メカゴジラ機龍VSガイガン=レクス ~魔女と呼ばれた女~   作:よよよーよ・だーだだ

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1、13年前、オペレーション=ロングマーチの戦線にて

 時代は怪獣黙示録。

 ことは12年前、オペレーション=ロングマーチの戦線にまで遡る。

 

 ユーラシア全土を舞台に全人類の総力でもって繰り広げられた史上最大の作戦、オペレーション=ロングマーチ。中東アフガニスタンにおけるその戦線は今、まさに崩壊しようとしていた。

 飛び交う銃火と、耳を突き破らんばかりの激烈な爆音、そして戦火が巻き起こす濃厚な黒煙。吹き荒れる砂塵の中、アフガニスタンの荒涼とした大地で、兵士たちの怒号が響いていた。

 

「撃て! 撃て!」

 

 最前線で指揮を執るGフォースのジョン=スミス中尉は、がらがらと渇いた喉から命令を鋭く叫んだ。銃声と爆風が絶えまなく押し寄せる。

 

「弾はあと何発だ!? 応援はまだか!?」

 

 スミス中尉が副官に尋ね、副官がじりりと顔を歪めた。

 

「撤退しましょう、スミス中尉! もう持ちません……っ!」

「バカ野郎っ!!」

 

 弱音を吐いた副官を、スミス中尉は一喝する。

 

「あともう少し、もう少しなんだ! あともう少しで来るはずなんだ、“応援”がっ!」

 

 あと少し持ちこたえればきっと“応援”が来てくれる。そう信じるスミス中尉であったが、副官はなおも苦渋の表情を崩せない。

 

「しかしもう残弾わずかですっ、これ以上の誘導は、もう……っ!」

 

 はらはらと降り注ぐ砂塵に、それでもスミスの眼は冷徹と凍っていた。

 

「それでもなんとか持たせるんだ! ここで負けたら俺たちは、いいや人類がお終いなんだっ、ここで負けたら、負けたら……っ!!」

 

 そう副官に、いいや自分自身へ言い聞かせるスミス中尉。彼らの視線の遥か遠くでは、濃厚な砂塵と黒煙のに包まれながら巨大な影がゆらりと動いているのが見えた。

 身長50メートル、体重は1万トン。砲撃も通さぬ黒い岩石のような肌に、逞しい手足。長い尻尾に並び立つ三列の背鰭は、まるで偉大な王冠のよう。恐るべきその威容には誰もが畏怖を覚えずにいられない。

 そしてその化け物こそが、オペレーション=ロングマーチの最終目標であり、敵であり、人類最大の脅威であった。

 ――その名は怪獣王、ゴジラである。

 

「撃て! 撃て! 撃ちまくれーっ!!」

 

 スミスの指揮の下、なけなしの勇気を奮い立たせて兵士たちはゴジラへ決死の攻撃を仕掛けた。戦車砲、重機関砲、ミサイル……その場にあるすべての重火器がゴジラへと向けられ、一斉に銃火を撃ち放つ。撃ち尽くされた猛火力、ゴジラの黒い総身が一瞬にして銃火に包まれ、ゴジラは全身火だるまになった。

 けれど、無駄だ。

 ゴジラはあらゆる重火力を真正面から浴びながら、それでもものともしていなかった。まるで何事もないかのように優雅な所作で身を翻し、轟くような足音を踏み鳴らしながらゴジラは戦線を蹂躙し続けてゆく。

 響き渡る兵士たちの絶叫、断末魔の悲鳴。Gフォース兵士たちの駆る戦車隊が、ホバーバイクが、あらゆる兵器という兵器がゴジラの巨大すぎる脚に踏み躙られ、長大すぎる尻尾で叩き潰され、破壊し尽くされて墜ちてゆく。

 ゴジラが気まぐれに放射熱線を一吹きでも放てば、辺りはあっという間に火の海。灼熱の火炎地獄の中へ、Gフォースの兵士たちはただ敢え無く沈んでゆくばかりだ。

 

