メカゴジラ機龍VSガイガン=レクス ~魔女と呼ばれた女~ 作:よよよーよ・だーだだ
我らが機龍隊の隊長、ヤシロ=ハルカは通信機越しにハヤマへ潔く頭を下げた。
「ごめん、待たせたっ!」
「ごめん、って、て、テメッ、ヤシロッ、おまえ今までどこで何を……!?」
いきなり指揮をブン投げていった挙句、気儘に戦線へ戻ってきた我らが隊長ヤシロ=ハルカ。その傍若無人な振る舞いに関して、副長のハヤマ=ススムとしては言ってやりたいことが山ほどあった。
あった、が。
「……ったく、仕方ねえな」
今はそれどころではないので後にとっておくことにした。このバカが滅茶苦茶なのは今に始まったことじゃないし、その滅茶苦茶さが今の機龍隊には必要だった。
続いてヤシロ=ハルカは、通信機に向かって口を開いた。
「……総員に告ぐ。いいか、お嬢さんと野郎共」
ヤシロ=ハルカの力強い声が通信を通じて響き渡り、全隊員の士気が一気に引き上げられる。
「ガイガン=レクスを潰して、あのクソデカギドラをこの世界から叩き出すわよ」
OKB-1972の入り口に停めたメーサー戦車を指揮所代わりに、わたし:ヤシロ=ハルカは握り締めた通信機から指示を下した。
「しらさぎ隊、ガイガン=レクスの頭を抑えろ! メーサー隊、集中砲火で奴をたたんじまえっ!」
〈了解だ!〉
〈了解しました、ヤシロ隊長!〉
わたしからの指示を受け、上空からはしらさぎ隊が、地上のメーサー隊もガイガン=レクスに照準を合わせてメーサー光線を放つ。
けれど、ガイガン=レクスはそれらの猛攻撃さえものともしない強敵だった。
「――――――――ッ!」
人間たちを嘲笑うように金属質な咆哮を響かせる、ガイガン=レクス。
巨体に見合わぬ変幻自在の俊敏さで飛び回りながら、両腕の黄金のレクスブレードを再び振るってGフォースの戦力を次々と刈り取ってゆく。
その様はまさに雷帝:グロズヌイ、“紅い暴君”だ。
「動きが、速すぎる……っ!」
照準ロックと同時に外すとかどんな反応速度なのよっ、まったく!
今のガイガン=レクスは、わたしの想像以上のバケモノと化していた。まさにチートだ。まるで無尽蔵の力と速度を手に入れたかのように、完全にわたしたちGフォースの総攻撃を圧倒している。
「……だけど、ナメてもらっちゃあ困るのよね」
なんてったってこちらには“人類最後の希望”、心強い“味方”がついている。わたしは最大の“味方”を動かすことにした。
「機龍、今よ!」
わたしの号令に応えるように動き出したのは、わたしたち機龍隊最強の戦力:メカゴジラ機龍。
所狭しと一帯を切り裂きまくるレクスブレードの斬撃をなんとか躱しながら、メカゴジラ機龍は自慢の尻尾を思い切りブン回す。数十メートルに及ぶ長い鞭のような、それでいて強靭な尻尾の一撃:テイルブローだ。
メカゴジラ機龍によるテイルブローの強打は、ものの見事にガイガン=レクスの脚部を掬いあげた。その一撃でガイガンの巨体が大きく揺らぎ、一瞬バランスを崩す。
「……ッ!?」
もんどりうって倒れ込み僅かに動揺を見せるガイガン=レクス、メカゴジラ機龍はその隙を逃さず、全力で右腕のエルボーロケットを点火、超音速で振り抜いた。突っ込む先はガイガン=レクス、その胸部にスパイラルクロウの刃先が深々と突き刺さる。
「……よしっ!」
思わず決めちゃうガッツポーズ。今度は割腹どころじゃすまない、串刺しだ。いくら素早かろうが一度捕らえてしまえば……っ!
