ダキューン
銃声が響いた森の中に思わず車椅子を進めたイシズが目にしたのは、
ぐったりと土の上に横たわった小鹿の死体を掲げたハンティングウェアの大門だった。
「ああ大下か。
丁度最近狩猟に凝っててな。
あと数時間で活きのいいジビエ(狩猟で得た食肉)が更に手に入るだろうから、今夜のバーベキューにでもしよう。
鹿や猪の肉なんか滅多に食えんだろう。」
「それは楽しみだな。
うっかり獲物にやられないように気を付けてな。」
男性二人が和気藹々と話し込む傍らで、イシズは能面のような無表情を貫いた。
法令にのっとった正当な行為で食用に生かしてやるとはいえ、
殺生行為の趣味に興じる心境は理解したくはないものだ。
大下と別れて湖畔に赴いた二人は、釣りをしていた大瀧に遭遇した。
傍らのバケツには既に何匹かの魚が入っていた。
「釣れているようだな。」
「ポイントと季節がよくてな。
この分だと夕食には十分な量になりそうだ。」
「丁度そっちでは大門が狩猟で獲った獲物を午後のバーベキューで振舞う予定だという。
お前の獲った魚と合わせて豪華な夕食になりそうだ。」
「やはり自前で獲ったものを食べるのこそが、キャンプの醍醐味だな。」
大瀧と別れた大下が日光と風が心地よく当たる野山の気候と風景をのんびりと堪能していると、車椅子をゆったりと押しているイシズが何気なく呟いた。
「大岡さんと大田さんは見ませんね。
室内でしょうか。」
「大下の音楽やテレビの鑑賞といったインドア派。
大岡は読書や、溜まっていた案件の処理だそうだ。
全く。こんな時くらい仕事を離れて羽目を外せばいいものだが、
あ奴の休暇は逆に都市でないと落ち着かないらしくてな。」
「……大黒寺は?」
「趣味のヨガに明け暮れているよ。」
「………」
黙り込むイシズに、大下は淡々と事実だけを告げた。
「弁論や決断は、相手に余裕がないときにするのが最も効果的だ。
実際そのようにして決断のタイミングを迫ることは我々がよく使う手口ではあるが、
あの女は寧ろ敢えて我々に余裕を設けてその決断を自分でさせている。」
一見すると、皆々思い思いにこの休暇を堪能している風だったが、実際この3日間は歴戦の戦士達が、
重要な戦いに備えて思い思いに英気を養ったり自らの戦力を整えている準備期間、嵐の前の静けさだということを、イシズは強い困惑と、その直後の納得と共に、肌で感じ取っていた。
(感じる………!?時代の流れる音を………世界の動く前兆を……
ああ、思えば私は驕っていたのかもしれません。
科学の力では及ばないオカルト。
この世界の学問に埋もれ、封じられた太古の記録。
そして古の魔術を現代に蘇らせたデュエル・モンスターズ。
それらを管理り、把握する我々や決闘者こそが、裏の真の歴史を見守り、関わり、動かす権利を持つと。
ですが彼等BIG5もまた、俗物の凡人とはいえこの時代の戦士であり賢者であり、世界を動かす力や資格を持つ者達。
この3日間での彼等の決断が、私達墓守の、決闘者達の運命を、
ならば、それによって我等の宿命もまた……)
それから3日間、バーベキューやキャンプファイヤーなどのイベントや趣味を堪能し、各々英気を養った最終日の夕方。
一見何の変哲もないロッジの扉大黒寺は開けて中に入り、見回した。
「休暇の日程は全て済んだ。
私の馬鹿げた
ロッジの中にいたのは。
イシズ・イシュタールと。
「どうせ余生だ。
貴様のその冒険に付き合うのも悪くはない。」
「私はそもそも瀬戸の奴が気に入らなかったのでな。
あいつの下にこれからも付き続けるのはもう、うんざりだ。」
「話を聞きましょうか。
言っておきますが、あまりにくだらない内容だったら、向こうの方に付きますからね。」
「ペンギンランドはそっちに付いた方が可能性ありそうじゃのう。」
「で、私の工場や兵器は保証してくれるんだろうな?」
その場に集った6人を見回し、大黒寺遊華は唇の端を釣り上げた。
後のこの世界の歴史で世界を変えた《スリー・ロッジ・デイズ》として記録される3日間が終わり、原作展開からの逸脱という転生者の物語の始まりもまた、終わった。
——————————————————————
それからしばらくして。
童実野町のKC本社に勤めて、現在自宅にいる大国寺 遊華はメールを見て呟いた。
「ふーん、5人全員こっちについたっすか。
背面服従の者が紛れている可能性もなきにしもあらずっすけど……」
遊華は基本的にはむしろリアリストな姉とは対照的に表遊戯に匹敵するくらいに善良で純真な性質で、元来このようなビジネスの伏魔殿にはあまり向かないタイプではあるが、若くしてKC幹部候補生にまでなった以上BIG5と姉達がお互い主に利害で繋がっている関係であることは承知の上だ。
「まあ……でも、警戒は怠らなくてもその辺は基本的には大丈夫でしょうね。
瀬戸社長の横暴を考えたら、全員こうなっちゃうのも当然っすから。」
基本彼等の関係がビジネスライクで、社長たる海馬瀬戸とは毅然とした上下関係があるとはいえ、限度や一線というものはある。
剛三郎を追い落として正式に社長に就任した海馬瀬戸の、前代からKCを支えてきたBIG5達剛三郎派や軍需産業関連の社員たちへの鬱や精神病、自殺者さえ出したいじめ同然ともいえる対応やハラスメント、横柄な態度を思い返した遊華は吐き捨てた。
「私らを必死で庇ってくれた渡良瀬さんも追い落とされちゃったし、瀬戸社長が遊戯に負けずにあのままの調子でいたら何れ私ら姉妹も……」
そのつぶやきの後、やがて美華は満面の笑みを浮かべた。
「でも、ようやく私も思う存分力を尽くせるっすね。
何が待ち受けていようと、全力でお供します。姉さん。」
——————————————————————
デュエルの時代の変わり目となる、決闘者の王国が開催される数日前。
その会場でありやがて決勝の雌雄を決するテーブルで、
向かい合った黒の女性が銀髪の男性に告げた。
「ペガサス会長。
私と、デュエルをしてもらいます。」