少々長いですが、転生前編です
その世界は、「遊戯王」という名称で主に呼称されるデュエルに関してある面では劣り、ある面では優れているといえた。
まず、デュエリストにとって必需品と言える決闘者の盾、決闘盤なるものは、スピーカー内蔵の子供だましの玩具としてしか存在しない。
ソリッドビジョンという本物と見紛う幻覚映像は、デュエルモンスターズが誕生して20年以上、「彼女」がこの世界で知る限りにおいて、ようやく初期段階として
開発されたに過ぎないレベル。
決闘盤がSNSレベルの必需品であるこの世界の決闘者が聞いたら、アマゾンの未開文明か前世紀の世界と聞き間違うレベルのことだろう。
だが、一方でその世界には3つ、遊戯王世界より優れているものがあった。
一つは召喚方法、もう一つはそれに伴うカートプール。
そして。
純然たるデュエルの知識と技量。
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「決勝戦進出!
「よっしゃああああああ!」
名前を呼ばれた高校生のギザギザ頭の少年は、スタッフの宣言に両手を振り上げてガッツポーズを上げて喜びを露にする。
場所はどこにでもある小さなカードショップ。
普段だったらそこで行われているカードゲーム大会など、優勝したところでカードパックかスリーブが貰える程度だろう。
だが、その日のカードゲーム大会は、この辺りで遊戯王を極める者達にとっては是非とも見逃せないものだった。
その理由は、大会にダイヤ型となって吊り下げられている折り紙の列に記されている文字、
「日本選手権ショップ予選」という文字を見れば頷けるだろう。
毎年行われる遊戯王の全国大会。
日本全国の数万~数十万の頂点、そしてやがては世界トップレベルの栄誉や景品をかけた戦いは、こんな小さなショップからも入口になりうるのだ。
神崎遊大もまた、そんな希望を胸に、そしてその希望に恥じぬ彼なりの努力と研究、お小遣いは勿論、バイトなどで得たなけなしの資金によるやりくりを経て、
遂に店舗予選の決勝へと駒を進めた。
「さて、対戦相手はっと……ん?」
決して油断や慢心はせず、むしろそれまで以上の緊張感と心構えを持って決勝のテーブルに向かった彼の前に座ったのは、
杖をついて来た老婆だった。
「よいしょっと。」
着ているものは、濃い黒や茶色の呉服。
もし、このような場所と時間でなければ散歩で寄ってきた老人を思わせ、それまで自分と同年代か少し上くらいの大人達と戦ってきた
遊大は思わず虚を突かれた。
「決勝戦は神崎遊大とプレイヤー名『ウィッカ』さんで行われます。
それでは両者、挨拶とデッキシャッフルをお願いします。」
「あ、ああ……」
(老婆決闘者か。マイコ・カトウを思い出させるな。)
じゃんけんにより先攻を取った彼は手札を持って笑みを浮かべた。
「よし!!先攻向け手札!!
いくぜ!!
<<烙印の気炎>>で<<烙印竜アルビオン>>を墓地に送って……」
「<<うらら>>で止めますね。」
「チッ。早速止めてきたか。
だが、<<デスピアの導化 アルベル>>を召喚してデッキから<<烙印融合>>を持ってきて……」
「<<ドロール&ロックバード>>。」
「クッ、<<烙印融合>>でデッキの<<アルバスの落胤>>と場の<<アルベル>>で<<神炎竜ルベリオン>>を融合召喚して手札の<<白の聖女エクレシア>>を捨てて
効果発動!
<<ルべリオン>>と墓地の<<アルバス>>をデッキに戻して<<氷剣竜 ミラジェイド>>を融合召喚!
カードを1枚セットして、ターンエンド。
エンドフェイズ、墓地の<<アルビオン>>の効果でデッキから<<烙印断罪>>をセットして<<烙印の気炎>>を手札に加える。」
(よし、妨害食らったが、カウンター罠とミラジェイドを立てて先攻盤面としては上出来!)
「私のターン。ドロー。
<<罪宝の欺き>>を発動。
手札の<<白き森のシルヴィ>>を墓地に送ってデッキから<<聖なるアザミナ>>を加えて発動。」
相手が使うのは魔女デッキらしい。
そういえばウィッカというのは現代の魔女文化だと聞いた。
意外とキャラ作りに凝っているかもしれないが和装の出立ちが何ともアンバランスだ。
「<<飢渇聖徒エリュシクトーン>>を見せて場の<<罪宝の欺き>>を墓地に送って特殊召喚、効果発動。
そうねえ、<<ミラジェイド>>を墓地に送らせて貰おうかしら」
「<<ミラジェイド>>の効果!
