「では二回戦。
キース・ハワード、城之内克也。
所定の位置について参加資格のカードを。」
「へいへいっと。」
「よーしキース!
今こそ雪辱晴らしてやるぜ!」
「妹さんの為にもここは負けられないね!」
「頑張って城之内君!」
「遊戯!獏良!行ってくる!」
クロケッツの指示で各々所定の位置につき、
消化試合気分で気怠そうに位置についたキースが莫大な財宝が描かれた「王の右手の栄光」のカードを提示してきた。
「ほらよ、これでいいんだろ。」
「うむ。確かに確認した。」
(律儀だねえ。
この城に入った時わざわざお前がくれたんだろうにこの参加証のカード。)
「では、城之内克也。参加資格のカードを。」
「おう。
ええっと……あれ?どこだ?」
しばらくごそごそとポケットをまさぐった城之内は、やがて興奮した顔色をみるみる青ざめさせていく。
「まさか……あの時……」
「どうした、早くカードを。」
「あ、あの!
す、少し部屋に取りに行っていいかな。
どうも、置いてきちまったみてぇで……」
「………5分だ。
この時計で5分以内に取って来なければ、失格とする。」
「おいおい、まさか不戦敗かよ。」
「ちくしょう!」
扉を猛ダッシュで駆けていく城之内を見て、応援していた獏良と遊戯は呆れ顔になった。
「こんな重要な時に肝心なものを忘れるなんて……」
「いくら城之内くんらしいとはいえ……」
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「ちくしょう!
ここら辺のはずなんだ。」
城之内は朝食を食べたホールと対戦会場のエントランスの丁度真ん中辺りの地べたを、虫のように這いつくばってカードを探し回っていた。
「食事の時はカードは確かにポケットに入れていた。
抜けがあったとするなら、走った勢いでメイドとぶつかって尻もちうっちまったここだ。」
城之内の頭には廊下を走る自分にしつこく嫌味を言ってくる体育教師の刈田や風紀委員の牛尾の顔がちらついた。
今だったらあいつらの足元に跪いてキスしても……と考えたが
直後に自分の猪突猛進ぶりを後ろから呆れた目で眺め、恐らくは落ちたカードにすら気づいたであろう杏子と本田の顔に咄嗟に切り替えた。
「クソ………おめえら、何でいなくなっちまったんだ……」
それが情けないことこの上ない他責思考と逃避であることは言われるまでもなかったのだが、何であれ今の自分の情けなさに目を向け続けていたらこれ以上足掻く気力さえ削がれていく。
対戦前だというのに、今迄のどんな相手との決闘前以上に心臓が鳴る、呼吸が早まる、視界がぐらつく。一秒一秒が死神の足音か首を刈り取る音に感じる。
腕時計を嵌めておらず、周囲に時計の類もない中、妄想の中の時計の秒針の音から意識を必死で逸らし続ける城之内の聴覚には、小さな靴音と「あのー」という頭上からの声は聞こえなかった。
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「あと、30秒」
「城之内君、大丈夫かな……」
獏良と遊戯が心配し、キースは勝負を投げたかと半ば勝ちを確信したその時。
バン!と、扉が開き、息せき切ってかけつけた城之内がカードをクロケッツに掲げた。
「『王の右手の栄光』の、カード!
これで、文句、ねぇだろ!ゼエ、ゼエ!」
「………確認した」
「おいおいおい、デュエル始まる前からグロッキーじゃねぇか。
大丈夫かい?素人君?」
「うっせえ!
さあ、始めるぜ!」
ようやく余裕を持って辺りを見回すと、応援している遊戯と獏良と、呆れ顔の孔雀舞の顔が見えた。
(すまねえ、心配かけて。
あいつがいてくれなかったら、俺は……)
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「あのぉ……」
「あぁ?」
視界の床に、小さな靴を見て取ってようやく顔を上げた城之内は、オレンジ色の髪をした小柄なメイドと目を合わせた。
「今、急いでんだ嬢ちゃん、後に……
あっ!おめぇ!俺がぶつかっちまったメイド!」
「あのぉ、お探し物でしたら、多分あの下にあるっすよ。」
そう言ってメイドが指さした廊下の片方には、床の間に小さなスキマがある衣装棚があった。
「ほ、本当か!
参加証のカード、ホントにそこにあんのか!」
「はい、あそこの監視カメラで確認したから間違いないっす。」
「どれどれ……」
城之内が這いつくばって棚の下を覗き見ると、棚のかなり奥まったところにカードらしきものが落ちていた。
「おおっ!間違いねえ!
クソ!届かねぇ!こうなったらこの棚動かすしか……ヌオ!」
腕っぷしに自慢がある城之内が渾身の力を込めたが、大きな棚は重く、ピクリとも動かなかった。
「わ、私も手伝うッス。
ほら、そっち持って、セーノ!」
「オリャアアアア!」
かくて、城之内とオレンジ髪のメイドの二人がかりで、棚を廊下の半分にまで移動して、埃に塗れたカードを手に入れた。
「よっしゃああああ!
