《シャーーーン》
薄れゆく意識の中で、その鈴の音を聞いて、なんだかほっとした。
ギリギリと締め付けられて酷く苦しかったのが、ほんの少しだけ楽になったのだ。
(何が起きているの?)
明確に、何かが起こっている事は分かる。
だが、思うように力が入らない。まるでこの体が私の体ではないみたいだった。
(まもちゃん……みんな……)
体が、鉛のようだ。頭もぼんやりとする。
私、どうしちゃったんだろう……。
「プリンス! プリンセス!!」
エリュシオンへ降り立った衛に直ぐさま駆け寄ってきたエリオスは、うさぎの姿を見て、すっと顔を青ざめた。
「これは……」
衛には分からない、何かを感じ取ったのだろう。エリオスと呼びかけると、こちらに顔を向けるものの、その表情はかたい。
「俺達は、月へ行ってみる。うさのことを頼んで大丈夫か?」
完全に意識を無くしているのだろう力の入っていないうさぎの体を抱いたまま問いかけると、ジッと彼女の姿を見つめていたエリオスが小さく息をついた。
「分かりました。プリンセスの御身はお任せ下さい。ですが……月へ行かれるというのは……」
何か言いよどむ様子のエリオスに、衛は事情を話ながらも頭の中で考えを纏める。
「うさが夜中にいきなり苦しみだしたらしい。ちびうさのおかげでこの状態に落ち着いたけど、30世紀の未来にさえ影響を及ぼすような異変が月で起きているのは間違いないんだ。うさの守護星である月の異変と、うさの体への異常が無関係とは考えにくい。手がかりになるかは分からないけど、様子を見てくるよ」
改めて言葉にすることで尚更、行かねばならないと覚悟を固める。
もしかしたらまた、厳しい戦いになるのかもしれない。
30世紀の未来にまで影響を及ぼすような相手が、簡単に片付くなどとは思えなかった。
「そうですか……30世紀の未来にまで」
何かを思案するように瞳を伏せ、エリオスは小さく頷いた。
「分かりました。皆様のご無事をここでお祈りいたします。……どうか、どうかご無理はなさいませんよう」
深く頭を下げるエリュシオンの祭司に、安心させようと、衛は笑った。
「心配いらないよ……うさのことを頼む」
踵を返し、遠ざかっていく半身の姿に、エリオスは深く頭を下げ続ける事しか出来なかった。
未来から来た二人の娘、ちびうさと、次代の王となる衛。
そして守護戦士達八人。
たとえセーラームーンが居なくとも、これだけ集まっていれば、そう簡単に倒される事はないだろう。
普通ならば。
(どうすれば、良いのか)
だが、既にその普通でない事態に至っている事を、エリオスは直感していた。
(何を言えば、良かったのか)
唇をかみしめ、何も告げられなかった己を悔やむ。
月の異変の詳細は分からない。
現状、何が起こっているのかも。
しかし、
「どうか、お二人を、お守り下さい」
両手を組み合わせ、ただ無心に祈る。
「どうか、お二人が」
敵として、対峙することがないように、と。
エリュシオンの祭司でしかないエリオスには、そう祈る事しか出来なかった。
ピロリン。
速報と端末の上部に出て来た通知に、夜勤を終えたばかりの男……壺井遼太郎が画面を開いた。
「……………はぁぁぁぁぁ!!!??? 何だこりゃあっっっ!!!!」
尚、その声はただ誰も居ない夜道にこだまするだけであった。