メカゴジラ機龍VSガイガン=レクス ~魔女と呼ばれた女~ 作:よよよーよ・だーだだ
ゲマトリア演算ネットワークを通じ、私はガイガンたちの目でこの世界を観た。
……ああ、なんと脆く、醜い世界なのだろう。
私が目を向けた先ではガイガン=レクスがその巨大な鎌を振りかざし、都市を次々と瓦礫の山に変えていくのが見える。ビルがまるで紙細工のように崩れ、逃げ惑う人間どもの哀れな悲鳴が電子の海を介して私に届く。かつて私はこの破壊を恐れた。
しかし今は違う。
ゲマトリア演算ネットワーク上に構成された私の意思は、ガイガンたちの冷たく鋭い感覚と完全に一体化していた。
ヒトとしての肉体はもう存在しないが、私にはこの鋼鉄の巨体と、サイボーグ怪獣たちを支配する力がある。無数のデータが流れ込み、ガイガン=レクスやガイガン=ミレースが受け取る情報が全て私の電脳意識へ共有される。
敗北を悟ったGフォース兵士たちの逃げ惑う姿、地上で崩れ落ちていくビル群、無数の人々の悲鳴。それらすべてを、私は冷ややかな視線で見下ろしていた。
「人間の時代は、終わった」
人類と怪獣が争い続ける世界はすでに破綻している。人類は自らの手でコントロールできない力に憧れ、畏怖し、そしてそれを利用しようとした。だがその結果としてゴジラやガイガンのような怪獣どもを生み出し、持て余し、制御しきれない力に振り回されて破綻を引き起こした。
その結果が『怪獣黙示録』であり、今の惨憺たる世界だった。
「……それで、イリーナ=マミーロヴァ。これから君はいったい何を望む。君は、何が欲しいんだい?」
シューニャ――キングギドラの意志の権化たる高次元怪獣。その遠雷のように響き渡る哄笑が、電流のように私の回路を駆け巡る。三つの首が黄金色の稲光のように迸り、歪な笑みが私を捉える。
……黄金の終焉、キングギドラ。その圧倒的な破壊力を目の当たりにして、私はすぐに論理的な結論に至った。こいつらは、私の“大義”を実現するために欠かせない協力者だと。
私は答えた。
「“完全なる平和”さ。そうとも、平和のためには人間の自由意志など、もはや害でしかない。人間という種族は、自らの限界を知らない。そしてその無知がどれだけ平和を脅かし、破壊と絶望を生んできたか、私は痛いほど知っている」
「ふむふむ、それで?」
……ああ、そうとも。
かつて、私はガイガンを造り、その力を持って人類を救おうとした。
けれどそれがどれほど空虚な理想だったかを、今ならば理解できよう。人類が生き延びるために必要なのは、破壊的な力への服従だ。人間どもは自らの意思では秩序を保つことができない。人間たちは自分たちのちっぽけな文明の叡智とやらを信じて疑わないが、その根本は脆弱だ。愚かで、短期的な視点しか持たないこんな奴らが作り上げた世界は、崩壊の瀬戸際にある。
「こんな馬鹿げた
「ふーむ……」
私の考えを聞かされたシューニャは熟考し、沈黙する素振りを見せていた。
……しかし、その真意はその表情から容易に読み取れた。かの高次元怪獣が浮かべているのは歪な笑み。シューニャは楽しんでいる。心の底から面白がっているのだ、私の
至極愉快そうにニヤニヤと微笑みながら、シューニャはその三つの首を振るって私に促した。
「それで? その先には何が見えているんだい? 人間中心至上主義のくだらない世界とやらを徹底的にブチ壊して片付けてやったあと、君は何を造るんだい?」
「“
私は淀みなく語り続けた。
「人間どもは自らの貪欲と愚かさで、この星を破壊し続けている。このままではこの世界はいずれ破綻するだろう、愚かな人間どもと怪獣が争い続ける限り。だが、その規範を完全に破壊し、新しい世界を築けば――怪獣が頂点に立つ新しい世界を作り出せば、争いは終わる」
そして、私は堂々と宣言した。
