最弱の転生者   作:ファイネス1

6 / 31
第5話 惨めな姿

「ほんと信じらんない。

 本選に出場するのが、遊戯じゃなくて城之内だなんて。」

「デュエルグローブと星だって、羽蛾の奴から恐喝同然に奪った有様だしな。」

「いや、ほんとわりいって遊戯………遊戯?」

「あっ。いいよ、城之内君。

 小波君が強かったなら、本選に出ても結局こうなってただろうし。」

「安心しろ遊戯!

俺が優勝して、ペガサスの野郎から師匠のじいさんを取り戻してやる!」

「うん。城之内君はこの大会で着実に強くなっている。

 応援しているよ。」

「そりゃあ、悔しいのは分かるぜ。

 でもよ。俺がちゃんとあの赤帽子もあのギャルも倒して、

お前や舞の仇打ってやるからちゃんと見とけって。」

「………うん。」

 

(『悔しい』………か。

 そうか、そう感じるべきなんだろうな。)

 

 「武藤遊戯」が負けた「らしい」試合に関して、自分のことのように悔しがり、後ろめたさから色々遊戯を慮っている城之内。

 思えば決闘者としてはまだ成長途上で未熟故に、全国大会どころかこの大会参加前の町内大会でも負けを晒して悔しがっていた城之内には、「悔しい」という気持ちがとても理解できるのだろう。

 だって、彼自身が必死で戦った末に負けたのだから。

 

(当然だよね。

 なんてったって、海馬君もペガサスも、そして杏子も、見ていたのは≪僕≫じゃなくて≪もう一人の僕≫だもん。

 僕が悔しがる資格なんてないよ。)

 

 正直言うとむしろそれまでどんな相手でもゲームで絶対的に勝って敗者を陥れ続けてきたもう一人の自分が千年アイテムの所有者や摩訶不思議なオカルトの力を使わなかった、ただの人間に打ち破られたということには、興味と共に安堵すら感じていた。

 自分の中にいる≪これ≫が、例え人の力を超えていても、遊戯にとってその名称に値しない、絶対に負けない「ゲーム」を司る化け物ではないらしいことが分かったのだから。

 城之内一行が城のエントランスの欄干に着くと、そこには二人の先客がいた。

 

「へえ、まさかド素人のお前がここまでマグレで勝ち残れるとはねえ。」

「キース!てめぇ!」

「ちょ、城之内!」

「おやめ!」

「舞………」

 

 喧嘩腰になって仲間達が思わず静止しようとするのを、この場にいたもう一人の先客の声が一喝した。

 

「まったく、男ったら目を合わせたらすぐ手を出そうとして。

 城之内、あんたは少なくとも本選でこいつと闘う予定なんでしょ。

 だったら、今は握りこぶしは場違いでしょう。」

「く……」

「それとも。せっかくの戦うチャンスをそんなことで失おうっていうの?

 それこそ、私や遊戯に対する最大の侮辱よ。」

「そうか………おめえも………」

「ふん。あんたがペガサスにどこまで噛みつけるか、せいぜい悪あがきを見させてもらうわよ。」

 

 城之内が猪突猛進ぶりを収める一方、周囲を見回した獏良と本田が、欄干の向かいに、勝ち上がってきた小波と大下を見かけたところで、エントランス中央に入ってきた執事のクリケットが高らかに告げた。

 

「デュエルキングダム出場者諸君。

 本戦を明日に控え、ペガサス様が皆に余興を見せてくださる。」

「ん?余興?」

「本戦に先立って、ペガサス様が皆の前でデュエルをなさる。

 お相手は、こちらに。」

 

 クリケットが手を片方に向けると、開いた扉からコツコツとブーツの足音を響かせて決闘者が登場してきた。

 

「何!?海馬!」

「海馬君!?」

 

 城之内達の困惑を余所に、エントランス中央に浮き出たデュエルリングの一方についた海馬の真正面の扉から、今度はペガサスが登場する。

 普段はスーツを着ている彼だが、今回はローブで体を覆っていた。

 

「お待ちしておりましたよ海馬ボーイ。さあ、存分にこのデュエルを楽しみましょう。」

「………フン。ペガサス。

 まずは俺の新商品、このデュエル円盤のテストプレイをしてもらおうか。」

「ん?何だありゃ?海馬の奴、また変なもんでも作ったのか?」

「What!?これはこう、転がして使うのです?

