メカゴジラ機龍VSガイガン=レクス ~魔女と呼ばれた女~ 作:よよよーよ・だーだだ
私――イリーナ=マミーロヴァが、OKB-1972を離れてから5年後。
サイボーグ怪獣の研究を手離した私は大学の研究室に戻り、本業の障碍者福祉研究に戻った。かつてのOKB-1972での華やかな最先端研究とは無縁の閑職、地道なフィールドワークと研究の日々。
だが私はそれでよかった。少なくとも今は生きた人間と接していられる。ガイガン・アリョーシャのような犠牲者を出すことも無い。
それに。
「
……はいはい、わかったわかった。
食卓から聞こえる娘の声にせがまれ、私はダイニングのテレビをつけた。柔らかな照明が部屋全体を包み込み、家具の陰影が穏やかな家庭の雰囲気を作り出している。
テレビのチャンネルをザッピングしてゆく最中、ふとニュース番組に目が留まった。
『Gフォース、快進撃!』
『メカゴジラ機龍、またしてもお手柄!』
『人類の生存圏、拡大! 人口回復の兆しが……』
……まったく、現金なものだ。
かつては「オレたちのガイガン」だなんて言うほど熱狂したガイガンブームのことなんて、いまや遠い忘却の彼方。大本命の本丸であるところの人類最後の希望メカゴジラ機龍が完成してしまえば、前座のガイガン如きにはもはや用など無いらしい。
不愉快なニュースを切り替え、私は娘に問いかける。
「映画でも見ようか、サーシャ」
「えいが? みるー!」
こういうとき、私たちが観る映画はいつもたいてい決まっている。ジャンルは特撮か、でなければディズニーのアニメ映画。
「サーシャ、今日は何が見たい?」
「うーん、きょうはねえ……『地球防衛軍』!」
「よし、わかった。つけようか……」
『地球防衛軍』。ミステリアンドームを築いて地球制圧を目論む邪悪な侵略者ミステリアンの野望とそれに立ち向かった人々の奮闘を描く、『怪獣黙示録』の
そして始まる映画。血沸き肉躍るような音楽に、派手で華やかな特撮、娘の目はテレビへ釘付けになる。娘の瞳に映るスクリーンの輝きが、純粋な好奇心を物語っていた。
「わあ……!!」
……ふふ。そうやって映画に夢中になる娘を見ていると、なんだか私までも笑みが零れ落ちそうになる。
OKB-1972を出たあと、私はこの世で一番大切なものを授かった。名前はサーシャ、私の娘だ。フルネームはアレクサンドラ=マミーロヴァ。ガイガン・アリョーシャの名前を受け継いだ、私の娘。
そのサーシャが私に笑いかけた。
「
……まったく、奇妙な巡り合わせもあったものだと思う。かつて『魔女』とまで呼ばれた私が子を授かり、よもやこんな心持ちになれるとは。
サーシャに、私は微笑みながら答える。
「そうだね、サーシャ」
暖かい夕陽が窓から差し込み、部屋の中を柔らかいオレンジ色に染めている。
最愛の娘と囲う幸せな食卓、それが今の私のすべてとなった。彼女の笑顔が私にとって何よりの宝物だ。この無邪気な笑顔を守るためなら、どんな困難でも乗り越えられる気がする。
華やかな栄光も、成功も、夢も、もはや何も要らない。この子と過ごせる時間さえあれば、それでいいんだ。
……それだけで、充分だったのに。
けれど、そんな平穏は間もなく奪われることになった。
その日、私はいつものように研究室からの帰り道を歩いていた。気温は低く、冷たい風が頬を刺す。寒さに震えながらも家路を急いでいたその時、目の前に黒塗りの高級車が止まった。
車のドアが開き、中から現れたのは、
「いやあ~、久しぶりですねえ、マミーロヴァ博士!」
そう言いながら私に声をかけてきたのはモスクワ派の政治家、イワン=イリイチ・パヴロフだった。