ガイガン=レクスが串刺しにされて動けなくなったところで、わたしは叫んだ。
「今だっ、カツラギッ、セキネッ! このまま、バラバラのスクラップにしてやりなっ!」
〈了解、!〉〈任せろヤシロっ!〉
カツラギのメーサー隊とセキネのしらさぎ隊の連携によるアンサンブル攻撃が、動けないガイガン=レクスに集中、その紅い巨体を一気に撃ち抜いた。紅い装甲が撃たれ、割れ、砕けて、内部のメカニクスまでもが一気に破壊されていく。サイボーグ怪獣の帝王、その巨体が地面を揺らしながら崩れ落ちていく。
だが、それでもガイガン=レクスは止まらなかった。
「っ、効いてないっ!?……」
そう、ガイガン=レクスは胸を串刺しにされたまま集中砲火を浴びたというのに、まるで気にもしていなかった。むしろまるで痛みを感じていないかのように怯むことなく、むしろガイガン=レクスはずいと踏み込んでゆく。
そこでわたしはようやく、ガイガン=レクスの真の狙いに気付いた。
「しまった、機龍の腕が……!」
冷や汗が浮かぶ。いつの間にかメカゴジラ機龍は、ガイガン=レクスに右腕を囚われていた。
……迂闊だった。まったく、何て奴だ。ガイガン=レクスを捕らえたというなら、機龍もまた同じこと。ガイガン=レクスは肉を切らせて骨を断つ戦法に出たのだ。痛みのダメージをものともしない、サイボーグ怪獣ならではの戦術だった。
「……ッ! ……ッ!!」
メカゴジラ機龍は懸命に抵抗しながらスパイラルクロウを引き戻そうとしていたけれど、ガイガン=レクスのパワーは圧倒的だった。その肘関節にレクスブレードを巻きつけ締め上げる。
絡めとられた右腕の関節部から火花が散り、金属が軋む音が響く。ガイガン=レクスは、機龍の右腕を根こそぎ切り落とす気だ。
思わず、祈る。
「たのむ、持ちこたえて、機龍……ッ!」
メカゴジラ機龍は雄叫びを挙げながら全身のロケットブースターを展開、さらに巨大な脚でガイガン=レクスの下腹部を幾度も蹴りつけ、右腕を強引に引き抜いた。
よろめきながら距離をとるメカゴジラ機龍。
「……………ッ!!」
メカゴジラ機龍は必死にその巨体を立て直そうとしていたが、締め潰された右腕は完全に機能を失っていた。装甲と関節部分が完全にひしゃげており、歪んだフレームの隙間からは夥しい循環オイルと火花の流血が噴き出ている。
「~~~~~~ッ!」
ガイガン=レクスはその様子を冷笑するように咆哮を上げると、レクスブレードを伸ばし次なる一撃を打ち込んできた。
またも、メカゴジラ機龍はブレード攻撃を受けた。ガイガン=レクスの右腕のレクスブレードが機龍の腹部装甲を一気に貫通し、装甲が毟り取られて機龍の内部機構が露わになる。轟音とともに吐血のような火花が飛び散り、メカゴジラ機龍は後方へと大きく揺られながら膝をつく。
ガイガン=レクスはなおも容赦しない。両腕のレクスブレードを縦横無尽に振りかざし、まるで「止め」を刺すかのように機龍へと迫る。
……メカゴジラ機龍VSガイガン=レクス。サイボーグ怪獣同士の対決は、いつからかバーリ・トゥードの流血試合の様相を呈していた。
戦いはガイガン=レクスの方が優勢だ。振りかざすレクスブレードはまるで鞭のようにしなり、メカゴジラ機龍の装甲を次々と斬り裂いていく。
ガイガン=レクスは一瞬も隙を見せず、機龍に休む暇を与えない。背後のしらさぎ隊やメーサー隊からの援護射撃も、ガイガン=レクスにとってはまるで蚊帳の外、気にも留めていない。
その凄まじい戦いを眺めながら、ハヤマが呟いた。
「まるで
ハヤマの言うとおりだ。
ガイガン=レクスの動きは、以前とは完全に別物だ。今のガイガン=レクスときたら、自分のダメージをまるで考慮していない。捌き切られた胴体、刳り貫かれた胸部、そして常時浴びせ続けられている集中砲火。自分のことなど、まるでどうなってもいいと思っているかのようだ。
とても、まともな生き物の戦い方じゃない。
「――――――――ッ!!」
ガイガン=レクスは咆哮を挙げながら再びそのブレードを振り上げ、メカゴジラ機龍へと躍りかかる。
