決して地方の田舎という訳ではない、むしろ全国的になり大きい方である童見野町の産業は、この地方最大のカンパニー、海馬コーポレーションによって支えられていると言ってよかった。
地方産業だけならまだいいのだが、海馬瀬戸が昏睡状態から復活した後、KCはこの町の市政や治安などにも影響力を伸ばしはじめ、いつしか童見野町ではKCの号令下で、一般的感覚では眉を顰めるような異常な施策に市長や市議や警察すら逆らえず、童見野町が海馬瀬戸の王国と言われるのも必然と言えた。
「その熱き志!
カードに込めろ!
『白竜党』は、健全なデュエルによる政治を実現します。」
その日の夜、いつものように童見野町中心のショッピングモールの大型テレビに、KCが政界進出を表明して立ち上げた政治政党「白竜党」のCMが流された後、突如ヴワン、と下々を睥睨した海馬瀬戸の姿が生放送で映し出さた。
「決闘者諸君。先日発表した史上最大規模となる世界デュエル大会『バトルシティ』の、待ちに待った概要を伝えよう。
心して聞くがよい。」
その宣言に、モールにいた者達の殆どは思わず足を止め、辺りに決闘者達が放つ「殺気」が漲った。
「年齢、性別、国籍、全て不問。
この俺自身も含めこの大会に参加する資格を有する条件はたった二つ。
一つは、決闘者自らの武器で剣たる「デュエル・モンスターズ」のデッキを所持していること。
そしてもう一つは、今後発売される決闘者の盾たる『決闘盤』を装着していること。
詳細はその『決闘盤』に対して送られてくるメッセージで改めて伝えるが、此度のバトルシティを以てデュエルは、少なくともその公式においてはルールなどを大いに変えることとなる。」
ざわざわ
「ルールが変わるって?」
「どんなルールになるんだ!」
「まず、この『バトルシティ』は、白熱するデュエルの新時代の幕開けとなる。
そのようなデュエルでは、従来のライフではデュエリストたちの魂にはあまりに狭い。
よって、このデュエルにおけるLPは8000とする!」
「8000!今迄の倍あるじゃねぇか!」
「まじかよ!今迄4000削り切るのだって必死だったのに!」
「8000って俺のエースモンスタの「ガルーザス」のダイレクトアタック何発決めなきゃならないんだ?」
「他にもルールの変更としては、フィールド魔法カードは場に共通の張り替え式ではなく、両者が別々に展開するスタイルとなる。
そしてレギュレーションに関してはだが、例えば
この度『決闘盤』購入者に3枚ずつ配布される新レアカード『強欲で貪欲な壺』『貪欲で無欲な壺』『強欲で謙虚な壺』の代わりに従来使えていた『強欲な壺』『天使の施し』等は禁止となる。」
「ええっ!壺禁止なのー!すっげー便利なのに」
「レアカードの『壺』シリーズ……絶対ゲットしなきゃ!」
「特殊召喚やバトルフェイズ放棄……?
どれもこれも使いづらそうだなあ。」
*レギュレーションの目安
・ハンデス(強引な番兵、いたずら好きな双子悪魔等) 基本全面的に禁止
・コントロール奪取
洗脳 ―ブレインコントロールー 制限
心変わり 禁止
強奪 禁止
・蘇生系
死者蘇生 制限
リビングデッドの呼び声 制限
早すぎた埋葬 制限
・魔法・罠除去
サイクロン 制限
大嵐 制限
ハーピィの羽根箒 禁止
ハリケーン 禁止
・全体破壊
サンダー・ボルト 制限
ブラック・ホール 準制限
ライトニング・サンダー 禁止
・バーン系 全面的に禁止
シモッチの副作用 禁止
「気づいていると思うが『火の粉』『デス・メテオ』『火炎地獄』などのプレイヤーに直接ダメージを与えるカードは禁止とする。
『バトル・シティ』はあくまでプレイヤーの僕たるモンスターによる戦い。
それを避けて姑息な手段で勝ちを得ようとするのを、この大会では認めはしない!
続いて『50(フィフティ)協定』の適用についての話だ。
『50協定』
決闘者諸君には今更説明は不要だろうがそれはかつて主催者特権により正当なデュエルを捻じ曲げたペガサス・J・クロフォードの事例から提案されたデュエルの新たなレギュレーション。
公平なデッキ、ゲームのため、全世界の決闘者の半分以上に行き渡ったと確認できないカードは公式には使えないという取り決め。
確かに。デュエルというものが、特定のカードを持つ者のみによる専横であることは許しがたいことではあり、それまでのKC主催の大会では基本このルールを採用していた。
しかし。決闘者というのは、そのカードを手に入れる努力すらをも『実力』とするもの。
よって、決闘者としての全ての能力を発揮する『バトルシティ』に於いては、例外的にこの『50協定』を撤廃し、あらゆるレアカードを好きに使うことが出来る権利を有する。」
「ええっ、じゃあ、とんでもないレアカード使う奴とかと当たるのかあ」
「お、俺のカードだって、そいつらに負けないはずだ。」
「まあ、しょうがないな。
なんてったってこのルール適応されちまうと、世界でただ一人の『青眼使い』の海馬瀬戸が一番困るもん。」
「そして『バトルシティ』に於いては基本『アンティ・ルール』が適応され、敗者は勝者に自らのレアカードを差し出さなければならない。
つまり、それまで1部の者達しか使えないとされていた激レアカードを手に入れる機会が、お前達決闘者全てに与えられる。
そう、おれの『青眼の白竜』も、そして『神のカード』ですらもだ!」
その宣言に、広間全体がザワついた。
「じゃ、じゃあ、世界中からあらゆるレアカード使いの決闘者がやってきて……」
「勝てばそれらを奪い放題ってことか!」
「ペガサスが制作を躊躇ったとされる『神のカード』……本当にあったんだ……」
「そしてこのバトルシティの『景品』についてだ。
全世界の無数のデュエリストの頂点、『決闘王』の称号を得た者に与えらえるものとは何か。
最大級の栄誉か?
