バトルシティ前日。
童見野町のとあるおもちゃ屋で、城之内と遊戯は大会用のデュエルディスクを購入していた。
「おっちゃん!
バトルシティ参加用の頼むぜ!」
「あいよ。では、登録の為に身分証を……ん?」
メガネをかけた愛想のいい店員は、身分証を確認するとやがてその眼の色を変えた。
「き、君は城之内君か。
王国本選出場の。
実はね、海馬コーポレーションのデータベースに君のことが記してあるんだよ。」
「ほう、海馬の奴も俺を認めたってか。」
「うん、『ほぼマグレによって本選まで出場を果たした奇跡的な運の凡骨決闘者』って。」
「なーにーマグレだとー!
海馬のヤロー!」
「あ、でもAランクの君とBランク上位の遊戯君には、特別にタダでこのディスクと参加権を所有できるんだ。
何てったって優勝候補だからね。
はい、これ。」
「よっしゃ!」
「やったね!城之内くん!」
「ああ!これでマグレなんて抜かす海馬の野郎に一泡吹かせてやる。
そして、優勝したら、今度こそ、静香を………」
「城之内君……やっぱり妹さんは……」
「ああ、今や完全に光を失っちまった。
視力を回復するには、眼球のドナーと、海外の名医を必要とするんだが、金も勿論、例え用意出来たとしても早くて2年は待つ必要があるんだとよ。」
「そんな……」
「あいつは俺の前ではもう大丈夫と気丈に振舞っちゃいるが、内心視力を完全に失った絶望で瞼の裏で泣いているのが伝わってくる。
その度に俺は、あいつを助けてやれなかった自分の力の無さを恨むぜ。
この大会の優勝者に海馬コーポレーションが何でも願いをかなえてくれるっつーんなら、あいつの眼を優先的に治してやれるはずだ。
だから、俺も負けられねえんだ……」
「城之内君……君の思いはよく伝わった。
でも、僕もこの大会、負けるわけにはいかないんだ。」
「遊戯、お前もこの大会で叶えたいこととかあるのか?」
「うう、ん……正直、優勝して叶えてもらう願いに関しては、まだ決めかねているんだけど……」
「どうかしたか?」
「……ごめん、今は言えない」
「そうか、まあ、お互い色々あるんだろうな。
それにしても杏子と本田の奴、未だ行方不明らしいじゃねぇか、どこいったんだ?
まあ、別に応援とかはいいけどよ、あいつらにもこの大会で俺が単なるマグレ決闘者じゃないってこと分からせてやろうと思ってたのに。」
「………」
(本田君、杏子……
城之内くん、ごめん。
君まで巻き込んで、これ以上大切な友人を失いたくないんだ。
無力な今の僕では、きっと君を守ることは出来ない。
君にはただの参加者として、純粋に妹の為にこの戦いに挑んでほしい。
これは、僕ともう一人の僕の戦いなんだ。)
「城之内くん、一つ言っておくよ。」
「どうした?」
「王国で気づいていると思うけど、
君も僕も、正直まだ弱い。
例え小波君や大下さんがいなくても、あの時の僕達だとより大きなこの大会では予選突破すら覚束ないかもしれない。
戦いの中、いや、この大会が始まった時点であの時の未熟さよりより前へ進んでいなければならないんだ。」
「……ああ、分かってる!
あの時から、双六じいちゃんや町内の戦いで腕を磨きまくってきたからな!
もはやかつての俺じゃないぜ!」
「うん!お互い、全力で戦おう!」
かくて決闘者であり親友でもある二人が大会に向けてそれぞれの決意を固めている一方で、彼等に愛想よくディスクを渡した店員は密かに連絡を取っていた。
「ええ…はい、間違いありません。
情報通りなら余程のマグレが起きなければレッドアイズはこちらに…はっ。」
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そしてその夜、城之内は亀の玩具屋から出て帰路についていた。
「よっし。
これで準備万全。
時間忘れてもう夜中になっちまったぜ。
ん?」
城之内の前の夜の暗闇に、フードを被って顔が全く分からない、デュエルディスクを構えた男達がいつの間にか現れていた。
「城之内克也。
バトルシティ参加者にしてレアカード『レッドアイズ』の所有者だな。
貴様にデュエルを申し込む。」
そう告げると共に男はデュエルディスクを起動させた。
「…何もんだオメエ。」
「貴様のカード、我等グールズがいただく。」
「…話には聞いているぜ。
レアカードを不法に略奪する卑しい盗人達だろ。
お前らなんかに俺の魂のカードを渡してなるかよ。」
「ククク…」
決闘!!
