辺りが白一面で、光源も全く不明でありながら色味がはっきりと分かるこの世ならざる異様な空間。
今時の言葉で言えば(或いは今でも死語かもしれない)ショタっ子と呼ばれる安心感を与える見た目でありながら、その異様な空間を自分の部屋かのような
我が物顔で振る舞う様は奇怪極まり、底知れない不気味さを感じさせる一方、邪気が全く見えない顔立ちは、純粋無垢な神聖さもまた感じさせる。
そんな少年は、老婆に対して怪訝な表情を向けた。
「驚いてないねえ。」
「そりゃ死んだことは確実だからね。
未練たらしくこの世に留まるのでなけりゃ、誰も知らない所に行かされるのは当然ってもんさ。」
「流石さんざ現世で死にかけた百戦錬磨の婆さん。
なかなか凄絶な生涯送ってるよね。
確か、あんたの世界の言葉では任侠っていうんだっけ?
着の身着のままの孤児から随分と上り詰めたもんじゃねえか。」
「ふ。よせやい。
いかめしく取り繕っても暴力や恐怖で生き抜いてきただけだ。
上り詰めたと言っても後戻りできずに落ち続けに過ぎん。
その果ての時代に取り残され、家族にすら切り捨てられた野垂れ死には見たろう。
ろくな生き方せずにろくな死に方しなかったんだ。
相応しい所に連れて行かれるんだろう。」
「そうそう、本来なら君たちの文化で馴染の所謂閻魔様の元に連れて行かれるんだけどね。
じゃーん。」
わざとめいた台詞と共に<<遊戯神>>はポケットから取り出したクラッカーをパン!と引いた。
「今回、君はこの僕の『気紛れ』に選ばれました!
それが幸か不幸かは置いておいてこの世界全人類の中からの類まれなる確率を引き当てたその運にひとまずおめでとう!!」
「おい、ガキ。んだそりゃあ。」
「ん?ほら、婆さん、君、宗教的に輪廻転生とやらを知っているなら分かる?
君の生きた時代のトレンドたる異世界転生のこと。」
「ああ、若い衆が
異世界で本気出すだの
何回も死に戻るだの
スライムにされるだの色々ハマってたな。」
「そうそう。
僕ら神は原則現世の人間、世界には手を出せない決まりでで裁量を振るえるのはこの世を離れた魂に限られてね。
故に気まぐれと遊びの象徴である僕でも選んだ君を弄べるのが今この時というわけだ。」
「成程。ラノベかなろう感覚で私を異世界転生させる『遊び』という訳だ。
遊びというからにはあんたらにとっては小説を書くのとは比にならない気楽さだろうがね。」
「正解正解。
年寄りの割には頭が柔らかくて助かるよ。
『弄ぶ』とは言ったがきみにとってはむしろ願ってもないことのはずだ。
なんて言ったって君が今際の際に思い浮かべて、望んだことなんなから。」
「………」
しばらく黙っていた老婆はやがて自嘲の笑みをその顔に浮かべた。
「碌な死に方できない分、せめてみっともない後悔くらいはしなしないよう心掛けてきたんだがね。
やはり最期となると素直に浅ましくなっちまうのが人間ってもんさ。
人生を捧げたはずの組によって遊戯王の道が閉ざされたことで、そしてアニメや漫画の遊戯王の思い出が駆け巡っちまったことで私が思い浮かべた願い…」
「そう。<<もっとデュエルを楽しみかった>><<決闘者として人生をやり直したい>>という無念を持った君をわざわざ選んで転生させる先は、厳密には漫画版での<遊戯王>世界だよ。」
「ほう。」
地獄に連れていかれることにすら平然と受け入れていたであろう遊鰐唐子が目の色を変えたのを見て取った<<遊戯神>>は虚空にSFのようなウィンドウを出して見せて
ディスプレイに示されたボタンや筆記事項について説明した。
「転生といっても色々な型がある。
登場人物の一人かモブの体を乗っ取る憑依系。
親や生い立ち、学歴といった背景を持たず、突如として世界に湧いて出てくる異世界転移。
そして赤ん坊から文字通り新たに生まれなおしてやり直す輪廻系。
こっちが勝手に選んでしまった負い目もあるから君に選ばせてあげるよ。
どれがいい?」
気まぐれで傍迷惑な所があるが妙なところで律儀な神様だ。
いや、どっちかというとこれも相手がどんな考えでどんな設定を選んでくれるのかを楽しむ<<遊び>>の一環なのだろう。
提示されたカテゴリの中で唐子は躊躇いもなく選択をしていった。
「輪廻系。
対象は原作登場人物及び関係者を除いたモブで。
記憶は出生時から。
多少チート地味とはいえせっかくだから赤ん坊からの立ち回りというのを学んでおきたい。」
「無職転生系か。」
「出生は日本のランダム。性別は女。時代は………原作開始時点から30年ほど前か。
原作ってことはあれか?時代は連載当時の90年代くらいかい?」