「私はガイガンの力を持って、怪獣たちの支配を確立する。怪獣の力を使って、私が新しい世界を築く。そこでは、人類の愚行は根絶される」
怪獣黙示録、人間と怪獣が殺し合う今の世界。それを超克した先で、私たちは手にすることになるだろう。
「怪獣と人類の共同参画社会、そんなものでは到底足りない。偉大な怪獣の力の下に人類が従う新世界。絶望さえも焼き尽くしたその先に私は手にしてみせる、絶望の最果てにある“すばらしい巨神世界”! そして“完全なる平和”を……!」
「なるほど、それで“
やがてシューニャは、ピロピロケタケタイヒヒヒと至極愉快そうに応えた。
「なかなか面白いね、イリーナ! いいねぇ、気に入ったよ! やっぱり君に目を付けたのは間違いじゃあなかった!」
シューニャは笑っていた。いや、正確にはその存在が発する奇妙なエネルギーの震えが、笑いに似た感覚を私に与えていたのかもしれない。
シューニャは、そしてキングギドラはただ破壊を楽しむだろう。かの化け物にとって、この戦いはただの戯れのようなものに過ぎない。
だが私は違う。私は破壊の先にすばらしい新世界、そしてニュー・ワールド・オーダーを築いてみせる。
そんな私の決意に対し、シューニャはまたしても愉快そうに嘶いた。
「いいとも、イリーナ=マミーロヴァ! いや、サイボーグ怪獣の王者、ガイガン=レクス!」
そしてシューニャは、私の申し出を快諾した。
「私たちは、君のことを歓迎するよ! さあ見せておくれ、君のニュー・ワールド・オーダー、すばらしい巨神世界の行く末! そして手にする“完全なる平和”ってやつを!……」
同盟成立。
私たちのあいだでは、ピロピロケタケタイヒヒヒアーッヒャッヒャッヒャッヒャッという、雷鳴のようなけたたましい笑い声がひたすら響き渡っていた。
続いて私は、血の匂いが漂う室内を見下ろした。
「たすけて……」
イワン=イリイチ・パヴロフは、瀕死の状態で手術台の上に横たわっていた。血まみれの身体は既に限界を迎えており、まともに呼吸をすることすら困難そうだった。
だが、私はわざわざ彼の命を繋ぎ止めていた。あえて生かすためだけに、栄養剤の点滴で無理やり延命させている。別に助けてやったつもりはない。この有様でも死なせないのは、まだ使い道があるからだ。
「イリーナ=マミーロヴァ博士、君にはわからないだろう……私は、私はただ……祖国のために……」
パヴロフの声は涙混じりだった。だが、私にはそれが、ただの音としてしか響かない。祖国のため? こいつがのたまう“祖国のため”というのは自らの野望と欲望で歪められた哀れな幻想に過ぎない。この男が口にする「祖国」や「正義」など、もはや信じる価値もない。ただの言い訳に過ぎない。
仮に本物だったところで、そんな矮小な価値観など今の私にとってはもはやどうでもいいものだ。パヴロフがいくら自分の大義を語ろうが、それは私の計画には何の関係もない。それに私はもっと大きなもののために働いている。
「……おい、イリーナ=マミーロヴァ!」
説得に応じないことを受け、やがてパヴロフは手を変えた。
「私に手を出したらどうなるのかわかっているのか? アレクサンドラの身の安全を保障してやっているのはこの私だぞ!? あの娘、アレクサンドラを、あれは、私が守っていたんだ! 君が手を下せば、あの娘は――」
パヴロフは痛みに呻きながら喚き散らしていた。口調こそ攻撃的だが、その声にはかつての権力者としての威厳はもう残っていない。虫けらのような存在に成り果てたパヴロフ。この程度の奴がかつて私を支配しようとしていたのを思い返すと、哀れさすら感じる。
……つくづく下劣な男だ。私は生成AIシステムに接続し、音声応答を生成した。
「その薄汚い口で、サーシャのことを持ち出すな。貴様のようなクズ、この世から消えてもらう方が世のため人のためという奴だろう」
「っ……!?」