ありがとよ!」
「あ、そんなに走っちゃ……」
「ああ、分かってる!
廊下を走るのは、これで最後にするわ!」
脱兎のごとく駆けていく城之内を見送ったメイドは頭をかいて溜息をつき、やがて棚の下の埃をはわいた後、先ほど二人がかりで移動させた棚を一人で苦も無い様子で元の位置に押し戻した。
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かくて一波乱あった後始まった城之内対キース。
残念ながらその詳細については、改変に次ぐ改変が成されているこの世界に於いても概ね原作通りであるため、ここでは省略する。
よって、一連のデュエルを眺めた元KC幹部達の感想を以てお開きとする
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モニターで一連のデュエルを眺めた者達は、口々に言った。
「かつては全米トップにまでなった男が、あのような初心者に負けるとは。」
「アメリカのデュエリストも、随分レベルが低いようですね。」
「我が国でも、全国チャンピオンと準優勝者があっさりやられたし、表のトップなど、所詮はこのようなものか。」
「遊びのままごとと、大事なものを背負ってしまったデュエルは別物ということだろう。」
「お綺麗なルールとスポーツマンシップに彩られた格闘技チャンピオンと
ルール無用の殺し合いの名手を比べたら失礼というものですね。」
「ハロー効果という奴だな。
権威や称号を持つと、その人格、発言、存在を肯定的に捉えてしまうバイアスだ。
だが、王だろうとチャンピオンだろうと、神と呼ばれていようと、
実態は詰まる所直接確かめるしかないということだ。」
「それで。どうするんですかこの後。」
KC幹部の一角をなす弁護士、大岡筑前が向けた言葉に、皆の視線が中央に陣取るペガサスに向けられた。
「この大会、もはやこれ以上は我々にとってメリットなど見当たらん。
いや、それどころかリスクしかない。」
リーダー格の大下の言葉を受けたペガサスは、何でもないように涼し気に告げた。
「オフコース。
ショーダウンといきましょう。」
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城之内が凱旋すると、通路には遊戯と舞が出迎えた。
獏良はトイレに行っているらしい
「やったね城之内くん!」
「やった……全米チャンピオンを……俺が倒したんだ……」
「これで後は、決勝で小波君を倒せば、いよいよペガサスへの挑戦だ。」
「ここまで来たら胸張っていきなさいよ。」
「お、おう、舞。
応援、ありがとな。」
「ふん。私としては、あの赤帽子が気に食わないだけよ。
聞いたんだけどあいつ、賞金の使い道がJAXAを目指す大学の学費なんですって。」
「JAXA?何だそりゃ?」
「日本版のNASAみたいなものだよ。
宇宙飛行士になる登竜門だね。
小波君らしいや。」
「まあ、勝ち得た金をどう使おうが勝手だけど、
私を蹴落としてまで掴んだなら妹とやらの為に頑張るそっちが勝ってくれた方がずっと目覚めがいいわ。
小市民とはいえそれくらいの夢、賞金なんかなくても自分の努力で叶えなさいっての。」
「「………」」
「何よ?」
「「いや、何でも」」
「で、いよいよ次が決勝って訳だけど、何もないの?」
「うーん、そろそろクロケッツさんが何か言ってくると思ったんだけど……」
遊戯が訝しむとやがて獏良が帰ってきた。
「城之内君、おめでとう。」
「おう、獏良!見てたか?」
「うん、僕も嬉しいよ。
あ、あと遊戯君、ペガサスさんに言われたんだけど、おじいちゃんの様子、確認してみた?」
「へ?」
当初の目的とは言え唐突に他でもないペガサスによって魂を手元の端末に移動させられた祖父のことを唐突に言われた遊戯はスマホを取り出して祖父の様子を見よとしたのだが……
「あ、あれ?じいちゃんがいない!」
「何だと!」
「遊戯君!病院に電話してみて!」
「うん!
………えっ!?今朝、意識が戻っただって!」
「ホントか!」
「一体、どうなってるんだ?」
「あんたたち……何の話してるの?」
オカルト関係には現在全く縁がない孔雀舞がついてこれないでいる中、
クロケッツがホールにやってきて高らかに告げた。
「お集りの決闘者諸君。
本来なら、このまま決勝戦を進めたい所なのだが
ペガサス様が行方不明になられた。」
「「「「「「!!!!!」」」」」」
その宣言に、今度は城之内達4人は勿論、ホールを挟んで手すりの反対側にいた大下と小波までもが驚愕した。
「よって大会は中止。
そしてこの城も、あと1時間で爆破される。
早急に指示に従い、用意されたヘリに乗るように。」
「ば、爆破………おい、ホント、どうなってんだよ。」
「ちょ、ここまで来て中止ぃ!」
「……何が起きているんだ?」
デュエル描写楽しみにしていた人、申し訳ありません。