いきなりの連日投稿です。
……と言うのも、色々と進展する中で、書けるときに書いておかないと、こっちもかけなくなりそうなので……かけなくなったらパタリと止まるかもしれません(泣)。
それではどうぞご覧下さい。
ザワリと、何かに呼ばれたような感覚に青年、桐ヶ谷和人は顔を上げた。
空高くにある太陽は、いつもと変わらない一日であるはずなのに、生暖かい風にどこか嫌な感じがする。
上空に、チラリと何かが見えたような気がして目を眇めるが、そこには何も見当たらなかった。小鳥一羽いない静かな空。静謐とも言える朝の姿に、言い知れない不安を感じてしまう。
「お兄ちゃん? どうしたの?」
ぼんやりと空を見上げていると、いきなり立ち止まった和人を不審に思ったのか、共に朝の日課としている走り込みを行っている妹、桐ヶ谷直葉が駆け寄ってきた。
「いや、……月が見えないと思って」
答えてから、ふと、なんでそう思ったのかと考えた。
今の時間帯ならば月が見えないのは当然なのに、何の前触れもなく見なければと思ったのだ。
「……?」
「あぁ……あんなにニュースになったもんね。いつもはゲーム以外はとことん関心を持たないお兄ちゃんでもやっぱり気になるんだ」
どこか笑いを含んだ様子で直葉は、頷いている。
そんなものでは無いと、言いかけて、自分でも上手く説明でき無さそうな心境に、まぁ良いかとそのまま数歩先へ走り出した。
「あっ! もう待ってよ! 先に止まった癖にっ!!」
不満を言いながらも、直葉も再び走り出す。
いつも通りの日常の筈だ。
無意識にそう、言い聞かせた。
「みんな! 大丈夫か!?」
声をかけたアルテミスに対して、彼らの足取りは一様に重かった。
「月」に向かっていたセーラー戦士達が無事に司令室に戻ってきたときは、既に日は高く昇っていた。
学校はとうの昔に始まっているだろうが、本日は無断欠席もやむを得ない。
ちびうさに至ってはこの時代では学校へ通っていないので無問題であるが。
「紅茶を入れるわ……少し、落ち着いた方が良い……」
全員の様子を窺いながら、ルナが小さな体で小さなキッチンスペースへ向かう。
傷心した様子のまこともそれにならい、小走りでキッチンへ続いた。
「衛さん、亜美……」
口を開いたのは、みちる。セーラーネプチューンだった。
「話して頂戴。あの時、何が起きたのか……二人だけじゃない。今回の敵と、再び戦うときの為に、情報は全て、共有しておく必要があるわ」
チラリとみちるが視線を投げたのは、キッチンに残るまことだろう。
苦い敗北となってしまった彼女の気持ちは、全員が理解できる。
しかし、何故彼女が負けたのか、あの時彼女に何が起きていたのかは、結局の所、彼女の証言無しには何も分からないのだ。
「あぁ、分かってる」
そう答えるものの、いざ話す段階となる衛は、思わず言葉に止まる。
どこからどう話せば上手く伝わるのか、正確には衛自身にも全てが整理できている訳ではない。
「うさの異変の原因は、まだ分からない」
まず伝えたのは、そもそも最初に自分達が月に向かった目的について。
「ただ、月から消えたシルバーミレニアムが、ムーン・キャッスルがどこに
「移動……した?! でも、マーズは月は膜のようなものに覆われているだけで、実体はまだあそこにある、と……!!」
衛の思いがけない言葉に、ウラヌスは目の見開く。
視線を向けられたマーズも厳しい目線のまま頷いた。
衛もその返答を否定することなく、言葉を補う。
「あぁ、実体はまだあそこにある……だが、「力の源」……つまり「月」に宿っていた力
うさぎの前世の母にして、先代女王の名前に、戦士達全員の顔が強張る。
衛の語りの途中で用意を終えていたのか、キッチンスペースから戻ってきたルナとまことも、その表情は固い。