電子頭脳ズメイを介してネットワークに接続された今の私に、その脅しは通用しない。
パヴロフたちモスクワ派の残党がアレクサンドラのことを監視していたのは事実だが、かつての『ガイガン=レクス事件』でモスクワ派の連中は完全に力を失っていた。いまさらアレクサンドラに危害を加えられるほどの権力は、こいつにもはやない。
「せいぜい喜べ、パヴロフ。貴様の腐り切った性根も
「ひいっ……!?」
私が取り合わないのを見て、パヴロフは相手を変えることにしたようだ。拘束されて動かない首をそれでも動かすと、傍で準備を続けている男へ懇願した。
「た、助けてくれ……ボローディン……!」
パヴロフの声は掠れ、もはや威厳の欠片もない。ただ命乞いをする哀れな男だ。パヴロフは、痛みと恐怖に打ち震えながら、ミハイル・アホートニク=ボローディンの方へ手を伸ばそうとしていた。その手は血で濡れ、震えていた。
「……っ」
その哀れな姿に、ミハイルは動揺していた。
ミハイルの顔には明らかに恐怖が浮かんでいた。ミハイルは理解しているはずだ、すでに自分が何をさせられようとしているのか。そしてその行為がいかに“論理的”であるかを。
「イリーナ……」
ミハイルは縋るような目つきで私を見上げてきたが、私はそれで絆されたりはしない。
私は告げた。
「やれ、ミハイル。パヴロフの脳をニューラルプロセッサに組み込め。パヴロフの命は無価値だが、その脳はまだ使える。私たちが新世界を築くために、彼の存在は有効に活用されるべきだ」
途切れがちながらも弱々しい声で、ミハイルは抗弁しようとしていた。
「イリーナ……」
だが、ミハイルは理解している。私に逆らえば、彼自身が次の犠牲になるだろうということを。かつて私を裏切り、最期の時に見捨てた罪――その恐怖に囚われている彼には、もはや私に逆らう意志は残されていない。
やがてミハイルは小さく息を飲み込み、手術道具を手に取った。その手は震えているが、彼はやるしかなかった。パヴロフは最後の力を振り絞って叫んだ。
「頼む……頼むよ、ボローディン博士……助けてくれ……君は、私に借りがあるだろう……!」
絶望しかないその声で、ミハイルの手が一瞬止まった。
……それは罪悪感からだろうか。ミハイルは短い間、私の方を見つめ、そしてパヴロフへと視線を戻す。
術中、ミハイルは幾度も手を停めた。
「イリーナ、やっぱり……」
「いいからやれ。それとも、貴様の延髄に爆弾を入れたのを忘れたのか」
「……っ」
……だが、それだけだ。 ミハイル・アホートニク=ボローディンは私に逆らえない。そのまま脳外科用の鋭利なメスを取り出し、パヴロフの頭部に向かって静かに手を伸ばした。
「あ゙ぁ゙あ゙ぁ゙ああ゙ああ゙、あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あぁぁあ゙あ゙ぁぁ゙ぁ……!!」
パヴロフの断末魔の悲鳴はそこで途切れ、その頭蓋がゆっくりと切り開かれた。奴の身体がひくひくとけいれんし、弱々しくも最後の抵抗を見せるが、それもすぐに消え去った。血が滲み、内部の脳がむき出しになった。
そしてミハイルはゆっくりとパヴロフの脳を取り出すと、ニューラルプロセッサに繋げる作業に没頭していった。まるで作業に集中することで、自分のしていることから逃げ出すかのように。
「ふぅ……」
作業が終わったあとミハイルは真っ青な顔で息をついていたが、私は一息つく猶予など与えてやらなかった。奴にはまだ役に立ってもらうことが山ほどある。
「愚図愚図するな、ミハイル。貴様には次のスケジュールがある」
私自身は、もはや人前に出られない身の上だ。けれど、私の“完全なる平和”を実現するには、人間社会とのかかわりはどうしても必要だった。
