昨日見たペガサスの圧倒的実力と自身がデュエルモンスターズの創造者による世界最大の大会の本選に出場しているという現実感が未だに持てない興奮で、眠れるかどうか不安だった城之内だったのだが結局いつも通りによく食べてぐっすり寝て、むしろさっぱりとした気持ちで食堂に行った。
「おう、おはよう!舞!」
「城之内………あんた、今日が大事な決戦の日だって分かってんの?」
「いやー、ゆうべはごちゃごちゃ考えこんじまったんだがよ。
もう、ここまで来ちまったら優勝目指してベストを尽くすぜ!」
「………はあ、大したものね、あんた。」
「ヒヒヒヒ………恐怖が一転してヤケになっちまったか、恐怖すら分からないバカってとこか。」
「キース………テメェ………」
「ま、じっくり味わいな。
どうせお前にはこの先一生味わえない食事なんだからよ。
値段は勿論、金も名誉も、人生を変えちまうような大事な決戦を控えての食事なんてよ。」
「クソ………後で吠えずらかかせてやらあ、クソ野郎が!
ハグハグハグ………」
(ふう………昨日遅くまで眠れずに気をやんじゃった私がバカみたい)
寝不足と疲労、そして自分やキースが好む洋食ベースの高級料理に舌鼓を打った舞は、城之内のことを無性に気にかけてしまう、それまでの自分では考えられない有様には目を逸らし続けた。
やがて食堂に、2人の少年が入ってきた。
「おはよう、城之内くん。」
「おう、遊戯、獏良。うめえぞこれ。」
「はは………大したもんだね、城之内くん」
「いよいよ決勝。頑張ってね。」
「んだよ、お前らもあんま寝てねえのかよ。
ん?杏子と本田はまだか?」
「それが………クロケッツさんに聞いたら、一足先に本国に帰してしまったんだって。」
「わざわざペガサスに招待された遊戯君は兎も角、僕も帰されると思ったんだけどなあ。」
「ちぇ。まあ、帰ったら俺の武勇伝とこの飯のことでもうんと聞かせてやるか。」
そして遊戯達が席に着くと共に、参加者最後の二人が部屋に入ってきた。
「うわー!今日もちょーうまそー。」
「正直、ちょっと白飯が懐かしくなってきたかな。」
ネイルや付け爪をしたガングロギャル、大門由美子は着席するやそのいで立ちに反し、かなり洗練されたテーブルマナーで目の前に用意された食事を食べていた。
孔雀舞から聞いていて多少気にはなったものの、女性の扱いといったものに不慣れな遊戯は、何となく近寄りがたい大下よりは、自分同様一般人といった感じの小波に声をかけてみた。
「小波君、君はまだ少し眠そうだね。」
「あ、うん。
久々に綺麗で、日本とは違う星空眺めてたらちょっと寝るの遅くなって。」
「星空………?」
「星が好きで、よく眺めているんだ。
実家は地方のスーパーなんだけれど、仕入れに行った山の中で見た天の川を見て以来、星空を追い求めていてね。」
「ふーん、ところで君、聞いた話だとそんなに強い腕しているのに全国大会出なかったんだ。」
「聞いた話?
