The  Fluctuating Knight   作:雪宮春夏

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 このままだとまた止まりそうなので出来ているところまででも投稿します。
 雪宮春夏です。

 書きたいところと着地点は見えているのに、そこにつくための経路が分からず迷子になっているので、しばらく停滞するかもしれませんが、良ければ気長に待って貰えると嬉しいです。

 それではどうぞご覧ください。



ⅩⅣ 遼太郎、鋭二、加えてアリス

「おい! どういう意味だよ! そりゃあ!!」

 詰め寄る遼太郎に対して、鋭二はやや面倒臭そうに言葉を投げつける。

「うるさい。黙れ……そんなことを話すよりも今は、やることがあるだろう」

「やることだぁ?」

 本当に理解できないのか首を傾げている遼太郎に、思わず鋭二は溜息を漏らした。

「少なくとも百……いや、三百はいるぞ」

「……いるって、何がだよ?」

 首を傾げて問いかける当人は、どうやら本当に分かっていないらしい。

 嘘だろうと思わず頭を抱えたくなる衝動と戦いながらも、鋭二は自らの探知したこの空間の実体を、目の前の男に打ち明けた。

「人間だ……少なくとも、ここには三百人近くの生命体反応を感じる。明らかに、生身の人間が存在できない程の面積の中にだ」

 

 転倒事故、と言うのを聞いたことはあるだろうか。

 転倒と言われて、まず思い浮かべるのはどこにでもある、ありきたりな一人の存在がこてんと転ぶ、そんな情景だろう。

 しかし今、後沢鋭二が危惧するそれは、一人が広い道ばたで転ぶような代物でなく、ごく狭い限られた面積で、その面積におさまりきらない大量の人間が詰め込まれた際の危険性としてあげられる事例であった。

「このままの状態を放置すれば、命の危険に陥る対象が出てくる事は間違いない……何故俺達二人が弾かれ、意識を取り戻しているのか、それとも何らかの要因で意識を取り戻したからこそ、俺達二人が弾かれたのか、詳細は分からないが、このまま放置することは出来ないだろう」

「そりゃあそうだ。下手したらエギルの野郎も……って、それだけじゃねぇ! あいつは、キリト達は大丈夫なのか!?」

 矢継ぎ早に行われる問いかけに、こちらの表情にも苦渋が走る。

「分からん。気配が混線しすぎているのもあるが、エギル以外は皆()()()()()だろう? 判別は不可能だ」

 暗にセーラークリスタル以外の……星の力を持たないスターシードの判別は出来ないと、打ち明けられて、遼太郎は項垂れる。

「どうすりゃあ良いんだよ……」

 良策を思いつけないのだろう。元々前世から火力で力押しをする癖の強い遼太郎は昔のようにこちらに意見を仰いでくるが、手詰まりなのはこちらも同じだ。

 自分達二人だけという人員不足もそうだが、敵の力の予測がつかない所も致命的だった。

「闇の力と、一言に決めつけるのは早計に思う。まず……俺達二人が無事であるのにたいして、ダフニスだけが見つからない基準が分からない」

「分かる必要あんのか? やること変わんねぇだろう?」

 方法は思いつかなくても見捨てるという選択肢は端から無いのか、さも当然と言い放つ遼太郎に、思わず溜息を零した。

「いいか、放置することで命の危険がある以上、早急な事態の打開が求められる。ここまでは良いな?」

 説明しようとすることで、自然と口調が改まった鋭二に、遼太郎も思わず姿勢を正した。

「火力のゴリ押しで無理矢理空間内に亀裂を作り破壊するという方法も出来なくもないが、それでは囚われている人間全員が巻き添えになり、命を落とす。護りに回せる人員が十分にいれば結界を張ることも考えられたが二人ではそれも難しい。だいたい全体に詰め込まれている密度を考えれば犠牲を出さずに穴を開けられる隙間が無い」

「じゃあ、どうするんだよ?」

 殊更丁寧に並べ立てられた打つ手がないという現状の把握に遼太郎の語尾は震える。

 単なる人間であろうとも、遼太郎やキリトにとっては大切な仲間だ。

 いや、アインクラッドでNPCですら生きていると言い切ったキリトにとっては、もう生命の定義の範囲はものすごく広くなっているかもしれないが、そこは置いておく。

「まずはダフニスを探す。そして囚われているようなら助け出す。あいつの地形操作で他の人間のことも助けられれば良いが、それができないならば個別に加護を施して強行突破するしかない」

