頭文字B 作:おはようございました
切っ掛けはたった1枚の紙。
単純で簡単。
「うへ、峠バトル?勝てば1000万?」
行動しない理由は無い。
気づけば、愛車の鍵を握っていた。
*
深夜、小鳥遊ホシノは愛車のスバル・インプレッサ 22B STiを転がし、アビドスの辺境にある峠に来ていた。周囲には厳ついエアロを装着したランエボ、特段厳つい訳ではないがエアロを換装したランエボ、特段手を加えていないランエボ、見た目はノーマルなのに音が明らかにヤバいランエボと、とにかくランエボばかり。
「ここだけ見れば、ランエボの方が人気があるように見えちゃうねぇ〜」
なんとなくぼう、としながら周りの品定めをする。
エボ、エボ、新旧問わずとにかくランエボ。ここまでランエボしか居ないと、ワンメイクなのか、それともただの変態集団なのかと勘ぐってしまう。
とにかくこの集団は居心地は良いものでは無い。明らかな事実だった。
「おい、そこのあんた。見ない顔だな?」
「悪いが、ここの峠は我らがエボエボヘルメット団が天下を取る予定の場所だ。スバル派は大人しく帰るんだな」
よく分からないヘルメット団に話しかけられる。聞いた事のない名前だ。
「へぇ、そのエボエボヘルメット団の皆さんの他に、誰か人は居ないの?」
とりあえず何か情報を引き出そうと適当に質問をする。
「悪いが、他のヤツらは全員私達が打ち負かしてやった。ここの峠のトップは、今現在私たちだぜ」
「へぇ〜、じゃあその、自称トップの君たちに私が勝てば、ここの峠のトップは実質私。ついでに1000万も私のものってわけだ」
「ほう、言うじゃねえか」
周囲のエボ集団が威嚇をするようにエンジンを吹かす。悪くない音だとは思う。それに対抗して、私もエンジンを吹かす。
ドロドロと唸るボクサーサウンド。“純正ならば”シングルターボによって加給され、そのパワーは300馬力にも迫る。
しかしホシノの22Bは少しと言うには過小なほど、かなり手が込められていた。
エンジンだけでも吸気系の強化、燃料系の改良、点火系の変更、排気量の増加やインタークーラーの大型化やフライホイールの軽量化など……
車体は15キロ分ほど車体の強化で増加し、1部カーボンパーツに変更することで25キロほど軽量化。クラッチは強化され、ドライブシャフトは軽量化されている。
馬力は365馬力で車重は1242キログラム。紛うことなき峠の戦闘機である。
「それじゃあ、やろうか?」
闘いが始まる
「ルールは単純だ。先にゴールした方が勝者、ただそれだけだ」
敵は恐らくリーダー?で、それなりに手が加えられていることがわかるランエボ。VIだった。
「22Bごときが隊長のエボVIに勝てるはずがねえ、今回の勝負は貰ったも同然だな」
「全くだ、せめてあと4人は連れてくるべきだったな」
野次馬がうるさい。私の22Bを舐めてもらっちゃあ困る。というか、排気量を上げてしまった22Bは22Bと言えるのだろうか?2600ccのエンジンなら、26Bにならないのだろうか。
呑気なことを考えていると、カウントダウンを行うであろう下っ端が出てくる。
「3!」
クラッチを踏む、1速に入れる、アクセルを吹かす。
「2!」
ハンドルを両手で握る。少し安心するような気がする。
「1!」
エンジン回転数を4000程で安定させ、スタートに備える。
「GO!」
クラッチから足を勢いよく離す。ガチリとエンジンが、シャフトが、タイヤが噛み合い、365馬力が地面に伝わる。
ギャアとタイヤがスリップしつつ、それでも4WDシステムはインプレッサを確実に前へ前へと前進させる。
スタートはグッド、頭を取った。直ぐに2速、3速へ。
最初は左のコーナー、軽くブレーキ、アウトから被せるように曲がっていく。少しリアが柔らかめにセッティングされたインプレッサは、リアの駆動力を確実に伝えながらコーナリング。
たったのコーナー1つとスタートダッシュだけで、もう完全に前に出てしまった。
それでもエボはパワーは中々ある様で、それなりに食らいついてくる。久しぶりの骨のありそうな相手に、口元がつい緩む。
「悪くないねぇ〜、でもどこまで付いてこれるかな?」
それなりのペースで走る。幾つかコーナーを曲がるが、思いのほか追いついてくる。全開で走らなければ、もしかすると追い抜かれてしまうかもしれない。
少し走りのペースを上げる。
3つ目のヘアピンに差し掛かる頃、先程のコーナーよりも奥でブレーキングをする。
普通なら曲がりきれない。
相手が焦った顔でブレーキを踏むのがミラー越しに分かった。