「その情報を、衛さんはどうやって知ったの!? クイーンは無事なの!?」
案じるが故に、口調も鋭くなるルナ。
それを落ち着かせようとするアルテミスも続きを促すようにこちらを見つめる。
だが、衛もまた彼らが満足する返答を用意することが出来なかった。
「分からないんだ……俺も、殆ど一方的に情報を与えられただけだから。ただ、その相手は、ムーン・キャッスルを見つけはしたが、入ることが出来ないと言っていた。おそらく入れるのは、シルバー・ミレニアムの血を継ぐ一族の人間だけだろう……と」
「それって……」
亜美は思わず目線を向ける。
未来から来たちびうさ。
彼女の住んでいたクリスタル・パレスも、入ることが出来るのはシルバー・ミレニアムの王族の者だけと以前言っていなかっただろうか。
ようやく落ち着いてきたのか、赤く目を腫らしたまま、ちびうさもコクンと頷く。
「多分、30世紀と同じなんだと思う……でもそれって、私かうさぎがそこへ行かないとクイーンを、お祖母さまを助けられないってこと? 敵の本拠地なんだよね?」
「あぁ。奴等の故郷であることは、否定しなかった。だけど……」
そこで言いよどんだ衛だが、意を決したかのように言葉を続ける。
誘い込まれているようにしか見えない。そう考えるみんなの意見も衛には痛いほど理解できた。だが。
「俺はあの人を、あの人達を敵だとは思えない」
時は僅かに遡る。
「閣下」と呼ばれた男の不可視の斬擊を、一枚のカードが防いだ直後、その男が声を上げたときだ。
「いや、ごめんだよ。君のような道化になるつもりも、そこまで堕ちるつもりもないからね」
傍らから感じた気配。
頭の中に響いた声から、それが衛の持つ特殊な力、サイコメトリーを介して行われた会話であることが分かった。
目線だけを動かして確認すると、そこにひっそりと佇む、一人の青年がいた。
深みのあるブルーのロングコートを身につけ、つばが筒状に折り返された、水兵のような帽子を被っている。
明るい金……亜麻色、と呼ばれそうな色の髪で、前髪の生え際から鼻までを白いマスクで覆うその姿は、変身した己の姿……タキシード仮面を彷彿されるもののように感じられた。
「……はじめまして、と言うべきかな。プリンス・エンデュミオン」
こちらを視認して語りかける声には、何かを懐かしむような響きがあった。
「私は……整合機士団団長、エオライン・ハーレンツ。……今のところは君たちの味方、だと言っておこう」
「……「今のところは」とつける相手を、信用できると思うのか?」
思わず反射で言い返してしまった俺の声が聞こえたのか、少し離れた位置にいたマーキュリーの視線を感じた。
思わず身を強張らせて、何故俺が緊張しなければいけないのだろうと思い直す。
正直に打ち明けて、目の前の男の正体を探るべきだ。
敵か味方かも分からない怪しい相手。
しかもまるで俺以外の仲間から認識されていないように振る舞う……いや、現状おそらく認識されていないのは間違いないだろう。
外部太陽系戦士の三人が張っている結界の中に何故かいる不審な相手だ。
認識できているのならば騒ぎにならないはずがない。
俺が警戒心を強めているのは分かっているだろうに、クスリと笑みすら零す相手からは、殺気の類も戦闘への士気も感じられない。
それどころか堂々と、こちらの視線を受けながら、興味深そうに周りの戦士達の顔ぶれを眺めている。
「……やはりセレニティはいないか。奴等の影響を受けてしまったようだね」
さらりと投下された言葉に、目を見開いた。
何故セレニティ……セーラームーンであるうさぎが倒れたことを知っているのか。
知っているのならばどこまで?
その原因は?
