メカゴジラ機龍VSガイガン=レクス ~魔女と呼ばれた女~   作:よよよーよ・だーだだ

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4、やっつけろガイガン

 『ガイガン計画』始動から数ヵ月、急ピッチでの開発期間を経てサイボーグ怪獣〈ガイガン〉は完成を見た。

 改造前の素体、原種になったのはシベリア沖海底から冬眠状態で発見された古代怪獣だという。身長はゴジラよりも高い65メートル、全身を金色の鱗に覆われ、長く伸びたカギ爪と尻尾、さらに背中には空を滑空できる大きなトゲとヒレを備えている。その姿はまさしく『羽根の代わりに鱗を備えた、巨大な猛禽』とでも言おうか。

 ……私たちのガイガン。実に素晴らしい。

 ドックで聳え立つその威容に私が見惚れていると、隣から声がかかった。

 

「見るからに強そうだな」

 

 声の聞こえた方へと振り返ると、そこにいたのは共同研究者のミハイルだった。ミハイルもまたガイガンの勇姿を見上げながら、満足げに軽口を叩いていた。

 

「如何にも悪そうな面構えじゃあないか。なんだかこっちが悪役みたいだ」

 

 そう言われて改めて見る、ガイガンの横顔。

 重機よりも頑強そうなクチバシに、頭頂から突き出た一本角、そして獲物を見据える肉食恐竜のような鋭い目つき。言われてみればなかなかの悪人相と言えなくもない。

 ……まぁ、科学者に似つかわしくない感情的な感想でもあるか。私はミハイルに答えた。

 

「問題は『目的を果たせるかどうか』だろう? 見た目の印象など、実際の活躍如何でどうとでも変わるものだと思うが?」

 

 私は飽く迄も論理的な考えを述べただけに過ぎないのだが、ミハイルはなぜか面白いものを見たかのような顔をして微笑んでいた。

 

「如何にも君らしい感想だな……まあ、何はともあれ、」

 

 そのとき最初のスクランブルが発信された。場所は北アフリカ、作戦目標はスエズ河を侵攻する大怪獣ゴジラの足止めだ。

 始まるや否や輸送機からのワイヤーが伸びてきてガイガンへと固定。ガイガンの巨体がそのまま牽引され、ゆっくりと空へ引き出されてゆく。

 出撃してゆくガイガンの姿を見送りながら、ミハイルが呟いた。

 

「まずはお手並み拝見、というところか」

 

 

 

 そしてゴジラと初めて戦うことになった私たちのサイボーグ怪獣ガイガン。

 その結果は散々なものだった。

 ゴジラ対ガイガン、両者が繰り広げた激戦は数日にも及んだ……とでも言えば聞こえはいいかもしれない。

 が、実際のところガイガンは、放射熱線を撃ちまくるゴジラ相手に何も出来ないまま逃げ回っただけだった。

 そして最後はゴジラの放射熱線が命中し、撃墜。両腕を吹っ飛ばされたガイガンは、ゴジラに傷ひとつつけることも敵わないまま撤収する羽目になってしまった。

 とはいえ。

 

「だが、目的は達したよ」

 

 ミハイルの言うとおりだった。たった数日ではあったが、ゴジラを足止めすることにはたしかに成功したのだ。

 むろん勝つに越したことは無い、実際そう期待したところも本音としてはある。しかし、Gフォースの本命は飽くまでも極東で建造中の『人類最後の希望』だ。私たちのガイガンに関しては『時間稼ぎ』であり、そこまでの戦果など元より期待されていなかった。

 そして、ガイガンは『時間稼ぎ』という作戦目標を立派に成し遂げていた。

 エジプト・スエズ運河の河口からヨルダン王国アンマンまで、ゴジラとの初戦で稼いだ時間は数日、誘導できた距離は数百キロ。ガイガンは、人間の一個大隊を使い潰しても稼げない時間と距離をたった一体で、しかも一人の人命の損失も出さないままに稼いでみせた。初戦にしては上出来の戦果だったと言えよう。