 それとも、こう、扇いで使うのですか?」

「貴様………」

 

 デュエル前の戦いで、デュエルの形式を巡ってのらりくらりと対応していたペガサスではあったが、やがて海馬に対して「切り札」を提示してきた。

 

「では、こうしましょう。

 ユーが通常のデュエルを受けてくれるのなら、その時点でモクバボーイは返してあげます。」

「何っ!?」

 

 ペガサスがパチンと指を鳴らすと、黒服達に引きつられてモクバがやってきた。

 多少の緊張は疲労は見られるものの、どうやら目立った危害を加えられた形跡はなさそうだった。

 

「兄さま………」

「どうせ私が勝って海馬コーポレーションを掌中に収めたら、兄弟そろって我がI2社のものになるのです。

 むしろKCを支えてきた二人のコンビネーションを発揮させてくれた方が、こちらとしても都合がよろしいですからね。」

「貴様………」

「兄さま、ダメだよ、こんな奴の言う通りにしたら………」

「いいだろう。」

「兄さま!」

「どんな条件だろうと、勝つのは俺だ!」

 ペガサスがその返事を聞いて目配せすると、配下はモクバを解放し、解放されたモクバは一目散に兄の元に駆け寄った。

 反抗してみせても、やはり兄の元に戻れるのは彼にとっての喜びのようだった。

 

「では、海馬ボーイ。

 勝負形式が決まった所で、今度はレートの確認をいたしましょう。

 これからやるシングル戦で、ユーが買ったらI2の株式の60%と、デュエルモンスターズの開発部門もあなたに譲渡しましょう。

 即ち、デュエルモンスターズのカード、ルールを定められる、神の地位デース。」

 

 一般人である城之内達には分からないが株式会社は50%以上の持ち株比率があると役員の報酬などに関する株主総会の普通決議を単独で押し通せる。

 単独での所有では言うまでもなく最大の筆頭株主であり、重要事項である特別決議まで決めれる3分の2(66.7%)以上の持ち株を得るのも海馬の手腕では決して夢ではなくなる、事実上会社を明け渡すに等しい取り決めだ。

 

「ですが、私が買った場合はこちらの提示する条件と提携を飲んでいただきます。」

 

 ペガサスの指示に従って部下が持ってきた箱には、KCへ飲ませる条件を書いた甲の用紙と、それとは別にもう一つ、デュエルで敗北した場合には甲の要件を飲むことを誓約させる乙の用紙とペンがあった。

 株の引き渡しは40%。ソリッドビジョンなどのいくつかの部門、技術の共有、譲渡、そしてこの大会が終わった後の新たなるプロジェクトにおける、I2主導での業務提携といった内容が記されていた。

 総じて言えば決して無視はできないもののKCの主要産業や株式は根こそぎ奪わず海馬兄弟にもある程度の権限は残す、少なくともペガサスが海馬に敗北したのと比べたら幾分か温情的な、言葉を変えれば生かさず殺さずといった処置だった。

「………いいだろう………」

 海馬瀬戸が署名をした書類を携え、部下が引き下がったところで両者がデッキを携え、デュエルの準備が始まり、観客である城之内達はスケールの大きさに困惑していた。

 

「要はこのデュエルで買った方が会社得られるってわけか?」

「ええっ!?カードゲームで会社引き渡しちゃうの!?」

 まだデュエルモンスターズが単なるカードゲームで、デュエルの為に家を売るなんてことがよほどの好きものである世界においてごく一般的な対応をする城之内達の中、獏良は冷静だった。

 

「この大会、始めからこれが目的だったのかな………遊戯君?」

「海馬君………立ち直ってくれたんだ………でも、何でこの大会に、KCが?

 それに、モクバ君が、ペガサスの下に………?

 海馬君!『ドラゴン族封印の壺』に気を付けて!」

「おい遊戯!何アドバイスしてんだよ海馬なんかに!」

「だって、海馬君にとってKCはモクバ君と自分の夢を賭けた大事な居場所だよ。

 絶対に負けられないんだよ!」

「お前って奴はよ………」

(頑張って………海馬くん………)

決闘!!

 

海馬瀬戸 LP4000 ペガサス LP4000

 

 先行 ペガサス

 

「では、私のターン。ドロー。

 カードを3枚セットして、ターンエンド。」

 

「何だあ?ペガサスの奴。モンスターすら出さないでターンエンドしたぜ。

 これじゃあ、海馬の殴り放題じゃねぇか。」

(どっちもいけ好かなくて応援したくねえが、俺が後々戦い易くなるためにペガサスの手を曝け出すくらいはしてほしいぜ)

 

「ふん、ならこちらから行かせてもらうぞ。

 俺のターン、ドロー。

 俺は≪ブラッド・ヴォルス≫を召喚!