周囲の事態がここまで緊迫していなければ、今すぐ胸ぐらを掴んで問い詰めたい所であった。
だがその衝動は、ちびムーンの叫び声にかき消される。
続く敵の女の言葉に、思わず唇をかみ締めた。
ちびムーンの聞いた声の正体、「月」で死んだ人々の怨嗟。思い当たるものはある。
おそらくそれは自分達の前世の、地球国と月の王国の戦いであることは間違いない。
「思い違いも甚だしいな」
自己嫌悪に走りそうになった俺の精神を、容赦なくへし折ったのは目の前の男だった。
「なに……!?」
「思い違いも甚だしいと、言ったんだよ」
まるでこちらに言い聞かせるように、男、エオライン・ハーレンツは続ける。
「彼らが君たちを恨む? 確かにプリンス一人ならば恨まれる由縁もありそうだけど、そもそもこの声は怨嗟によるものでは無い。彼らが感じているのは自分達の存在を否定し、上書こうとする事象に抗う、魂から発せられる悲鳴に他ならない」
「魂の悲鳴? 上書く、だと……!?」
意味が分からないと思った。
だが同時に、目の前の相手が、この事態の核心に触れようとしているのではないかと、感じる。
「彼らが振るうのは「シンイ」の力。魂から生まれる意思の力によって、事象そのものを干渉、上書き改変する力だ。個々の持つ強い意志、願いから作られる強い確信が、魂にすら干渉する力を生み出す」
「魂……まさか、スターシードか!?」
セーラー戦士達の力の源となるセーラークリスタル。
そこに思い当たった衛が思わず声を上げる。
その声に気づいて顔を上げたマーキュリーと、今度ははっきりと視線が重なった。
マーキュリーゴーグル越しに訝しげな表情を浮かべていた彼女は、直ぐさま表情を一変させる。
その理由を衛が尋ねるよりも早く、笑いを含んだ声が耳朶を打った。
「流石だね。気がついたか」
「「シンイ」の力……」
そこまで聞いた所で、ポツリとまことは言葉を漏らしていた。
あの時、拳を打ち合った男の中からまことの、ジュピターの中に流れ込んできたのが、あの男の「シンイ」の力とやらなのだろう。
あの時感じた不安感、孤独感、心のすべてが凍てつくような感覚は、今も明確に思いだせる。
思わず自分のからだを抱きしめようとしたまことだったが、同時に思いだせたのは、あの小さな掌だった。
敵の「シンイ」とは真逆に感じた、暖かな力。
あれも「シンイ」だったとするならば、あれは一体何だったのか。
衛に伝えるも、それに関しては衛は何も聞いていないようだった。
「と言うよりも……なんだかんだと、上手くはぐらかされていたような気もしなくはないんだ。必要最低限のこと以外は向こうも語る気が無かったんじゃないかと思える」
まぁそれは、あの逼迫していた状況ではゆっくり語り合う時間も無かったと言うのが正しいのだろう。
しかし一度思い出してしまったせいで、衛も気になるのか、熟考の姿勢に入ってしまったようだ。そんな衛を横目に、説明を引き継いだ亜美が口を開いた。
「私は彼の声を聞いた訳じゃないわ。あくまで話が出来るのは衛さんだけだったみたい。……でも、私のゴーグルには、彼の……彼に宿る、守護星の力がはっきりと映ったの」
大きく目を見開いた衛が何事かを呟く前に、マーキュリーはタキシード仮面を連れて、敵の視界に入らないように身を隠した。
今、マーズが敵の女と対峙して、少しでも時間を稼ごうとしているが、だがその均衡はそんなには続かないだろう。
そこへ来て、タキシード仮面がとっている行動は明らかに異様だった。
良くも悪くも、これが転機になるとマーキュリーは直感したのだ。
「タキシード仮面、そこに居るのは誰?」
直球で尋ねたマーキュリーに、タキシード仮面は僅かに目を揺らす。
分かるのかと、問うた声に、見えないし聞こえないわと返すと、やや躊躇うように目を伏せられる。
「何を言われても信じるわ。疑ったりしない。貴方が騙されていたとしても、相手が敵だったとしても、今は少しでも現状を好転させるとっかかりが欲しいの……出なければ私たちは全滅する。気づいているでしょう?」
暗に相手が裏切ることも視野に入れた説得の仕方は、聞いているだろう相手から見れば協力のし甲斐のないことこの上ないと言うものだっただろう。