 そんな中、ミハイルが言った。

 

「さて、ガイガンを修理してやらなくちゃね。あんな肘から先の無い状態のままにしておいたら可哀想だもの」

 

 私も頷き、答える。

 

「ああ、直してやらねばな」

 

 ガイガンのサイボーグ化に関しては私、イリーナ=マミーロヴァが主導することになった。しかし義手と一口に言っても、単に鉄の塊を取り付ければ済むわけではない。

 武装面の設計はGフォースの技術開発部が行なったという。ガイガンの各種装具に関しても、可能な限りスピーディーな交換が出来るように大まかな部品はあらかじめ用意されている。

 しかしどこをどう失うかはわからないのだから、結局は現場判断での微調整が欠かせないものとなる。それに時間も限られている、せっかくゴジラを誘導できても、元の位置に戻られてしまったら前線の苦労が水の泡になってしまう。

 なのでそこからは私、イリーナ=マミーロヴァの出番だった。頭脳をフル回転させて計算し、傷口に合わせて調整、肉体と部品と擦り合わせてゆく。

 昼夜を徹して没頭した作業、その最初の改造で私はガイガンに新たな腕を与えた。

 

「特殊合金槌:ハンマーハンド」

 

 ガイガンに与えられた新しい腕は、特製のハンマー。

 かつてのガイガンのカギ爪も鋭利なものではあったが、こちらはさらに強力だ。素材にはゴジラの放射熱線さえ弾くという特殊合金TA32を用いた。一振りすれば瞬間数万トンのパワー、フルスイングの一撃で高層ビルを根こそぎ叩き崩せる破壊力である。

 しかも先端をフック状に屈折し尖らせることで、カギ爪としての機能も維持した。これでゴジラの頑強な皮膚を破り、肉を抉り、骨をも砕くのだ。

 (くろがね)色の重厚な光を放つ、頑強な超合金のカギ爪。これならゴジラの熱線で吹っ飛ばされることもないだろう。

 

「さあ行け、ガイガン! ゴジラをやっつけるんだ……!」

 

 かくして私たち、いや全人類の期待を背負いながら、ガイガンは出撃を繰り返した。

 北アフリカから中東、そして南アジアまで、各地でゴジラと戦い、ガイガンはその都度敗れながらも『時間稼ぎ』という任務を達成していった。

 そしてその都度、私はガイガンの修理を担当することになった。ラッカの戦いでは目を、バクーでは胸部を、アシガバードではまたしても腕を……という具合で、戦うたびにガイガンは体の一部を潰されて帰ってきて、その都度私が修理することになった。

 ガイガンには痛々しいことにはなったけれど、その代わり私は全精力を注いでガイガンと向き合った。

 

「いつもありがとう、ガイガン・アリョーシャ。今、治してやるからな……」

 

 ガイガンの改造には、意欲的なアイデアも多数盛り込んだ。

 たとえば、潰れた目には従来のカメラ型義眼とは違う、新しいタイプの義眼を埋め込んだ。

 昆虫の複眼を参考に開発した、電磁波センサーを用いた全方位対応の全天候型レーダー義眼。それをゲマトロン演算結晶体を参考に開発した神経ファイバー、そして同じくゲマトロン演算で光学処理を行う新型ニューロ・グラフィックプロセッサを介してガイガンの脳へ直結した。この改造により、ガイガンは前を向きながら同時に全方位を見ることが出来るようになる。

 その完成した姿を見たとき、ミハイルがこんな感想を述べていたのを覚えている。

 

「まるでサングラスだな」

 

 言われてみれば確かにそうだった。両目を覆うかのように左右へ鋭く伸びた形状。形については抉れた目の傷口の都合もあったのだけれど、言われてみれば真っ赤なサングラスのように見えないことも無かった。