「……くそっ!」

 

 そんな光景を目の当たりにして、スミス中尉は悔しげに奥歯を鳴らした。ああ、俺たち人間はなんて無力なのだろう。ゴジラの猛威を前にしては、Gフォースの勇士たちなんてムシケラみたいなものじゃないか。

 

「もはや、これまでか……っ!」

 

 戦線にいる誰もが諦めかけた、そのとき。

 

 

 遠くの空から、巨大で鋭利なシルエットが飛来した。

 

 

 身長はゴジラとほぼ同じか少々高い、65メートル。

 全体の印象はまるで猛禽のようだった。逞しく、しなやかで、そしてゆるやかなシグモイドカーブを描いた美しいシルエット。二足歩行で長い尾を持ち、鋭いクチバシを持つ。全身は青い特殊素材の剛性皮膚で覆われ、その隙間隙間から本来の素肌であろう金色の鱗と羽毛が垣間見えていた。

 だが、その中でも特に目を惹くのは、その総身に満載された無数の武器だ。両目はサングラス状の高感度センサー、クチバシもよく見れば超合金の金属製、両腕は鋭い鎌とアンカーを撃ち出すカギ爪:ブラッディトリガーに換装されている。さらに尻尾の先には獲物を捕らえるテイルクロウが取り付けられ、胴体に至っては超震動で敵を切り刻む強力無比な鎖鋸:ブラデッドカッターなんてものまで。

 生命と機械、華麗にして残忍、相反する要素を併せ持つその姿はまさにサイボーグ怪獣。その名を、スミス中尉は満面の笑みで叫んだ。

 

「……来てくれたのか、〈ガイガン〉!!」

 

 途端、ゴジラに追い詰められていた前線の兵士たちは一気に高揚した。つい先ほどまで撤退を進言していた副官も含め、その場にいる人間たちの誰もがガイガンの頼もしい雄姿に目を惹かれ、皆口々にガイガンを心から歓迎した。

 

「ガイガンだ!」「ありがとうガイガン!」「『オレたちのガイガン』がやってきたぞ!」

 

 そんな宿敵の出現に、ゴジラも気がついた。

 ゴジラはそれまで虱潰しだった人間への攻撃を途端に取り止め、ガイガンの方へと振り返り、猛々しい雄叫びを響かせる。

 

「――――――――――――ッ!!」

 

 対するガイガンも負けてはいない。体内の機械で増幅された合成音混じりの、鋭利な金属音にも似た甲高い咆哮でもって、ガイガンは目の前のゴジラを威嚇した。

 

「ギィィィ――――……ッッ!!」

 

 そしてガイガンは、背中に増設されたロケットブースターを展開。轟ッと猛烈なジェット噴射を吹かしながら、ガイガンはゴジラへ勇猛果敢に飛び掛かった。俊敏な動きで攪乱しながら両腕のブラッディトリガーでゴジラを打ちのめし、テイルクロウでゴジラの目を抉ろうと頬をかすめ、そしてブラデッドカッターでゴジラの肌を切り裂く。ゴジラ対ガイガン、まさに怒涛の怪獣プロレスだ。

 そんな最中、人間たちもただ黙って観戦してはいられなかった。

 

「やっちまえガイガン!」「ゴジラなんかに負けるな!」

 

 そう言って兵士たちは一斉に奮起し、それぞれ手に持てるだけの武器を携えて、ガイガンと共に大怪獣ゴジラに立ち向かってゆく。

 ゴジラによるあまりにも圧倒的な暴威を前に絶望していたGフォースの兵士たちだったが、駆けつけてくれたガイガンの勇姿を目の当たりにしてたちまち勇気と自信を取り戻していた。怪獣同士の戦いは過酷を極めるだろう。あるいはガイガンも傷つくだろう。

