落ちていく。冷房で冷やされた空気と暖かい布団の組み合わせは冬にこたつに入ってアイスを食べる、という行為レベルで完璧なものである。
「ミズナー大丈夫だったかー」
急に扉があく音とその大声が響いてカガミは眠気を飛ばしてビクンとして起きる。その声の主はなにやらゴーグルをした黒髪の同世代らしき男だった。
「オビトか。どうしたこんなとこまで」
「どうしたもこうしたもお前がケガしたていうから… てかお前なんか知らねぇけど写輪眼出てきたんだろ? ちょっと見せてくれよ!」
「そんなことのために出すわけないだろ」
オビトと呼ばれたその男はミズナのもとへと駆け寄っていきミズナと楽しそうにしゃべっている。
「あ、そうだ。お前らがミズナと一緒に組んでるやつだよな? 俺はうちはオビト。将来火影になる男だ!」
オビトは急に両脇で眠っているシンゾウとカガミのほうを向いてそのようなことを言った。それを聞いてカガミは元気な奴だと思いながらその少年に微笑む。
「なんで笑ってんだよ。そんな面白いか? 俺の夢が」
「そんなことないさ。きっとなれるよ。お前なら。勘だけどな」
カガミはとっさに誤解を解くようにそう口にしたが改めて考えてみれば確かにな、と思う。オビトの持つ何かというものがとても尊いものではないのかという気がしてくるのだ。
「ありがとよ。でもお前がもしも火影になりたくなってもぜってえ容赦なんかしねえからな」
「はは。もしそうなったらオレも全力でお前をぶちのめしてやるよ」
「望むところだ」
カガミは何やら面白い奴と出会えたと思い頬をゆるめる。それにシンゾウは「こいつ意外と人づきあいできるじゃないか」と思い目を丸くして驚いていた。
「楽しそうな友達ができてよかったな」
オビトとカガミどちらへ言っているのかは定かではないが後ろでミズナはそうつぶやいた。
夏の暑い風が彼らの出会いを祝福するように病室中に吹き荒れる。
「さーて。まずは中忍昇格おめでとう!」
キョウナは中忍昇格を伝える辞令を抱えるカガミに向かってそう言った。カガミ以外のキョウナ班の面々も中忍昇格を果たしており現在は各々修行を積みより危険な任務へと取り組むための力を養っている。
「それでカガミも知っての通り先の交戦によって岩と木の葉は正式に戦争状態に入った。状況によっては中忍に昇格した君たちも前線に送られる可能性がある」
真剣な口調でキョウナはカガミにそう伝える。直接的には戦争をしていなかった木の葉が戦争状態に入ったということは今以上に忍者が争いの場へと赴くことが多くなるということだ。そして実際の戦闘で結果を残したキョウナ班の面々はなおさらその可能性は高くなっている。
「はい。わかっています」
「それで色々教えなきゃいけないことがあるんだけど… 取り合えず口寄せの術って知ってる?」
「はい。知ってます」
口寄せの術は中忍レベルの取得難易度でそこまで難しくないためカガミも覚えている。彼の場合は主に武器の口寄せや簡単な治療を行うための道具などを口寄せすることが多い。
「じゃあ、なにか動物とかと契約はしてる?」
「いや、してないです」
「あー。そうなのね」
キョウナはその返答を聞くと親指を口で切って足元へとその手を押し付ける。すると煙がモワモワと出てくる。
「カー。カー。ナニ、ドウシタノ」
そして何やら片言気味の声が聞こえてくる。誰の声だとあたりを見渡しても人の姿は見当たらない。
「ここだよ、ここ」
キョウナが何やら上を指さしていたのでその先を見つめるとそこにいたのは一羽のカラスだった。
「もしよかったらでいいんだけど、こいつと契約しとかない? 一応言葉も喋れて便利だよ」
「『モノ』アツカイスルナ!」
「ごめんねー」
そのカラスとキョウナの会話に置いて行かれるのはカガミである。急に出てきた謎のしゃべれる鳥について何も知らないまま契約がなんだといわれても理解は追いつかない。
「それで、どう? こいつとの契約は」
キョウナが改めてそう尋ねる。
「まあ、しましょうか」
いまいちよくわかってはいないがとりあえず戦時中ということもあり使えるものは使えるようにしておきたいカガミはそれにうなずく。
「じゃあ、決まりだな。てかカー吉もいいよな」
「イイヨ~」
