最弱の転生者   作:ファイネス1

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第1話 断る

 決闘者達が、予選通過を求めてグローブに着けた星型のチップを奪い合う決闘者の王国予選は、開始数時間の二つの情報により波乱の幕開けとなった。

一つは、全国大会優勝者で、今大会の本命と目されたインセクター羽蛾の脱落。

そして、もう一つは、島全体に鳴り響いたアナウンス。

 

『予選1名突破。予選1名突破。』

 

「おいおい、いくら何でも早すぎるだろ。

 ようやく遊戯が何とかスターチップを二つ手に入れた所なんだぜ。」

 

 本来招待状を貰った正式参加者ではない故に、失格となった羽蛾から無理矢理奪い取ったグローブと遊戯から貰ったチップの一つで、ようやく参加決闘者としてのスタートラインに立った城之内の慌てふためく様に、彼ほどではないものの遊戯とその仲間達は同様の反応を示す。

 

「どうやらこの大会、相当な実力者がいるようだね。」

「俺らもとっととデュエル勝ちまくってスターチップを手に入れようぜ!」

「城之内ったら。

時間は48時間、まだたっぷりあるでしょう。焦らないの。」

 

 遊戯一派の中の紅一点である真崎杏子が呆れた調子で窘める傍で、本田ヒロトは脱力した様子で言った。

 

「確かに制限時間にはまだ余裕あるがよ、俺には別の面が心配だぜ。」

「ん?何?本田?」

「俺たち今朝から何も食ってないんだぜ。

 もうそろそろお昼時だっていうのに、飯とかどこかにあるのかよ?」

「あ………言われてみれば………」

「おい本田。おめーがそう言うから、俺、一気に腹減ってきたじゃねえかよ。」

「こんな孤島のどこに飯があるってんだ?」

「だーもう!腹が減っては戦が出来ん!

 まずは飯だ!食料探すぞ!

 その気になったら、狩りでも漁でもやって何でも食い繋いでやる!」

「食い物だったら何でも突っ込めるのがおめーのいい所だよな城之内。」

 

 その時、遊戯一行の元に、艶のある声が森の方から聞こえてきた。

 

「何?あんたら、飯がどうとか言ってるけど、おなかすいてるの?」

「ん?あんた、確か、孔雀舞ちゃん?」

「あら、覚えててくれてたのね。

 お腹すいてるっていうなら、丁度いいわよ。

 この森の奥に、食べ物出してくれる所あるらしいから、行ってごらんなさい。」

「マジか!

 いやー、あんたいい人だなあ。」

「別に。むしろ遊戯とかがまんまと食事にありついてくれるっていうなら、

『こっちとしても』ありがたいってだけよ。」

「ん?そりゃ、どういうこった?」

「行けば分かるわよ。

 じゃあね、確か、城之内とかいったっけ?」

「おう!あんたも決闘者か?だったら腹ごなし終えて出会ったらデュエルしような!」

「………ふん」

 

 つん、とつれない態度で立ち去った孔雀舞から教えてもらった森の奥とやらに行くと、そこには参加者達が一所に集まっていたものの、皆何か悩んだり躊躇している風だった。

 

「おおっ、いい匂い!こりゃあ、肉だな!

ん……何だありゃ?」

 

 城之内達が違和感を感じて近づくと、その中心ではジュウジュウと焚火に炊かれた串刺しの肉と、その肉と野菜などを煮込んだスープの鍋があり、

その前には看板が立てかけられていた。

 

『焼肉一串、及びスープ1杯、星一つ』

 

 そして輪の中心では、甲高い少女の声が、より遠くまで聞かせるように、響き渡った。

 

「ハイハーイ、お腹を空かせた決闘者達、アタシが星を10個手に入れる期間限定よー。

 決意が決まった子から、並んで並んでー。」

 

 料理は会場側が用意してくれたものではなく、どうやら少女がこの無人島で道具などを使って独自に作ったサバイバル料理らしい。

 城之内達同様、女子高生らしき少女の印象は一言で言うと黒ギャル。

 日サロで焼いたか、色素が生まれつき濃いか、日本人にしては褐色じみた肌色が

ふるゆわパーマの銀髪を引き立てている。

 少々意地の悪そうな釣り目も相まって小悪魔系という印象で、傍の包丁や鍋などの調理用品や場所などのシチュがなかったら、援交か何かの売りだと言われても違和感がなさそうだった。

「お、おい、ありゃ……『あり』なのか?」

 城之内は思わず辺りを見回すが、見張りとなっている黒服達は苦々し気にしているものの咎める様子はない。

 やがて遊戯がふらふらと、女性の元へ行き、並んでいた者達からの抗議を浴びる。

 

「あ、おい、おめえ、ちゃんと順番守れ!」

「ん?おい、あいつ、武藤遊戯だろ?」

「あっ、海馬を倒した奴。」

「ついさっき全国チャンピオンの羽蛾も倒したっていうぜ。」

「マジかよ。」

「そんくらいの奴なら、優先権とかあるのか?」

 

 遊戯に傍に来られた女性は「すいませーん、並んでくださーい。」と言うが

彼は特段食事を欲しがる様子も見せず、キリッとした顔を向けた。

 

「お前、名前は何だ?」

「は?何突然?」

「………」

「はぁー、大下 美由子(おおした ゆみこ)よ。

 何?食べるの?じゃあ、並んで。もち、星一つね。」

「いや、断る。

 一つ、言いに来た。」

「何?」

「姑息な手段で勝ち上がろうとするのは、この大会で最も重視されるべき決闘者のプライドを傷つけるぜ。

決闘者なら、デュエルで正々堂々星を得な。」

「…へえ、あんた、アタシとやる気?