 だけど兵士たちは、それでもガイガンが倒れることはないと信じていた。人類最後の希望は、まさにこのガイガンにかかっていたのだ。

 

「俺たちも戦うぞ!!」

 

 そんなガイガンが頑張ってくれているのだ、人間の俺たちだって負けていられるか。Gフォースの兵士たちは誰もがそう口にして、ガイガンの後へと続いていった。

 ゴジラ対ガイガン、オペレーション=ロングマーチの戦場で行なわれた大決戦。

 

 この希望の戦いの行方は果たしてどうなるのか。勝利の女神は人類の味方に微笑んでくれるのか。今日もオペレーション=ロングマーチの戦いは熾烈を極めていった。

 

 

 今日の戦いが終わった夕方、サイボーグ怪獣ガイガンはGフォースの基地へと帰還してきた。

 

 ゴジラとの戦いを終えたガイガンはいつだって、そして今日も傷だらけだ。今日のガイガンは、腕のブラッディトリガーがゴジラの放射熱線で片方が失われ、サングラス状のセンサーアイも粉砕されて内部の機械構造が剥き出しになっていた。

 そんな満身創痍のガイガンをねぎらおうと、“私”はずっと独りで待っていた。戦線から撤退してきた基地内に収容されるガイガン、その機体を見上げながら私は声をかける。

 

「おかえり、アリョーシャ。よく頑張ったな」

 

 〈アリョーシャ〉というのは、この試作型ガイガンに私が付けた渾名だ。そもそもガイガンというのは私の祖国ロシア語での巨人(Гигант)、Gigantをもじってつけられた暗号名に過ぎない。

 だからその開発者である私は、このガイガンに名前を付けてやることにした。与えた名前は古代ギリシャの偉大な大王に因んでアレクサンドル、その愛称系でアリョーシャ、という塩梅である。

 そしてそのアリョーシャがオペレーション=ロングマーチの戦線から帰還したとき、私はいつもアリョーシャの傍で過ごすのが通例になっていた。

 今日のアリョーシャ、その戦果と修理箇所を照らし合わせ、次の改良ポイントを思案する。そんないつもの作業に熱中していたときのことだった。

 

「……やはり、ここにいたのか」

 

 後ろからかけられた声に私が振り向くと、格納庫の入り口に入ってきたのは私の助手だった。その両手に持っているのは、湯気の沸き立つマグカップ。その片方、私の名前が入ったカップを差し出しながら助手は口を開く。

 

「コーヒーを淹れたよ、イリーナ。休憩でも入れたらどうだ」

 

 ……助手は本当に善い人だと私は思う。日頃から人づきあいが苦手で『マッドサイエンティスト』だなんてからかわれがちな私だけれど、そんな私のことだって助手はいつも心から思いやってくれる。

 そして私はいつものとおり、助手の優しい気遣いに心から感謝しながら応えるのだった。

 

「……ありがとう、ミハイル。だが、もう一区切りつくところまで終わらせようと思ってね」

「そうは言うがね、」

 

 と、助手は壁にかかった時計を指差した。

 

「君、ちゃんと時計を見ているのか? たしかにここには窓も無いからわかりにくいかもしれないが、もう夜中だぞ?」

 

 そう差された先の時計、その時刻はたしかに深夜0時をまわっていた。周りを見渡せば灯りがついているのは、私が陣取っているいつもの作業スペースだけ。ガイガン・アリョーシャの修理はとっくに完了していて、作業にかかっていた作業員たちもいつのまにか全員引き揚げてしまっていた。光陰矢の如し、いったいいつのまにこんな時間が経っていたのだろう。

 とはいえ、私の仕事はまだ終わっていなかった。開発者である私はガイガン・アリョーシャをもっと強く、もっとパワーアップさせなければならない。今度こそゴジラに負けないように……。

 そう伝えると、助手はこんなことを言うのだった。

 

「……しかし、君も数奇者だよな」

 

 数奇者? 私が??