パヴロフの姿は、私の記憶に焼き付いていた彼のままだった。中肉中背の体躯に、少し白髪の混じった髪。鋭い眼差しの奥には狡猾さが隠されている。彼はゆっくりと近づいてきて、あの好々爺めいた笑みを浮かべたまま手を差し伸べた。
周りを固めるのは屈強なボディガードの男たち。下っ端どもと引き連れながら、パヴロフは鷹揚に私へ歩み寄ってくる。
「お元気そうで何より……」
「何の用だ、パヴロフ」
そんな馴れ馴れしい態度のパヴロフに、私は冷たく応じた。ガイガン・アリョーシャの一件で縁を切って以来の再会だが、こんな奴など二度と関わりたくなかった。
そんな私の不遜な態度にも臆することなく、パヴロフはニコニコ笑いかける。
「まあまあ、そんなに冷たくしないでくださいよ。今日はちょっとしたお願いがあって来たのです……」
ま、立ち話も難ですから、と半ば無理矢理にクルマに乗せられる。
会談は、移動する車中で行なわれた。
「それで何の用だ、パヴロフ。私は暇じゃないんだ、要件があるならさっさと言え」
「……ふむ」
私が以前のような“社会性のある態度”を見せなかったので、パヴロフもまた単刀直入に本題を切り出してきた。
「今進めているプロジェクトに、またあなたにもご参加いただければと思いましてね。もちろん報酬は弾みます、なんだったらマミーロヴァ博士、あなたの専攻である障碍者福祉の研究もまた支援させていただいても良い……」
「断る」
私は、用件も聞かずに即答した。
内容なんぞ聞くまでも無い。極東で完成したメカゴジラ機龍が大活躍しているという巷の評判は、私も小耳に挟むところである。それに風の噂で、パヴロフはロシア大統領選に出ると聞いている。大統領選の目玉に『国産のメカゴジラ機龍』でも打ち出すつもりなのだろう。
……心底、くだらん。私は冷たく答えた。
「あんな狂った研究に関わるのはもう御免だ。ミハイル……ボローディン博士なんかはどうだ。彼なら喜んでやるだろう」
「ボローディン博士ですか。彼は既に参加いただいているのです、が……」
が?
私が続きを促すと、パヴロフは如何にも困ったような、けれどどこか馬鹿にしたようなニュアンスも匂わせながら言った。
「彼にはどうも“センス”と言いますか、そういったものが欠けているようで……今回のプロジェクトも、やはりあなたのような天才がいなければダメらしいのです」
……そうだろうな、と内心思った。
ガイガン・アリョーシャの運用計画においてミハイルは名目上『私の共同研究者』ということにはなっていたが、実際のプロジェクト進行については私イリーナ=マミーロヴァがもっぱら主導権を握っていた。ボローディンは助手としては優秀だが、せいぜい私の助手止まりの男だ。そんな男に私の代わりなど務まるはずがない。
まあ、そんな事情など知ったことではないが。私ははっきり言った。
「断ると言っているだろう。どうせメカゴジラ機龍に対抗して国産のメカゴジラでも作ろうとでも言うのだろうが、そういうことがやりたいなら他を当たってくれ」
断固拒否を貫く私に、パヴロフは「ふーむ……」と考え込むような仕草をしながら言った。
「それは困りましたねぇ……私どもとしては、出来ればこういう手段をとりたくはないのですが……」
仰々しく言い淀んだパヴロフの言葉に、私は不吉な予感を覚えた。そして愛想良くニコニコ笑いを浮かべたままパヴロフは、こんなことを言い出した。
「博士のご家族のことを考えると、私も心が痛みます」
家族……?
唐突な言葉に、私は眉をひそめた。こいつ、何を言っている?
「ええ、マミーロヴァ博士、たしか娘さんがいらっしゃいましたよね?」
……!