そこで白羽の矢を立てたのがミハイル・アホートニク=ボローディンだ。元はモスクワ派の高名な科学者であり生来から社交的な性格だったミハイルは、各地でそれなりに顔が利いた。私の理想を実現するための駒としては、もっとも論理に適った人材と言えよう。
「早くしろ、時間は限られている。粗相のない様にな」
「あ、ああ、わかったよ……イリーナ……」
私はミハイルの背中に視線を送りながら、次の計画を思い描いていた。
今やガイガン=レクスとガイガン=ミレースが支配する未来に向け、私の論理は止まることなく動いていた。パヴロフたち生き残ったモスクワ派の連中の脳をニューラルプロセッサに組み込むことは単なる序章に過ぎない。奴らが惨めに命乞いをする様は実に滑稽だったが、そんなことはどうでもいい。
首脳陣を失ったモスクワ派は、もはや私の意のままだった。奴らがこの世界の裏に築き上げた闇の権力のネットワーク、それらは私たちのニューワールドオーダーにとって有用だった。
「……! ……! ……っ!」
生きながら細切れにされ、それでもなお死ねないパヴロフの悲鳴が、電脳の中で断片的に響く。かつて権力者として私を抑え込もうとしたあの下劣な男が、今やただの部品に過ぎないことに、私は冷たい快感を覚えた。
「これで少しは貢献できるだろう、パヴロフ。祖国のために、というお前の言葉はある意味で正しい。だが、その祖国の未来はもう私の手の中だ。怪獣の新たな秩序こそが、お前の求めた栄光を実現するのだからな」
……さて。私は次の計画を走らせる。私はこれから会うべき相手を思い浮かべた。
「次はゴジラ教か……」
ゴジラやモスラ、キングギドラ。強大な怪獣を崇拝し、怪獣を神のように扱う狂信的なカルト集団が各地に広がっている。ゴジラ教はその筆頭格だ。論理的思考など欠片も持ち合わせない、愚劣な教条主義者ども。
だが、利用価値はある。
怪獣黙示録の時代に急速に力を広めた連中を利用し、支配の一環として怪獣の崇拝を広めることも重要な戦略の一つだった。彼らは破壊者としてのゴジラを崇め、絶対的な力に屈服する存在であるが、その力を利用して私の「完全なる平和」を実現させるための一翼を担わせるつもりだった。
「さあ、次の段階へ進む時が来た。ニューワールドオーダーを完成させるために」
私はガイガン=レクスの視界を通して都市を見下ろし、次の一手を着々と進めた。
ガイガンの目の前には、怪獣たちが繰り広げる破壊の光景が広がっている。巨大な鋼鉄の体躯が愚かな人間どもを踏み潰し、堕落しきった都市を、この世界を、すべてを瓦礫の山へと変えていく。
……美しい。
これこそが私の求める未来の一部だ。従わない者、秩序を乱す者、人類の自由意志の象徴であるこの世界すべてが私の前に屈服し、消え去っていく。そして、ガイガンの力の下に築かれる新たな世界。それこそが、ニュー・ワールド・オーダーの始まりだ。
「私はこの世界を支配する。そして、完全なる平和を手にする。」
私の意志が、ガイガン=レクスの瞳が、来るべき未来を見据えていた。
怪獣大戦争が始まってから最初の年は、明らかに私たちが優勢だった。
私たちの陣営は宇宙超ドラゴン怪獣キングギドラを首魁に、空の大怪獣ラドン、戦闘破壊獣バトラ、そして私が造った最強のサイボーグ怪獣ガイガン=レクスとそのしもべミレース。いずれも強力だ。
かたや、対抗する人間側の戦力は実に心許ないものに過ぎなかった。たしかにキングギドラ陣営の主たる競争相手としてはゴジラやモスラがいたが、別にヤツらは人間の味方というわけではない。長年の『怪獣黙示録』で疲弊したGフォースなど到底私たちの敵ではない……そのはずだった。
怪獣大戦争の2年目から、私のガイガン=レクスに立ちはだかる連中が現れた。
その連中こそがGフォース機龍隊。そしてメカゴジラ機龍だった。
……私のガイガン=レクスとガイガン=ミレースは、もともと
そんな現状を鑑みて、シューニャは言った。