「曲がれないって、思ってるのかな?」
タイヤがロックしない程度ギリギリのブレーキ、クラッチ、アクセル、シフトダウン、手馴れたヒールアンドトウ。クリッピングポイントがギリギリ見えない程度。
ブレーキを思い切り強く踏み込む。タイヤはロックし、車体は右に、コーナーの出口へ向いていく。ステアリングを戻し、アクセルを緩く踏む。4輪が滑り出し、すると急激なグリップを産む。
ぐいと車体が左に揺れる感覚を感じ取りながら、アクセルを思い切り踏み込む。
リアの柔らかめのサスペンションはより効率的に車体を加速させる。
エボが少し離れていく。続く左ヘアピンに向け全開加速。
ブレーキで左ヘアピンを曲げていく。綺麗な荷重移動はさながら芸術の様だ。
ヘアピン2つでかなりエボとは離れた。必死なエンジン音は聞こえるが、全開の22Bには追いつけない。
「うへへ、もっとペース上げてきなよ!血が沸騰するくらいにさぁ!」
そのまま私は全開で走る。
相手は追いすがろうとするも、追いつけない。
最終コーナーを曲がろうとする頃には、相手のエボは豆粒程の小ささになってしまっていた。
*
「うへへ、臨時収入。いっせんまん……うへぇ」
私はいつもよりハイテンションだった。これだけのお金があれば、1ヶ月の返済に当てても少し余りを出せる。
「今日の帰りの峠道は何時もよりも楽しく飛ばして……うへ?」
上機嫌なホシノの操る22Bの後ろから、見覚えのない車が走ってきた。後ろから煽っているようで、レースを急かしているかのよう。
よく見ると、それは黒いNSXだった。リトラで、いちばん古いヤツ。
かなり丁寧にチューニングが施されているように見える。
「NSXねぇ……古いけど、確かにいい車だ。でも私に付いてこれるかな?」
ギアを上げる。
「今日の私は、何時もより調子が1段階良いんだッ!」
アクセルを踏み込む。
NSXも負けじと唸り声を上げる。甲高いVTECの自然吸気サウンドが辺りにこだまする。
相手もかなりエンジンに手を入れているのか、かなり高回転まで吹け上がる音が聞こえる。パワーも相応なようで、引き離すどころか、追いつかれてしまう。
「良いじゃん!そのNSXッ!」
左ヘアピンで勝負を掛ける。遅めのブレーキングに手馴れたヒールアンドトウ。車体は4輪を滑らせながら綺麗にトラクションを掛けつつ、コーナーを曲がる。
NSXはアウトいっぱいからロケットのように頭を突っ込む、とんでもなくアグレッシブな走り。サスが硬いのか、フロントが少し跳ねる。オーバースピードのように見えるが、MRの回頭性の良さやリアトラクションのかかりやすさを上手く利用した“途轍もなく速い”コーナリング。
「コーナーでも詰められてる!?うへ、4駆のトラクション性能で引き剥がせないなんて、どんな化け物チューニングしてんのさッ!」
どんなに速く走っても真後ろにピタリと付かれる。凄まじいプレッシャーを感じ、瞬きの回数が増える。
「それとも、化け物なのはドライバーの腕って事かな!」
右コーナー、左コーナー。曲がっても曲がっても差がつかない。此方は全く余裕が無いのに、NSXには余裕を感じられる。
初めて感じる敗北の2文字。
それが、ホシノの走りをより鈍くさせた。
「マズイッ!アンダーが……」
単純なステアリングミス。しかしそれがこの場では非常に大きなものとなった。
NSXの鋭い突っ込み。タイヤの性能を限界まで使い、小刻みに唸るアクセル。
ホシノはあっという間にインを突かれ、一瞬のうちに抜かされてしまった。
「なんて奴……顔も見えなかった」
もはや走る気力は湧かず、スローダウンしながら、負け惜しみのように呟くことしか出来なかった。
小鳥遊ホシノ
特に主人公とか何も考えずに書き始めたら何故か主人公みたいになってしまった人。
スバル・インプレッサ 22B STi
ホシノの愛車。かなりのチューニングが施されており、車重は1242kg、排気量2600ccの最大トルクは41.0kgf⋅m程で、最高出力は365HP。
タイヤ空気圧は低め、キャンバー角はフロント-3.1リア-2.3。
フロントリアどちらも程々にスタビが付けられており、サスは下げられフロント固めのリア柔らかめにセッティングされている。
カラーはピンク系。
エボエボヘルメット団
深夜テンションにより生成された謎の集団。こわい
三菱・ランサーエボリューション VI GSR
チュートリアル系ボスヘルメットさんの愛車。カムのアップグレードにより高回転まで回る。車重1300キログラムくらいで350馬力くらい。
カラーは赤白系。