EXデッキから<<灰燼竜バスタード>>を墓地に送って<<エリュシクトーン>>を除外。
<<ミラジェイド>>の効果も発動。」
「でわ。」
その言葉を聞いた時、神崎遊大の全身に緊張が走った。
そう、ここまでは見えている妨害を突破する為の前準備。
残り手札は2枚とはいえ、むしろここから妥当いうことが、その言葉から伝わった。
「フィールド魔法<<白き森の魔女>>を発動させ、効果処理で<<白き森のシルヴィ>>を手札に加えて召喚。
効果でデッキから<<白き森のいいつたえ>>をサーチして発動。
<<白き森の聖徒リゼット>>をサーチして、このカードを公開して特殊召喚。」
「カウンター罠<<烙印断罪>>!
墓地の<<ミラジェイド>>と<<アルビオン>>をデッキに戻してそれを無効破壊!」(これで残りは手札1枚。止まれ!)
「<<三戦の才>>を発動して2枚ドロー。
<<刻まれし魔の詠聖>>でデッキからサーチした<<魔轟神ルリー>>を捨てて特殊召喚。
<<刻まれし魔の鎮魂棺>>をリンク召喚し、リリースして<<紅涙の魔ラクリモーサ>>を特殊召喚し、<<魔を刻むデモンスミス>>を墓地に送り、墓地の<<ルリー>>をデッキに戻して特殊召喚。
<<ラクリモーサ>>と<<デモンスミス>>で<<刻まれし魔の大聖棺>>をリンク召喚し、墓地の<<鎮魂棺>>と<<デモンスミス>>をデッキに戻して<<刻まれし魔 ラクリモーサ>>を融合召喚し、墓地の<<紅涙の魔 ラクリモーサ>>を特殊召喚。
<<刻まれし魔の大聖棺>>を<<刻まれし魔 ラクリモーサ>>に装備。
<<刻まれし魔の大聖棺>>を墓地に送って<<白魔女 ディアベルゼ>>を特殊召喚。
効果でデッキから<<カース・オブ・ディアベル>>を墓地に送り、送られたこのカードの効果で<<フィリアス・ディアベル>>をサーチ。
<<フィリアス・ディアベル>>でデッキから<<断罪のディアベルスター>>をサーチして墓地の<<フィリアス・ディアベル>>と<<カース・オブ・ディアベル>>を除外して特殊召喚。
<<刻まれし魔 ラクリモーサ>>と<<白き森の聖徒リゼット>>で<<フルルード・バロネス>>をシンクロ召喚。
墓地の<<刻まれし魔の大聖棺>>をデッキに戻して1200ダメージ。
<<フルルード・バロネス>>でセットカードを破壊。」
「手札の<<烙印の気炎>>をコストに<<烙印開幕>>を発動!」
「<<バロネス>>で無効。」
「バトル。
<<断罪のディアベルスター>>(除外された<<フィリアス・ディアベル>>により攻撃力3000)でダイレクトアタック。」
「手札の<<軒轅の相剣師>>を特殊召喚してその攻撃を無効!」
「LPを半分払い、<<断罪のディアベルスター>>で<<軒轅の相剣師>>を破壊して、EXデッキから<<白き森の魔狼シルウィア>>を特殊召喚。
<<バロネス>>と<<ディアベルゼ>>と<<シルウィア>>でダイレクトアタック。」
「グ…ッ」
その後、サイド交換による2戦目が行われ、後攻用の編成にしたものの
増殖するGは抹殺の指名者で、二ビルは<<聖アザミナ>>によって呼ばれたシルヴィアによって封じられ、神崎遊大の全国大会は終わった。
「魔女…か。」
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【ウィッカ】というプレイヤー名でショップ予選を制した老婆は、散歩帰りのような足取りで
立派な日本家屋に入ると、中では半袖のスーツを着ていかにも堅気に見えない感じの男達が5人ほど揃って「お帰りなさいませ!」と、頭を下げてきた。
やがてそれらの中から柄物のシャツを着た体格のいい金髪の若者が近寄ってきて老婆に訪ねてきた。
「どうですか?予選は。」
「今日は調子が良くて見事優勝できたわ。
後は日本代表戦ね。」
その言葉を聞いて、男達は色めき立った。
「流石です!
我等が
カタギの決闘者何か目じゃありませんね!」
「このまま優勝して、世界大会も夢じゃありませんよ!」
「どんな試合だったんですか!
デュエル教えてくださいよ!」
男性達の子供のようなはしゃぎように老婆は苦笑した。
「やれやれ……引退した余生の趣味でも、修羅場を潜ることになるとはね………」
数ヶ月後
組長がパサっと放って見せた用紙が、組員達の目の前に晒された。
「
先日の大会で優秀な成績を修められ、日本選手権への出場資格を得られましたが、当大会では反社会的、及び公序良俗に反する集団、個人との関わりはご遠慮させていただきたく存じます故に、
誠に申し訳ありませんが今大会及び今後の大会での出場権は剥奪させてもらいます。
尚、先日行われたショップ予選では準優勝者の神崎遊大様に日本大会への出場権を与えたいと思います。」
それを見た組員たちは、皆一様に憤慨の声を浴びせた。
「ザッケンナ!極道がデュエルやって何が悪いってんだ!」
「のうのうと『今後も遊戯王をお楽しみください』だとぉ?