目を見開く私に、パヴロフは相変わらずニコニコ笑いながら言った。
「名前はたしか、アレクサンドラちゃん、でしたか? 年齢は4歳。顔写真も拝見しましたが、あなたに似てとても可愛いお嬢さんだ。私もアレクサンドラちゃんが健やかに成長することを心から願っていますよ。どうか、何事も無く穏やかな日々が続けばいいのですが……」
「なにを、言って……?」
言葉が詰まり、声にならない。
愕然とする私に構うことなく、パヴロフは愛想良いニコニコ笑いをさらにニコニコさせながらこのように続けた。
「いえいえ、別に『そんなこと』をしよう、なんて言っているわけじゃあないのですよ。ただ、私は心から心配しているのです。そんな可愛い娘さんですからどうか『そんなこと』が起こらなければ良いなあ、と……万が一、ね」
こいつらまさか、サーシャの身に危害を加えるつもりか。
あからさまにも過ぎるパヴロフの言葉に、私は掴みかかりそうになった。が、同席したエージェントたちに容易く抑え込まれてしまう。
そんな中で、パヴロフは「ああ、あともうひとつ」と嘯くのだった。
「我々のプロジェクトから外れたあなたの判断は、倫理的ではあるかもしれない。しかし決して論理的ではないし、利口でもない。もし仮に娘さんが大きくなって進路を決めようとした時、あるいは就職しようとした時、そういった人生の重大な時にどうか後悔するようなことがないよう、ここできちんと考えておかれるべきかなあと思いますが?」
「き、貴様……!」
「いやいや、ただの世間話ですよ。例えば、優秀な学生には奨学金や特別なプログラムへの招待があるべきだと思いませんか? それに対して、研究の道に戻ることを選んだ博士には、アレクサンドラちゃんにもそれ相応の未来を用意してあげたいじゃありませんか。まあ、こんな話は自明でしょうがね、あなたのような論理的な方ならば」
「ぐっ……!!」
抑えきれない怒りに震える私に対し、パヴロフはにこやかに言い放つ。
「まあ、よくお考え下さい。私どものプロジェクトが成功裏に終わりさえすれば博士自身は勿論、娘さんの将来も約束されるのです。悪い話ではないでしょう?」
「…………っ!」
なおも即答しかねている私に、パヴロフはなおも言う。
「まあいきなりのことで決めかねているでしょうから、少しお時間を差し上げましょう。どうかアレクサンドラちゃんの将来も含めて、真剣にご再考いただけるとありがたいですねぇ……」
パヴロフと別れて私が帰宅すると、サーシャがリビングの床に座ってクレヨンで何かを描いていた。彼女は私の顔を見るなり、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
「
サーシャが見せてくれた絵には、二人の人物が描かれていた。ひとりは明らかにサーシャ自身で、もうひとりは……。
サーシャは得意気な満面の笑みで、私に告げる。
「これ、
サーシャは、自分と私の手を繋いだ絵を描いてくれたのだ。
「……わあ、上手に描けたね、サーシャ」
「ほんとに? やったー!」
サーシャは私から褒められて嬉しそうに飛び跳ねると、続いてこんなことを言い出した。
「
「そうなの? サーシャも研究者になりたいの?」
「うん! わたしも、ひと を たすける しごとが したい!」
……人を助ける仕事、か。
『魔女』と呼ばれ、罪も無いガイガン・アリョーシャの生命を冒涜し、弄んで、不幸にしたマッドサイエンティストのこの罪深い私が。
そんなことを思いつつも、私はサーシャの頭を撫でてやる。
「そうだね、サーシャ。あなたならきっと素敵な研究者になれるよ……」
「えへへ……」
無邪気に喜ぶサーシャの笑顔を見たそのとき、私の脳裏にさきほどのパヴロフとのやりとりが頭をよぎった。
「私どものプロジェクトが成功裏に終わりさえすれば博士自身は勿論、娘さんの将来も約束されるのです。悪い話ではないでしょう?……」
……パヴロフの言ったことはハッタリだ。いくら政治家と言えども、そんな大っぴらな圧力を掛けられるわけがない。そんなことはわかっている。
だけど、『万が一』という可能性を私は捨てきることが出来なかった。
パヴロフは大統領選に出るらしい。あんな下劣な男が本当に大統領になれるとは思えないが、その政治的影響力はそれなりに大きいことは私にだってわかる。もし協力しなければ、このことを逆恨みして私たちに何らかの危害を加えてこない可能性が無いとは限らない。
……私のことはいい。けれどこの子、サーシャだけは。
「……