 ペガサスに、ダイレクトアタックだ!」

 

 グガアアアアアー!

 

 特別性のソリッドビジョンシステムによりエントランスに現れたブラッド・ヴォルスは成人男性程の身長で、フレーバーに書かれたような鮮血にまみれた巨大な斧を振りかざして一直線に向かってくる様は、傍目から見た遊戯達もが思わず目を背けてしまいたくなるほどの迫力だった。

 しかし、ペガサスは涼しい表情を変えずに伏せカードに手をかけた。

 

「リバースカードオープン!

 ≪メタバース≫。

 デッキからフィールド魔法を発動させマース。」

「何!?」

 

 てっきり≪闇の呪縛≫か≪聖なるバリアーミラーフォース≫のようなカードで攻撃を防いでくると思っていた海馬は、高攻撃力に対し、ただ、フィールド魔法を張るという予想外の行動に、完全に虚を突かれた。

 

「海馬ボーイ、ユーはカートゥーンは好きですか?」

「何を言っている?」

 

 ルール上、バトルフェイズ中の相手プレイヤーの処理がすべて終わるまではダメージ計算には入らない。

 ≪ブラッドヴォルス≫の振り下ろした斧は、ペガサスの前をまるでバリアに阻まれているかのように停止している。

(≪ブラッド・ヴォルス≫による直撃の恐怖を回避するために、意味のないトラップと訳の分からない話でデュエを引き延ばす姑息な戦法か?)

「………あまり好きではないそうですね。

 私は大好きデース。

 子供の頃から愛読しているファニーラビット達は、決して裏切らず、私の世界で永遠に飛び跳ねている大切な親友なのでーす。」

「貴様、何を訳の分からないことを言っている!

 とっととデュエルを進めろ!」

「そんな世界に、これからユーをご招待しましょう。

 ≪メタバース≫でこのフィールドは、≪トゥーン・ワールド≫になりマース。」

 

 ボワン!

 

「何あれ?フィールドに巨大な本が!」

「≪トゥーン・ワールド≫……そんなカード、見たことも聞いたこともない……」

「分からないのは当然デース。

 ≪トゥーン≫カードはまだ販売前の、私のみが所有しているカードなのですから。」

「何だと!創造主だか何だか知らねえが、ペガサスの奴、汚ねーぞ。」

 

「ふん、やかましい奴らだ。

 この場が≪トゥーン・ワールド≫になろうが、≪ブラッド・ヴォルス≫の攻撃は止められていない。

 ペガサス、貴様の時間稼ぎもここまでだ。

 ゆけ!」

「トゥーンの世界は開かれました。

 次は、その世界にお友達を招待しましょう。

 速攻魔法≪トゥーン・フリップ≫!」

 

 振り上げたブラッドヴォルスの斧が再び阻まれると共に、本のページがパラパラと高速で捲れていく。

 

「海馬ボーイ、好きなタイミングでストップをかけてください。

 ユーの選択で、トゥーンの新しい世界が開けるのデース。」

 

バラバラバラバラバラ………

 

「………ストップだ!」

 

 海馬の賭け声で、本のページを捲るスピードは徐々に弱まり、そして止まったページは………

 

「開かれたページは……≪竜の渓谷≫!

 これでトゥーンに潜むドラゴンが姿を現しマース。

 現れよ!≪レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン≫!」

 

 開かれた本に現れた童話に出てくるようなな趣の渓谷から、ペガサスの掛け声に応じて黒いファンシーな竜が現れた。

 

グギャアアアアアア!!

 

「な、なんだありゃあ!あれがレッドアイズ!?」

「本来リリースが2体必要な最上級モンスター、レッドアイズを、相手ターンに!?」

「クッ。(ステータスはオリジナルのレッドアイズと同じ2400。≪ブラッド・ヴォルス≫では及ばない)よせ、≪ブラッドヴォルス≫。

貴様が何を考えているかは知らんが、早々にその趣味の悪い本は始末させて貰う。

 ≪サイクロン≫を…」

「勿論、読んでました。

 カウンター罠≪アヌビスの裁き≫!

 手札コスト1枚でその効果を無効。

 更に≪ブラッド・ヴォルス≫を破壊し、その攻撃力のダメージを受けて貰います。」

「何っ!?

