最終話
「クッ…オノレェ……!!」
ダンッ!と拳をテーブルに叩きつけて苛立ちを露わにする海場瀬戸の部屋の扉がドンドン!とひっきりなしに叩かれた。
「瀬戸様!大変です!」
「どうした磯野!」
「目的地が見えたのですが……それが……」
「アルカトラズがどうした!
あそこは俺が社長就任と共に破棄した、海場コーポレーションの負の遺産たる軍需工業の跡地で
瓦礫の山のはずではないか。
飛行艇の着陸場所にでも困ったか?」
「はい、それで間違いないはずなのですが……自身の目でどうかご確認を!」
神のカードや千年アイテムによる超常現象が目の前起こってさえも決闘の審判を勤め上げる程の
冷徹な判断力を有する部下の、絶対的上司である自分に思わず指図をしてしまう程の困惑に先程まで抑えるのに必死だった悔しさを
突如として冷まされて操縦席に来た海場は、眼前に広がる光景に思わず目を見開いた。
「な………なんだ………これは………」
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ピピピピピピピピピピ………
モニタールームに鳴り響いたシンプルな着信音に、<<転生者>>は懐から音源たるスマホを取り出してスピーカーモードにして着信を押すや、
海場瀬戸の押し殺した声が響いてきた。
「
その気になれば一般人などたちどころに魚の餌にしていまえるであろう力を伴った人物の、常人であれば竦み上がるような威圧を感じさせざるを得ない口調に、<<転生者>>は涼しい顔で応じた。
「まだ夜明け前だから灯台も兼ねて盛大にライトアップしたよ。
よく見えるでしょう。」
「あの趣味の悪いペンギンのオブジェは一体何だ。」
「ああ、あれは大滝の力作たるメインモニュメントだ。
もっと近くで周りをよく見まわしてみな。
楽しそうだろ。」
「どういうことだ!
貴様、神聖な決勝の舞台であるアルカトラズに、一体何をした!」
「君にとっての忌まわしき因縁と決別の象徴の場所を、勝手に買い取って踏み荒らしたことは謝るよ。
でもねえ、むしろ決闘の大会の舞台としては、あのような殺風景な廃墟よりはずっとましじゃないか。
君にとってここは、決別の機会でもなければ関わることを極力避けてきた場所だ。
だから案外あっさり、君の目を逃れてこんなものを作れてようやくオープンに漕ぎつけられたんだよ。
ユニゾンの新時代の幕開けを飾る一大テーマパーク。
ペンギンランドが。」
「これが、飛行艇の行き先であるバトルシティ決勝の舞台か。」
「すっげえ!何だこりゃあ!」
城之内と獏良が見た目的地である埋め立て地では、空に向けたサーチライトの何条もの光や色とりどりのネオンの光に照らされて
巨大なペンギンのモニュメントを中心として様々なアトラクションやアミューズメント施設がマスコットキャラであるペンギンのマークと共に散りばめられていて、
入り口のアーチには【PENGUIN LAND】と書かれていた。
「ペンギンランド?
どっかで聞いたことがある気が……」
「【ユニゾン】がオープンを発表していた新アトラクション施設だね。
この大会はKCと【ユニゾン】の合同企画だっていうし。」
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「安心しなよ。
飛行艇の着陸場所は、モニュメントの上空にちゃんと用意してあるし、決闘場も施設の方で盛大なものを用意しておいた。
君のことだから全国中継の用意もしているんだろう?」
「貴様……このバトルシティを、この下らんアミューズメントのこけら落としに使うつもりか。」
「共に戦う者も相手も周りの者も、自分の勝利の為に利用し尽くすのが君のやり方だろう、海場瀬戸?
君がバトルシティで神のカードや決闘王の栄光などを得る野心を果たそうというのなら、協力するこっちも存分にそれに乗っからせてもらうまでさ。
それとも、ここを今すぐにでも廃墟にでもするか、別の決闘場を用意するかい?」
「……グッ!」
もし、レトロな電話だったらガチャン!とけたたましい音を立てていたであろう勢いでスマホを切った海場瀬戸は
苛立ちも露に磯野に向かって告げた。
「決闘者達を中央デッキに集めろ!
そして例の覆面の者達に伝えておけ!