サーシャの言葉に、私はようやく我へと返る。私を見上げるサーシャの表情は不安げで、ともすると気づかわしげにも思えた。
……こんないたいけな子供にまで気を遣われるなんて、私は母親失格だな。私は努めて表情を取り繕い、サーシャに優しく笑いかける。
「大丈夫だよ、サーシャ。なんでもない」
そして、私はOKB-1972に舞い戻り、そこで“あの男”と再会することになった。
「やあ、久しぶりだね、イリーナ!」
喜色満面の笑みを浮かべて私を出迎えたのはかつての共同研究者、ミハイル・アホートニク=ボローディンだった。ボローディンは私の事情や都合など露とも知らぬまま、まるで昔のようにそのまま歩み寄りながら言った。
「元気にしていたかい、イリーナ。本当に助かるよ、君が研究から離れてしまってからこちらのプロジェクトもだいぶ行き詰まっていたんだ……」
……相変わらず無神経な男だ。手厚い歓迎に対し、私は率直な態度で答えた。
「そちらこそ随分と出世したな、ミハイル・アホートニク=ボローディン。かつて私の助手の立場から、今や設計局の局長か」
「え……?」
私から投げ掛けられた“社会性あふれる態度”に、ボローディンは茫然としていた。
……つくづくおめでたい男だ。私からこんな冷ややかな反応を受けるとは、夢にも思っていなかったらしい。
まぁ予想通りだが。構うことなく私は続けた。
「かつて私たちが一緒に研究していたOKB-1972も、今や君の名前で『アホートニク設計局』だなんて随分と御大層な名前がついたらしいな。ゆくゆくはご自慢の
「お、おい、ちょっと待ってくれよ……」
私からの嫌味の連発はまるで想定外だったのか、ボローディンは酷く戸惑った様子で反駁した。
「そんな言い草はないだろう。たしかに君の功績に乗っかるような形にはなってしまったし、君とはかつて恋人同士でもあった。けれど栄転の話についてはイリーナ、君の方から辞退したんじゃあないか。それを今更そんな風に言われても……」
「いや、出世の話なんぞ知らん。そんなものはどうでもいい」
「それじゃあいったい、なにを……?」
……まったく鈍感な男め。ここまでも言ってもわからないボローディンの馬鹿に、私は言ってやることにした。
「恋人と娘を放っぽり出して、自分は出世街道を邁進か。まったく良い御身分だな、ミハイル」
「む、娘?」
そう言った途端、ボローディンは目を見開いていた。そして心底驚いたような顔つきでしゃあしゃあと言ってのける。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 娘だなんて、いったい何のことだ? 僕は知らないぞ!?」
なんだ、知らなかったのか。まぁ、如何にも自分の好きなこと以外どうでもいい、そういう身勝手なオタク野郎であるこの男らしいが。
唖然としているボローディンに、私ははっきり言ってやった。
「アレクサンドラ“サーシャ”マミーロヴァ、私の、そして君の娘だよ。まぁ尤も、父親の存在についてサーシャには教えていないがね」
私が冷ややかにそう言ってやると、ボローディンは心底罰が悪そうな顔をしていた。このオタク男にも、その程度の良心はあったのか。
やがてボローディンは真剣な面持ちで、私に言った。
「……すまない。この償いはいつか必ずするよ」
……ふん。まあ今さら遅いがな。私はそう思わずにいられなかったが、あまり引き摺っても面倒なので触れないでおくことにした。
かくして私:イリーナ=マミーロヴァとミハイル・アホートニク=ボローディンは、再び共同研究を行なうことになった。
今度のテーマは、試作型ガイガン・アリョーシャの戦果を踏まえた改良型ガイガン。そのための研究材料は山ほどあった。
まず参考に出来る戦闘データは、アリョーシャが玉砕するまでの豊富なデータがあった。改造素体には、アリョーシャの細胞サンプルから培養したクローン怪獣を使った。さらにパヴロフの政治力の賜物だろう、世界的大企業エイペックス社が開発中の新兵器の各種サンプルも使うことが出来た。
そしてなにより、ボローディンは男としては最低だが、皮肉なことに研究者としては相変わらず、そして私の助手としては最良の存在だった。それから私とボローディンはかつてと同じ設計局OKB-1972で、かつてよりも強力なサイボーグ怪獣の建造に勤しむこととなった。
そして1年後。
究極のガイガン、〈ガイガン=レクス〉は完成した。
ガイガン=レクスの完成度は、往年のアリョーシャとは比較にならないほど高性能なものとなった。
