オフサイドトラップ
サイレンススズカ
ダンツシアトル
11月1日、その日の東京・府中レース場には青空が広がっていた。レース場からは、異様な雰囲気が漂っていた。そしてそれは、最寄りの駅でもある府中競バ正門前駅を降りたばかりのダンツシアトルもすぐに分かった。
今日は、G1レースであるウマ娘トップリーグ・天皇賞(秋)の開催日である。ウマ娘トップリーグ(UTR)は、世界ウマ娘文化交流機構(WUO)が管理する幾つかのリーグの中でも最上位で、このレースは現役の指定トレセン学園に在籍している超一流のウマ娘しか出走資格がない。無論そのレベルは世界の中でトップでありヒトとウマ娘の交流の場の一つとしてウマ娘だけではなくヒトの間でも人気なリーグである。そのため、いつもー特に平日は閑散としている正門駅は多くの人でごった返していた。今ここにいる人の7割、いや8割近くはとあるものを見ようと詰め掛けている。それは、これまでもそしてこれからも見ることができない大偉業。サイレンススズカの大逃げだ。彼女は大逃げをするウマ娘として知られている。彼女はUTR参戦後、しばらくはレースを勝ち切ることができなかった。しかし、チームスピカに移籍してからは持ち前のスピードを生かした「大逃げ」をするようになりデビューから一年後のUTR・バレンタインSの勝利を皮切りに数々の重賞レースを「逃げて」勝ってきた。そして今年の6月には悲願のGⅠ制覇を宝塚記念で達成し先月の毎日王冠では、最強留学生と謳われていたエルコンドルパサーを下している。そんなこともあって、この天皇賞秋ではサイレンススズカはぶっちぎりの1番人気に支持され、サイレンススズカが勝つのは当然、後続に何馬身差で勝つのか、どれくらいのタイムレコードを出すのかという認識を持っているファンも少なくなかった。
時刻が15時を回ってしばらくしたころ馬場にこの天皇賞の出走するウマ娘たちが登場してきた。1番ゲートのサイレンススズカはその人気の高さもあってか、一番最後に登場するらしい。ダンツシアトルは観客席の最前列におり、ウマ娘たちの姿をよく見ることができた。ダンツシアトルはサイレンススズカの大逃げを見るのはもちろん、もう一つの目的があってここにやってきた。
ー「UTRデビューから6年を経て重賞を連勝。生涯最大の罠を仕掛けます、オフサイドトラップです。」というアナウンスが流れた。そう、ダンツシアトルはこのオフサイドトラップの恐らくは最後になるであろう勇姿を見に来たのだ。オフサイドトラップ。彼女はUTRにデビューしてから6年もたっている大先輩ウマ娘だ。通常ウマ娘は自身の能力の成長とその衰えから平均的に4~5年UTRに所属している。また、怪我や病気で1~2年でUTRを脱退するウマ娘も少なくない。そのうえUTRの中でも最高レベルであるGⅠレース。そんなレースにオフサイドトラップのような年長者が出ることは珍しい。ましては、GⅠレースに勝利など至難の技である。実際、この天皇賞においてデビュー6年以上で勝ったウマ娘はいない。ではなぜ、オフサイドトラップはデビューから6年もたってるのに未だにUTRに加盟しているのか、そしてGⅠレースでもある天皇賞に臨むのか。