The  Fluctuating Knight   作:雪宮春夏

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 二年以上も投稿に間が空いてしまいました。
 お久しぶりです、雪宮春夏です。
 少しずつでも書ける物から、だんだんと復活できたらと思います。
 


ⅩⅤ 作戦会議

 アリスとしても、彼らの足りなすぎる説明で全てを理解できたということは出来ない。

 この非常時の始まりも、妙に周りの大人がざわついている、程度の認識しかなかった。

 アリスの暮らしていたアンダーワールドでは、まだ月とは地上から見上げるだけの代物だったからだ。

 限界加速フェーズを終え、二百年の時を経た今のアンダーワールドではまた異なるだろうが、アリス個人としては、月に異変が起きたと言われても、何がどう大変なのか、いまいち実感が持てなかったということもある。

 しかしどこか他人事だった今朝までと違い、明確に何らかの悪意をもって巻き込まれた現在、アリスもまた、黙っている訳にはいかなくなったのである。

「俺達がいる捩れ空間は、一見四方八方どこにも壁のない、広大な空間に見えるが、実際はそこまでの広さはない」

 具体的な説明をと、求められた鋭二は、そもそもの前提から二人に話し始めた。

「視覚効果としては合わせ鏡に近いだろう。一見広大で果てがなく見えるがその実体は狭い。……ならば何故空間の果て……若しくは境界にたどり着けないかというと」

「すまん。要点だけ教えてくれ」

 早々に、遼太郎が白旗を上げた。

 元より遼太郎は理論的に思考する事が不得手であり、その場の勘で動くことも昔から多い。

 そのことがよく分かっている鋭二は溜息一つで言い放った。

「この空間はあたかも迷路のように歪み、曲がり繋がっている。俺達は同じ所をグルグルと回っているということだ」

「……は?」

 要点だけで話せば今度は理解そのものが追いつかなかったらしい。

 頭の周囲で疑問符が飛び交う様をはっきりと幻視してしまい、鋭二は最早溜息を隠すことも出来なかった。

「いや、いい。お前に現状を理解させようとしたこちらが間違っていた」

 明らかにさじを投げたと分かる対応に、やりとりから致し方なしと理解できるだけにアリスも思わず能面顔に変わっている。

「要するに、おそらくここには明確な出口も入り口も存在しない空間だ。今から俺が力を波状に放出して拡散させることで空間の形状を把握する。あいつが意識を保った状態でこの空間に囚われているならこちらの力の放出に気づき、何らかの反応を返してくるはずだ。以上」

「オイコラ。かなり行き当たりばったりじゃねぇか」

 思わずぼやいたのだろう遼太郎に、アリスが首を傾げると、溜息を零しながら補足する。

「空間に対して波状に放出して拡散させるってことはそれ相応の力を且つ、かなりの分量を空間内に注ぎ込むって事だろ? その分相応の放出量が必要って事だろうがよ。それだけの力を注ぎ続けるって事が今のお前に出来んのかよ? 仮に出来たとしても、この空間がそれだけの力の負荷に耐えきれると自信を持って言えるのかよ!?」

 その声音には、不器用ながらも、相手を案じるものが確かにある。

 それを自覚しながらも、立ち止まっている現状から、焦りを覚え始めていた鋭二だが、感情を抑えようとするように一息ついて、言葉を続ける。

「では他にどうしろと?」

 次善の策など考えついている筈のない遼太郎は言い淀むことしか出来ない。

 次善の策が無い以上、採用できる策として有用なのは鋭二のものである。それは遼太郎とて分かっていた。

 だが、その一方で仲間として彼の体を案じる遼太郎はそのような策は採りたくはないのだ。

「だいたい、これでエギルの奴が気づかなかったらどうするんだよ? お前のやり方じゃあくまでエギルの奴が自発的に行動するのを待つだけじゃねぇか。仮にあいつが何らかの理由で身動きがとれなかったりしたら」

「それならば、俺たちでこの現状を打開するしか無いだろう。身動きがとれないにしろ、この空間にいないにしろ、俺たちがやるべきことは変わらない」

 言い募る遼太郎を切って捨てた鋭二に、アリスはようやく口を挟んだ。

「ですが、もしエギルが不在であったら、具体的にはどうするのですか? お前達では数百人の無辜の民を巻き込む恐れがあるために、エギルの助けを必要としていたのでしょう?」

 ピタリと、今までうるさいくらいに騒がしかった遼太郎が言葉を止めた。

 鋭二も心なしか、僅かに言葉が遅れたように思う。

 そのアリスの疑念は、その直後、発せられた言葉で確信を抱かせた。

「そうだな。だが、巻き込むのを承知でやるしか方法は無くなる」

 彼は暗に、数百人の命を投げ捨てると、伝えたのだ。

「貴様は」

「でなきゃ、俺達も助からないからだ」

「おい! ちょっと落ち着けよ、えー……鋭二よぅ」

 目線を鋭く睨むアリスに、睨み返す鋭二。

 一触即発になりかねない状況に、遼太郎は思わず古馴染みの鋭二の方に冷静になるよう促す。

「こんな訳の分からない空間からはさっさと出てぇっていうおめぇの気持ちも分かるけどよぅ。いつもの冷静なおめぇらしくもねぇじゃねぇか。一から十まで力業って言うのは……そう言うのは俺やエギルの担当だろう?」

 暗に冷静になれと、窘められた当人は渋い顔でチッと舌を打つ。

「確かにエギルの奴の助けがあれば能力だけのごり押しも出来るだろうが、それが出来なくておいも第二、第三の策を考えて動くのがてめぇらだろうが。……なんかねぇのかよ?」

 肝心の最後で人任せにしかならない所は頼りがいがないが。

「第二、第三と言われても……不可能だ」

 やや間を置いてから、語り始めた鋭二はどこか悔しがるように、言葉を投げた。

「この空間はまず、敵によって作られた空間の可能性が高い……そして、敵が使っているのが、そこにいるアリスと同じ神聖術とやらなら、俺にはその術や構成する原理についての知識が無い」

「えっと……つまり分かんねぇからお前自身はお得意の搦め手やらが使えないので力業しかない、と」

「つまり……術や構成する原理についての知識があれば、力業以外の搦め手が使えると?……例えば」

 明確な出口や入り口を、新たに作る、とか。

「出来んだろ。俺達の中じゃ、術者としての才能が一番高いのはこいつだからな!」

 何故か自慢げに言い張る遼太郎に、可能性としては可能だがと、鋭二は言葉を続ける。

「そんなことをすればまず間違いなく、この空間を作った術者本人に、気づかれるが」

「それこそ、好都合では無いですか」

 敵対者を迎え撃つ戦士の顔でアリスは高らかに笑った。

 

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