 グアアアアアア!!」

海馬 LP4000→2100

「海馬君!」

「確かに、あのフィールド魔法がヤバいものだという海馬君の直感は正しい。

 けど、そのプレイングを逆手に取って、逆にモンスターもライフも削り取ってしまう何て、

やはりペガサスは、海馬君のプレイを完全に読んでいる。

 彼が心を読めるというのも、本当かもしれない。」

「はあ?なーに言ってんの坊や。

 超能力者じゃあるまいし、そんなことあるわけ無いじゃない。

アハハハハ!」

漠良の推察を、孔雀舞は笑って一蹴したが、キースはギラリとサングラスの奥の目をギラつかせた。

「グッ、俺はカードを1枚セットして、ターンエンド。」

「フフフ。本当のトゥーンの恐ろしさはここからですよ。

私のターン。ドロー。

 では、トゥーンの新たなページを開きマース。

 魔法カード≪トゥーンのもくじ≫で新たなトゥーンをサーチして、特殊召喚!

 開かれたページは≪ハーピィの狩場≫。

 ≪トゥーン・ハーピィ・レディ≫!!」

 

キャハ!

 

 新たなページに現れた密林から、大人の色気を感じさせたオリジナルと比べてややロリ体型のアメコミ風のハーピィレディがニヤニヤと笑いながら登場して来た。

 

「ちょっと何よあのキッショいの!ハーピィ使いの私を侮辱する気!」

「おや、残念ですね。

 むしろオリジナルよりキュートになって効果もパワーアップしているのですが。」

「パワーアップ?」

「≪トゥーン・ハーピィ・レディ≫は特殊召喚時、相手の魔法・罠を破壊できるのデース。

 ミラクルスクラッチ!」

 

キャハハハハハ!と高らかな交渉と共には≪トゥーン・ハーピィ・レディ≫が巻き起こした扇風により、海馬の伏せカードの≪闇の呪縛≫が破られた。

 

「更に、≪強欲な壺≫で手札を補充。

 そして≪レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン≫の効果。

 手札からあらゆるトゥーンを特殊召喚できマース。

 トゥーンの新たなページは≪魔術師の里≫。

 現れよ、≪トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール≫。」

 

ヤア!

 

開かれたキラキラとした森のページから、今度はミニチュアサイズのブラック・マジシャン・ガールが現れた。

 

「ペガサス…僕の大切な≪ブラック・マジシャン・ガール≫まで…」

「ちくしょう!決闘者のモンスターへの想いを、どこまでも弄びやかって…!?」

「そして≪死者蘇生≫で、アヌビスのコストとして捨てたモンスターを復活させマース。

 ≪クロック・ワーク・ナイト≫より現れろ!≪トゥーン・リボルバー・ドラゴン≫」

 

キシャシャシャ!

 

「何か…ファンシーだけど急にゴツイ奴現れたな。」

(クソッ!ペガサスの野郎…!)

 

「では、最後のページは海馬ボーイ自身で開いてもらいマース。

 ≪トゥーン・フリップ≫。

 さあ、好きに止めてくだサーイ。」

パラパラパラ…

「………ストップだ。」

「開かれたページは…≪竜の霊廟≫!

 Oh!このページを引き当てるとは、

やはり海馬ボーイにとどめを刺すのは、このカードが相応しいようですね。」

「何だと?」

 

 圧倒的な展開力に、既に半ば諦めの境地に入っていた海馬だが、ペガサスの楽しそうな言葉に、ザワザワと悪寒が走った。

 決闘者達と闘う大切な相棒であり僕であるモンスター達を、自身の箱庭で惨めな姿に貶めて決闘者達の想いを踏み躙り続けて来たペガサス。

 そんな彼が海馬との対決で満を持して登場させるモンスターといえば…

 

「出でよ!≪ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン≫!」

 

ギャオー!

 

「ペガサス…貴様…!」

「フフ、キュートなデザインでしょ。

 そして私のフィールドは≪トゥーン≫の世界で満たされました。

 ご覧下さい。

 このデュエルキングダムにおいて本来なら競い合うデュエリスト達のエースモンスターが≪トゥーン≫の世界でこうして手を取り合って並んでいます。

 これぞ≪デュエル・モンスターズ≫のゲームに於ける『絆』の象徴。私の理想郷といえるものなのデース。」

「『絆』…だと…」

 

ウフフフフフフ

キャハハハハハ

グギャギャギャギャ

グオオオオオオオ

ガチャガチャガチャガチャ

 

