最弱の転生者   作:ファイネス1

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第34話 御伽話

 

 湖畔のロッジ。

 その一室では海馬コーポレーションの最高幹部【トップ・オブ・ヘキサゴン】の面子が集結していた。

 原作BIG5の各々の服装はともすれば都会の喧騒を離れたこの場に休暇にでも来ているかのようなアウトドアスタイルや私服ではあったがその表情と全体から醸し出される威圧と緊張感は、普段のKC本社の会議室にも勝るとも劣らぬものであった。

 一見開放的なプライベートな空間に見えるロッジの一室。

 しかし、一切の電波の傍受などが妨げられていて、使用されている壁や窓の材質も防音を施されていて、鬱蒼と茂られた周囲の木々と湖に面した窓のカーテンが閉められたこの一室はその実外の様子がうかがい知れない。

 世界のパワーバランスに影響を与える日本最大の軍事企業の最高幹部として多くの修羅場を乗り越え、数多の秘密や闇を抱え続けた彼等は知っている。

 本当に重要や話し合いは、否が応でも注目される都会のビルの会議室のような所ではなく、

傍目から見たら仕事のスケジュール帳からは離れている、休暇にしか捉えかねない集まりの中でしばしば行われるということを。

 ソファに座って神妙な面持ちで居並ぶ彼等5人の正面の扉が開き、

新たに2人の女性が入ってきた。

「お集まりいただき、感謝します。」

 その2人の美女のいで立ちは印象などはまるで違っていたが、共に言える印象として思い浮かぶのは

「白」と「黒」だった。

 日本人の女性の方は、すらりとした高身長に漆黒のロングヘアほっそりとした手足の、モデルのようなシャープなスタイル。

 いつも着ているビジネスマンスタイルとは違ってカジュアルでノーネクタイの紺のスーツと白のシャツと黒のスニーカー、そしてきめ細かな色白の肌の中に瞳の金の色彩が照り輝いている。

 もう一人の女性の方はエジプト系の褐色の肌と腰まで流れる艶やかな黒髪。

 足元まで静かに垂れる純白の長衣をまとい、肩から胸元には古代エジプトを思わせる幅広の襟飾りが沿い、その中央を左右対称の装飾が彩っている。

 額には宝石を据えた細い額飾り。耳元では幾重にも節を刻んだ長い耳飾りが揺れている。

 古代エジプトの神殿からそのまま歩み出てきた神官のようないで立ちで、このロッジの雰囲気にはあまりにも場違いな感覚を抱かせる。

 一同が不審な視線を浴びせる中、その中の一人、大岡は他の者達の手前その精神力で狼狽を抑え込んだもののそれでも明確にその顔色と目に恐怖と旋律を走らせた。

 そしてその様子が、例え物音などには表さなくとも空気で、そしてつい先日彼の身に起きた騒動と異変による衝撃の記憶と共に伝播し自然に彼に注目が集まった。

「でわ、まず紹介しましょう。

 こちらエジプト考古局職員、イシズ・イシュタール。」

 日本人女性の紹介を受け、褐色の肌の美女、イシズはペコリと頭を下げた。

「さて。

 本日お集まりいただいた皆様、私自身も含めた海馬コーポレーション最高幹部【トップ・オブ・ヘキサゴン】には、これからしばしKC本部では口にするだけで懲戒ものとなるような荒唐無稽な与太話を通じて【オカルト】というものへの理解と受容を身に着けていただかないといけません。

 その証左の一つとして彼女、イシズ・イシュタールの【未来予知】をこの場で証明する必要があるのですがはてさて。

 カードなどを当てる程度やここの天気を言い当てた程度では手品や小手先レベルと思わしめてしまいかねませんが、一つ、皆さまに召集をかけた時に添付した数字を今確認してみてください。

 ………そろそろですね。」

 女性のスマホの画面では、本日行われる競馬中継が映し出されていた。

『さあ、ハセサイオー追い上げる、逃げるラドルブラック、そして追いすがるキシベドーロ、

 抜いたー!一着ラドルブラック、二着ハセサイオー、三着キシベドーロ!

 着順は2-8-3です!』

「さて、現在行われたレースの3連単、当たってたでしょう?