グールズ 先攻LP8000
城之内 後攻LP8000
「先攻は私。ドロー。
成金ゴブリンを使いドロー。
モンスターをセットしてターンエンド。」
「ケッ。それだけか。
しかもご丁寧に俺のライフを1000も回復してくれやがる。
俺のターン。ドロー。
俺は≪伝説の剣豪MASAKI≫を召喚。
更に≪MASAKI≫に≪竜殺しの剣≫を装備して攻撃力アップ!
ゆけ!≪MASAKI≫!
戦火激闘斬!」
攻撃力が1800にまで上がっている≪MASAKI≫の斬撃を受けたモンスターは…
「リバースモンスターは≪ビック・シールド・ガードナー≫。
ダメージを受けるのは貴様だ。
このカードは攻撃表示になる。」
城之内 LP9000→8200
「グオッ。
フン、それくらい大したことねぇ!
ターンエンドだ。」
「私のターン。
ドロー。
≪強欲で謙虚な壺≫を使い、≪封印されし者の右手≫を手札に加える。」
「何っ!
≪エクゾディア≫は遊戯しか持ってない上、あの時羽蛾のヤローに…」
「クックク…我がグールズにかかればレアカードなどいくらでも複製出来る。
全て3枚ずつ入っているぞ。」
「とことんキタネーヤローだな。」
「更に教えてやろう。
今、私の手札には既にエクゾディアパーツが3枚、揃っている。
そして貴様の攻撃しか脳のない戦略のデッキでは勝ち目はない。
≪ビック・シールド・ガードナー≫を守備表示にし、≪光の護符剣≫を発動。
ターンエンドだ。」
「こりゃウカウカしてられねえな…
俺のターン!ドロー!
俺は≪レッドアイズ・インサイト≫でデッキから墓地に≪真紅眼の黒竜≫を墓地に送って≪レッドアイズ・トランスマイグレーション≫を手札に加えて発動!
墓地の≪真紅眼の黒竜≫を除外して、儀式召喚!
≪ロード・オブ・ザ・レッド≫!」
フィールドに轟轟と赤い炎が立ち上り、やがてその炎が消えると、
黒い鎧を纏った戦士がフィールドに現れた。
「魔法カード≪シールド・クラッシュ≫!
≪ビック・シールド・ガードナー≫を破壊させてもらうぜ。
そしてこの時、≪ロード・オブ・ザ・レッド≫の効果発動!
魔法、罠が発動した時、モンスターか魔法・罠を破壊できる。
≪光の護符剣≫を破壊だ!
バトル!
≪伝説の剣豪MASAKI≫で攻撃!
戦火激闘剣!」
「グオッ!!」
グールズ LP 8000→6200
「≪ロード・オブ・ザ・レッド≫でダイレクトアタック!」
「グオオオオ!バカな!」
グールズ LP 6200→3800
「よし!イケるぜ!
ターンエンドだ!」
(グウウ…いい気になりおって…
忘れたか!私のデッキはエクゾディアデッキ。
ライフなど関係ない。相手の攻撃を凌ぎ切れば、勝ちなのだ。
今私の手札は5枚、その内3枚もがエクゾディアパーツ。
もう少し、もう少しで…)
「ドロー!
≪強欲で金満な壺≫!
融合デッキを6枚除外することで2枚ドロー!
来た!
カードをセットし、≪サイバー・ヴァリー≫を召喚して、ターンエンドだ!」
(クックック…私の勝ちだ。
ドローフェイズのドローで、私の手札にはエクゾディアパーツが4枚揃った。
そして私の特殊コンタクトで、次のドローが最後のパーツであることは確定。
壺で引いたこの2枚で凌げば、俺の勝ちだ。)
「…ドロー。」
城之内 手札3枚
「≪サイバー・ヴァリー≫っか…ああ、見たことあると思ったら思い出したわ。」
「あん?」
「ほんの数時間前よ、遊戯の家で流してたデュエル・モンスターズの試合のテープの中に確か…」
『≪地砕き≫で≪サイバー・ヴァリー≫を破壊して鮫島にダイレクト・アタック!』
『グワアアア!!』
鮫島 LP 0
「確かマスター鮫島とかいうハゲの場に唯一出ていた攻撃力0のモンスターなんかを何でわざわざ魔法カード何かで破壊したのか分かんなくて印象残ってたんだけどよ。
あの後の解説ではむしろファインプレーだとか言われてたな。
確かそのモンスターって、バトルフェイズを終わらせるんだっけか?」
「ふ、ふん。
運良くそれが分かった所でどうする。
どの道バトルができなければお前の負けだ。」
「ああ。俺に残された手札3枚の内、
俺が勝負を賭けるのは、あいつから託されたこの友情のカード!
来い!《時の魔術師》!」
クッポン!
