The  Fluctuating Knight   作:雪宮春夏

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Ⅱ 異変

 

  ………目覚め……と、して……る

 

 

  平穏なエリュシオンに、その声を届いたのは、祈りを捧げていたエリオスに対する啓示か。それとも、エリュシオンそのものに対するものか。

 

「……クイーン!?」

 

 うっすらとそこに認められた姿は、月の王国のサブコンピューターに意識を残す、クイーン・セレニティのものだった。

 

  ……お願い……どうか……あの子を……守って

 

 途切れ途切れに聞こえる声に、僅かな歪みを感知して、エリオスは目を見開いた。

「何だ……これは……!!」

 

 ぞわりと悪寒が広がる。

 何か異変が起きている。

 月とこの場所の繋がりを阻害するような、とんでもない異変が。

 

 

 エリオスが悪寒を感じ、外部太陽系戦士が動き出そうとした頃、それは起こった。

 常人には理解が出来なかっただろう。

 だが、星の力を秘めた者達には、確実に理解できた異変が。

 

 

 

 ズズッと、月が、歪んだ。

「やはり、不完全ですね」

 眼前に見える美しい水晶玉のような惑星、この世界では地球と呼ばれるそれを眺めながら、鼻ならしたのは一人の男だった。

 灰色の短髪を()()()()()、本来ならば無重力であるはずの月面の上でふむと思案に耽る。

「やはり我々の所有する心意兵器だけでは全てを「実在化」させるには不完全ですか。多少の「上書き効果」は成功しているようですが……」

「そりゃそうでしょうよ~、星一つまるごと心意で包むなんて、伝説の「星王」様でも難しかったんじゃないんですか」

 考察を呟く男に合いの手を入れるのは、彼より年若い青年だった。ケラケラと笑いながらも、辺りを見回す当人は、周りの光景に満足そうに笑みを浮かべる。

「でもまぁ、半分ぐらいは成功しているでしょうよ。これなら「整合機士団」の奴らだって、下手に手は出せないのでは?」

「それはどうかしらね? あのいかれた連中なら自分達のリスクも度外視でここまで入り込んでくるかもしれなくてよ?」

 口を挟んできた第三者、肩まで伸びた薄紫色の髪をふわふわと揺らしながら、浅黒い肌の女性が艶やかな笑みを浮かべる。

 そんなどこか残り二人を小馬鹿にしたような女に彼らの眦はつり上がる。

 しかし、そんな一触即発状態の彼らは次の瞬間口を閉ざした。

「だからこそ、必要なのだ」

 そこに現れたのはその場の三人よりも更に上に位置する相手。

「「星王」。それが所有しているの莫大な「力」がな」

「閣下……」

 どこか陶然とした様子で呼ぶ女に、目を向けることなく、「閣下」と呼ばれた相手は、ただ目の前にある惑星、地球……その中にいるだろう存在に、意識を向ける。

「その力をこの世界で覚醒させ、この世界の(ルナリア)に、我らが世界の伴星(アドミナ)を完全に実在化させる」

 そう語る男の瞳はギラギラと野望に染まっていた。

 

 

「《月》は、二つも必要ないのだから 」

 

 

 ブツンッと、まるで体が、引き裂かれるかのような痛みを感じて、一人の女性、月野うさぎは悲鳴を上げた。

「うさぎちゃん!?」

 傍らで眠っていた黒猫のルナが咄嗟に声を上げるが、彼女がそれに応える間もなく、その悲鳴を聞きつけたのだろう、彼女の母、育子が部屋に飛び込んでくる。 

 母親の呼びかけにも応える余裕がないのか、荒い呼吸を繰り返す少女にはしかし外傷はない。だからこそ、母親の育子もどうするべきか判断がつきかねていた。

「進悟! 電話して!! 119……」

 おさまる様子のない娘の尋常でない状態に、救急車を呼ぼうとした育子は、ボンッという破裂音と共にその場に倒れた。

「ちびうさちゃん!?」

 そこに居た本来居るはずのない少女の姿に、声を上げるルナ。 

 だがそれに構うことなく、真剣な顔をしたちびうさは両手でうさぎの手を握りしめ。

《シャーーーン》

 もう片方の手で持っていた鈴……嘗て、ちびうさがエリュシオンの祭司、エリオスから渡されていた物を高く打ち鳴らしたのた。

 フワリとその場に満ちた清らかなエナジーに、目に見えてうさぎの呼吸が落ち着いた。

「ちびうさちゃん」

 無意識に、縋るような声を上げたルナを撫でながら、ちびうさは何かを堪えるように唇をかむ。

「ルナ。司令室に行って、皆を集めよう。早くしないと、本当に大変なことが起こる!」

 

 

 この時代のセーラームーンを救うため、エリオスから鈴を預かって過去へやってきたちびうさだったが、事態の把握に対しては、殆ど出来ていないと言うのが現状だった。

 それというのも、過去で異変が起きた同時期に、30世紀の未来でも、ある異変が起こってしまったからだ。

「月の存在が歪んでいる……?」

 ちびうさから事情を聞いているのは、集まった内部太陽系の守護戦士四人と、外部太陽系守護戦士四人。そして地球国の王子にして、うさぎの恋人、地場衛であった。

「うん。多分……過去の月に何か大きな異変が起きた影響が、未来にまで及んでいるの。それで、ママも……ネオ・クイーン・セレニティも意識はあるけど、まともに動け無くなっちゃって」

 それをカバーするために、未来の四守護神の戦士達は、クリスタルパレスに結界を張り、その外側をちびうさの守護戦士である四人が守っている状態なのだという。

「一体……月で何が起きているの?」

 水野亜美……セーラーマーキュリーの問いかけにちびうさは分からないと、力なく首を振る。

「エリオスの所なら、何か分かるかもしれない……それに、あそこなら、うさの状態も、好転する可能性がある……」

 エリオスの所……地球の心臓部にあたる、聖地エリュシオンへの避難に、セーラー戦士達も頷く。

 今はちびうさが持つエリオスの鈴に宿る浄化の力で小康状態を保っているものの、それでも目覚める様子はないのだ。

 月で何が起きているのかも、祭司であるエリオスならば、把握している可能性はある。

「俺がうさを連れてエリュシオンに行く。すぐ戻る」

 言外に、彼女をエリュシオンに残し、自分は戻ってくると言う衛に、否を言うものはいない。

 守護戦士達だけならば、二人でエリュシオンに留まる選択肢もあったかもしれない。だが、この場には未来から来た娘であるちびうさもいる。

 今まで強大な敵を前にして、いくつもの絶望的な状況を好転させてきたセーラームーン……うさぎが動けない以上、自分も閉じこもるという選択肢は端からなかった。

「ひとまず皆司令室に。状況を整理しよう」

 エリュシオンに降りたのだろう、衛がうさぎを抱えて消えたのを見送って、他の面々は司令室へ集まった。

 そして、そこに映されていたものに目を見開く。

「アルテミス! ルナ!……なによこれ!?」

「月のクレーターが……消えている?」

 愛野美奈子……セーラーヴィーナスの驚愕と、木野まこと……セーラージュピターの疑問にアルテミスとルナも答える事が出来なかった。

 

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