一撃、二撃、三撃。両腕のレクスブレードは風を切り、空中で鋭く閃光を放ちながらメカゴジラ機龍の機体を打ちのめす。メカゴジラ機龍は何とか防御態勢を取るが、その速度に対応しきれず、左腕を、肩を、首筋を、全身を次々と斬り裂かれてしまう。
四撃、五撃、六撃。絶え間なく続く連撃に耐えかねたメカゴジラ機龍は、ロケットブースターを使ったジャンプで回避を試みるものの、ガイガン=レクスはそれすら見透かしていたかのように猛烈な追撃を仕掛けてゆく。
「メカゴジラ機龍、回避が間に合いませんっ!」
「まずいぞ、もう少しでやられる……!」
ガイガン=レクスの動きは、ますます狂気じみた様相を呈していた。
全身から血飛沫のように火花を散らし、装甲の大半が失われて内部機構が露わになっているにもかかわらず、その攻撃は一向に衰えを見せない。むしろ破壊されればされるほど、ますます猛々しく、ますます凶暴さを増してゆくかのようだ。
まさに残忍なイカレた切り裂き魔、バーサーカー、怪獣世界の切り裂きジャックだ。ガイガン=レクスの暴れっぷりは、百戦錬磨のわたしたちGフォース機龍隊も思わず怯むほどの、鬼気迫る残虐ファイトだった。
「くそっ、どんだけタフなのよ……!」
各隊からの支援射撃も、ガイガン=レクスの舞い踊るような滑らかな動きにはまるで追い付けない。メーサー光線でロックしても外され、ミサイルはレクスブレードの一撃で叩き落され、バルカン砲はそもそも効かない。まるで次元の違う戦いが繰り広げられているかのようだった。
ガイガン=レクスはメカゴジラ機龍の背後に回り込み、その巨体を思い切り突き飛ばした。メカゴジラ機龍の装甲が激しく響き、地面に大きく倒れ込む。
「…………ッ!!!」
しかし、間一髪のところでメカゴジラ機龍は反撃に転じた。右腕が使えない代わりに、左腕のカギ爪を使ってガイガン=レクスのブレードを弾き返す。
だが、所詮は苦し紛れの悪足掻き、ガイガン=レクスの攻撃を防ぎきれなかった。かえってガイガン=レクスはテイルシザースを加えて手数を増やし、まるで機龍の動きを封じるかのような猛攻撃へと打って出る。
メカゴジラ機龍がガイガン=レクスに滅多打ちにされてゆく中、分析オペレータのリウ=ユンロンの悲鳴のような報告が入ってくる。
「メカゴジラ機龍、稼働率50%まで低下! このままだと機能停止してしまいます……ッ!!」
「ここが正念場ね……!」
わたし、ハヤマ、そして機龍隊一同の焦燥感は募る一方だった。
……ガイガン=レクスの凶行は誰にも止められない。隊員たちの士気も限界に達している。機龍隊の最強戦力であるメカゴジラ機龍が、まさに倒れんとしている今、全てが終わるという恐怖が戦場全体に漂っていた。
危うく屈指かけたそのとき、「……ヤシロ隊長!」と、通信オペレータのアマギから報告が入った。
「観測チームから報告です! この辺り一帯の異常重力場の拡大が続いています! 観測範囲内の重力異常が指数関数的に増加しており、このままではギドラの完全な侵入が……っ!」
その言葉で周囲を見渡してみると、その視線の先には明らかに異常な光景が広がっていた。
空に浮かんでいるのは、黄金の終焉。
まるで空そのものが歪んで割れていくかのように、黒い亀裂が空中に浮かび上がり、その亀裂から溢れ出る金色の光がすべてを照らし出していた。戦場全体に不気味な振動が走る。地面が揺れ、空間がひしゃげるような異常な感覚が体中に広がってゆく。重力そのものが狂い、空気の流れさえも歪んでいるかのようだ。
思わず、呟いた。
「ギドラが、来る……」
わたしの視線の先には巨大な三つ首の怪物――高次元怪獣ギドラが、この次元へと這い出してこようとしている姿が見えていた。既にガイガン=ミレースのコアをすべて喰い尽くし、その力を完全に取り込んだ高次元怪獣の親玉がこちらの世界へ這い出ようとしているのだ。
「隊長、重力場が……」
「まるで、空間そのものが引き裂かれてるみたい……!」
アマギとリウ=ユンロンの声には、明らかに怯えが混じっていた。
データのとおり重力場の異常は次第に規模を拡大し、まるでこの世界そのものが高次元怪獣ギドラに飲み込まれようとしているかのようだ。