まずガイガン=レクスの両腕は、ハンマーハンドをベースに改良した蛇腹剣レクスブレードへと変更した。従来のハンマーハンドは叩くか薙ぐ動きしか出来なかったがこのレクスブレードはワイヤー式で伸縮自在、さらにワイヤー自体にも殺傷力を付与し、その切れ味はビルを丸ごと一つ括って輪切りに出来るほどだ。
また、かつての試作型ガイガン・アリョーシャは、当時の技術的制約から火力不足が否めなかった。その反省を踏まえ、ガイガン=レクスの胴体にはかつてのブラデッドカッターに代わって最新式の荷電粒子砲プロトンスクリームキャノンを組み込んだ。プロトンスクリームキャノンの出力はゴジラの放射熱線にも匹敵する大火力、これであればたとえゴジラが相手であっても後れを取ることは無いだろう。
尻尾には巨大な鋏、テイルシザースを与えた。近接武器としては勿論、プロトンスクリームキャノンをフル出力で発射するときのアンカーとしての機能も担う。
その他にも、基本的な身体能力はかつてのガイガン・アリョーシャから大幅にパワーアップさせた。パワー、スピード、反応速度……どれも桁違いだ。
さらに私たちは、別方向の開発も進めていた。
ガイガン・アリョーシャのデータをベースにした量産化モデル、ガイガン=ミレースだ。
両腕のハンマーハンドに、胴体のブラデットカッター、額のギガリュームクラスター砲。装備自体はかつてのガイガン・アリョーシャと似ているが、ガイガン=ミレースはそれらすべての要素をより洗練、チューンナップを施した。試作型の反省を踏まえた量産型、それがガイガン=ミレースだ。
そしてこれらのガイガンを統率する新システムこそが『ゲマトリア演算ネットワーク』である。
かつてガイガン・アリョーシャの電子頭脳を代替したゲマトロン演算結晶、その反応構造をモデル化して並列コンピューティングとして実用化した電子頭脳システムだ。一体ずつのガイガンの電子頭脳同士がゲマトリア演算ネットワーク上で大脳のニューロンのように連携し、ゲマトロン演算での処理を経て動作、巧みな作戦連携を可能にする。
メカゴジラ機龍がワンオフに過ぎないのに対し、私たちのガイガン=レクスとガイガン=ミレースは複数のチームプレーが可能になる。まさにパヴロフたちモスクワ派が求めたとおり、私たちのガイガンはかのメカゴジラ機龍を超えた一大戦力となった。
かくして完成を遂げた、ガイガン=レクスとガイガン=ミレース。私たち開発チームからその圧倒的スペックを説明されたとき、イワン=イリイチ・パヴロフの喜び様ときたらそれはもう目も当てられなかった。
「
そうやって両手を叩いて喜ぶパヴロフ。この大仰な喜び様はもちろんある種の政治的なポーズなのだろうが、その目の輝かせ様からすれば半分くらいは本心であるようにも思われた。
並び立つガイガンたちを見上げながら、パヴロフは声を張り上げた。
「見てください、ガイガン=レクスの鮮烈な真紅! 両腕に備えた黄金の鎌! まさにソヴィエト・ロシアの精神が形になったような怪獣ではありませんか! これぞ
まったく、何を時代錯誤なことを。
そう思わずにいられなかったが、私は敢えて口にはしなかった。大事なパトロン様だ、そのご機嫌をわざわざ損ねることもなかろう。
そういう当たり前のことを誰も指摘してやらないので、パヴロフはますます増長していった。
「このガイガン=レクスさえあればあの忌々しい米帝の狗ども、Gフォースとモナークの鼻を明かすことも出来ることでしょう。『メカゴジラ機龍こそ、人類最後の希望』ですって? ふん、何が『人類最後の希望』ですか。ゴジラの骨など使って、どうせいつか暴走するなりして墓穴を掘ることになるでしょうとも!」
そうやってグハハハハと下品に高笑いするパヴロフと「ええ全くです!」「仰る通り!」「流石です、パヴロフ議員!」と囃し立てる周りのモスクワ派幹部たち。
「……ふん。愚劣なカスどもめ」
デモンストレーションルームで繰り広げられているパヴロフたちの狂態。それを横目で見つめていた私に、「まあ言ってやるなよ、イリーナ」とボローディンがコーヒーを差し出す。
「彼らの言っていることも尤もな部分はある。メカゴジラ機龍はたしかにマスターピース、最高傑作だ。だが、あの一機にばかり全世界の命運を託そうなんてのは狂気の沙汰、リスクでしかない。健全な技術発展には競争相手が必要だ。
「“僕らの”? おい、言葉には気を付けろ」
そう応じながら、私は差し出されたロシアン・コーヒーに口をつけた。
……甘いチョコレートの口当たりに、ほんのり香るウォッカの風味。ふん、ボローディンの奴、相変わらずコーヒーを淹れるのが美味いな。まったく小憎らしいことこの上ない。