 ペガサスの言葉に応じてそれぞれの声を挙げて笑みを浮かべる

≪トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール≫

≪トゥーン・ハーピィ・レディ≫

≪ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン≫

≪レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン≫

≪トゥーン・リボルバー・ドラゴン≫

 ペガサスの発した≪絆≫という甘っちょろい言葉。

 それを発したのが、例えば遊戯のような奴なら、例え自身が同じように危機に陥っていたとしても彼はそれを一蹴して自身の異なる考えを押し通していたろう。

 だが、ペガサスの相手を読んで圧倒する的確なプレイングと展開力で構成されたフィールドは、彼の言葉を否が応でも否定させない説得力と迫力を醸し出していた。

 本来種族や属性や効果がバラバラなモンスター達が、『トゥーン』カテゴリの下でペガサスの僕として海馬に立ち向かう盤面は、ある意味ペガサスの言う協調の象徴と言えたかもしれない。

 だがそれは、遊戯達が、自分を仮にも打ち倒した『絆』という言葉が持つ甘さを欠片も感じさせない、そういった綺麗事でコーティングされたグロテスクさを備えていた。

 少なくとも彼等の言う『友情』『希望』と言った言葉によるデュエルでは、このような体の芯から震えて汗が滴るような悪寒など感じないだろう。

 海馬は、観客席の遊戯達に目を向けた。

 彼等が発していたのは、自身の魂といえるモンスターを≪トゥーン≫により醜悪で惨めな姿にされて弄ばれた、自分が感じているのと同様の怒り。

 遊戯達だったら果たしてペガサスの言う自身とは違う意味での『絆』という言葉にどう反論して答えを示すかが、少しだけ気になった。

 尤も、肝心の当人がそれ以前に敗れてしまった今では、もはや戯言として聞く価値すらなくなったが。

 

「兄さま…」

(済まない…モクバ…)

「では、バトル!

バトルフェイズ開始時、≪禁じられた聖杯≫により、≪ブルーアイズ・トゥーン≫の攻撃力は400ポイントアーップ!

行きなさい≪ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン≫!!

『ミラクル・バースト・ストリーム』!!」

バシュウウウウウウ!

 

オリジナル同様のステータスの≪ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン≫が放った、所々キラキラと流れ星散りばめられた、そこだけ見ればニチアサの正義の女の子ヒーローが放つビームのようなファンシーな青白い光線により、海馬のLPは0となった。

 

「グレイト!いいデュエルでした。

 では、お互いの会社の繁栄を祈って、この『余興』をお開きにしましょう。

 約束の件、この大会の後もよろしくお願いしますよ。」

 

完全に打ちのめされた様子で引き下がる海馬とは対照的に、ペガサスは悠々と立ち去っていき、やがて城之内達と向かいの小波達参加者は、明日の本戦に備えた食事に招かれた。

 

─────────────────────────

 

 大会の組み合わせは、一回戦は小波VS大下、二回戦はキースVS城之内となった。

 その夜、ベッドで遊戯は明日の本選に想いを馳せていた。

(今の僕に出来るのは、城之内君の優勝を願って応援することくらい。

正直、デュエルモンスターズの創造者であるペガサスの≪トゥーン≫に、城之内君が勝てるかというと厳しいと思う。

 でも、僕は城之内君を信じている。

 それはそれとして……

 あの≪トゥーン≫……何かおかしい。

 最後にペガサスが使った≪禁じられた聖杯≫。

 あれを使わずとも、≪ブルーアイズ・トゥーン≫の攻撃で海馬君のライフは0に出来たはず。

 何で、わざわざあんなことをしたんだろう?

 もしかして、ペガサスはそれをせざるを得なかった?

 そこにもしかしたら、無敵の≪トゥーン≫を打ち破る鍵があるのかもしれない。

 それと……)

 遊戯は懐からイラストとテキストに何も描かれていない『王の左手の栄光』を取り出した。

(対戦前に、『王の右手の栄光』を参加資格証として提示することは説明されたけれど、このカードに関しては何も言われなかった。

 結局どういう意味を持つカード何だろう?)

 

 もはや考えても仕方ないことをこれ以上考えるのはよした遊戯は、一連の大会の流れを振り返った。

 初日で敗れた全国チャンピオンと準優勝者。

突如現れて参加資格を奪った、それより遥かに強い決闘者。

知らぬ間に大会に関わっていた海馬と巨大企業を賭けた決闘。

そして、未だ意味が分からないカード。

理論を司る『左脳』ではなく、ゲームの修行で日々鍛えている直観や感性を司る『右脳』の分野で出した結論を遊戯は呟いた。

 

「この大会………何かがおかしい………」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。