どの口が言ってやがる!」
「デュエルは正々堂々やって実力では明らかに組長が上だろうがよお!」
「こうなったら抗議のメール送ってSNSで晒して炎上させてやる!」
「おやめ!!!!」
呑気に茶を啜っていた組長からの一喝で、その場の色めき立った雰囲気は忽ち静まり返った。
「この業界に足を踏み入れた時から、こういう扱いを受けるっていうのは皆とっくに承知だろう。
恥の上塗りを重ねるんじゃない。
元から単なる物好きが高じたに過ぎんもんさ。
いい思い出と思って割り切らんかい。
それに、今度向こうから孫がやってきて私に話があるってんだ。
余計なことに気を遣わせるんじゃないよ。」
「はあ……あれ程うちを嫌って音信を長い間断ってたあの坊ちゃんが、今更何を……」
「何か碌な事じゃありませんぜ。
俺の悪い予感は当たるんでさあ。」
組員達はどこか不安そうに顔を見合わせた。
外では日の光が雲に遮られて陰った。
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「ちくしょうっ………」
囚人服を着た老女がふう、と溜息を突いて眺めた面会室のガラス戸越しに、涙を流して項垂れる半袖シャツの男性がガバッを上げた顔には
血管がビキビキと浮かんでいた。
「あの腐れガキがぁぁぁっ!
よりにもよって実家の組うりやがってぇぇぇぇぇ!!」
「仕方ないだろうに。
2代に渡ってうちらの名で心苦しい思いさせたんだ。
今回だって、会社での自分の居場所を天秤にかけられたんだろ。
いや、あいつにとってはそもそもうちなんか天秤に乗せる価値もねえだろうが。
組の金と私一人のガラ、そして極道組織をちゃんと潰してみせたって実績くれてやるくらいが親としてしてやれる勤めさ。
それに、遅かれ早かれ息子に継ぎ目がない時点で、うちがもう終わりだってことは、分かってたんだろう。」
「畜生が…ッ。
組長や俺達が、何年にも渡って守ってきてやったシマが………」
遊諤組はその勢力範囲や組員自体はそう多い訳ではないが暴対法が施行されて以降も町の住民が足を向けて寝られず、
女だてらにそこを取り仕切る組長に対しては道行く人や対応した店子、そして町長ですらも頭を深々と下げる程の
実力と度量を持つ、この男にとっては正に極道の中の極道と誇らしげに胸を張って言えるようなものであった。
「もう昔気質の義理人情や任侠じゃ立ち行かねえが
今時にも馴染めねえ私にゃあ、贅沢な末路さ。
むしろ落ち目になる中でも近所の堅気達に挨拶してもらったり地域会に呼ばれてご意見番にしてもらえただけ、
ヤクザとしては望外だったじゃねぇか。
未来があるお前さんらも、ここらへんで日の光に当たって生きてみんしゃい。
それより、今月のVジャンプまだかい。
遊戯王の新パックやカードの情報知りてえんだ。」
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少子高齢化の煽りは娑婆だけではなかった。
受刑者の高齢化に伴い、全国の刑務所もまた、彼等老受刑者が最期を迎える老人ホームと化しているという。
遊諤唐子もまた、厳寒の独房でその最期を迎えようとしていた。
「グッ………ウゥ………ガァァァァ……ッ!!」
死へ至る体を襲うあらゆる不快感と苦痛の中、それらの感覚とは離れた魂が、自らの最期と人生をしめやかに振り返っていた。
多くの修羅場を潜って吹けば飛ぶような貧乏ヤクザ組織を盛り立てて『血遊び天女』と呼ばれた半生。
異名の由来である背中の天女の刺青が先日の風呂で、皺でクシャクシャになって泣き顔になった光景。
ヤクザとしての生き方を否定されて、家を出て行かれた息子との最後の思い出。
子供がやっているのを見て興味を持ち、原作漫画及びアニメシリーズを見通して、老後の趣味として嗜むことにした遊戯王というカードゲーム。
それなりに持て余した金と暇に飽かせて作ったデッキで、マスターデュエルでトップランカーに上りつめ、紙によるデュエルでも
ショップ予選トップを通過した日。
それが結局は自身のアイデンティティである組の肩書によって閉ざされた日。
それらの走馬灯を通して見たその生涯を一言で表すと。
ざまあねぇな。
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死後の世界というものなのだろう。
見渡す限り白一色の世界にいた遊鰐唐子の前には
ニコニコ笑って座り込む、短パン半袖シャツの子供がいた。
子供はよく通る声で告げた。
「やあ、死んで来たね。」
「あんた閻魔か死神かい。
地獄とやらは一体どこだい。」
「いやいや違う。
僕は神様。
より正確に言えば、遊びの神様