「このままじゃ、あのバカでけえギドラにこの星まるごと喰い尽くされちまうぞ……!」
ハヤマのつぶやきに、戦場にいた全員が凍りつくような恐怖を感じているようだった。
ハヤマの言うとおり、高次元怪獣ギドラが放つ金色の光は、時空間そのものを歪ませ、その周囲の次元をもねじ曲げつつあるのだろう。
次第に周囲の重力が狂い始め、戦場のすべてがギドラの存在に引き寄せられていく。まるで、全てが崩れ去ってしまうかのように。
「こんなの、どうすればいいんだ……?」
機龍隊の隊員たちはもはやその場に立ち尽くすしかなかった。
誰もがその恐怖に凍りつき、動けなくなっていた。ハヤマも、セキネも、カツラギもアマギもリウもそして他の隊員たちも、全員が感じているようだった。目の前に広がるのは、絶対的な恐怖。この次元そのものが崩壊し、ギドラのものになるという恐怖。
だが、それでも。
「まだだ……まだ終わってない!」
そうだ。そうだとも。まだ終わってない。
……高次元怪獣だかなんだか知らないけどさ。どれだけ見苦しかろうとも、それでも生き残ろうとあがくのが人間の矜持ってもんでしょうよ。人間サマをなめんじゃねえ。
そうやって歯を食いしばって指揮を続けるわたしに、ふと副長のハヤマが言った。
「……変わらねえな、おまえは」
は? なにが??
いったいどんな顔して言ってんのか、通信機越しにそのツラを拝んでやろうかと思ったけど、ハヤマの奴、カメラをオフにしてるのか表情は窺えなかった。
ハヤマはやがて含み笑いを漏らしながら、言った。
「ふっ、なんでもねえよ……おい、野郎共!」
そしてハヤマは、わたしに続いて声を張り上げた。
「俺たちは誰だ! Gフォース最強の独立愚連隊、機龍隊だ! ここまで来て逃げ出すなんて、俺たち独立愚連隊の辞書にはねえ! あんなイカレた刃物野郎なんかに、そしてあんな金ぴかひもQのバケモノ風情に、これ以上ナメられてたまるかッ!!」
その発破に、まず答えたのはセキネだ。
〈……いいこと言うじゃねえか、ハヤマ〉
続いて、他の隊員たちも次々と応じる。
〈そうですねっ、副長!〉
〈たしかに、私たちの背中には地球がある。ここで守らなきゃ誰が守るんです?〉
〈ここで諦めたら独立愚連隊の名が廃りますもんねっ!〉
……わずかながら士気が戻ったとはいえ、状況は何も好転していない。
相変わらず止められないバーサーカーのガイガン=レクス、まるで歯が立たないわたしたち、そして異次元の裂け目からこちらへ入り込もうとする恐るべき高次元怪獣。このままでは侵略者共の思うつぼ、高次元怪獣に喰い尽くされて、わたしたちこの世界は完全に滅びてしまうだろう。
皆を鼓舞する一方で、わたしもまた自分に言い聞かせていた。
「ここで終わってたまるか……っ!」
どうする。どうすればいい。
わたしは戦況を睨みながら、頭の中で必死に思考を巡らせた。ガイガン=レクスの異常な耐久力、そしてその動き。まるでこちらの攻撃が一切通じないかのように暴れ続けるその猛威。
だけど奴だって生き物、怪獣だ。なにか、なにか弱点があるはず。
「……生き物、弱点?」
そのときわたしは、激戦の中でふと脳裏に過ぎったイメージに、巡る思索を止めた。停まった思考を手繰り寄せ、よりもっと深くを目指してゆく。
……ガイガン=レクスが圧倒的な力で機龍を追い詰め続けているその様子は、とてもまともな生き物の動きとは思えない。メカゴジラ機龍の性能を凌駕するパワーとスピードだ。
けれど、その動きにはどこか不自然さを感じさせた。
……それにしてもなんだ、この不自然さは。自分自身で動いている動きとは思えない、まるで操り人形で操られているかのような……
……操り人形?
「操り人形、まさか……」
その思いつきがわたしの頭の中で響いた瞬間、全てのピースがはまったように思えた。
そうだ、イリーナ=マミーロヴァはなんて言った。ガイガン=レクスは“あのアイテム”を搭載されたことでギドラの依り代になった、と言っていた気がする。
そしてガイガン=レクスの異常な動き、狂気じみた攻撃パターン。もしそれがガイガン=レクス自身の意思などではなく、“あのアイテム”を介して操られているものだとすれば……?
