バタン
モニター内で本戦第一回戦の組み合わせが決定された直後、部屋に黒い肌の女性が両側を黒服サングラスの男達に囲まれて入って来た。
幹部達のリーダー格である車椅子の老人、大下は彼女を一瞥してひとりごちた。
「ふむ、やはり海馬も君を
君の能力とやらではこのデュエル、どう見える?
イシズ·イシュタール」
「···残念ながら、神聖なるデュエルの采配に関しては、私の力を以てしても確証に至る予知は出来かねます。
ですが······」
「転生者」はその言葉に「まあ、そういうことにしておくか」と、含みを込めた言い方をぽつりと呟いた。
「本来その闘いの場にいた名もなき王同様、あの者にとってもまた、このデュエルは闇を抜け出すための試練となるでしょう。」
「試練···か。
『神は乗り越えられぬ試練を与えたまわぬ。』とは、ドラマでも使われておるが、古くは聖書にある言葉(コリント信徒への手紙10-13)。
奴は殊に、あの3人の中で多くの試練を乗り越え続けた者。
その可能性を信じてみるか。」
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「こ、ここが天空決闘場!?」
「そうだ。天空1000m、地上との気温差は10℃。
痛みを感じる気流の過酷な決戦場で決闘者は戦うのだ。」
「では、両決闘者、リングへ。」
「·········」
「·········」
「おい、バクラ!
お前、一体何を狙って参加してやがる!
遊戯の居場所を知ってるのか!
····チッ!
獏良!お前、負けてんじゃねえ!
俺や遊戯、仲間達が、お前を取り戻そうとしたことを思い出して、そんな邪悪な意思に負けるんじゃねえ!」.
「·········それは違う。」
「何?」
「今、このリングに立って闘っているのは、千年アイテムに操られている方じゃない···
僕だ!!」
そう言って前を向いた彼の顔は、あどけなさと、そして確かな意志が宿っていた。
「お前···本来の獏良なのか···」
「ああ。もう僕は、もう1人の僕に操られているのではない、僕の意思でこの闘いに挑む。」
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数時間前
その空間を一言で表すなら、「地獄」だった。
「はは···あはははは···」
マジシャン風の男がマネキンを抱き抱えて壊れた笑いを浮かべ続け、
丸いリングの端の地面には血液と糞尿に沈んだ下半身が床に転がり、その上では拘束具によって空中に固定された苦悶の顔を浮かべた少年の上半身という、正視に耐えない光景。
その空間に来たバクラは、少年の遺体の首に掛かったピラミッド型のパズルを手にとってチッと舌打ちし、転がった下半身をガスガスと足蹴にし続けた。
「ざまあねぇな!
貴様なんぞに目をかけた俺がとんだ間抜けだぜ!」
バクラがこれからどうするか、を考え始めた所でその空間にコツコツ、と足音が響いた。
「王はここで試練に敗け、破れましたか。
歴史に於いて、果たすべきことを果たせず、無念と悲劇に終わることは、決して珍しいことではありません。」
「ああ?お前は確か、来日していたエジプト考古学のねえちゃんか。
···ほう、俺のリングが感応しているってことは、お前も千年アイテムの所有者ってことか。」
「···そして、果たせなかった使命は、それが不可欠である限り別の者に担われるのもまた必然。
···貴方もまた、『王』としての魂を持つ以上、その資格もあるということでしょう。」
「おい、てめえさっきから何ブツブツ言ってんだ?
もういい、とっととくたばってそのアイテムを奪わせて貰うぜ。」
「今私から力ずくで千年
「何だと?」
「盗賊王よ、あなたが求める千年アイテムの内二つ。
千年錠と千年秤は、私を通してしか得ることが出来ません。
更に言えば貴方の求める力は、アイテムだけでは手に入れられません。
もし、貴方が私に従ってくれるのなら、この大会を通じて全ての千年アイテムとその秘密が揃い、それらを得ることが出来るでしょう。」
(チッ。本命である遊戯がダメになった以上、もう、こいつのみが···ウッ)
次の瞬間、バクラは頭を抱えて煩悶した。
「お前···まさか、今になって俺に反旗を···クソッ!