 

「なかなか男前、まさにクールな“ナイスガイ”って感じでカッコいいじゃあないか」

 

 ……ナイスガイ、か。上手いことを言う。

 ちなみに余談であるが、このような成り行きで追加されたガイガンの赤いサングラス、人々の印象に残る形状だったのか巷ではガイガンのトレードマークとなったという。聞くところによれば、

 

「ガイガンをモデルにしたサングラスが発売!」

「カラーはレッド、エッジの利いたシャープなデザイン、これをかければ君もオペレーション=ロングマーチの一員だ!」

「さあ、皆でこのサングラスをかけてガイガンを応援しよう!……」

 

 そんなコマーシャルが流されて、子供たちはおろか、良い歳をした大人までもがガイガンの真似をして赤いサングラスを買い求めていたというのだから呆れてしまう。

 ……開発者である私に言わせれば、このサングラスは飽くまでも実用性を重視した結果だ。喪われた視覚を強化する都合でこのような形態になっただけで、別に格好良くしたくて追加したわけでもない。

 だが、まぁ悪くはない。

 嫌われるよりも好かれるに越したことはないし、実際タイアップしたコマーシャルの効果によるものか、使える予算も格段に増えた。これでガイガンをもっと強くしてやれる。

 そんな巷の与太話を雑談がてらミハイルに話したところ、ミハイルはこんなことを言っていた。

 

「素直じゃないなあ、君も」

 

 ……なんだと?

 怪訝な私に、ミハイルは心底愉快そうな顔でカラカラと笑った。

 

「素直に言えば良いじゃあないか。『自分の創ったものが褒められて嬉しい』って」

 

 ……むう、そんな子供っぽい奴だと思われているのか、私は。そう睨み返してやったのだが、ミハイルはなおも辞めなかった。

 

「そういうところが『可愛い』っていうんだよ、イリーナ。君、意外とシャイなんだね」

「…………。」

 

 とまあ、そんなことはさておき、ガイガンの強化改造で強化したのは視覚だけではなかった。

 焼かれた胸郭はプロテクターで補強し、半ばで千切れた尻尾の切端部にはテイルクローを増設した。翼を失えばロケットブースターを取り付けて飛行能力を改良し、切り裂かれた(はらわた)には、Gフォースの技術開発部が開発したというブレードランチャーの試作品を増設したりもした。

 神経系は、ゲマトロン演算結晶体を解析して開発した新型の神経ファイバーへ少しずつ置き換えていった。強化改造したパーツには、それに見合うだけの強靭で優れた神経が必要になる。ガイガン本来の神経系ではもはやもたなかった。

 腕にいたっては、いくど取り替えたかわからない。最初に取り付けたハンマーハンドは早々にゴジラから引き千切られてしまったので、鎖鎌を備えたブラッディトリガーへ換装することになった。あるいは特殊合金製の超振動鎖鋸:ブラッディチェーンソー、収束型誘導弾:ミサイルマイトを取り付けたこともある。

 最前線で強化改造を重ねて、なおもゴジラと戦い続けたガイガン。その勇猛果敢な姿を見ながら、前線で徴用された少年兵たちはこんな風に歌っていたという。

 

「やっつけろガイガン」

「硬い鋸、身体に付けた最強無敵のガイガン」

「迫る怪獣ゴジラに迎え撃つのは、ぼくらのガイガン、だけど負けないぼくらのガイガン」

「地球のために、正義のために、戦うぼくらの無敵のガイガン……♪」

 

 

 

 こうしてガイガンの強化改造を手掛ける傍ら、私は別のアプローチの研究も始めた。

 

「『ゲマトロン演算結晶体の性能限界検証』をしておきたい」

 