わたしは、思いついた。
「そうか、“ゲマトロン演算結晶”を潰せば……!」
そうと決まれば、わたしはすぐさま行動に移した。通信機を手に取り、連絡したのは機龍隊の分析担当:リウ=ユンロンだ。
「リウ、前に共有したボローディン博士のデータから、ガイガン=レクスの仕様書を出して!」
〈え、あの、それが何か……?〉
「ゲマトロン演算結晶体が使われてる、一番の中枢部分はどこか割り出して! 急いで、早く!」
〈は、はい、ただいまっ……!〉
リウの怯んだ様子を見ると、このときのわたしの勢いは、さぞ鬼気迫ったものだったのだろう。
けれど優秀な分析オペレータであるリウ=ユンロンは、持ち前の才覚を最大限に活かして教えてくれた。
〈……はい、確認取れました! 頭部、電子頭脳部分ですっ! 特にセンサーとして額の部分には結晶体の一部が露出していますっ!〉
「わかった、ありがと! お手柄よ、リウ!」
〈は、はい……っ!〉
そして即座にわたしは指示を下した。
「Gフォース総員! ガイガン=レクスの頭、特に額のセンサーを重点的に潰せ! そこを潰せば奴の動きは止まるはずよ!」
そんなわたしの号令に、Gフォース機龍隊の声を揃えて答えてくれる。
〈了解!〉
それから副長ハヤマを筆頭とする副官たちの指揮の下、すぐさましらさぎ、メーサー戦車、そしてメカゴジラ機龍がフォーメーションを変える。
真っ先に動いたのは、メカゴジラ機龍だ。
「…………!!」
メカゴジラ機龍は、損傷した体を引きずりながらも、わたしの指示に応じて再び進撃を開始した。目指すはただ一つ――ガイガン=レクスの額。そこに埋め込まれたゲマトロン演算結晶を叩き割り、その制御を破壊すること。
全身のロケットブースターがすべて一斉に展開、フルバーニアのフルスロットルでもってフル噴射し、一気に突貫する。もはや全身ボロボロのメカゴジラ機龍が、ガイガン=レクスのイカレたスピードに対抗するにはもうこれしかない。
メカゴジラ機龍が、渾身の雄叫びを上げた。
「……~~~~~~ッッ!!!!」
対するガイガン=レクスは、両腕のレクスブレードを構えると、まるで体操選手のリボンのように、猛スピードで振るい始めた。金色のレクスブレードが風を切り裂き、目には見えないが、空間に無数の刃が張り巡らされた黄金の竜巻を作り出す。
……いや、ただ振り回しているだけじゃない、防御結界だ。甲高い音が響いているのは、きっと超スピードでレクスブレードを振るっているからだろう。
まるで空気を切り刻んでいるかのような、ガイガン=レクスの防御結界。防御というよりも、攻撃的な防御結界。その中に入ろうものなら、一瞬で細切れにされてしまうだろう。
だけど、それでもメカゴジラ機龍は踏み込んでゆく。
とうとうガイガン=レクスの間合い、レクスブレードの防御結界へと踏み入った。まるで、暴風雨の只中へと飛び込んだかのようだ。霞斬りの乱斬りでボロボロになった全身が撫で切られ、弾かれ、毟り取られ、メカゴジラ機龍の装甲が次々と失われてゆく。
だけど、それでもメカゴジラ機龍は歩みを止めない。
「……ッ!?」
……そのときわたしには、ガイガン=レクスが一瞬たじろいだかのように思えた。バカな、なんで踏み込んでくる。そう、慄いているかのように。
ガイガン=レクスはレクスブレードの結界をいよいよ加速させた。もはや目にも停まらない、ただ黄金の残影が見えるだけ。耳を突く工事現場のような高音が響いているのは、メカゴジラ機龍の装甲を打つ音があまりに間断なく連打していて、ひとつながりの音のようになっているからだろう。
メカゴジラ機龍はもはや満身創痍だった。メカゴジラ機龍の背中のロケットランチャーが刎ね飛ばされ、片目が抉り出され、動かなくなった右腕の義手が千切れ飛び、その他全身のあちこちがレクスブレードの猛攻撃で次々と吹っ飛んでゆく。
けれど、それでもメカゴジラ機龍は止まらない。それどころかロケットブースターをいよいよ噴射、まるで防御を無視したかのように、全てのエネルギーをこの一撃に賭けていた。
わたしは、機龍と共に吼えた。