「こいつの『タイム・ルーレット』の発動時に≪ロード・オブ・ザ・レッド≫の効果によりセットカードを破壊!…≪攻撃の無力感≫か。
例え≪サイバー・ヴァリー≫を破壊してもそれで持ち堪えられる算段ってことか。
だが、この『タイム・ルーレット』が決まってお前のフィールドをがら空きにすれば、≪ロード・オブ・レッド≫と≪MASAKI≫で、俺の勝ちだ!」
「グッ…そんなマグレが、そうそう都合よく起きるはずが…」
「さあな。テメーのパチモンカードと俺の絆のカード、どちらが上回るかやってみなくちゃ分からないだろ!
いくぜ、ルーレット!」
グルグル回転し続けるルーレット盤を見て、グールズの男の全身から冷や汗が湧き出てきた。
(そ、そんなバカな。
流れは私に傾いているはず。
ほんのついさっきの偶然で、≪サイバー・ヴァリー≫の効果をたまたま知って、更に≪時の魔術師≫の効果を成功させる。
そんな、奇跡のようなマグレなど…)
その時、男の脳裏に昼に連絡をよこした部下の声が蘇った。
発した当人からしてみたら、人の意図もない、単なる激励の言葉だったはずのそれが、しかし今は。
『よほどのマグレが起きない限り、レッドアイズはこちらに…』
彼の命運を決する呪いの言葉となった。
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バトルシティ当日。
「何だい今日は…
さっきから腕に変な機械を付けた連中を見かけるが…」
「通行人はどいてた方がいいぜ!」
「今日、この街は戦場と化すんだからよ!」
「城之内君、おはよう!」
「遊戯!準備ばっちりだぜ!
お!羽蛾に竜崎、梶木も来てるのか!」
「お前ら!島での借り返したるで!」
「俺の昆虫デッキも、あれから更にパワーアップしたんだよ!ヒョヒョヒョ!」
「おうおう!みんなえれえ獲物じゃのう!
漁のしがいがあるってもんじゃ!」
ワイワイ騒ぐ皆を見て、城之内は思わず目を細めた。
「………何か………いいなあ………」
「どうしたの?城之内君?」
「こうして過去に色々あってもよ、結局デュエルが始まる前に、皆一決闘者としてお互いワイワイしてるっての、何か純粋にデュエルを楽しんでた頃を思い出すぜ。」
「………うん………そうだね………」
「だが………これからは、何としても負けられなくなるんだよな………」
「………(もう一人の僕………最近めっきりでなくなったけど………どうしたんだろう……)」
「あ、あと遊戯……」
「どうしたの?」
「い、いや……何でもねえ………頑張れよ!」
(この大会にカード窃盗団グールズが潜んでる何て………言えるわけねえ……遊戯……お前には、そんなもんに煩わされずに、純粋に決闘者としてこの大会に参加してもらいてえんだ。
それにしても……昨日のあいつ、何だったんだ?
………確か………マリク、だったな………)
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昨夜
「グワアアアアアア!!」
グールズ LP 0
ピー
「勝つには勝ったが……」
勝利の安堵を即座に振り切り前を見据えると、城之内の眼前にはフードを被った屈強なグールズの者達が幾人かが佇んでいた。
デュエルに勝ったとはいっても、所詮は無法者達。
いざとなったら力ずくも考えられる。
腕っぷしに自信がある城之内とはいえ、単なる学生の喧嘩とは次元が違う暴力を前に立ち居振る舞いを考えあぐねている一方、彼に打ち負かされ男が「グオオオオ……」と、いつまでもうめいているのが気になった。
「お、おい、何だよお前。
いくらソリッドビジョンとディスクからの衝撃があるからって、
そこまで痛がることは………」
「マ、マリク様……お許し、を………ギャアアア!」
「マリク?」
城之内には知る由も無かったが、その時周りにいた、いざとなったら力ずくすら辞さない「グールズ」の男達の脳内に、命令が迸った。
『撤退だ。
元より『レッドアイズ』クラスのレアカードなど、そこまで惜しいものではない。
お前達がやるべきことは一つ。
そこの敗者を直ちに回収して来ることだ。』
こうしてそれ以降はあっさりとグールズは、悶えている敗者を抱えて夜の闇に消えていった。
完全に余談にはなるが
城之内はラストターン、自らのカードへの信頼と勢いに乗って友情のカード≪時の魔術師≫で勝負を決めたが彼の3枚の手札をもし、他の原作キャラ達が見たら思わず頭を抱えただろう。
何故なら、彼の手札の内1枚。
『禁じられた聖杯』を使いさえすれば、ノーリスクであの盤面を突破できたのだから。
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バトルシティ開幕直後、さっきまで会った島での決闘者たちのことを思い出していた城之内は、ふと、もう一つ気になったことを呟いた。
「そういえばあれ程大会に意気込んでいた舞の奴は、一体どこいるんだ?」
次回から本当にバトルシティが始まる予定です。