力の差は歴然としていた。
それでも諦める訳にはいかなかった。
(こんなこと、前にもあったな)
ふと浮かんだ情景に、何を思いだしたのかも気づいて、俺は……桐ヶ谷和人は苦笑を零した。
体感時間では二年も昔の話、アンダーワールドにある公理教会の本拠地、セントラル・カセドラルの天辺で。
(ただ……あの時は三人、今は一人か)
明確な違いだけを、思い描く。
あの時は、あの絶対的な力を持っていた怪物、
今はアリスは現実世界で暮らしているが、ユージオは。
ズクンと、胸に痛みが走ったような気がして、そこで一度思考を止める。小さく息をついてそれまでの思考を一度散らし、今やるべき事へ意識を戻した。
対峙する、と言うには違和感があるかもしれない。こちらが向こうを敵視しているだけで、相手からすればこちらは単なる有象無象。眼中にない可能性もある。
突破口……相手の注意を引ける可能性があるとすれば、それは意思の疎通が出来る事だ。
単に迷い込んだにしてはあまりにも敵意と害意がありすぎる相手。
それに元々のあの造形物の……ミニオンの成り立ちを考えれば、誰かに使役されているのは間違いない。
(問題は、誰に使役されているか……まず、使役できるような人間が、この世界にいるのか?)
そもそもの疑問は浮かぶものの、敢えてそれを思考から外す。
単なる棚上げとは分かっているが、現状で考えても思考の材料がなさ過ぎて答えにはたどり着けないだろう。少なくとも身近な存在にはいないし、このような暴挙……帰還者学校の襲撃をする理由はない、筈だ。
(知らず知らずの内にヘイト買って自覚無く帰還して放置していた可能性って考えると、逆に心当たりがありすぎる所は痛いけどね……)
誰に言い訳するでもなく内心で一人独白して、意識を切り替える。
攻略初期、まだ血盟騎士団が台頭する前、二代ギルドが雌雄を削り合っていた時代は、二つのギルドが完全な決別をすることを防ぐために、敢えてビーターの異名をとっていた自分が憎まれ役を買って出て、ヘイトを受けることが多かった。
二十五層フロアボスの攻略の際、その一方であったアインクラッド解放軍が、全滅するまで続けたそのスタイルを、後悔する気はない。
しかしそのように、SAO時代ならばいくらでも出てくる心当たりだが、ことこの一件、相手がミニオンであり、それがSAOの内部、アインクラッドには、存在していないモンスターであるという一点で、この心当たりのすべてはこの騒動の犯人である可能性からは除外されるのである。
(そう。ミニオンがアンダーワールドの、暗黒界で広く使われていた暗黒術によって創造、及び使役されていた存在であることを考えれば、相手は少なくともアンダーワールド内の知識は必ずあるはずなんだ)
そこまで詳細な知識を持つものは当然限られる。
なぜなら他の商業用に設計され、売り出されているVRゲームと異なり、アンダーワールドはラースによってつくられたシミュレーションゲーム。
オーシャン・タートルで自分たちが巻き込まれたあの戦いでのコンバートを除けば、基本はオフライン状態で作動していたはずである。
対応機器も平時はラースの施設内にあるSTLしかない以上、外部の人間が易々と入り込み、情報を手にすることが出来る機会など早々無いはずだ。
(大体そのSTLだって、あの事件以降はまともに稼働できる状態にあるのは六本木支部にある2台だけだ。……他の4台を搭載していたオーシャン・タートルは政府の監視下にある。中に人が入ればその時点で大騒ぎになるんだから)
冷静に考えを巡らせてみるものの、だからこそ、この騒動の犯人像……黒幕が分からない。
(一番怪しいのは開発元のラースだけど、あそこの面々に帰還者学校を襲撃する理由なんて……無いはず、だよなぁ?)
最後が疑問形になってしまうのは、今までラースのリーダー……菊岡誠二郎に巻き込まれた諸々を思い起こした結果である。
その時点で信用度は言ってはなんだがかなり低い。
「まぁ、今は考えても仕方ないか」
敢えて口に出して確認する。すべてはここを切り抜けた後だと。
「しかし実際……どうやるかな」
思わずそうぼやいたのは、普通に考えて仕方の無い事だろう。
純粋な力だけを見れば間違いなくこちらが不利だ。
だが相手は、何が目的なのかは分からなくとも、わざわざ大量の人間から……僅かな攻撃を与えてちょっかいをかけたとはいえ、こちら一人を襲ってきたのだ。相手の振動による崩落で、共に近くに落ちているなら、十分まだ引きつけられる機会は残っているはず。
(逆に向こうだけが落ちずにいた場合、既に始末したものと判断して、最初に入ってきた場所に戻ろうとする可能性も十分にある……どちらか分からない以上、ここでぐずぐずしている暇は無いか)
頭を回している間に十分に休めたとは間違っても言えないが、いつまでも蹲っている訳にもいかない。負傷している左足を庇うように立ち上がろうとして……そこで和人は一つの
「何だ……これ」
崩落と共に痛々しいほどに腫れ上がっていた左足が……傷一つ無い状態に戻っていたのだ。