こんにちは、雪宮春夏です。
今回も前回から引き続き戦闘回になります。
戦闘シーンは苦手なので上手くかけているかは不安です。(苦笑)。
色々とキャラや伏線はまぜこぜですが、それではどうぞご覧下さい。
「この力は、エオル? ……エオライン・ハーレンツ……っ!!」
剣戟音の直後、最初に動いたのは攻撃をしかけた男……「閣下」と呼ばれた存在。
次いで、「うげぇ」と、何とも言いがたい擬音を零したのは、ジュピターと拳を付き合わせていた相手だった。
「エオライン・ハーレンツ? 嘘だろ……まさか「シンイノタチ」だけをこっち側に飛ばしてきたのか? どうやって俺達の位置を補足して?」
「あれは……」
一方、窮地に立たされているセーラー戦士達も、現状の打開策が見つけられないまま、次にとるべき行動を決めかねていた。
今はまだ結界は破られていないが、破られるのは時間の問題であった。
それは事実として、外部太陽系戦士の三人が抱いていた予測である。
ただ、今は少しばかり現状が異なる。
敵か味方かは分からないが、何者かがおそらく、こちらに危害を加えようとした「閣下」とやらの放った攻撃……不可視の斬擊を、何をどうしたのか、同じような不可視の斬擊で防いだのだ。
「ネプチューン。……何か落ちてる」
ジッと張り詰めた気配を纏ったまま、ウラヌスが呟くと、既に心得ていたのか、ネプチューンは落ちている何か……一枚のカードのようなものの拡大した画像をこちらへ向ける。
「ただのトランプに見えるわ……絵柄は、「ハートのエース」」
「…………え?」
その言葉に、思わずヴィーナスは目を見開いた。
「「ハートのエース」……?」
「……んで」
「ちびムーン?」
涙を流しながら過呼吸に陥っていた少女が掠れた声を上げた。
「なんでこんな……酷いことが出来るの……っ!?」
突然叫ぶ少女に、周りの戦士達の視線が集まる。
だがそれに応えたのは、味方の戦士達でなく、結界外から彼女の声を聞いたのだろう、敵の女の笑い声だった。
「酷いこと? 心外だわぁ。貴方が聞いているその声は、この「月」に元から存在していた奴等の方の声でしょう? 詳細までは分からなくても、分かることはあるのよ、お嬢ちゃん……。奴等の上げる声は、怨嗟は真っ当なもの。何が起きたか、誰が原因かなんて関係なく、彼らは何の罪もなかったはずの自分達に降りかかった死に、災厄に怒り、嘆いているだけ……その原因に、お嬢ちゃんは関係ないと、言い切れるのかしら。……この世界の「月」で起きた大量の民に対する殺戮行為に、何の心当たりも無いのかしらねぇ?」
「やっぱり……あなたたちは……!」
その言葉に、既に解析の結果から、あの異形の者達が何で構成されているかが大まかに分かっていたマーキュリーが怒りを露わにする。
「ふざけないで! 確かに、戦いの起きたことは事実よ!! だけど、静かに眠っていた筈のこの地に残る人達の
「それが何? そんなもの、
にべもなく、女は言い切り、笑う。
「この地は「月」は必要なの……この星は《リアルワールド》と《アンダーワールド》。二つの世界に同時に存在する、大きな門となれる可能性のある場所。……今はまだ力が不足しているけれど《セイオウ》が覚醒すればその問題も解消される」
ふふっと女が浮かべる笑みは、まるであどけない少女のようだった。
「誰にも、何にも縛られる事の無い、自由な世界が手に入るのよ?」
「それはお前とその周りの者達だけに限って使われる、「自由」な世界というわけね?」
夢想に耽るかのような笑みを浮かべていた女が一転、マーズのまるで嘲るような声に表情を失う。
ギロリと視線を飛ばす女の視線を受け止めたマーズの瞳が浮かべていたのは、怒りを宿していた事に間違いは無いだろう。
「
彼女が前触れもなく発した不可解な言動に、僅かに眉を寄せつつ、マーズはマーキュリーの言葉から組み立てた推測を、さも事実のように言い返す。
「それはお前とて同じでしょう? 《リアルワールド》と《アンダーワールド》。その二つが何を指しているのかは分からないけれど、二つの世界の魂を組み合わせるなんて邪法が、お前如きの力だけでに容易に出来るものですか……お前達もお前達を唆した奴等に利用され、操られているに過ぎないのよ!」
そうだと、口に出した事で、改めてマーズは確信する。
種も仕掛けも原理も分からないが、ここまで規模の大きく、広く影響を及ぼす事象を目の前の女性一人で行えるはずがない。
何か種があるのだ。「月」をこのように歪ませた何か。
そしてその歪みの大本が、プルートが感知していた歪みを生み出しているのは間違いない。
(せめてその実体を見つけられれば、もっと何か分かるかもしれないのに……! 現状ではあまりに情報がなさ過ぎる……!!)