そんなことを思いつつ、私は釘を刺した。
「ガイガン=レクスは“私の”ガイガンだ。君はただの助手に過ぎん。分を弁えろ、ボローディン」
「……相変わらずつれないな、君も」
「馴れ馴れしくするな。言っとくが、私とサーシャにした“仕打ち”を許したわけじゃあないからな」
「っ……」
サーシャの名前を出した途端、ボローディンは黙り込んだ。
私と別れたあと、ボローディンはパヴロフの伝手でロシア中央政界とのコネを手に入れ、ひいては結婚したらしい。相手はモスクワ派の政治家の娘。私のような研究者とは違うが、これまたやはり彩色兼備の才媛だそうだ。そんな中で元恋人の私や隠し子であるサーシャの存在が明るみになれば、ボローディンだってタダでは済まない。
……私にだって“矜持”ってものがある。サーシャのことを楯に
そんな毅然とした私の態度に、ボローディンにも思うところがあったようで、
「……わかっているよ、イリーナ。サーシャのことはいつか必ず……」
……ふん。その“いつか”とやらは果たしていつのことになるのだろうな。そんなことを思いつつ、私はコーヒーを飲み干した。やはりボローディンの淹れたコーヒーは美味い、小憎らしいほどに。
そんなことを言い合っているうちのことだった。
巨大な轟音が鳴り響いた。
続いて施設全体を揺るがす、強烈な激震。戦艦の砲弾直撃に似たその地響きの正体が、巨大な“足音”だと気づくまでに少々ばかり時間がかかった。
やがてけたたましく鳴り響き始める警報。私は通信機を手に取って怒鳴った。
「なんだ、なにが起こってる!?」
〈こちら、レクス管制塔っ、ガイガン=レクスとミレースが、勝手に……う、う、ウワァーッ!!……〉
ガイガン=レクスとミレースが? おい、どういうことだ、答えろっ!?
私がそう怒鳴り返すと同時に、凄まじい金属音と断末魔の悲鳴が聞こえて通信は途絶えた。
続いてパヴロフらモスクワ派の政治家どもが、私たち開発チームに詰め寄ってきた。
「おい、今のはなんです!? ガイガン=レクスがどうしたと!?」
その詰問へ答えてやるより先に、二度目の衝撃が走る。今度はもっと大きい、
パヴロフたちに応える間もなく、私はガイガン=レクスたちの制御コンソールに取り付いた。なんだ、なにが起こってる!?
そして画面に映される、ガイガン=レクスたちの駐機ハンガー。そこには驚くべき光景が広がっていた。
「ガイガン=レクスが、動いてる……!?」
そこには、私が開発したばかりのガイガン=レクスが動き出す姿が映っていた。
ガイガンたちの王、ガイガン=レクスが、真紅のボディに黄金の鎌を振りかざし、全身に絡みついている拘束具を引き千切ってゆく。
「バカな、暴走しているだと……!?」
-
私はすぐさまコンソールを操作し、ガイガン=レクスの制御を取り戻そうとコマンドを打ち込む。けれどダメだ、私が思いつく限りのあらゆるコマンドの一切を、ガイガン=レクスはまるで受け付けない。
かくして自由になったガイガン=レクスは大地に降り立ち、逃げ惑う整備士たちや兵士たちをムシケラのように踏み潰しながら一歩、また一歩と歩き始めた。
コンソールに取り付いている私、その肩を後ろから掴む手があった。強く引かれて振り返ると、そこには必死な表情のボローディン。
「イリーナ! 早く逃げよう! 此処は危険だ!!」
そうやってボローディンは私の両肩を掴み、力づくでコンソールから引き剥がそうとする。見ればモスクワ派の政治家どもも、開発チームのメンバーも、いつの間にか全員その場から逃げ去っていた。ボローディンの奴も、私を連れ出して避難させようという魂胆だろう。
だが、私はその手を振り払った。
「断るっ! 私にはガイガン=レクスを停めてやる義務がある!」
「バカ言うな、相手は怪獣だぞ!?」
「バカは君だ、ボローディン! あいつがこのまま外に出て行ったらどんな被害が起こるか、わかってるのか!? あいつは、ガイガン=レクスは私が造ったんだぞ!? この私が停めなくていったい誰が……!」
そうやって押し問答を繰り広げている最中、ことは起こった。
響き渡る、三度の轟音。
今度は、私たちがいるデモンストレーションルームの天井が崩れてきた。
「危ない……っ!」
先に反応できたのは私だった。ボローディンを突き飛ばした直後、建物の梁、鉄骨、コンクリート、あらゆるものが私の頭上へと降り注いできた。
「ぐっ……!?」
……気がつくと、私は崩れてきた天井の瓦礫で、完全に生き埋めにされていた。私の全身が完全に挟まれ、動かそうとするだけで激痛が走る。かろうじて自由になる片手でなけなしの力を込めてみたけれど、独りでは到底抜け出せそうにない。