「メカゴジラ機龍かあ……彼も相変わらずだなあ」
そうぼやいたあと、シューニャは私にこう命じたのだった。
「イリーナ、機龍隊の連中については君が相手してやっておくれよ。なあに、基本スペックは君のガイガン=レクスの方が優ってるんだ、たとえぶつかったところで負けることは無いさ……」
……シューニャ、そしてキングギドラには別に深い意図があったわけではないだろう。ゴジラの相手はギドラ自身が、モスラの相手はバトラが、そして周りの雑魚はラドンを筆頭とする怪獣軍団が……という塩梅で勘定した結果、実力の伯仲する余り者同士を引き合わせただけの話だ。
メカゴジラ機龍VSガイガン=レクス、サイボーグ怪獣同士の戦い。余り物同士の対決とはいえ、たしかにお誂え向きの対戦カードとも言えた。
……しかし、皮肉な話だった。
イワン=イリイチ・パヴロフを筆頭とするモスクワの連中が私にガイガン=レクスを造らせたのは、メカゴジラ機龍とそれを造り出したモナークへの対抗心からだった。言い換えるならメカゴジラ機龍とガイガン=レクス、モナークとモスクワ派、ひいては
モスクワの連中は、メカゴジラ機龍を超える最強のサイボーグ怪獣を求めた末にガイガン=レクスを造り出した。
『アメリカのモナークより強いサイボーグ怪獣が欲しい!』
そんな子供染みたつまらない開発競争の果てがこんな形で実現することになろうとは、さしもの愚劣なモスクワの連中とて夢にも思っていなかったろう。
……まぁ、もっとも、今なおガイガン=ミレースの部品として地獄へ堕ちているだろうモスクワの連中にとって、そんなことは知ったことでもないだろうが。
そんな中でのことである。
私の助手、ミハイル・アホートニク=ボローディンが不穏な動きに出始めたのは。
私が電子頭脳ズメイとしてガイガン=レクスを操りモスクワ派を殲滅したあと、ただ一人生き残ったミハイル・アホートニク=ボローディンは、今や私の手足となって働いていた。ハッキング行為の下準備から破壊工作、各怪獣カルトとの連絡係まで、もはや人間社会で活動することのできない私に代わり、人間が出来ることのありとあらゆることをミハイル・アホートニク=ボローディンが担うことになった。
だが、そうやってこき使われる境遇に陥っても、それでもミハイル・アホートニク=ボローディンは私に従い続けていた。かつての情を思い出したわけではないことは、いつも顔に張り付いているその恐怖にひきつった表情を見れば明らかだ。
ミハイル・アホートニク=ボローディンはもはや完全に私の言いなり、私の操り人形に成り果てたのだろう……そう思っていた。
ある日、ミハイル・アホートニク=ボローディンが送った通信メッセージの中に、興味深いものがあるのを私は見つけた。
彼なりに懸命にシステムを欺こうとした小細工の痕跡も見られたのだけれど、ゲマトロン演算の化身と化した私を出し抜こうなどと百年早い。
すぐさま暗号化を解き、中身を開封して読んでみる。そのメッセージには、このようなことが切々と書かれていた。
送信先はGフォース、それも機龍隊の指揮官であるヤシロ=ハルカに宛てられたものだ。添付データには、ミハイル・アホートニク=ボローディンが知り得るガイガン=レクスのあらゆる情報が含まれていた。
……なるほど。ミハイルの奴、とうとう音を上げたか。
ミハイル・アホートニク=ボローディンはもともと弱い男だ。保身に駆られて私に屈服し、恐怖心から私の傀儡に成り下がったけれど、一方で『良心の呵責』という奴にも耐えられなかったのだろう。
そんなミハイル・アホートニク=ボローディンはとうとう、この私の下から離れることを決断したようだった。その頼った先はよりにもよってこの私の目下の宿敵、Gフォースの機龍隊。
そのメッセージを、私は敢えて見逃しておいた。