···お姉さん。」
「···貴方が、盗賊王の器ですか。」
「もう···イヤだ。
これまで僕は、僕の大切なものを傷つける自分の影から、その正体から逃げ続けてきた。
ようやく同じような力を持つ遊戯君やその仲間達と出会えて、彼等との「友情」にすがり続けて来たけど、ようやく分かった。
結局は、僕自身でそれに向き合う強さがなければ、大切なものを守れないんだって。
···考えてみれば、器が僕である以上、本来は強い意思を持てば僕の意思でこの人格を制御出来たはずなんだ。
丁度今のように。
だけど、僕自身が自分の運命を避けて回りに、そして自分の闇に流されるままだったせいで、僕の無意識の行動がもう1人の僕に引っ張られて、そして···
お姉さん、もう1人の僕の正体を、千年アイテムの秘密を、僕の意志で突き止めていきたい。
どうすればいい?」
(チッ。最も信頼、いや、依存していた友を失ったことで逆に俺をはね除けるほどの意思を獲得しやがったか。
···まあ、いい。
俺と利害は一致している。
せいぜい、今は自由にやらせておくか。)
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決闘艇
「僕は···自分の闇に挑む為にも、この大会で闘い抜かなくちゃならない。
だから全力で挑む!」
「おい!獏良!何を言ってんだ!」
「·········」
「それでは、両者デュエルの準備を!」
審判の磯野の号令に従い、獏良はデッキをシャッフルして相手にも渡してシャッフルして貰う一方でNo.2は、デッキを手首につけた装置に入れてスイッチを入れただけだった。
「ん?何やってんだアイツ?」
疑問符を浮かべる城之内に、ナムが答えた。
「この大会が、元々KCとユニゾンの合同企画のイベントだったよね?
城之内君や、君がこの大会で闘ってきたC級以上の上位決闘者は、元来一般向けの値段のKC製のデュエルディスクを格安手に入れられたけど、ユニゾンが海外の玩具企業、シュレイダー社と合同開発したデュエルディスクはかなり高額なんだ。
ほら。」
そう言ってナムがスマホで見せたユニゾンHPのデュエルディスクの画像を城之内に見せた。
「何だこりゃ!
大型バイク並の値段じゃねぇか!」
男子らしく車やバイクに憧れてゆくゆくは免許を取ってKAWASAKIのNinjaとかを乗り回したいと思っていてカタログを眺めていた城之内は、中古スクータークラスだったKCディスクに対して憧れのバイクに匹敵する値段の表示に目を見開いた。
「でも、その分、ユニゾン製は完全デジタルのハイテク機で、インプットしたデッキのデータをそのままソリッドビジョンで再現して使うんだ。
だから、今回のような強風に煽られるような場面でも、カードが飛び散ったりしないんだ。」
「へえ、だからあんな風に腕に巻き付くコンパクトな仕様何だ。
こりゃ、着けたまま牛丼食っても邪魔にならなさそうでいいな。」
他社のディスクに感心する城之内に、海馬瀬戸は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「ふん、その分肝心のソリッドビジョンのクオリティは犠牲にされ、相互互換でのグラフィックはKCの規格に合わせている。
ユニゾン同士だと単にモンスターの立ち絵が浮かぶだけのお粗末なデュエルにしかならん。」
「それに今回の大会では、KC基準での優遇措置とかやらずに一様な価格で売ってて(一応大会キャンペーンによる割引はあったがそれでもかなりの額)か転売対策などもしていたみたいだから大会での使用率は1割くらいにしかならなかったんだ。
ちなみに、メン·イン·ブラックは全員、ユニゾン製だよ。
···あっ。終わったみたいだ。」
「それでは、決闘開始ー!!」
磯野の宣言と共にNo.2のユニゾン製ディスクから機械音声が響いた。
『ディスクによるランダム判別により、先攻、獏良了』
(ふうん、『転生者』によれば、メン·イン·ブラックの強さは
先攻になった獏良とやらはどれ程の実力者だ?