カー吉というらしいそのカラスの気の抜けた返事を聞いてカガミもなんだか気が緩む。カー吉はカガミの目の前に降り立つと「ハヤク」といって契約をせかし始めた。するとキョウナが何も書かれていない巻物を取り出してそこに口寄せの印を結び血をつけたてを押し当てろ、と指示する。
カガミは印を結び親指を噛んで血を流す。そしてそのまま手を巻物に押し付け特殊な陣が紙の上に浮かび上がる。その陣には三本の足のカラスが書かれていた。その横に自分の名前を書くように指示を受けキョウナが取り出した筆で「おおやカガミ」と丁寧に名前を書く。それが書き終わるとカー吉が自身の足を三本足のカラスの文様のところに押し付ける。するとカガミの名が書かれた反対側に何か読めない字で何かが浮かび上がった。
「これは?」
不思議に思ったカガミがそれについて問う。
「カラスの言葉よ。カー吉なんてのは私たちが勝手につけた名前で本当の名前もあるんだけどそもそも発音の仕方もカラスと人間で違ってね、呼びずらいからそうやって読んでるだけなんだよね。それでそのぐちゃぐちゃしたのがカラスの文字で書かれたカー吉の本名ってわけ」
なるほど、と納得しながらカラスが独自の言葉を持っているということに対しての驚きは大きい。
「お前、自分の言葉持ってるの?」
「ソウ、ソウ。スゴイデショ」
いつの間にかカガミの肩に乗って人懐っこくくちばしでカガミの耳をつつきながら胸を張るようにして自賛する。調子乗りすぎだろ、と思わなくもないがそれもどこかかわいく見えてくるカガミだった。
夏の暑さはとうに消え秋が姿を消し始める初冬のころ。冷たい風と数センチほど積もった雪をかき分けながらカガミは訓練場へと向かっていた。戦争はだんだんと激しさを増しておりカガミたちも段々と国境に近い箇所での任務を行うことが増えてきた。
「遅いぞ」
やっと着いたと思っていると先についていたらしいミズナに少し怒られる。
「悪いな。で、シンゾウは?」
謝罪しつつあたりを見渡してもシンゾウの姿は見えない。いつもなら数人程度入ることが多いこの訓練場も雪の影響かはたまた戦争の影響かミズナとカガミ以外に人は見えない。
「まあ、そろそろ来るんじゃない?」
後ろの時計を指さしながらミズナはそういう。その時計は朝の五時を示していて約束よりも一時間ほど早い。思えばシンゾウが来るのはいつも集合の丁度十分前だった。つまりまだ家でごろごろしているだろうということである。
「青春してるなー!」
「うわぁっ」
背後から謎の声が聞こえてびっくりして飛び上がる。振り返ってみると全身緑色のタイツをはいた変態がいた。
「お前、どっかで見たことあるような… ないような…」
「俺は木の葉の気高き碧い猛獣、マイト・ガイだ!」
カガミはその名前を聞いて思い出す。同級生にそんな感じの奴がいたことを。正直戦争が近いこともあり同学年が、ということは少なかったがどこかで見たことがある気がする。
「その額当て、お前たちも木の葉の忍者か!」
「ああ、そうだが… なんだ。君もか」
ガイをよく見てみると腰のところに額当てが巻いてある。そしてよく見るからこそとんでもない量の汗がタイツにしみわたっていることもよく理解できた。かなり寒い今の時期にそれほどの鍛錬を積んでいる――しかも朝の五時の段階でこれである――ということに尊敬や驚愕を超えて恐怖まで覚え始めていた。
「私はうちはミズナ」
「オレはおおやカガミだ。よろしくな」
「おお! よろしくな! ミズナとカガミ!!」
「はっ」
風を切る音と漏れた声がリズムよくなり続けカガミとガイの組手は互角のまま戦局は平行線をたどったままだった。その状態を打破しようとガイはタイミングをずらして少し力をためて拳をカガミの腹へと運ぶ。カガミはそれをよけると同時にガイに前へと押すイメージで力を加えガイの体勢を崩させる。そしてそのまま一撃を加えてガイは倒れこんでしまった。
「勝てたー。ぎりぎりだったな」
カガミが気を緩めてガイと周りで見守っていたミズナとシンゾウへと言う。ガイは全身緑タイツという何とも絶妙な格好をしているがその実力はなかなかのものでカガミも油断しているとやられてしまいそうなほどだった。
「ほんとにね」
シンゾウがその言葉に観戦者として共感しながら腕を回して組手の用意を始める。
カガミたちの一日は始まったばかりだ。