対話のしようのないマーキュリーは考慮の外としたが対話の出来るタキシード仮面からすれば後ろめたい気持ちしか無かったはずだ。
その状況下で彼が手短に語った言葉の数々を咀嚼しながら、マーキュリーはやるべきことを組み立てる。
手遅れとならないうちに撤退しなければならない。
それには彼らの戦い方を熟知しているであろう彼を頼る他ないだろう。
「なるほど」
マーキュリーの見守る先でタキシード仮面から話を聞いたであろう協力者からの反応を待つ。
しかし、タキシード仮面が何事かを口にする前に、敵の女とマーズのにらみ合いで保っていた均衡はあっけなく崩れ去ってしまった。
「残念だよ、エオル……」
殺気と共にこちらにやってくる敵の一人に、何故かタキシード仮面が妙な視線を投げ……しかし、何かを振り払うように二度、三度と首を振り、マーキュリーに言葉を投げた。
「マーキュリー、防御のために俺が前に出る。俺があの男の攻撃を受け止めたら、超次元空間を作ってくれ」
「……!?」
発せられたタキシード仮面の指示は、無茶と無謀が合わさったようなものだった。
「タキシード仮面が前に出る必要がどこにあるの!? さっきと同じように彼の力を使うなら……」
「悪いがそれは、出来ないらしい」
伝聞系の答えに、相手の声は自分には聞こえないと分かっていても、ふざけるなと叫びたくなる。
守るべきプリンセスの、大切な唯一の存在であるプリンスに、最も危険な役割をさせようと言うのだ。
しかも当人は、覚悟を決めて、受け入れている。
「理由はちゃんと聞いた。俺は納得したんだ……この力を
ぐっと拳を握ってからこちらを安心させるように、大丈夫と続ける。
「サポートはしてくれるらしい。……そっちは頼
む」
そこから先は全てが速攻だった。
シャランと抜かれた剣先に、タキシード仮面は迷いもなく突っ込んでいく。
だからこそ、マーキュリーも教えるのを失念していた。
彼の欲する超次元空間を作るには、それを展開してその他の時空間に支障が出ないよう、緻密な時間軸の計算を必要とする。そのため、どんなに優秀な亜美の頭脳でも、短くて数分、長くて数十分の時間を要するのだと。
(しまった……!)
後悔しても遅い。
もう既に賽は投げられている。
こうなったら少しでも早く超次元空間を作るために、マーキュリーゴーグルと共に超小型コンピューター……ミニコンを起動させ……既にその計算が終了している事実に直面した。
(誰……が!?)
だが、事態のめまぐるしい転換はその思考する時間すら、マーキュリーには与えない。
驚愕、疑惑、それ以外の全ての感情をのみこんで、マーキュリーは、超次元空間を出現させた。
「そこから……僕たちとの間の通信が復旧したのか……」
マーキュリーの説明を聞き終えた面々は皆真剣な様子で考え込む。
「……でも、小型コンピューターが勝手に起動して必要な計算を終えていたと言うのが気になるわね……何かのウィルスが入るような安易なセキュリティーは組まれていない筈なのだけど」
戦士として目覚めたばかりの頃の亜美に、ミニコンを渡した張本人であるルナが不安げに呟く。
「その……エオラインって、奴の仕業なのか?……衛さん、今もその人は傍に?」
現状で一番可能性のありそうな、怪しげな人物の名を出すまことに、問われた衛は首を振った。
「いや、あいつがミニコンに手を出せた可能性は少ないと思う……あいつは地球には来られない。……まぁ、「月」にいたとも、厳密には言えないみたいだが」
その煮え切らない衛の解答に、全員の頭には一様に疑問符が飛び交う。
「衛さん」
勿体振らずに話してと、美奈子が口を開こうとした瞬間、司令室のアラームが鳴り響いた。
「……っ、これはっ……!!」
液晶画面に映っていたのは、「月」で対面して間もない異形の者達。
しかしさっきまでと明らかに異なるのは、その場所が地球の……日本の中にある、ありふれた町の内側と言うことだった。
久しぶりの後書きです。
本編中で衛さんが言っているようにこの人は色々とはぐらかしています。
その原因が単なる秘密主義か、はたまた言葉足らずか、若しくはコミュニケーションが残念なのか……。
それはこれから読み進めていく中で、判断して貰えたら嬉しいです。
それではまた。