これより決勝に進むにあたって、主催者権限でそのマスクを取ってもらうと!」
「は、はい!」
カツカツカツカツと大きな足音を立てて歩いていく海場瀬戸に伴ったモクバは、スマホをいじりながらため息をついた。
「本来なら兄さま直々に引導を渡して正体を明かしたかった所だけど……仕方ないぜ。
SNSじゃ、あの覆面達の正体について、
「ふん、どうせ決勝に出るのはあの凡骨を除いた覆面の誰か。
あのような番号と体格にしか違いがない奴ら同士での戦いで訳の分からない奴が王が決まるなど、決闘への冒涜もはなはだしい。
頂点たるもの、堂々とその素顔を全世界に誇ってもらわねばな。」
「大黒寺のババアまでが何らかの手違いで羽蛾に負けるようなことがなかったら、城之内のポジションもあの【0】になって決勝が
謎の覆面だらけで行われていたと想像すると気が滅入るぜ。」
「多少はあの凡骨の進出も、有難いものだ。」
中央デッキに行くと、そこには城之内と獏良しかいなかった。
マリクと部下の刺青の男は、あの大会の後その身柄を拘束されているという。
「おい、他の参加者にちゃんと招集は書けたのだろうな、河豚田。」
「はい、確かに伝えたのですが……」
「せ、瀬戸様!」
ペンギンランドの衝撃に引き続き、磯野がまたも困惑を露わに海場瀬戸の元に駆け付けた。
「た、大変です、瀬戸様!
このバトルシティ自体が……」
「どういうことだ!」
「は、はい、実は………」
磯野の報告を聞いて数秒後。
「何いいいいいいいいいいいいい!!!」
決闘艇に中に響いた怒声に、城之内は思わずビクッと肩を震わせた。
「か、海場?
お前、そんな、ギャグマンガキャラのような反応する奴、だった、か?」
らしくない反応をしたと思うやその顔を伏せてブルブルと何かに堪えるように拳を握りしめた海馬の異変に城之内が言葉を失っていると、
海場瀬戸は取り出したスマホを荒々しく操作した。
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モニタールーム
「いや、だから詳しく説明するとだ。
控室から、No.2は神のカードと共に煙のように忽然と消えた訳だ。
残りの者の身の安全の確保と、No.3の闇のゲームを経たことによる体調への変化の懸念。
そして入手した神のカードとグールズの処遇の方を優先させるため、残りの2人にも棄権を指示した。
元より彼等は決闘王の称号などよりも神のカードの入手を至上命題として参加させていたからね。
という訳で必然的にこの大会も終わり。
主催者として初代決闘王、城之内克也の誕生を祝うと共に、その願いを聞き届ける用意をお願いするよ。瀬戸君。」
<<転生者>>が尚も怒声が響き続けるスマホを切った室内には、新たな人物がいた。
170センチ台の日本人としては平均的な身長に全体的にシュッとしたスレンダー体型な黒いスーツの<<転生者>>に対して190センチはあろうかという長身にググッと張り出た胸や臀部。
外ハネが目立つ群青色の髪と気怠げな水色の半眼、ビジネスシーンに似つかわしくない薄汚れたカーキの作業着。
化粧っ気が全くないにも関わらずモデル顔負けの美麗な顔立ちと豊満なスタイルが、お洒落というのから程遠い出で立ちと愛想からかけ離れた有り様を男達を振り向かせると共に惜しませるその女性に対して<<転生者>>が見せた写真には、魔法陣のような模様が描かれた磨かれた緑色の石の装飾が映っていた。
「No.2…いや、キースの部屋にあったこれ…」
写真を一瞥した青髪の女性は、やはりどこか眠たげな調子で応じた。
「オレイカルコス…紛れもなく奴等からの警告だねぇ。
他の皆に身を引かせた君の判断は間違ってないようん。」
「まあ、当然か。
ペガサスユニオン、KC、グールズ。
敵対する者全てを制圧し、神のカードを全て手に入れた。
この上
「勝ち過ぎては駄目何ですか?」
この場にいる者達の中で最年少と思われる驢馬の疑問に、ビジネスの世界で妖怪とまで言われた大下が答えた。
「武田信玄は勝利は5分で上、7分で中、10分で下と評した。
慢心や驕りもそうだが急な成長や変化は人材やシステムが着いてこれず、歪みを起こす。
丁度海馬瀬戸の時のようにな。
何よりあまりに一人勝ちが過ぎると周囲の反発やそれによる団結にまで至る。