せめて対話で時間を稼がなければ、そう思案するマーズの考えを遮るように、今まで一人で何事かを呟いていた男が……「閣下」と呼ばれていた相手が口を開く。
「そうか……あくまでこちら側につく気は無いというわけか。残念だよ、エオル……」
サクリとやけに大きく聞こえた足音は、そのまま向こうから注がれる、ひりつくような殺気に投影される。
「奇跡が二度起きることはない……君が庇った奴等を血祭りに上げることで、君と私の決別の証としてやろう」
シャランと、涼やかとも言える明瞭な音を立てたのは、男が引き抜いた真剣だった。
どこか優美さとも言える精密な作りは、名のある名剣の類とも感じさせる。
「マーズ! 下がれっ!!」
咄嗟に迎え撃とうとしたマーズだが、聞こえた声に一歩後退する。
それと相手が剣を一閃するのは同時だった。
「グウッ……!!」
「タキシード仮面っ!?」
ギイィィンと、次いで起こった衝撃音に、不愉快げに男は眉を寄せた。
それに対峙するタキシード仮面は、両足で踏ん張りながら、両手を空中に掲げ、歯を食いしばる。
彼の両手と接した空中から勢いよく火花が散っていた。
おそらく先刻放たれた不可視の斬擊……いや、それよりも大きな規模のものが今、タキシード仮面の掌の寸前で止まっているのだ。
「「シンイ……ボウヘキ」!?」
防壁。呆然と呟いた後方から眺めていた男の声に、ヴィーナスは直ぐさま状況把握に動く。
次いで動いたのはマーキュリーだった。
おそらくマーズが相手と対話している間に、タキシード仮面との間で打ち合わせはすんでいたのだろう。
マーキュリーゴーグルを装着した彼女はセーラー戦士とタキシード仮面を包み込むように、超次元空間を出現させる。
「……ジジ……っな、みんなっ! 聞こえるかっ!?」
「アルテミスっ!?」
そこで電子音混じりに聞こえてきたのは、聞き覚えのありすぎる相棒の声だった。
「良かった! 繋がって!! セーラーテレポートを使うんだっ!! 僕たちがサポートするっ!!」
彼らはいつから現状を観察していたのか、こちらの現状の不利を既に理解しているようだった。
セーラーテレポート。
一撃離脱の力すら思い浮かばなかった事実に、ヴィーナスは、騒然とする。
だが今あれを行うには、一人敵の技を食い止めているタキシード仮面の存在が妨げになる。
セーラーテレポートを使用するには、対象者全員が手を繋がなければならない。だがタキシード仮面が今動けば、おそらく敵の斬擊はこちらへ向かってくるだろう。
「分かった! ヴィーナス! カウントを頼むっ!!」
しかしヴィーナスの葛藤も動揺も見せずに指示を飛ばす。
おそらく、既に対応策を考えていたのだろう。
未だ震えがおさまらないちびムーンを何とか立たせて、全員で大きく両手をつなぎ、輪を描く。
「カウントを始める!……十っ!」
ウラヌスが始めたカウントに合わせるかのように、タキシード仮面が対峙する男に、何事かを囁いた。
その言葉を聞いた男が大きく目を見開く。
だが次に男が言葉を発するよりも先に、タキシード仮面が均衡を破った。
受け止めるように抑えていた掌を大きく前に突き出したのだ。
そして、同時に男は大きく後ろへ弾き飛ばされる。
まるで、不可視の壁に押し飛ばされるように。
「五!」
「四!」
続くウラヌスのカウントに駆け寄るタキシード仮面も、直ぐさまちびムーンと、その隣にいたサターンの間に入り、手を繋ぐ。
「タキシード仮面? それは……!?」
その時点でようやく、ヴィーナスは彼の身に起きていた異変に気づいた。
常には黒いはずの彼の瞳が、まるで彼のスターシード、ゴールデンクリスタルのような黄金色に変わっていたのだ。
いや、目だけでなく、見ると、その体を包むように、同色のオーラが溢れ出ている。
「大丈夫だ。後でちゃんと説明する」
タキシード仮面がそう言い切るのと、カウントが終わるのは殆ど同時だった。
「行くぞ……セーラーテレポートっ!!」
こうして、セーラー戦士達は「月」から無事に脱出したのである。
「逃げられちゃいましたねぇ」
シンと静まり帰った「月」の上で、一人ため息をついた男は、チラリとあの黒服の男……タキシード仮面とやらに弾き飛ばされたまま倒れている自分達の上役に声をかける。
女……E.B.Iは、オロオロと迷っていた挙げ句、何か薬をと、彼らが拠点として使っている施設へと引き返していった。
「「道化になるつもりはない」……ね」
「なんです? いきなり」
ポツリと呟いた男の声に問い返すと、常に表情を変えることのなかった「閣下」が子供のような笑みを浮かべた。
「エオライン・ハーレンツからの言付けらしい。……興味深いと思わないか? あの男……」
「はぁ?!」
空耳だろうかと、男は思った。
寧ろ思いたかった。
楽しそうに笑う閣下には悪いが、男としてはあまり関わりたい相手ではない。
《アンダーワールド》の統治を行う最上位の行政機関「星界統一会議」。その直属組織であり全軍事力を掌握する権限をも与えられている、治安維持を行う為の組織「整合機士団」。その団長、「エオライン・ハーレンツ」。
「いやいや……相手がいる場所はアンダーワールドでしょう? リアルワールドとアンダーワールドって、相互通信可能でしたっけ?」
「私も聞いたことはないが……」
ククッと、男は笑う。
「だからこそ、面白そうじゃないか……それをやってのけた、あの男が何なのかが……なぁ」