「個別って、分かっているだけでも三百人はいるんだろう……!?」

「あぁ。肉体ごと埋まってくれていればいいんだが……」

 最後に何とも不可解かつ物騒な物言いをした鋭二だったが、そこでビクリと、動きが途切れた。

「おい?」

 途端に目つきを険しくする鋭二に問いかけた遼太郎だが、こちらもまた、側に流れてくる空気の揺らぎ……異変に感づく。

 言葉にするのはひどく難しいが、感覚的な感知能力によって、自分達以外の誰かの気配を感じ取ったのだ。

 単に合流できないほど離されていただけで、無事だったエギルが近づいてきている可能性はある。

 だがそれ以上に、自分達を捉えた敵が満を持して始末に動こうとしている可能性も高かった。

 思わず身構えるが、ここで遅まきながらこの場所が戦うにはひどくやりにくい場所であるのではないかと遼太郎は気づく。

 まず、この空間の強度が分からない以上、自分の力の乱発は出来ない。

 強すぎる火力で空間ごと破壊してしまえば、先刻鋭二が説明したように、ここに囚われているだろう人々にとどめをさす事になりかねない。

 かといって、どのような力を使うのか分からない敵に徒手空拳で挑むのも、危険性としては高すぎる。

(微弱な威力で調節しながら使うってのも、苦手だしなぁ……)

 参ったなと途方にくれるが、乱入者が待ってくれる事はないだろう。

 ままよと、足を踏み出した所で、ひょこりと現れた相手が、見知った顔である事に思わず踏み出した足でたたらを踏んでいた。

「……………なんで、アリス?」

 思わず遼太郎が零した言葉をどう受け取ったのか、彼女は不満げに目を細める。

「ほぅ。……誰ならば良かったのですか? クライン」

 何ともおかしな組み合わせとなった。

 それは間違いないだろう。

 

 

 星の力を秘めたスターシード……その最上位こそが、セーラークリスタルと呼ばれる、星を守る守護戦士達のもつ、スターシードである。

 一つの惑星に一人しかいない守護戦士に対して、鋭二や遼太郎のような星に守護される、力を持つ住人達は昔は多く存在していた。

 月と地球との間で争いが起こったあの当時、地球ではその力を持つ住人達も一様に戦士として懲役につかされたが、今は関係が無いので割愛する。

 第一王位継承者であったプリンス・エンディミオンを守る四天王も、地球内部由来とはいえ、そのような力を持つ住人達の一角であった。

 鋭二の持つ探知能力はその原理としては、人の持つ魂……フラクトライトやスターシードとそんな「力」の探知二つを組み合わせた複合型と言い表す事が出来る。

「なるほど……現状は分かりました」

 前世諸々は省いて、現状だけを説明すれば、アリスは何なりと理解した。

「……つまりお前の力では、エギルだけならば判別は出来るものの、後はそこに人がいるとしか分からないということですね」

 それに肯きで返す鋭二に、遼太郎は何とも表現しづらい顔をしていた。

 現状打開のため、人手が必要なのは分かっている。それがこちらの事情を何も知らないアリスである以上、状況の説明も必須なのも当然だ。 

 だが鋭二はあろうことか、自分の力のことしか喋っていない。……これでは異端の力を持つものが鋭二だけだと誤解されかねないではないか。

(分かっちゃあいるけど、そういう所だよなぁ。こいつも)

 古来より、人というのは自分と異なる相手をおそれる生き物だ。

 昔のあの戦争も、結局は、自分達とは寿命も力も異なる月の住人をおそれた地球の人々の心につけ込んだ、クイン・メタリアの謀略が始まりだった。

 アリス自身には幸い、鋭二に対しての負の感情は感じられない。

 だが、事が終わった後でアリスから事情を聞くであろう面々はどのような反応をするだろう。

 キリトやアスナといったSAO時代から遼太郎と面識がある相手ならば大丈夫と言えるかもしれない。

 だが、ラースの面々……特に前回、キリトの命を救うためという大義名分があったとしても、騙し討ちのような形で海上の船にまで拉致した菊岡に対しては、そこまで信用できるとは思えなかった。

 彼の同僚である比嘉健や神代凛子は遼太郎にはそこまで面識がないので同様とする。

「ではエギルを探すとして、具体的にはどうするのですか? どのような理由かは分からずとも、今のお前の「力」ではいないという事しか分からないのでしょう?」

 平然と、いつもの仲間に接する態度と何一つ変わらない様子で促すアリスに、遼太郎は思わず声を上げた。

「ちょっと待て! 何も言わねぇのかよ、なんか!!」

「何を言って欲しいのですか?」

 それはいつもと変わらない、一人の少女のままだと勘違いをしていたのだと、遼太郎はここに来てようやく気づく事となった。

「この男に特殊な力があることは理解しました。それが現状の打開に有益な物である可能性が高いことも。この男もその力を使うことに厭う様子はない。今の、この非常時にそれ以上の何に対する確認が必要ですか?」

 淡々と事実のように列挙される中で、アリスの瞳は煌々と燃えていた。

 そこにあったのは、紛れもなく怒りである。

 現状に対する十分な認識の持てない自分への、現状を打破する力を持たない自分への、それでも騎士として、生まれた世界で育てられてきたその精神は、立ち止まる事だけは彼女には許容しなかった。

「たとえお前達が述べているものが全て偽りであったとしても、力の無いこの世界の私にはそれに頼るしか今は道がありません。……それに」

 ついとクライン……遼太郎に向けた視線は、心なしかどこか綻んでいた。

「お前はキリトの仲間です。……信じる理由など、それ以外に必要ありませんよ」

 

 

 

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