昨日俺とデュエルしなかった?」
「あ、いや………ほら、予選一着で通過したっていうし。」
「準決勝での梶木漁太との試合の日に、家で急な仕事あって棄権せざるを得なくなっちゃって。」
「そりゃあ、惜しいことしたなぁ、ハグハグ。」
「ふん、その程度で投げ出すようじゃ、結局その程度ってことよあんたは。」
「ちげぇねぇな。
身内だろうがお友達だろうが、イイ仲だろうが、金が得られんなら葬式も危篤も関係ねぇ。」
例えばもし、遊戯の実家である亀のゲーム屋で、じいちゃんが倒れたり急に用事が出来て店番などをしなければならなくなったら、自分は恐らく家のことを優先させるだろう。
故に遊戯は彼の甘さを咎める気などなかった。だが、梶木には悪いが彼が小波遊一に勝つイメージがどうしても湧かない。
もし、その日、彼がその甘さを捨てきったか、或いはその家の事情とやらがなかったならば………
「羽蛾君じゃなくて、君みたいなのが………」
「ん?」
「あ、何でもない。」
そして腹ごしらえを済ませた決闘者達は、いよいよ決戦の舞台へと進んだ。
ペガサスの姿はなく、審判も兼ねたMr.クリケットが進行をしていた。
「それでは決闘王国決勝トーナメントを開催する。
ます、第1試合。
大下由美子、小波遊一、両者位置について、参加証である『王の右手の栄光』を。」
「はい、これ。」
「ん。」
「よろしい。
では、先攻と後攻を、コインで決める。
このコインの赤が出たら大下の、青が出たら小波の先行とする。」
ピン、とコインが弾かれると、それが初まりの合図であるかのように、当事者二人だけでなく、観戦していて他の参加者や観戦者達まで静まりかえり、会場全体にコインが空を切り、やがて着地する音が響いた。
「先行は………大下由美子。
それでは決闘王国決勝トーナメント第一回戦。
「アタシのせんこー。ドロー。
魔法カード≪盆回し≫はーつどー。
デッキから≪アマゾネスの里≫をアタシん場に。
あんたの場に≪ガイアパワー≫をセット。
んで、≪アマゾネスの里≫を発動。」
大下がセットしていたフィールド魔法を表にすると、二人が座っているまだモンスターがいないテーブル上の空間が、ソリッドビジョンによる密林になった。
城之内と遊戯は、獏良が趣味のTRPGの為に作成しているジオラマを思い出した。
「舞さんから聞いていた≪アマゾネス≫戦法の要といえるフィールド魔法を早くも発動させてきた。」
「≪アマゾネスの鎖使い≫を召喚して≪フィールドバリア≫発動。
カードをセットして、ターンエンド。」
「俺のターン。ドロー。」
小波遊一は、盤面と手札を暫く見回し、「厄介だな」と、嘆息して呟いた。
「モンスターをセットして、カードを2枚セットして、ターンエンド。」
「なんか随分と静かな立ち上がりだなあ。」
「仕方ないよ城之内君。
≪アマゾネスの里≫がある限り、モンスターを破壊しても却って更なる≪アマゾネス≫モンスターを出されてしまう以上、迂闊に攻撃出来ない。」
「じゃあ、小波の奴はあの里を何とかしなきゃならねえってことか。
≪サイクロン≫か≪羽根帚≫ってとこだが、今はないみてぇだな。」
しかし、獏良は城之内の言葉に首を振った。
「残念だけれど城之内君。
それを持っていたとしても、今の彼は、里を破壊することは出来ない。」
「え?何でだ?」
「≪フィールドバリア≫が場にある限り、フィールド魔法は効果で破壊することも、新たに発動させて張り替えることもできない。
≪サイクロン≫を使ったとしても、まずは≪フィールドバリア≫を破壊しなければならない。」
獏良の解説を、遊戯が補足した。
「それに、≪フィールドバリア≫を何とかしたとしても、小波君が≪盆回し≫によってセットされたフィールド魔法を新たに発動しなければ、新たなフィールド魔法を発動させることもできない。
『ガイアパワー』は、地属性のモンスターをパワーアップさせてしまうフィールド魔法。
小波君が地属性モンスター中心のデッキを使っていない限り、却って大下さんのモンスターをパワーアップさせてしまう。」
「確かあいつは、昨日見た限りじゃ光属性を中心に使っていたから合わないな。
じゃあ、発動させなければいいじゃねぇか。」
「小波君がフィールド魔法を使わない決闘者だったらそれもありなんだけれど……
彼のあの表情を見るに、この戦法は相当効いているみたい。」
「昨日の決闘では使わなかったけれど、≪シャインスパーク≫か≪山≫でもありそう。
でも、遊戯君を倒した程の決闘者だったら、こんなあっさり終わるとは思えないな。」
「アタシんターン。ドロー。
まずは≪強欲な壺≫で…」
「速攻魔法≪壺盗み≫。
≪強欲な壺≫の効果を無効にしてドロー。」
「チッ!≪アマゾネス・スカウト≫をしょうかーん。」
「≪激流葬≫。
互いのフィールドのモンスター全てを破壊する。」
「≪アマゾネスの里≫の効果で破壊された≪アマゾネスの鎖使い≫以下のレベルのモンスター、≪アマゾネス王女≫を特殊召喚!