いや、そんなものは決勝の終了と共に自動的に与えられる、当然、必然の称号に過ぎない!
では、大金か?
いや、この大会で勝ち上がってきた者がアンティで手に入れたカード、中でも『神のカード』さえあれば、残りの人生の金の不安などありえないだろう。
この大会を制した『王』!全てを支配し、屈服させ、手に入れた『頂点』!
その者の発する『言葉』は『絶対』!
よって我がKCはここに誓う!
この大会の勝利者には、KCが総力を以てその者の望みをどんなものでも一つ、叶えてやると!!」
ワアアアアアア
その宣言に、中央広間が、いや、この童見野町全体が沸き上がり、やがて地震や偏西風が全世界に広がってゆくように、世界各国にその興奮が伝播していき、「暗黒期」と呼ばれていたデュエル・モンスターズは空前の復活を、否、それはもはや「ブーム」としての復活の枠を超えた、世界におけるその存在感を決定づける「新生」と言うべき様となった。
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日本の裏カジノの一つ。そこは果たしてどこかの地下なのか、建物丸ごとなのか、それともその入り口は一見庶民が暮らすマンションの一部屋なのか。
だだっ広いフロアには、スロット、高レートパチンコ、ルーレットなど所狭しと並んだ遊具がせわしなく音を響かせるが、淡いスタンドグラスの照明や木製を基調とした内装は落ち着いたカフェを思わせ、行きかう人々も、サラリーマンやそこらへんのおじさんや暇を持て余した高齢者といった印象の者達だった。
普段は違法高レートという言葉から受ける物騒でアングラなイメージとは逆に社交場といったいで立ちのカジノが、その夜はある意味非常にらしい熱気を起こしていた。
「おい、いたぜ。」
「マジかよ。都市伝説かと思ったら、マジで出やがった。こんなとこに。」
騒乱の中心となっているゲーム台。
その台の中央に仮面を付け、ローブで体をすっぽり覆った人物が陣取っていた
仮面には、よく見ると目の所に外を伺う為の小さな穴があるらしい以外は口の部分すらなく、傍目からはのっぺらぼうといった無地の白塗りの仮面だった。
身長はフロアの客たちに比べるとやや低い方ではあるが、仮面とローブで性別や正確な体型などは分からず、手にも白の手袋を嵌めていた。
印象としてはジェイソンやマイケル・マイヤーズといった系統のコスプレといった所か。
そしてその人物の後ろに、こちらは帽子を目深に被った程度ではあるものの同じく顔を隠した人物が控えていた。
仮面の人物が変声期による性別も年齢も察しかねる声で「コール」と告げると共に開示された、自身とディーラーのカードに、会場がまたも沸いた。
「これでもう、十倍にはなったぜ。」
「やっぱり本物だよな、あいつ。」
「ああ、カジノ界に彗星の如く現れた謎の仮面ギャンブラー。
その仮面から、デュエルモンスターズのあのモンスターにちなんだ異名をつけられた神出鬼没、正体不明の怪人物。
『ノーフェイス』。」
従者の帽子が肩を小突いて何か合図をすると、「ノーフェイス」は帽子と共にポーカー台を去り、所持チップを換金して去って行った。
台では、先ほどまで「ノーフェイス」によって所持金をさんざん吸い上げられた金髪のディーラーの両拳が微かに振動しながら乗せられていた。
先輩のディーラーは、何とかそのディーラーを励ましてなるたけ穏当な言葉を選んで話しかけた。
「ま、まあ、こういう仕事していたなら、『運がなかった』なんてこといくらでもあるさ。
それにさ、伝説のギャンブラーがこんな良心的所に来てくれて相手してくれたなんて、それだけでとんでもない幸運なんだからさ。
だから、勉強料と観戦料だと思って割り切っちゃおうよ、舞ちゃん。」
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薄暗い建物の廊下をカツコツカツコツと靴音を響かせながら進むノーフェイスは、帽子のお供から手渡された『バトルシティ参加者名簿』と題された資料を一枚一枚撫ぜるように確認し続けた。
多くの決闘者のデータの中でも『海馬瀬戸 決闘者ランクS』『武藤遊戯 決闘者ランクB』の面にはやや時間をかけて確認しつつも基本はサラサラと撫でさする程度で次々と流していたノーフェイスがやがてある1枚の資料で明確に資料を捲る手を止め、丹念にその表層の文字をなぞり追い続けた。
『城之内克也 決闘者ランク A レアカード 真紅眼の黒竜 不相応なまぐれ当たりの馬の骨』
「………」
基本海馬瀬戸の独断によるランクとはいえそれでも実績の差というのは厳然たるもので決闘者として無視できるものではない。
備考欄に「殆ど運により王国準優勝に到達した稀有な存在」という記述が、辛うじての抵抗といった感じだった。
ノーフェイスはその資料を付き添いの帽子に手渡し、受け取った少年はその中身を確認して恭しく頭を下げて応じた。
「承知しました師匠。
では、このエスパー絽場が彼、『城之内 克也』を倒して見せます。
それ以外では、僕の好きに行動していい。
つまり『バトルシティ』優勝を目指しても構わない、ということですね。」
「………」
面を完全に隠したノーフェイスの表情は分からない。
暗闇に、ただコツコツと二人の靴音が響き渡るだけだった。