最弱の転生者   作:ファイネス1

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第33話 旧世界の王

 骨牌(カルタ)町。

 童見町から県を隔たった、全く関係のないとある町。

 その町の大きなグラウンドでは、赤と青のユニフォームをそれぞれつけた2対の女子チームによるサッカーの試合が繰り広げられていた。

「シュート!!」

 赤の方のユニフォームを付けたみかんを思わせるオレンジのショートヘアーの小柄な少女のシュートにより点が入ってことで歓声が上がり、

 そのまま彼女のチームがリードしたままサッカーの試合は終了し、

みかん髪の少女の周りにチームメイ達が集まって少女の頭をもみくちゃにして口々に賞賛の声を浴びせた。

「やったじゃん美華!

 これで地区大会優勝だよ!」

「流石うちの部のエース!」

「えへへ……」

 照れくさそうに笑っていたオレンジの少女は、観客席を見てその笑顔をパッと華やがせて手を振った。

 少女の目線の先の観客席では、黒髪のミドルヘアの女性が微笑んで手を振り返していた。

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 先程行われていたサッカーの試合は中学生によるものであったがみかん頭の女性は小学生かと思われるくらいの背丈で、

高校生と思われる背丈の黒髪の女性と並ぶとますますその小ささが引き立つ。

 みかん頭は帰り道の路地で嬉しそうに傍らの黒髪の女性に語り掛けた。

「お姉さま、試合どうでした?」

「ええ、あなたの活躍もあって、勝ててよかったわね、美華(みか)。」

 黒髪の女性に猫を撫でるようにオレンジ頭を撫でられ、少女は一層得意そうな顔をして帰途につくのを、チームメイトたちは

遠巻きに見ていた。

「あれが美華が言っていたお姉さま?

 凄い美人ね。」

「何でも地元の進学校でもトップクラスの成績修めている才女なんだって。

 運動神経は、妹の方に皆もってかれちゃったみたいなんだけど。」

「へー、何か凄い似てないわねえ。」

「寧ろ正反対って感じ?」

 

「お姉様の方はどうっすか?」

「ん?そうね、近々三者面談をする予定よ。」

「やっぱりお姉様は東大とかに進むんっすか?」

「やはりあそこ辺りの、なるたけレベルの高い所に行きたいわ。」

「進路の先の夢なんかは、やっぱり変わらないんすか?」

「ええ。」

 きっぱりと断言する女性、自らの姉である大黒寺遊華をじっと上目遣いで見続けていた美華は、やがて

心底疑問そうに言った。

「あの、姉さま、改めて聞きますがどうしてっすか?」

「へ?」

「確かに海場コーポレーションは大手企業で、そこに行きたいっていう夢も、先生や母さんも、大手を振って応援してくるっすよ。

 でも、何で他の企業とかじゃなくて小学生の頃からずーっと海場コーポレーションなんっすか?

 軍事産業とかで何かやりたいことがあるんっすか?」

「軍事産業っていうよりは………海場コーポレーションでどうしても果たしたいこと、生きる目標がある、といったところね。

 次第に分かるわよ。次第にね。」

 遊華が取り出したビジネス雑誌には

『次世代の軍事産業の在り方について 海場剛三郎』の記事が載っていた。

「あなたは?美華。

 地区大会を制したなら、いよいよ全国大会にも出れるから、サッカー選手だって夢じゃないんでしょう?」

「うーん、確かにサッカーは好きっすけど、それで食ってこうっとまでは思いませんっすね。

 やっぱりお姉様についてこれるようになって、やりたいことを突き止めて支えられるようになりたいっす。」

「かなり厳しい道になるけれど。

 頑張ってみなさい。」

「はいっ!」

 大好きな姉に夢を応援され、太陽のような笑みを浮かべた美華の頭を、再び姉は優しく撫でた。

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 しょうらいのゆめ かるた小がっこう 2年3組 あん黒じ ゆうか