≪アマゾネス王女≫のモンスター効果で速攻魔法≪アマゾネスの叫声≫をサーチ。」
「破壊された俺の≪クリッター≫の効果発動。
デッキから≪オネスト≫を持ってくる。」
「≪アマゾネスの叫声≫で≪アマゾネスの戦士長≫をサーチして特殊召喚!
その効果でデッキから≪アマゾネス転生術≫をセット。
≪アマゾネスの戦士長≫で攻撃!」
小波 LP 4000→1900
「自分フィールドにカードが存在しない状態でダイレクトアタックを受けた時、『冥府の使者 ゴーズ』を『冥府の使者 カイエントークン』と共に特殊召喚する」
「アタシはこれで、ターンエンド。
ねえ、あんた………やっぱ、私のカード知ってる?」
「直接見たのは初めてだけど………星を眺めて、星座を見逃さない為に、目は大事にしているからね。
視力は両方2.0。フィールドに表になっているカードのテキストくらい、訳ないよ。」
「……ふん。
次のターンが来たら、アタシん勝ちだからね。」
「あの小娘、私と対峙した時と比べて随分浮かない顔しているわね。」
舞としてはどちらが勝ってももはや利害はないのだが、やはり自分を打ち負かした相手として気に食わないながらも無意識に大下寄りの味方になってしまっているようだった。
「舞さんは遊戯君と彼の戦いみてないから分からないかもしれないけれど。
小波君は手札のアドの稼ぎ方が上手いんだ。
大下さんの手札は1枚。
小波君の手札は4枚、次のドローフェイズで5枚。
次のターン、怒涛の巻き返しが来ると思うよ。
それに、もし、ゴーズがなかったらあのまま王女の攻撃と共に『アマゾネスの射手』を特殊召喚して決着を付けれた。
勝ちのチャンスを逃してしまったんだ。」
この獏良という少年、決闘者ではない割に決闘の理解度が遊戯に匹敵するみたいだ。
即ち自分より上だということに、決闘者としてのプライドを微かに揺り動かされた孔雀舞は舌打ちを堪えた。
遊戯もフィールドを見回して神妙な顔で言った。
「『アマゾネスの里』がある限り、『アマゾネス』モンスターの後続は途切れない。
どうする?小波くん」
大下 由美子 LP4000 手札1枚
リバースカード2枚 フィールドバリア
アマゾネス王女 アマゾネスの戦士長
フィールド アマゾネスの里
小波 遊一 LP1900 手札4枚
冥府の使者 ゴーズ 冥府の使者 カイエントークン(2100/2100)
魔法・罠なし
「俺のターン、ドロー。
≪天使の施し≫で3枚ドローして2枚捨てる。
………よし、エースモンスター出すか。」
「あいつの使うエースモンスターっつったら、確か≪ホーリー・ナイト・ドラゴン≫だっけな?」
「≪ホーリー・ナイト・ドラゴン≫だって?
確かに、レッドアイズを凌ぐ2500もの攻撃力があれば、大抵のモンスターは撃破出来るだろうけれど、最上級モンスターの召喚には、2体もの生贄が必要なはずだよ。」
「≪死者蘇生≫でも使うか、また≪コスモブレイン≫で2900にするか………」
「つか遊戯、お前、昨日はそのドラゴンにやられてたんだろ。
ほんと、覚えてないのか?」
「いや………大抵、デュエルすると、その時の記憶が飛んじゃって………」
「『人が変わる』って奴ね。
私もよく見るわよ。
クラブやハンドルなんか握ると、途端に別人みたいになっちゃうのが。
勝負で熱くなって冷静さを無くしちゃうような奴はおしまいだけれど………あんたの場合、むしろそっちの素質あるみたいね。」
「ゴーズとトークンをリリースして、アドバンス召喚!
七つの星煌めく聖夜に、その荘厳で聖なる体躯と輝きを示せ!
≪聖夜に煌めく竜≫!」
ギャオーーーーーーー
小波が珍しく興奮した口調で召喚口上を唱えてフィールドのカードを置くと、アマゾネスの森に相応しからぬ白い竜が登場した。
「なんだあのドラゴン!」
「青眼とはまた違う、白い竜……あれが、小波君のエースモンスター………」
後半の展開を大幅に変えてしまいました。
「強欲な壺」すら許されているのに無意識に「アマゾネスの射手」を禁止と思い込んでしまうんだから習慣というのは恐ろしい