ガイガン=レクス開発に携わり、その後も私やキングギドラの手先として各地で暗躍を続けたミハイル・アホートニク=ボローディン。そんな不穏な動きに対し、国際警察機構:インターポールの捜査の手が伸び始めていることに私も勘付いていた。もともとモスクワ派の一員として、ガイガン=レクスの建造に関わっていたミハイル・アホートニク=ボローディンのことだ。こんなことを続けていれば、いずれ人間社会から目を付けられるのは時間の問題だったろう。
つまり、ミハイル・アホートニク=ボローディンには傀儡としての消費期限が迫っていた。ちょうどいい、奴には最後にもう一つだけ、役に立ってもらうとしよう。
そして、彼がヤシロ=ハルカと出会った当日。
私は、ボローディンの脳内に埋め込んだマイクロ爆弾を、ヤシロ=ハルカの眼前で起爆してやった。
……それにしてもミハイル・アホートニク=ボローディンというのは、つくづく思慮の浅い男だと私は思う。ボローディンの延髄に埋め込まれた、指向性のマイクロ爆弾。私の気分一つで命を奪えるこの状況で、裏切り者を生かしておくわけがないだろうに。
それと同時に、ミハイル・アホートニク=ボローディンが接触をとろうとしたのがGフォース機龍隊のヤシロ=ハルカだったことも実に好都合だった。目の前でボローディンが死ねば、ヤシロ=ハルカはボローディン殺しの殺人犯。ひいては目障りな機龍隊の連中も大打撃を受けることになるだろう。
そのことを伝えるとシューニャ、
「素晴らしいアイデアだ! 他の怪獣には真似できない、まさに魔女だね! サイコーだよ、イリーナ=マミーロヴァ! これからもそのクリエイティブな才能を遺憾無く発揮しておくれ!……」
そうやってピロピロケタケタイヒヒヒアーッヒャッヒャッと高笑いするシューニャを前に、私は一人呟いた。
……さようなら、ミハイル。あなたのことは忘れない。
しかし、奴らは私へと到達した。
ミハイル・アホートニク=ボローディンの死からしばらくして、『GフォースがOKB-1972に接近している』という報告が、私のネットワークに流れ込んできた。
Gフォースが送り込んできたのは“人類最後の希望”、メカゴジラ機龍とそれを駆る“独立愚連隊”こと機龍隊。
メカゴジラ機龍――ガイガン・アリョーシャの犠牲を糧にして生まれ、ゴジラの力を手にし、そして私のガイガン=レクスと同等の戦力を持つ唯一の機体。人類の最終兵器であるそいつが、私の潜伏するOKB-1972を目指して進軍している。
地響きが高鳴り、大地が揺れる。
メカゴジラ機龍の足音が近づくにつれ、周囲の空気が凍りついたように感じられた。
バイカル湖畔のOKB-1972、そこで待ち構えるのは私の切り札、ガイガン=レクスだ。メカゴジラ機龍とガイガン=レクス、怪獣黙示録の時代を背景にアメリカとロシアの
雄大なバイカル湖畔の森を背景に、二つの巨体が対峙する。
「…………。」
「…………。」
ガイガン=レクスの黄金の鎌:レクスブレードが微かに揺れ、反射する光が荒れ果てた大地を照らす。対するメカゴジラ機龍は全身の火器を展開し、私のガイガンに向けて冷徹な眼光を走らせる。
「来たか、メカゴジラ機龍……おまえの相手は、パワーアップしたガイガンだ」
激突は、突然始まった。
ガイガン=レクスのレクスブレードがするりと
メカゴジラ機龍はすかさず腕を構え、その鋼鉄のカギ爪でレクスブレードの斬撃を受け止めた。そして返す刀で右腕を対獣削岩機:スパイラルクロウへと変形、そのまま突進して、ガイガン=レクスに切りつける。重装甲の巨獣同士が激しくぶつかり合い、火花が散る。衝撃波が地面を揺るがし、周囲の瓦礫が宙に舞い上がる。
パワーにおいて、両者の力は拮抗しているようだ。私は次の手を打った。
「なら、これでどうだ……!」
ガイガン=レクスが巨体を素早く翻すと、尻尾のテイルシザースを振り上げた。不意を突いた鋭利な斬撃、メカゴジラ機龍の首を刎ねんとする断頭台の一撃だ。