「覚悟決めるわよ、機龍……ッ!」
ガイガン=レクスのブレードが激しくメカゴジラ機龍の頸動脈を斬り裂き、露になった人工筋肉を切り裂いて、致命的なほど夥しい火花が噴き出す。
だが、それでもメカゴジラ機龍は怯まない。
ロケットブースターを全力全開、最短距離でガイガン=レクスに接近。次の瞬間、残された力を振り絞り、メカゴジラ機龍は残った左拳をガイガン=レクスの額へと振りかぶる。
“なにがなんでも”
……そう、メカゴジラ機龍は、なにがなんでもブン殴ってやると決めたのだ。平和を乱すサイボーグ怪獣、“紅い暴君”ガイガン=レクスを。
機龍が、拳を振り切った。
メカゴジラ機龍渾身の、そして怒りの鉄拳がガイガン=レクスの額に直撃。地響きのような、重い金属音が戦場に響き渡る。
「……ッ!!」
途端、額を押さえながらふらつきながら後退してゆくガイガン=レクス。ガイガン=レクスは明らかに、怯んでいた。
そして捨て身で掴んだこの好機を、メカゴジラ機龍は決して逃さない。
「~~~~~~ッッ!!」
遂にメカゴジラ機龍は猛反撃を開始した。ふらつくガイガン=レクスの胸倉を掴むと背負い投げの要領で担ぎ上げ、そのまま一気に振り下ろす。
ガイガン=レクスの顔面が、地面に叩きつけられた。
……ゴジラが得意とするという必殺の投げ技、ゴジラ・プレスだ。メカゴジラ機龍は、ガイガン=レクスの首根っこを掴んだまま、幾度も幾度も地面へ叩きつける。
ガイガン=レクスはもはや為す術もない。幾度もぶちのめされた末、ガイガン=レクスは投げ飛ばされて山脈へと叩き込まれてしまう。
その最中、パキンッ、と硬い何かが砕ける音がした。
「ガイガン=レクスの額が、砕けてる……!」
幾重もの衝撃でガイガン=レクスの額は完全に打ち砕かれ、頭部装甲奥にある内部のメカニズム電子頭脳と、さらにその奥のゲマトロン演算結晶体が剥き出しになっていた。はみ出したガイガン=レクスの電子頭脳、ゲマトロン演算結晶体は途切れ途切れに光を瞬かせている。
その明滅はわたしに、したたかに頭を殴られて脳震盪を起こしたボクサーの目眩を連想させた。そしてその明滅にリンクするかのように、ガイガン=レクスの立ち振る舞いも覚束なくなってゆく。
……効いてる! 確信を持ったわたしは続けざまに号令を下した。
「よし、今だっ……カツラギ、セキネ、そしてGフォースの野郎共! ガイガン=レクスの頭に集中砲火よ!」
〈いよっ、待ってましたァーっ!〉
〈やってやるぜっ! しらさぎ隊、全弾、ありったけを叩きこめっ!〉
わたしが叫ぶと同時、しらさぎ隊が空中から、メーサー戦車隊が地上から一斉に砲火を集中させた。強烈なミサイル弾幕とメーサー光線の総攻撃、それらすべてがガイガン=レクスの額へと集中し、まるで白い閃光が戦場を飲み込むように炸裂した。
ゲマトロン演算結晶体を砕かれて脳震盪も同然の状態に陥ったガイガン=レクスは、もはや素早く躱すことなど出来なかった。
炸裂する、破裂音。
強烈な閃光が、一帯に散った。
……まばゆい爆裂が収まったあと、そこにはガイガン=レクスが立っていた。わたしたちは咄嗟に息を呑んだ。まだ生きてる、死んでない。思わず武器を身構えた。
けれど、それは刹那のことだ。
ガイガン=レクスの首から上は、跡形も無く吹っ飛んでいた。
頭を失ったガイガン=レクスはゆらりと崩れ、そのまま戦場へ力なく倒れ込んだ。頭を失った紅い巨体が地響きと共に地に膝をつき、やがてゆっくりと倒れ込んでゆく。
「やったッ……!?」
ガイガン=レクスの倒れる音が戦場全体に響き渡ったあと、ガイガン=レクスはぴくりとも動かなかった。サイボーグ怪獣の帝王、“紅い暴君”ガイガン=レクスは今度こそ完全に死んでいた。
続いて声を挙げたのはハヤマだった。
「おい、ギドラが……!」
ハヤマが指差した先、空には高次元怪獣ギドラの姿があった。
次元の裂け目から這い出そうとしていた黄金の高次元怪獣。つい先ほどまでは眩いばかりに満ち溢れていたその黄金の輝きだが、ガイガン=レクスが倒れた途端、その威光は徐々に翳り始めていた。これまで圧倒的な存在感で戦場を覆っていた高次元怪獣の猛威、ギドラの存在感が、信じられないほど急速に衰えていく。