 ちなみに今回のような18頭立ての場合の3連単の1点買いでの的中率は約0.02%(4896分の1)です。」

「………大黒寺。実は儂も予感がしていささかそっちに賭けさせてもらったのだよ。

 まあ、ほんの80万程の小遣い程度の上がりだがね。」

「まあ、私も競馬は嗜むことだし、この日にち、時間に呼び寄せたということはそうだろうじゃないかとね。

 おかげで120万円ほど。」

 大下と大門が手を挙げるのを見て、大黒寺は苦笑して眉を顰めたイシズを見て、今度は先程までの女性特有の形式ばったものではなくその年齢と性別に相応しからぬ、BIG5の者たちに近しい彼女本来の口調で語った。

「君にしてみたら私利私欲の為に使うことを良しとせず、あくまで自分の能力の証明の為に過ぎない力の使い方のつもりだったが、この抜け目ない妖怪達の方が上手だったみたいだね。

 念のために更に確認してもらいたいものがある。

 添付されていたもう一つの数字と記号の羅列だが。

 丁度今日は、宝くじの当選番号発表日。

 確認してもらえれば分かるが、一等から三等まで、見事に符合しているだろう。

 心から納得しろとまでは言わない。

 だが、少なくとも一笑に付さずに少しは【オカルト】に関して聞く価値は感じれたはずだ。

 その上で、私の語るいささか長いお伽話を聞いてもらおう。

 『人生は神の手による御伽噺である』

 童話作家アンデルセンの名言だが、まさしく、そう、ありきたりでブームに乗っかった転生譚と

荒唐無稽で馬鹿らしい少年漫画を接ぎ合わせたような、悪い冗談のような妄言を。」

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 その話が終わった後のロッジを支配していたのは。小鳥の囀りや木々の擦れる音や水のせせらぎに強調された沈黙だった。

 前世。神。転生。そして、この世界の「正体」。

 頭痛のように天を仰ぎ、或いは泣きくれるように手でその顔を覆い、ただぼうっと放心したように椅子に腰掛けたままの者、石のように微動だにしない者。

 「戯言」を耳にしたトップ・オブ・ヘキサゴン男性達に漂う雰囲気は、「信じられない」というより「信じたくない」「知りたくなかった」という比重が遥かに大きかった。

 『元凶』の女は、そんな彼等の様子を意に介した風もないアルカイックスマイルを浮かべたままだ。

 囀りとサワサワという枝のざわめきがしばし部屋に過った沈黙の後、大黒寺遊華は改めて言葉を紡いだ。

「世界の現在定められた行く末。

 私の言葉で言う所謂『原作展開』、君たちの言葉で言う『予言』、もっと当たり障りのない言い方で言えば『予測』に基づけば、現在廃人状態になっている海馬瀬戸は遠からず復活し、一見チャンスに見えるKCへの離反はその実全てを失う泥船ということになる。

 それを見越した上で取りうる妥当な手段としては、

海馬兄弟の元にいつづけてその忠誠を示し、当面の破滅は回避して彼等の復活後も甘い汁を吸い続けること。

 だが。

 私は、敢えてこの未来を見越した上で、改めて海馬瀬戸から離れようと思う。」

 その言葉に、ざわ。と、場の空気が動いた。

「例えこの局面を乗り越えたとしても、剛三郎氏の軍需産業時代からKCを支え続けてきた我々を疎ましく思っている瀬戸は、自身への完全なる服従を強いるか遠からず排除する気でいるだろう。

 無論、それに応じるもの道だ。

 だが、少なくとも私はあの男の軛から逃れて真の自由を得たいと思う。

 海馬兄弟の捲土重来。

 ペガサス・J・クロフォードの敗北とI2の没落。

 この2つの最悪の展開を見据えた上で、それを乗り切って自分の道を進んでいこうと思う。

 そして取り敢えずは。

 皆には当初予定されていた、これより3日間の休暇を楽しんで貰おうか。」

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 イシズは、程よく遮られた日光が差し込んでくる木立の中で押し進めている車いすの主に声をかけた。

「お加減はいかがですか。」

「ああ、ちょうどいいよ。ありがとう。」

 日光浴を心地よさそうに堪能している大下に、イシズは改めて問いかけた。

「あなたは、私や彼女の話を信じますか。」

「それ自体はさしたる重要な問題ではない。」

「?」

「我々の世界では、その者の主張にどれ程の信憑性や妥当性があるのかは二の次だ。

 問題は、それを言う者に『力』と『結果』が伴っているかだ。

 無力な者の、どれほどの正当性がある言葉よりも

譫妄、狂気、偏見、誇大妄想による力を持つ者の論理が押し通る。

 明らさまな白を黒にし、どす黒い黒を白にし、そう遠くない将来では狂気の沙汰と呼ばれるような理屈が罷り通っているのは、歴史を学ぶまでもなく、今でもこの世の常。

 そして先程の競馬でもどれ程のデータや時間をかけ、正確に分析した結果外した『予想』よりも君のオカルトや、単なる直感や運によってでも当てた『予知』の方を、人は認め、当てにする。