「オプションで技術や時代設定や情勢などを君のいた時代に合わせることもできるよ。
ちなみに今までの奴らの中には何を考えてかこういう原作物で
せいぜい先祖が出てくる程度の遥か昔の江戸時代や
中にはそういう接点すら見い出せない古代中国とかヴァイキングとかで
実質ほぼ別ゲーものをやっていて生涯を遂げた奴とかもいたな。」
「じゃあ原作開始時点に私の世界の時代を合わせる形で。
但しデュエルの時代設定は原作標準で。
よし、これでいいかな。」
「あっと、筆記事項がまだだ。
この<<転生者特典>>ってのもお願い。」
「何だこれ?」
「簡単に言うと<<転生者>>に対して何らかの異能力オプションを授けなきゃならないんだよ。」
「私はそういうのはいいんだが……」
「残念だけれどこれは<<転生>>における規則でね。
カタログから好きなのを選ぶか、あるいはこの自由記入欄に好きなのを書いてよ。」
「転生者特典」と示された欄をタップしてズラッと前面に出た様々なスキルを見回し、操作し続けた唐子はやがてその内の一つをタップした。
「いくら私のようなルール無用の世界で生き抜いてきた輩だといってもやはりイカサマで世を渡るのは忍びないからね。
それでも我儘言わせてもらいと、前世とちがって『準備』くらいは整えたいところだから……こんなもんか。」
「『
命日の24時間前にその通知が来る。』
君の時代ではスマホのスケジュール通知機能のようなものだから馴染みがあるだろうが
そんなオプションでいいのかい。
正直な話、死ぬ前日以外じゃ実質ないような能力なんだけど。」
「ゲームを主題にした物語でチート能力無双何て
サッカーに手を使って参加するくらい筋が通らんだろう。」
老婆の当然といった答えに、
「神である僕にすら予想外に見込み通りの人間だね君は。
では、存分に<遊戯王>世界を楽しみたまえ。
『神のご加護あらんことを』は、<神>である僕には相応しからぬな。
君の行く道とその末が、よきものたらんことを。」
その言葉と共に辺りが眩い光に包まれつつある中、<<遊び>>の神はさらっと重要なことを告げた。
「そうそう。他にもあと3人君と同じ世界に<<転生者>>を送り込んだんだった。
まあ仲良くしてってよ。
彼女たちもまた、<遊戯王>という作品のファンなんだから。」
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かくて遊鰐組組長 遊顎 唐子として修羅の道を歩んだ女の魂は
ポストに「大黒寺」の名前が記された集合住宅の一室の女性の胎内に宿り、10か月程を経て遊戯王世界に文字通り生まれ出で、
遊華となった。
大黒寺家は、大企業や権力者と繋がりがあるわけではない、一見するとごく普通の住宅の、どこにでもある普通の家庭。
だが、遊華はここで生まれ出でてほんの3年で遊戯王世界のジンクスに突き当たることになる。
名前や顔が出てくる原作父親キャラがあれだということに。
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20年後、実体験をベースにしたとある4コマ漫画雑誌で。
――Dさんはかつて夫からのDVに悩まされていたと。
――はい。当時は私もたまたま気が立っていただけだとか、
「躾」の一環だという口車に乗せられ、今だから言えますが私への暴力が体よく逸らされてくれるという邪な想いもあって
娘2人への虐待見過ごしてたり加担したりしていた面もあったのです。
――まさかそれが当時5歳の娘さんによって暴露されてしまうとは。
――あの子にしてみたら家にあった使い捨てカメラで親に隠れてこっそり撮っていただけだったのでしょう。
夫が私の髪を掴んで馬乗りになっていた画像なんかを、今にして思えば扉の隙間からでもこっそり撮った写真を
何の気なしに園の先生とかに見せ、更に自身も寒空の下に放り出されたり手足をロープで拘束されたりしたことをそのまま証言。
挙句の果てにはあの人が私が必至で働いて渡したお金を持って平日お昼からスナックやパチンコに入っていくシーンまで私の前に突き付けて
「パパがよく行ってた『パチンコ』や『緑』って看板のあれは何のお店なの?」と言われ、ようやく目が覚めた思いでした。
――大抵の場合、子供は自分の親がしていることを「虐待」だと思わず、むしろ庇うものですが
娘さんの天然さが思わず家庭の闇を捉えてしまったそうです。
――当事者である上の娘は社会人になって当時のことなどきっぱり忘れていて自分の父についても初めからいないものとしています。
私も、そのままでいてこの2人の娘を見守りたいです。