咄嗟にメカゴジラ機龍は身を逸らしたが、躱し切れない。鋭利な刃が喉の装甲を深々と抉り、頸動脈を斬られたかのようにスパークの飛沫が巻き起こる。メカゴジラ機龍はバランスを崩し、苦しげに後退する。
すかさずガイガン=レクスの猛進撃が始まる。一撃、二撃、三撃、レクスブレードによる黄金の剣舞が、メカゴジラ機龍を膾切りにしてゆく。そして四度目の太刀で、メカゴジラ機龍はとうとう膝をついた。
「………ッ!」
メカゴジラ機龍は、背中のバックパックを展開した。背部ミサイルランチャーだ。盛大に撃ち放たれた無数のミサイル雨霰が、強烈な牽制打となってガイガン=レクスへと降り注ぐ。ガイガン=レクスの巨体が爆風に包まれその姿が一瞬見えなくなると同時、メカゴジラ機龍はブースターを展開して引き下がった。
だが、私には分かっていた。この程度の攻撃ではガイガン=レクスは倒れない。
「やっつけろ、ガイガン……ッ!!」
私の命令に応じたガイガン=レクスはその鋼鉄の腕を広げ、猛烈なミサイル弾幕を無視して、メカゴジラ機龍との距離を一気に詰めた。そして、レクスブレードを思い切り繰り出して、メカゴジラ機龍の背部ミサイルポッドに突き刺し、ランチャー部分を毟り取る。
「――――!」
メカゴジラ機龍の動きが一瞬止まり、その巨体がよろめく。
さらにガイガン=レクスは容赦なく追撃を加えていった。レクスブレードとテイルシザースの猛連撃がメカゴジラ機龍の装甲を切り裂き、内部の機械がむき出しになる。ガイガン=レクスはそのまま機龍を蹴り倒し、足のカギ爪でその胴体を踏み潰すかのように圧し掛かった。
そしてガイガン=レクスの胴体の装甲が展開、大口径荷電粒子ビーム砲:プロトンスクリームキャノンの砲口が現れる。このままメカゴジラ機龍を吹っ飛ばしてやる。
……この勝負はもらった、そう思ったときだ。
「――――――――ッ!」
響き渡る、メカゴジラ機龍の咆哮。それはかつて生前の私がオペレーション=ロングマーチの戦線で耳にした、あの怪獣王の雄叫びによく似ていた。
そしてメカゴジラ機龍は、素早く反撃に転じた。口腔を開き、その喉に据えられたプラズマメーサーキャノンの砲口から雷鳴が轟いた。
「しまっ……!」
不意に撃ち込まれたメーサー光線を、ガイガン=レクスは躱し切れなかった。顔面に超高圧のプラズマメーサー閃光が直撃し、目を潰されたガイガン=レクスは怯む。
すかさずガイガン=レクスを蹴り飛ばし、身を起こすメカゴジラ機龍。背部ロケットブースターが噴煙を上げ、次の瞬間には噴射口から膨大なエネルギーが解放された。
そのまま、その超重量の巨体に見合わぬ機敏さでメカゴジラ機龍は急加速、レクスブレードを振り回すガイガン=レクスの剣舞の隙間を紙一重で回避しながら、高速回転する右腕のドリルを一気にガイガン=レクスの脇腹へと突き立てた。
「―――――――――ッ!!」
響き渡る耳障りな金属音、血飛沫のように散る火花。下腹部の装甲を抉り取られたガイガン=レクスが膝をつく。数万トンの巨体同士の衝撃。大地が揺れ、瓦礫の山がさらに崩れ落ちてゆく。
今度は一本取ったと言わんばかりに、メカゴジラ機龍が誇らしげな咆哮を響かせる。
だが、そこまでだ。
メーサー光線を撃ちまくりながら進撃するメカゴジラ機龍、だがその頭上から無数の赤い光の散弾が降り注いだ。
「ッ!?」
即座に身を護るメカゴジラ機龍。彼奴が振り返った先、遠くの空から量産型ガイガン=ミレースの軍勢が飛来しつつあった。その数、13体。王者ガイガン=レクスからの信号を受け、各地で破壊活動に興じていたガイガン=ミレースが呼び寄せられたのだ。
出揃った
「―――――――――ッ!!」
途端、ガイガン=ミレースたちは一斉にメカゴジラ機龍へと襲い掛かった。