 ゲマトロン演算結晶体は最高の研究素材だ。果たして『どこまで出来る』のか、その限界を見極めておきたいと望むのは研究者として当然の欲求、というよりも責務である。

 私がその構想を話したとき、当初ミハイルは歓迎していた。しかしその『手法』に話題が至ると、途端に眉をしかめたのだった。

 

「……出来ることは何でもやってみたい、そういう気持ちはわかるよ。君ほど優秀じゃあないが、僕だって科学者の端くれだからね」

 

 しかしだね、とミハイルは言う。どうやら私の考案した『検証法』に不満があるらしい。

 

「だからと言って、無茶苦茶にも程があるだろう。『自分のコピーを作ってみたい』だなんて」

「自分のコピー、だと?」

 

 それは不正確な表現だ。私は訂正を試みた。

 

「私は自分のコピーなど作ろうと思っていない。ただ『ゲマトロン演算結晶体上で人間の脳の機能を仮想的に実装できるか』を検証しているだけだ。人格だけなら肉体も伴わない、これのどこが自分のコピーなんだ」

 

 人類史上最高の記憶領域媒体であり、演算処理装置であり、神経系にも成り得るゲマトロン演算結晶体。その究極の用途があるとすれば人間と同等の知性を作る研究だ。

 『ゲマトロン演算結晶体を用いた人工知能』

 人体における最高の記憶領域にして演算処理装置であり、そしてもっとも複雑な神経系である脳。その全機能を、ゲマトロン演算結晶体を用いたエミュレータでフル実装する。

 人間の脳は約860億のニューロンから成り、その一つ一つが幾千ものニューロン同士で結合し合って常時連携している。これをゲマトロン演算結晶体の上で再現できたなら、これほどの性能限界検証は無いはずだ。

 『怪獣黙示録』で医療技術も発達した昨今、生体のままコネクトームのパターンを検出できる非侵襲型の全脳マッピング技術も発明されている。これこそゲマトロン演算結晶体の性能限界検証として、是非とも試して然るべき検証法のはずである。

 

「屁理屈だよ、それは」

 

 だが、ミハイルは納得がいっていないようだった。

 

「人格の再現なんて自分のコピーを作っているのと同じじゃないか。だいたいイリーナ、君自身なんとも思わないのかい? 自分と全く同じ人間がもうひとり生まれることになるんだぞ?」

「何を言う」

 

 すかさず私は反論した。

 

「自分自身こそ最高の実験材料だろう。いくら弄ろうが複製しようが、それこそどこからも文句が出ない」

 

 そう答えると、ミハイルは呆れたように肩をすくめていた。

 

「……コピーの方が文句を言いそうだけどね」

 

 とはいえ、最終的にはミハイルの方が折れた。

 いくら私のことをマッドサイエンティスト扱いしようが、かく言うミハイルも所詮は科学者、結局は私の同類だ。『ゲマトロン演算結晶体がどこまで出来るのか試してみたい』、そんな科学者として抱いて当然の好奇心には抗いきれなかったのだろう。

 当時、私の『検証』を手伝いながら、ミハイルはこんなふうに言っていた。

 

「まあ、いつまでも戦いのことばっかり考えてられないからね。君の『検証』だって、いつかどこかで役に立つ時が来るだろう」

 

 ……今にして思えば、なんて呑気な日々だったのだろうと思う。

 当時の私たちは、前線の兵たちがゴジラに蹂躙されてゆくのを横目に、本当にバカみたいな実験を繰り返していた。ガイガンをパワーアップさせ、さらにゲマトロン演算結晶体の特性を生かし切ろうと、思いつく限りを試していた。

 私たちは若かった。ゴジラたち怪獣との戦いに勝ち抜きさえすれば素晴らしい未来がきっと待っている、そんな馬鹿げた夢を本気で信じていられるくらいには。

 

 だからその夢の行き着いた果てにあんな『破局』が待っていようとは、夢にも思っていなかったのだ。

 

 

ゴジラ映画の主人公で好きな職業おしえて

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