リウ=ユンロンの分析が上がってきた。
「異常重力場、縮小してゆきます!」
異常重力場の縮小、つまり、ギドラが力を失ったということ。
……そう、わたしの読みは正しかった。機龍隊がガイガン=レクスを倒したことで、ギドラはこの次元にとどまるための力を失ったのだ。
「異常重力場の縮小と共に、各データの異常値が次々と補正されていきます!」
「高次元怪獣ギドラ、消えてゆきます……!」
この戦場全体を覆っていた異様なプレッシャーが急速に薄れてゆく。
空中に浮かぶ金色の亀裂が徐々に閉じ始め、次元の裂け目はギドラを引き戻すかのように波打ち、あれほど恐怖を与えた巨大なギドラはもはや実体を保てなくなっていた。
ギドラが悔しげに呻き声を上げる。
「ぐぎっ……イギッ、グギギギッ……!!」
ギドラが、消えてゆく。
その様子に安堵の感情が込み上げてきたけれど、すぐに気を引き締め直した。即座にわたしは総員に告げる。
「全員、まだ油断するな! まだ、完全に消えたわけじゃない……!」
わたしの指示に、Gフォースの戦士たちは即座に反応した。気を緩めちゃダメだ、ギドラの存在が消え去るまでは、完全な安心には程遠い。
その時、次元の裂け目が大きく脈動し、空間そのものが大きく揺れた。まるで、ギドラが最後の力を振り絞ってこの世界へしがみつこうとしているかのようだ。
その見苦しい有様に対し、わたしは思いきり勝ち誇ってやることにした。
「あんたはもう終わりよ……高次元怪獣ギドラ」
ざまあみろ、クソ野郎。
締め出されそうになりながらも必死に此岸へ顕現しようとするギドラの悪足掻きだったが、結局徒労に終わった。
次元の裂け目はとめどなく収縮を続け、彼岸へ引きずり込まれてゆく高次元怪獣ギドラの哀れな悲鳴が響き渡る。
「ピロピロケタケタイヒヒピギャアアアア……ッ!!」
ついにギドラは消滅し、次元の裂け目は完全に閉じられた。
……そして戦場に静寂が訪れ、誰かが呟いたのが聞こえた。
「勝ったんだ……俺たち、勝ったんだ!」
その直後、Gフォースの兵士たちは歓声を上げた。
メカゴジラ機龍がガイガン=レクスを打ち倒し、高次元怪獣ギドラの脅威も消え去った。それは、誰もが望んでいた勝利の瞬間だった。
「やったぞ!」「生き残った!」「信じられない……俺たち、勝ったんだ!」
互いに肩を叩き合い、勝利の瞬間を共有しあうGフォースの戦士たち。笑い声や、疲れきった表情でホッとする声が、次々と無線を通じて響き渡った。メーサー戦車の操縦士たちが車外に出て、肩を叩き合い、着陸したしらさぎ隊のパイロットたちもヘルメットを脱ぎ、頭上で拳を突き上げていた。
……だが、そんな歓喜の中、ハヤマ=ススムは気づいた。
「……ヤシロ?」
「…………。」
通信機越しに訊ねるが、ヤシロ=ハルカから返事はなかった。
機龍隊の隊長であるヤシロ=ハルカだけは、ぼんやりとその場に立ち尽くしているようだった。顔には笑顔の影すら見えず、むしろ、どこか遠い場所を見つめるような虚ろな表情を浮かべていた。
そしてそのことに気付いたのは、副長にして長年の腐れ縁、ハヤマ=ススムだけだ。ハヤマはつい、声をかけてしまった。
「おい、大丈夫か?」
……なんだか心配するような声色になってしまったが、別にそういうつもりじゃない。隊長サマがこんな有様だと士気に関わる、ただ、それだけなんだからな。
そんなふうに自分へ言い聞かせながらハヤマが声をかけると、ヤシロ=ハルカは努めて明るく答えようとして途中でやめたかのような中途半端な表情でこう答えた。
「……可哀想だなと思ってね」
その言葉を聞いたハヤマは、驚きとともにヤシロ=ハルカの横顔を見た。
「ガイガン=レクスの野郎がか?」
「ええ」
あれだけキングギドラ陣営、特にガイガン=レクス率いるガイガン軍団の討伐に執念を燃やしていたヤシロ=ハルカが、ガイガン=レクスについて「可哀想」だなんて。戦士としてではなく、葛藤を抱える人間としてのヤシロ=ハルカがここにいた。
ヤシロ=ハルカは言った。