 星幾つ?」

「まだ2つだ。

 足りないっていうんなら、俺の命を賭けるぜ。」

「論外。それに、今はヤバいんじゃない?」

 

 大門が脇に目をやると、腹を空かせて並んでいた他の参加者達からの「とっととどけよ!」「俺ら腹を空かせて待ってんだ」というクレームが浴びせられ、遊戯は思わず顔を顰めた。

 

「生憎、アタシはあと少しで星が10個手に入るの。

あんた、この大会の本命だってね。

 決勝で会ったらギタギタにしてやるんだから。」

 

 青色にコーデされた鋭い付け爪の手をギラリと立たせた美由子と暫く睨み合い、遊戯はやがて仲間の元に戻って行った。

 

「よく言ったぜ遊戯!

 そうさ!あんな奴に屈して星渡してなるもんか!」

「城之内……おめえ、ちょっと心動いてなったか?」

「そ、そんなことねぇぜ!

 さ、こんなとこにいねえで、海にでも行って魚でも取ってこようぜ!」

 

 そう言って誘惑から逃げるように腹の虫を抑えながら城之内達は森を抜けて海へと行った。

 そしてその数時間後、アナウンスが二人目の予選参加者を告げた。

 夜。

 決勝戦の会場、ペガサス城の広間の中央には

十人は座れそうなテーブルと座席があったが、その内豪華な食事が載せられているのは離れた二人分の席だけ。

 その内の一つの席には、赤い帽子と服の少年が着いて食事をしていて、

やがて扉が開いて黒ギャル、大下由美子がやってきた。

 

「はぁ~、いい湯だった~。

 あ、お先。あんたは後に入る方?」

 

 勝手知ったる様子で着席した大下は、ナイフとフォークを駆使してそつなく食事をこなした。

 赤帽子の少年の食べ方も下品とは言わないまでもこういった品のある食事に慣れていない庶民的な所があるのに対し、大下のそれは見た目のイメージとは裏腹にかなり洗練されていたものだった。

 やがて食事を終えて扉を出ていこうとする少年に、大下は顔を向けることなく声をかけた。

 

「あんた、何て名前だっけ?」

 

 少女の問いに足を止めた予選通過者一人目の少年は、去り際に振り返り、名乗った。

 

小波 遊一(さざなみ ゆういち)。ちょっと星でも眺めてくるよ。」

 

 同時刻、森。

 

 遊戯一行は多少こき使われる羽目になったとはいえ、再開した孔雀舞によって一時休戦して助けられる羽目になった。

 

「ふいー、助かったぜ、あんがとよ、舞」

「ふん。どうやらあのアバズレに魂売り渡す程腐っちゃいなかったようね。

 ………て、何見てんのよ!城之内」

「い、いやー(『アバズレ』って、どの口が言ってんだなんてとても言えねえ)」

「ま、あの女はともかくとして真っ先に通過した小波っていう男の実力は本物よ。

 全国大会には家の事情とやらで本選に出損ねちゃったみたいでそれまで無名だったらしいけれど、

正真正銘実力で参加者のスターチップをごぼう抜きにして奪っていって、最後にはプレイヤーキラーも倒したって話よ。」

 

 舞の最後の言葉に、杏子が反応した。

 

「何?その……プレイヤーキラーって?」

「ああ、どうもこの島には、私達参加者とは別に、主催者であるI2によって送り込まれた、裏社会の腕利き決闘者が紛れていてね。

 ある程度以上星を集めた奴の所に表れて、星を全部賭けた勝負を挑むらしいわよ。」

 

 それを聞いた本田達が思わずくいついた。

 

「何?じゃあ、ペガサスの野郎、自分で仕掛けておいて初めっから参加者全滅させる気だってぇのか?」

「クソッ!どこまでも汚ねー奴だぜ!」

「………(ペガサス………この大会、奴の狙いは一体何だってんだ?)」

 

 ペガサス城の一室。

 

 並ぶ多くのモニターには、島中に仕掛けられたカメラによる映像が流れている。

 遊戯達が寛いでいる光景も映し出されるのを前にして、数名の大人達、海馬コーポレーションの幹部たちが言葉を交わしていた。

 

「今の所、大会は順調だな。」

「ああ、夜闇の中、決闘者達は空腹と眠気に襲われて一時休戦状態だが、むしろプレイヤーキラーにとってはこの時が絶好の狩場。

 次々と決闘者達の星が奪い取られていく。」

「まさか1日目で2人も突破されるとは思わなかったが。」

「それにしてもあの東洋のデュエルクイーン、ヴィヴィアンを倒すとは、相当なものだなお前の孫娘は。大下。」

「ふむ……」

 

 椅子に腰かけて杖をついた最年長の老人は、孫娘への称賛にむしろ訝しげに虚空に声を放った。

 

「………あくまであの話を信じるとだが、『転生者』とやら一人によってこれ程変わるとは。

 ここから先はいよいよ漕ぎ出した船、か。」

 

 大下がそうひとりごちた直後、部屋に急遽通信が入り、男の声が放たれた。

 

「こちら大門、こちら大門。

 たった今海馬瀬戸の抹殺に失敗、逆にヘリを奪われ、現在ペガサス城に向けて出発の模様。」

 

 その言葉に、会場の空気が一変した。

 

「………やはり、『ここ』は変わらずか。」

 

 

 

 

そして。

動揺を隠せないKC幹部たちの中、顔の前で腕を組んでそれまで静かに事の成り行きを見守っている男。

長髪で片方の目を隠したその男は、ニヤリと笑って言った。

 

「さあ、来なさい。

 海馬ボーイ。」

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