 君は芦原将軍という人物を知っているかね?イシズくん。」

「いいえ。」

「明治後半から昭和にかけて、葦原金次郎という一介の男性が自身を『将軍』と名乗り、以後の人生を精神病院で過ごしてやがては自分を『天皇』とまで名乗ったという。

 彼の病状については誇大妄想から梅毒まで、未だに様々な説があるが例えあの女の言う神だの前世だの通俗的な少年漫画の原作展開だのというのが、実際は葦原将軍の狂気と同様の誇大妄想の果てによるものだとしても、数々の実績によってトップ・オブ・ヘキサゴンの一角としての現在の地位や力を確立した彼女の決断と行動を止めることは力無き者達は勿論のこと我々にも出来ないだろう。   

 要するに重要なのは、彼女の正気や真偽ではない。

 果たして彼女の提案に我々が乗るのが結果的に『正解』かということだ。

 とはいえ、個人的な見解を申せば、大瀧が調べ上げた彼女の経歴の異様さを考えれば、寧ろそれくらいの背景があった方が納得というものだがな。

 ほら、これが彼女の調査報告書だ。」

 そう言って大下はイシズに向けてレポートの束を見せた。

 KC人事部として、大企業の違法レベルの調査能力と多くの者達を見てきた経験、そして数々の修羅場を潜ってきた人物観察眼に定評がある大瀧修三がその躍進ぶりを警戒し、調べ上げた大黒寺遊華という存在の、生まれついての正真正銘の異形ぶりを示す結果にそのレポートからも強い恐れと困惑が隠し切れなかった。

 生まれた時から彼女は滅多に泣かなかったという。

 赤子としての唯一のコミュニケーション、表現手段としての『泣き』を、赤ん坊の彼女は必要最低限に抑えていてその泣き方も自他の境界がまだ不明故の周囲の迷惑を顧みないレベルのものではなく、むしろ親や周囲の状況を鑑みている風さえ思える必要最低限の声量で、それはほんの2年後に生まれた妹の普通の赤子としての手のかかりぶりにより否が応にでも強調されることとなった。

『正直、妹の夜泣きや子供特有の我儘や腕白ぶりなどを叱ったり対処したりしていてようやく私はらしい【子育て】が出来たのだというやりがいと我が子としての愛着を感じることが出来た思いで、遊華は、むしろ………親は子供によって逆に教育されるというレベルではなく………寧ろ私の方が彼女に見抜かれ、利用されて、導かされているかのような………気味の悪さを感じていました。

 今だから言えますが、もし、美華の存在が、そして彼女のことをお姉ちゃんらしく気に掛ける遊華の姿がなかったら、私はもしかしたらあの手のかからなすぎる我が子の養育を放棄していたのでは、と、考えているのですよ。』

やがてDVや浮気といった夫の本性がこの長女による【偶然】で露呈し、曲がりなりにも稼ぎ頭であった父親を失った貧窮の母子家庭となった大黒寺一家であったが

姉の遊華は小学校の、テストにおいて本格的に学力としての採点が行われる時期から神がかり的な成績を収める秀才として一時地域で話題になった。

 テレビの取材の話が出るに至ったピークを迎えた後は、そのストレスからか、彼女自身の意思によるものなのか、時々ミスを連発したりと凡庸な成績に収まったものの

地元の骨牌中学に入学後からは再びトップクラスの成績保持者の優等生となった。

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KC入社試験 面接

「失礼します……ッ!」

 少しの緊張と共に凛とした雰囲気を漂わせていた大黒寺遊華は、その部屋に入り、面接担当者を見たとき、らしくもなく目を大きく見開きその表情に「驚愕」を浮かべた。

「あなたは……!」

「ほう、熱心に志望するだけあって流石に儂の顔は知っているようだな。」

「海馬………剛三郎氏………」

「通常はBIG5(当時)クラスが担当するのだが今年は丁度儂にも余裕が出来てな。

 ほんの興味本位ではあったが君はどうやら今年、いや、近年でも稀に見る逸材だそうではないか。」

 粗末なパイプ椅子に腰かけ、長机越しに相対している大手軍需産業の頂点に君臨する男から放たれる重厚な威圧と、それに相対する遊華の突き刺すような視線により、質素でそう広くない面接室が達人同士の相対に匹敵する張りつめた空気となった。