「人間同士のくだらない見栄の張り合いで生み出されて、操られて、挙句の果てに殺されて……あいつ自身はただ懸命に戦っていただけ、何も悪くないじゃん」
そう漏らしたヤシロ=ハルカの声には、深い疲労と虚しさがにじみ出ていた。
つられてハヤマが振り返ると、そこには完全に機能を停止したガイガン=レクスの残骸が力なくその場に倒れ込んでいる。
ガイガン=レクスの無惨な死に様を眺めているハヤマに、ヤシロ=ハルカは語り続けた。
「そもそもわたしたちとあいつらの違いって、何? 結局、ゲマトロン演算結晶体があるかないか、それだけのことでしかない。もし一歩間違えてたら、あそこで死んでたのはガイガン=レクスじゃなくて、機龍だったかもしれない。もしかしたら……わたしだったかも」
ヤシロの言葉から、ハヤマ=ススムはその心を察した。
……つまるところ、ヤシロ=ハルカはガイガン=レクスを倒すことになったこの決着に、納得がいっていないのだ。
たしかに世界は救えた。守るべきものも守れた。仕事だからやることはやった。それが自分たち、Gフォースの使命だ。
だが、ヤシロ個人としてはもやもやした、やりきれないものをずっと抱えていたのだろう。抱えてしまったそのやりきれない想いにどう向き合えばいいのか。その答えを見つけられないまま、ヤシロ=ハルカは立ち尽くしていた。
「ヤシロ……」
……相変わらず、バカな奴だ。そしてバカのくせに真面目すぎる。そんなことで思い悩まなくたっていいのに。ハヤマ=ススムはそんなふうにも思った。
なので、こう言ってやることにした。
「……たしかにな。俺たちとガイガン=レクス、大した違いじゃあない。どっちが正しいとかじゃない。たまたま俺たちが勝っただけ、それだけだ」
……だからこそ。ハヤマは言った。
「だが生き残ったのは俺たち機龍隊だ。だったら先に進むしかねえだろ、俺たちが」
「…………!」
言ってしまってから、ハヤマは『……俺らしくないな』と思った。別にそんな立派な説教を垂れたりするような間柄じゃないし、ガラでもない。
なので、さらに付け加える。
「それに、おまえらしくないしな。そんなうじうじ悩むなんて似合わねえんだよ、後先考えない底抜け単純直情バカの癖に」
「…………。」
……なんだか励ましてるみたいになっちまったな、とハヤマは思った。
そんなハヤマ=ススムの言葉に、ヤシロ=ハルカは驚いたように目を丸くしていたが、やがて軽くクスッと笑いを零した。
「……ま、それもそうね。あんたの言うとおりだわ。それに隊長のわたしが立ち止まってちゃ、みんなの士気が下がるよね。大丈夫よ、ハヤマ。ありがと」
そう言って、ヤシロ=ハルカはメーサー戦車を降りて再び歩き出す。
「おい、どこ行くんだ?」
「ちょっとね」
ハヤマの問いに、ヤシロ=ハルカは最後にこう答えた。
「最後に、
好きなキャラを教えて
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イリーナ=マミーロヴァ
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ミハイル・アホートニク=ボローディン
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イワン=イリイチ・パヴロフ
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ヤシロ=ハルカ
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ハヤマ=ススム
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イガラシ=ハヤト
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シューニャ
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アレクサンドラ=マミーロヴァ