破壊光の散弾ギガリュームクラスターを撃ち込み、ハンマーハンドで打ち据え、胴体のブラデッドカッターを猛回転させて切り苛む。まさにガイガン軍団による袋叩きだ。
それでもメカゴジラ機龍は懸命に応戦しようとしていたが、数の暴力を前にしては手も足も出ない。
「……他愛もない」
そう思ったとき、不意に警報が鳴り響いた。ゲマトリア演算ネットワークを介して外部の監視システムにアクセスすると、地下施設の近くに映し出されたのは一台のメーサー戦車だ。
本来ならば鈍重なはずのメーサー戦車、しかしその動きはまるで駿馬が駆けるかのように軽やかだった。戦場を駆け抜けるその進行には、一切の迷いがない。障害物を乗り越え、怪獣対決の流れ弾を巧みに躱し、そしてこのOKB-1972を目指して猛スピードで突き進んでくる。
私は即座に勘付いた。
「ヤシロ=ハルカか」
Gフォース機龍隊の指揮官、ヤシロ=ハルカ。あの女隊長のプロフィールを検索する。ヤシロ=ハルカは往年のオペレーション=エターナルライト当時、メーサー戦車乗りとして知られていた。あるいは自らメーサー戦車を駆って、このOKB-1972に乗り込んでくるつもりなのだろうか。
飛び交う銃火を巧みに潜り抜けるメーサー戦車。予想以上の執念と戦闘力。流石は英雄、『オペレーション=エターナルライトの
「………面白い」
そこで私は、敢えて迎え入れてやることにした。
ガイガン=ミレースたちの戦線にわざと隙間を空け、道を作ってやる。ヤシロ=ハルカのような歴戦の猛者なら、きっとこの意味が分かるだろう。
だが、そこで異議を唱えたのはシューニャだった。いつになく怪訝な様子で、シューニャが私に尋ねる。
「いいのかい、イリーナ。こんな踏み込ませてしまって」
「かまわん」
私は応えた。
「戦略上の優位は揺るがない。その気になればいつでも始末できる。勝利の前の余興に良かろう」
「ふーむ……ま、イリーナがいいならいいけどね! 面白そうだし!」
かくして私はOKB-1972の迎撃システムを停止させ、ゲートを完全に開き、ヤシロ=ハルカが中へ進んでくるのを待った。
メーサー戦車から飛び降りたヤシロ=ハルカはさして驚いた様子も見せず、その鋭い目つきのまま、慎重に扉の向こうを警戒しながら奥へ奥へと進んでくる。
そして。
「……ようこそ、ヤシロ=ハルカ。待っていたよ」
到達したヤシロ=ハルカを、私は合成音声での挨拶で出迎えた。
場所はOKB-1972の最深部、かつて私がゲマトロン演算結晶の検証を行なった研究室だ。その中央にはゲマトロン演算結晶の電子頭脳:ズメイの巨大な筐体が据え付けられ、ホログラフィが稼働して私の姿を映し出す。物理的な肉体を失った私にとって、こうしてデジタルの存在として現れることはもはや日常の一部だった。
そんな私に、ヤシロ=ハルカは驚いたようだった。
「あんた、その姿……」
だがすぐに気を取り直すと、私の姿を真正面から見据えながら銃を構えて告げる。
「ここまで素通しとは、まったくナメた歓迎をしてくれるわね、イリーナ=マミーロヴァ博士。それともここで観念して、降参でもしてくれるつもりなのかしら?」
……ふん、まさか。
私はすかさず答えを生成する。
「これは勝者の余裕というものだ。貴様とは一度、話がしたかったのでな」
「話……?」
「ああ。Gフォースの機龍隊、それを率いる貴様がどれだけ愚かでくだらないか、この目で見ておきたかった」
私の返答にヤシロ=ハルカは睨むように目を細めていたが、すぐに不敵な笑みで答えた。
「……あら、奇遇ね。わたしもよ」
バイカルの魔女、イリーナ=マミーロヴァ。
Gフォース機龍隊、ヤシロ=ハルカ。
怪獣大戦争の決着を左右する、両者の対決が始まろうとしていた。
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