ダーツやイリアステルといった難敵がまだ控えている以上、ここくらいでの妥協は必要だろう。」
「なあ、この相手、どう見る?」
<<転生者>>が青髪の女性に話しかけて再び操作した画面では消えたNo.2の網膜レンズを通して繰り広げられた謎のフードの人物とのデュエルに、驢馬は、目を丸くした。
「何ですか、これ…」
神のカードを巡る決闘によるオカルト現象にある程度耐性が出来ている故に、敗北と共に謎の光と共に映像が途切れてしまったことには自身でも驚く程に衝撃が少なかった。
そもそも上空の密室であるこの決闘艇控え室に出入りして人を煙のように消してしまうこと自体、何らかのトリックよりはいっそそういうオカルトの力によるものであるという方が納得できてしまえるくらいだ。
驢馬が受け入れ難かったのは、このデュエル自体。
その相手が使うカードは現在のこの世界における一介の決闘者としてとても理解出来るものではなかった。
『シンクロ召喚!』
『レベル4二体でオーバーレイ!』
『リンク召喚』
その理解不能な光景を前に、黒と青の2人の美女は呆れさえ含めた口調で言い合った。
「…やってくれるねえ。」
「ここまで来るとこちらが見ていることを承知で寧ろわざとひけらかしている感すらあるねぇ。
元々、現在のキース・ハワードを倒すのでさえ、原作キャラではもはやラファールですら難しいくらいだしこれは間違いなく…
君と私以外の転生者と見ていいだろうねぇ。」
その言葉に、場に、特に背後のKC幹部達に衝撃が走った。
「馬鹿な!転生者が敵側…それも、世界を滅ぼそうとする勢力の中に…?」
「お、おい、大丈夫か?大黒寺。
もし敵に回したとして、勝てるのか?」
「…だからここは一旦勝ちを向こうに譲って、
何れ向こうから仕掛けてくるまで少々準備を進める必要がある。
何れキースを助け出すとしても、ね。」
大黒寺と呼ばれた転生者は、薄らと笑った。
「忙しくなるよ。」
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現実ではない世界の伝説の都・レミューリア。
正確には今では遺跡となったその都の、底が海の中にある柱に腰掛け、ニット帽の少年は新聞を広げていた。
ストリートな少年の格好といい、広げている新聞といい、この空間の雰囲気には著しく似合わず、むしろ街中のカフェとかで似合いそうな出で立ちだ。
彼の傍らの少し傾斜がある石のテーブル上には、かつて漠良のTRPGで作られたような遊戯、城之内、そして海馬の人形が置いてあり、
少年は新聞から目を離し、遊戯の人形をこてんと倒した。
「名もなきファラオとその器は死亡。
海馬瀬戸も敗北。
初代決闘王となった城之内克也は…まだ、保留、か。
一つ目の条件は達成。
さて。
本来の主人公がない状態で迎えざるを得ないゾーマ編で、いよいよ。
俺の復活が成るかな。」
フフ、と微笑んだ少年は、懐から何かの道具を取り出し、パチパチといじくった。
傍目から見ると、それは算盤のように小石をいくつも通した串の束を枠内に纏めたもので、
正確には古代の計算機、アバカスというもので、
その枠の中央上部には、千年アイテムの目の模様があった。
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城之内克也が入った部屋の中央に鎮座したテーブルの対面には黒いスーツの女性が手を組んで待ち構えていて、
その背後には元KC幹部の5人が車椅子の大下を除いて椅子に腰かけて威容を放っていた。
「よくここまで辿り着いたね。
初代決闘王、城之内克也。
君が優勝賞品として欲したもの。
金でも権力でも、妹の手術でもなく、『真実』と来たか。
果たしてそれが『真実』と呼べるものかは分からないが、この私、<<転生者>>大黒寺
後ろでその様を聞いていたBIG5達はデジャブを感じた。
そう、丁度王国編が終わった辺りのこと。
こことはまた違う部屋のまったく同じ立ち位置で。
『やあ、海場瀬戸、海場モクバ。
まず最初に言っておくが要求通り一切の武器も部下も連れずに二人だけで来たその勇気に敬意を表し、
私達もこの場において君達に一切の危害を加えないことを約束した上で
この私の【2回分】の人生と、この世界本来の物語を語るとしよう。
知ってしまうことによる覚悟は、済ましているだろうね。』
次回、いよいよ語られる「転生者」の真実