「大黒寺遊華。一流大学卒業。

 サークルは日課にもしているヨガ研究会(履歴書の趣味の欄にも記載)。

 入社試験における筆記などの成績もトップクラス。

 一般的な採用基準としてゃ申し分はあるまい。

 改めて問おう。

 何故、我が社に入社を希望する。」

「履歴書にも書きました通り……」

「それではない。

 貴様の【本当の】理由だ。」

「………と、いいますと。」

「儂の目はごまかせん。

 履歴書に書かれた時代のニーズや待遇、社のプラスイメージ、それら模範的でありきたりな理由の奥の、貴様が我が社で果たしたい真のビジョンを見せてみろ。」

 ほんの数秒。

 もし、この場に別の誰かがいたならその場の空気が一気に抜けるような息苦しさを覚えるような戦慄が女性と老人の間を駆け抜け、やがて女性がゆっくりと唇を開いた。

「………世界を………変えたい。」

「ほう?」

「ご存じの通り、現代ではもはや『戦争の世紀』と呼ばれた前世紀程の需要が軍拡産業にあるわけではなく、KCも重厚長大産業などのビジネスを中心にシフトしつつあります。

 しかし。私の………説明はしにくいのですが………先見………予感は言っています。

 これからの時代は、この会社の技術が、やがてこの世界を変えていくと。」

「それは一体、どのような変化だ。」

「戦いの……戦争の在り方です。」

「何?」

「例え軍需産業が縮小したとしても、人間はその本能により、世界を、国家を維持するために争いを辞められません。

 そしてこれからの時代、それは火薬や銃弾による原始的なゲームから、もっと違う形態のゲームになっていくでしょう。

 ですが、いや、だからこそ、その在り方に対し、旧来の、そして原始的なこのKCの暴力や技術力に担うべき役割がある、と。」

「一体何を言っているのだ貴様は。」

「世界が変わっていく瞬間。

 私は、その中でただ起きた変化に流される愚民ではなく、

少なくともその流れを見定める観察者(ゲイザー)になりたい。

 そして、あわよくばその世界の変化に携わり、私の意を反映していきたい。

 詳しいことは非常にプライベートな内容のため言えませんが、今の私に言えることはこれまでです。」

「………」

 この女が何を秘めているのか、何を知っているのか、いや、そもそも果たしてトップ企業のに入社しようとするこの女が果たして正気なのか、それさえ剛三郎には計り知れない。

 だが、彼女の「ゲーム」という言葉に琴線を動かされた。

 軍事企業ビジネスという、多くの命を、国家を、世界を、金を動かす「ゲーム」。

 実際は剛三郎クラスでようやくその切れ端を掴める世界の真の支配者の思惑や、世界大戦や冷戦などを経た時勢によって曲がりなりにも均衡を保たれ、閉塞すら感じさせる世界。

 その世界の在り方を変える新たな「ゲーム」を、この女は見据えているというのかその世界の更なる変化に、海馬コーポレーションの力を必要とふるというのか。

 それが単なる妄想か分を弁えぬ世迷いごとだとするなら、この女はその先で潰れるまでのこと。

 少なくとも剛三郎は、このUNKNOWN(謎の存在)が見据えるスケールに、好奇心をそそられた。

「最後に聞く。

 貴様にとって、この世界は、一体どのようなものだ。」

「アンデルセンの言葉を借りれば、

何者かの手によって書かれた漫画か御伽話、といったところですね。」

「先ほどまでゲームと宣っていた割には、唐突に神とやらによる運命論に堕したか。」

「漫画家や作家のエピソードを見てもわかるように物語は決して何もかも作者の思い通りに進んでくれるとは限りません。

 この世界という物語を、果たしてその者達を唸らせ、称賛させる芸術品にするか。

 作者の当初の思惑通りの予定調和にするか。

 作者の予想を遥かに突き放して破壊し尽くす奇作にするかを選ぶ資格と力を持つ者に、私はなるつもりです。

 BAD ENDという言葉には、悲劇的で後味が悪いというよりは

出来の悪い結末という意味があるそうですが私はご都合主義と予定調和、そしてキャラクター達のあり方を捻じ曲げた出鱈目さで構成された出来の悪いハッピーエンドよりも

より上質で納得のいく、芸術的なバッドエンドの方が好き、ということです。

 そう、例えばそのバッドエンドが………俗に言う世界の破滅だとしても。

 勿論、上質のハッピーエンドに越したことはありませんが。」

 数時間後。

 晴れて大黒寺遊華は海馬コーポレーヨンに採用されるに至った。

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