 わたしはしょうらい、べんきょうしてさらりーまんとしてとある大きぎょうに入しゃしたいです。

 えりーとお金もちになりたいです。

 お金もちになったら色んなことができるからです。

 せかいをどうすることもできるからです。

 いっぱいすきなげーむができるからです。

 会いたいひとにもあえるからです。

 とかいのお金もちはたかいビルのさいじょうかいとかにすんでいますが

わたしは たたみのおへやがいいです。

 木のいえがいいです。

 高きゅうわいんやすてーきよりもおちゃやわしょくがいいです。

 げーむたいかいをかいさいしてぶかやかぞくやまわりのひとたちとおもうぞんぶんたのしみたいです。

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「剛三郎様。ゲームをしませんか?」

「何?」

 とあるオフィス。

 ワインレッドのスーツを着こなし老練な威厳を漂わせる男性、海馬剛三郎と

黒のスーツを着こなす黒髪長髪の女性がついたテーブルの間では

二人や部屋の雰囲気には似つかわしくない、玩具屋で売っているようなボードゲームが繰り広げられていた。

 女性の体は起伏には乏しいもののその長身と長い手足から醸し出される精巧なアンドロイドのようなシャープな雰囲気とスーツを体の一部のように着こなすモデルのような佇まいを考えたらむしろよけいな膨らみなどはない方が似つかわしくすらある。

「一つ、この会社の命運に関するゲーム、いや、賭けの話を、戯言だとでも思ってお聞きください。」

「ほう、言ってみろ。」

  海馬剛三郎はゲームが好きだ。

 カードゲームやスマホの課金ゲームのような何の知識も技量も身につかず、企業に金を捧げる資本主義の奴隷に成り下がりやがてワイドショーを騒がす元ともなる下らないゲームは論外ではあるが

マネーゲーム、ビジネス、そして戦争における戦略によって人や世界の命運を左右し、より大きな力を得ていくゲームはまさに彼の人生そのものといっていい。

 チェスやダイヤモンドゲームなどの戦略性のあるゲームを好む剛三郎と麻雀や人生ゲーム、ポーカーといったギャンブル性や綾が絡むゲームを好む正反対の趣向を持つはずの遊華は何故か馬が合い、重要な仕事の案件をゲーム感覚で話し合ったり余暇にゲームに興じたりすることがしばしばあった。

「現在、海馬コーポレーションの後継者の本命は乃亞様ということですが、

私としては、瀬戸様の方にこそその可能性を感じました。

 どうでしょう。

 どちらが海馬コーポレーヨンの次期跡取りになるか賭けませんか?

 無論、乃亞様が後継者になりましたら、私は自身の見識の浅さを恥じてKCを退職することにしましょう。」

「いいだろう。

 せいぜい当てが外れんことを願うようにな。」

「私が勝ちましたら?」

「ふん、その時は瀬戸にも乃亞にも秘蔵にしている私の隠し資産と、我がKCが隠し持つ世界の裏の情報をくれてやる。」

「契約書を交わしてくださいませんか?」

「抜け目のないことだ。」

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 ベッドに憮然とした表情で横たわっている剛三郎に、遊華は丁寧に対応していた。

「あの高さから飛び降りるあなたをこうして救い上げるのには苦労しましたよ。」

「………何のつもりだ。」

「無論、ゲームの敗者として自らの在り方にけじめをつけようとする貴方の決断は最大限尊重します剛三郎様。

 薬により苦しみなく死ねる手筈は整っております。

 ですがその前に、こちらの落とし前もつけさせていただこうと思いまして。」

「ああ……あれか……」

 当て馬程度に考えていた義理の息子に全てを奪われ、敗者としての現実を突きつけられたショックで咄嗟に忘れてしまっていた取り決めを、不意に剛三郎は思い出した。

「予見通りになってしまいましたがご存じの通り瀬戸様は我がKCの最大の存在意義たる軍事産業や貴方様を忌み嫌っていますからね。

 今後あの方がトップに立ったらそれに従事していた我等BIG6はまぎれもなく生贄か踏み絵に晒されるでしょう。

 貴方様を支え続けてきた我等に、何卒最後の御慈悲を。」

「結局……貴様の手のひらだったという訳か。

 よかろう。

 瀬戸の奴にこのまま好きにされるくらいならば、貴様に我が最後の遺志と力を託しておくのも、悪くはない。」

「それで、申し上げにくいのですが剛三郎様と乃亞様の人格データは……」

「ふん、貴様の好きにしたらいい。」

「ありがたいです。

 はっきり言ってあれらが残ってしまうと今後のわが社、いや、世界そのものが大きなダメージを被る元となってしまいますので。」

 隠し資産と情報や公に出来ない伝手、残りの全てを伝え終え、準備を終えた剛三郎にやがて安らかな死が齎される準備が行われる中、彼と相対する黒の女性は恭しく頭を垂れた。

「旧き世界の王よ。

 貴方の死後の新たなる世界において、貴方の遺志は我々が引き継ぎます。

 どうか安らかに。」

 こうして、戦後日本最大の軍需産業を率いた巨星、海馬剛三郎は

自身とその息子の意識データの消去と共に、今度こそこの世を去った。

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