2番目とやらの実力と正体を探れる、いいモデルケースになってくれればいいが。)
「僕のターン。
ドロー。
<<ダーク·オカルティズム>>で<<カース·ネクロフィア>>を墓地に送り、<<ウィジャ盤>>をサーチ。
<<テラ·フォーミング>>でサーチした<<ダーク·サンクチュアリ>>を発動!」
獏良がディスクのフィールドゾーンにカードを置くと、闇夜を背景に目玉や口の幻影が中空に浮かぶ赤黒い白が聳え立った。
「ウゲッ、気味悪ぃ城だぜ!」
「城之内ぃ、もしかしてビビッてんのか?」
「う、うっせぇモクバ!」
「モンスターとカードを3枚セットしてターンエンド!」
『こちらのターン、ドロー』
無言のプレイヤーに代わってディスクが告げると共にディスクの上空に6枚の手札のソリッドビジョンが浮かび、その内の1枚のカードの映像を指で触れて操作したNo.2を、城之内は神妙な顔つきで眺めた。
(得体が知らないし獏良の奴には悪いが···こいつには出来れば勝ち進んで俺が叩き潰してやりてえぜ。
何てったってこいつは···)
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数時間前
「よう、梶木。」
「おお、城之内か···」
1日目で予選突破を決めたことで本戦の時間までKCに身柄を拘束されることになった城之内は、その道すがら久々に会った、城之内が対決した決闘者達の中では珍しく城之内にとって正々堂々とした決闘者である梶木漁太に再開した。
「ネットで見たぞい。
お前、とうとう予選突破したんじゃとのう、
頑張れよ。」
「あ、ああ···
おい、どうした梶木、何か落ち込んでるぞ。」
かつて王国で戦ってしのぎを削った城之内が見る限り、今の梶木には、あの時やほんの数時間前、大会開始時に見せた決闘者の覇気といったものに決定的に欠けていた。
「わしは···もう、駄目じゃ。
決闘者は、引退じゃ。」
「い、一体何があったんだ梶木、
お前程の決闘者が。」
「ほんのさっき、向こうの水族館で噂のメン·イン·ブラック。
「2」の奴と決闘してのう···」
梶木漁太 LP 0
「あっはっは!
わしの敗けじゃあ!
シー·ステルス戦法が全く敵わんとはのう。
ほれ、パズルチップとカードじゃ。」
豪快に笑いながらもレアカードである「要塞クジラ」とチップを潔く差し出す梶木。
だが、No.2はそれに首を振り、スッと別のカードを指差した。
伝説のフィッシャーマン
「こっ、これだけはダメじゃ!
これは、わしの魂のカード!
海に消えた親父の面影を残すこのカードと共に···」
しかし、立ち会いをしていたKCの黒服が忍びより、梶木に諭した。
「残念ながら、このバトルシティにおける戦利品であるカードの選択権は、勝者にある。
敗者は如何なるカードをも、差し出さなければならない。
例え···」
「ク···ッ!!」
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「奴はとんでもなく強かった。
またやっても、勝てる気がせん。
そんなわしじゃあ、フィッシャーマンを持つ資格なんか···」
「No.2とかいったな梶木。
そいつ、どんな闘いする奴だった?」
「城之内···」
「梶木、俺がそいつからそのカード、取り返してやる。」
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(決闘者にとって、何より信頼する魂のカード。
それを無理矢理奪う何て許せねぇ。
例えどれ程の実力があろうと、そんな決闘者の風上にも置けねえ奴、ぶっ倒してやる。
この闘い、更に敗けられねえ理由が増えたぜ。)
決闘回は次から
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まだ1ターンですが決闘シーンを修正しました