「あ、あ、ああ、ああっ……!?」
そして私の目の前には、無傷のボローディンが腰を抜かしてへたり込んでいた。私は手を伸ばし、搾り出すようにして助けを求めた。
「たすけて、ミハイル……!」
「ひ、ひぃっ!?」
だが私が手を伸ばした途端、ボローディンは電気ショックでも走るかのように飛びのいた。私を見つめるその表情、浮かんでいるのは恐怖と戦慄。目の前で起こった惨事に、ボローディンはすっかり怯み上がっていた。
「待て、待ってくれ……!」
私は助けを求めたのだけれど、それとは裏腹にボローディンは後ずさってゆき、徐々に私から距離を引き離してゆく。
そして、まるで限界が訪れたかのように。
「う、う、うわ、うわああああああああ……ッッ!!!」
「ミハイル、待て、待って……ッ!」
ようやく私が絞り出した声にも構わず、その場から這いずるようにしながら一目散に逃げ出すボローディン。もはや彼は私の方など振り返りもしなかった。
「……クソッ」
なんでだ……? なんで君は助けてくれなかった? なんで見捨てるんだよ? なぜなんだ……?
鈍い音を立てながら瓦礫が私の上へ降り注ぐたび、その疑問の答えがひとつずつ降り積もり始めた。
……でも仕方ない。妙に冷静な頭脳で納得している部分もあった。
ボローディンの奴は、私を見捨てたんだ。
「はは、ははは……っ」
思わず乾いた笑みが零れる。
ボローディンの立場から考えてみれば当然のことだった。サーシャの父親のことを知っているのは私だけ、その私さえ消えれば、ボローディンの将来は安泰だ。そんな状況で、ボローディンが私を助けるはずなど無かったのだ……こんなときまで論理的な私の頭脳が、私はまったく心底恨めしい。
続いて遠くから聞こえてきたのは、甲高い金属音に似た咆哮。
「ギィィィ――――……ッッ!!」
ガイガンの鳴き声、かつてのオペレーション=ロングマーチで幾度も耳にしたそれだ。頼もしく聞こえたものだったが、今は私を断罪する声のようにも思えた。その絶望の中で、私は悟った。
そう、これは当然の報いだ。
かつてオペレーション=ロングマーチでガイガン・アリョーシャの運命を弄び、生き物としての死まで奪ったその罪科。それが巡り巡って、ガイガン=レクスという形になって私に報いたのだ。そんなふうにも思った。
そうして迎えた最期の最後、けれど気掛かりだったのは“あの子”のことだった。
「サーシャ……」
サーシャ、アレクサンドラ=マミーロヴァ。罪深い私がこの世で生み出せた、唯一の宝物。なのに私は、何よりも大切なあなたを独りぼっちにしてしまった。不甲斐ない
遠くの方から“紅い暴君”ガイガン=レクスの暴虐と、鋭い金属の雄叫びが近づいてくる。
「本当にごめんね、サーシャ……」
そして、私は目を閉じた。
ゴジラ映画の主人公で好きな職業おしえて
-
学者(理系)
-
学者(文系)
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エンジニア・発明家
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政治家
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ジャーナリスト・マスコミ関係
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パイロット
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刑事・探偵
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インターポールの捜査官
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シャーマン・巫女
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超能力者
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子供
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兵士
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漫画家