 コーヒーを受けとりながら私が怪訝に首を傾げると、助手は机にもたれながら呆れたように肩を竦めて笑った。

 

「現場には来なくていいと言われたはずなのにこんな最前線までやってきて、今日も今日とて深夜まで仕事に勤しんでいるんだものな。ワーカーホリックも良いところだろう」

 

 ……むう。そんな変人みたいに思われるのは心外だな。私は、助手が淹れてくれた温かいコーヒーを飲みながら理論的に反論した。

 

「ガイガン・アリョーシャの最高スペックを発揮させるなら、開発者の私が同行して直に改良の指揮を執るのが最善だ。オペレーション=ロングマーチの戦線は御覧の通り混乱していて、ネット越しじゃあ満足に改修も出来やしない。論理的だろう?」

 

 ……私がアリョーシャの格納庫に出入りすることについて、最初の頃は苦言を呈する者もいた。

 私自身が言ったとおり、オペレーション=ロングマーチの戦線に私が同行したのは、私自身がガイガン・アリョーシャ運用開発プロジェクトの主任研究員だからというのもある。けれど、かといって修理の時にまで立ち会う必要は殆ど無い。実際この基地には私専用のラボもあるし、現場での報告を聞いて判断するでも十二分にことは足りるだろう……そんな風に公私混同だと批判されたこともある。

 けれど、それでも私はアリョーシャと同じ時間を過ごすことを選んだ。私がアリョーシャと共に過ごす理由。それは、私がアリョーシャのことが好きだからだ。

 システムをサスペンドされ、格納庫で修理されるアリョーシャと、その片隅に研究機材を並べて自分の仕事を進める私。もちろん、別にお互いに何かをするわけでもない。そもそも脳髄までサイボーグ化されたアリョーシャに、私との心の触れ合いなんてものは無理だろう。

 けれど、それでも私はアリョーシャと共に過ごすこの時間が好きだった。物言わぬ彫像のように佇むだけのアリョーシャだけれど、それでもこうして傍にいると何かがわかり合えたような気がしてくるから。

 そんな私に、助手はなおも言う。

 

「そういうところが『変わっている』というんだがな……」

 

 そうやって諦め半分呆れ半分、だけどどこか嬉しそうに微笑みながら、助手は飲みかけのコーヒーカップを机に置いて私へと歩み寄る。

 助手は私より背が高い。流石に最前線で戦うGフォースの兵士たちほど屈強というわけではないけれど、それでも彼は私より遥かに大柄な力強い男の人だった。

 そして助手はその大きい両腕で、私の小さな身体をそっと抱き締める。助手の顔が近づき、私の耳元でそっと囁く。

 

「……まあ、そこが君の素晴らしいところでもあるんだけどね」

 

 そうやって甘く唇を重ねようとする助手の想いを、私は全身全霊で受け止めた。私も白衣を脱ぎ、助手に応えて精一杯に抱擁を返し、銀の髪を掻き分けながら甘噛みの口づけを交わす。

 

「ん……」

 

 彼が与えてくれる心地よい温もり、力強い鼓動、安心する匂い。彼を感じると私も気持ちが高揚し、胸がどきどきする。変人、変わり者、論理主義の権化、『魔女』とさえ呼ばれる私だけれど、それでもこんなロマンチックな気持ちになれるのだから結局私とて人の子なのだと思う。

 ……助手、とは言ったけれど、それ以上に私と彼は恋人同士でもあったのだ。

 

「好きだよ、イリーナ……」

「ああ、私もだ、ミハイル……」

 

 相互に身体を重ね、睦言を交わし合う私たち。ここにいるのは二人きり、見ているものと言えばガイガン・アリョーシャただ一機。

 深夜遅く、ひと気のない薄暗い格納庫の片隅で私と助手は熱く、そして強く互いを求めあった。




ガイガン=レクスは次回以降に出てきます。

ゴジラ映画の主人公で好きな職業おしえて

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