ミシガン英雄伝記補遺:透き通る世界を地獄が歩く   作:柴猫

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エデン条約と最終編への足取りの長さを改めて感じつつ、ちょっと巻きで行こうかなと思います。具体的にはパヴァーヌ一章……ですかね。それ言う前にアビドスを終わらせないとなんですけどね

それではどうぞ


アビドス編:襲来、ゲヘナ風紀委員会

 柴関ラーメン跡地。

 銃声が支配していた時間は、鈍い音が三回鳴り響くと同時に終わりを迎えた。

 

 「「「ぐ、ぐへぇ……」」」

 「揃いも揃って頭のネジが緩すぎるぞ!ゲヘナでレンチの使い方くらい教わらなかったか!?」

 「うわぁ、痛そう……」

 

 セリカが呟くその前には、でかいたんこぶを作って突っ伏しているアルとムツキ、ハルカ、柴関ラーメンを爆破した犯人どもだ。大将は軽傷らしくシェルターに避難してもらっているが、店は全壊状態だ。よくもまぁアビドスの貴重な飲食店にここまで爆弾をしかけたものだ、()()()()()が見たらさぞでかい声を聞かせてくれることだろう。

 

 「で?最後はお前だけだぞ課長」

 「そうです!きっちりミシガン先生に叱ってもらいますからね」

 「ここまであっけなくやられるなんてね……でも、こっちも遊びでやってないから」

 

 カヨコはボタン付きの発信機を取り出す。まさかまだ爆弾を仕込んでいたのか。

 

 「社長、いいよね?」

 「いたた……はっ、も、もちろん!しぶといアビドスに今度こそ――」

 

 

 ドッカーーーーーーーン!!

 

 「うぇぇぇぇっ!!?」「うっわ、今度は何なのさ!?」

 

 突然の爆発音、即座に遮蔽に隠れつつ状況を窺う。

 

 「アヤネ!何が起きたか分かるか!」

 「しょ、少々お待ちを……これはっ!?

 砲撃です!!3kmの距離に多数の擲弾兵を確認!50㎜迫撃砲です!標的は私たちではなく便利屋の方みたいなのですが、もう少し確認を……」

 「いや、いいアヤネ。こちらでも目視できた」

 

 単眼鏡のレンズには、迫撃砲を装填している紫制服の集団。そして風紀と書かれた腕章。

 

 「迫撃砲をぶっ放したのはゲヘナの風紀委員会だ。少なくとも一個中隊はいるぞ!」

 「ゲヘナ……!?」

 「社長!ムツキ!ハルカ!早く隠れよう!やつらが来た!」

 

 狙われている自覚はあるのかカヨコがのびている三人を引っ張っていこうとする。が、

 

 ズゴゴゴゴゴーーー!!

 「ぐっ、くぅっ……!」

 

 迫撃砲の爆発を食らい、カヨコも倒れた。手から滑ったリモコンがアルの頭に当たる。

 

 「あだぁっ!?ちょ、そこはさっき先生に殴られた場所だから……ってカヨコ!?しっかりして!」

 

 カヨコを運びつつ遮蔽に隠れる便利屋を尻目に、風紀委員会の動きを見る。こちらに進軍してきているところを見るに、便利屋の捕縛が目的と見えるが、にしたって数が多すぎる。これだけの過剰戦力は頭ベイラムか。

 違和感を抱きつつも、今は相手の出方を見るのが先だ。アヤネに連絡してもらったが、ホシノとは連絡がつかないらしい。

 

 「この状況……私たちはどうすればいいのでしょうか?」

 

 怒涛の状況だろうか、ほわほわしているノノミが腑抜けているところに喝を入れてやる。

 

 「ならどうする?貴様らは舐められたまま便利屋をあっちに引き渡すのか?」

 「それは、で、ですが……それにしても彼女たちと戦うわけには……」

 「少なくとも奴らはこっちを舐めているぞ!貴様らは懐だけじゃなく器もしょぼい零細学園になったのか!?

 このアビドスが貴様らの土地だというのなら、土足で踏み入るマナーの悪い奴らに取るべき行動は何だセリカ!」

 「私!?それは……」

 

 口を濁すセリカに代わり、シロコが強く言い切った。

 

 「ミシガン先生の言うとおり、風紀委員会を阻止する」

 「シロコちゃん……?!」

 「……お二人の言うとおりです。便利屋の皆さんが問題を起こしたのは事実だとしても、こんな暴挙を敢行されて、黙っているのはおかしいことです」

 「!アヤネちゃんの言うとおり、これは私たちの学校の権利を無視している!それに便利屋には柴関ラーメンを壊した代償を払わせる!そういうことよね、先生!」

 

 得意げな顔で見上げるセリカに、俺は軽く拳を落としてやる。

 

 「判断が遅い!もう少し詰め込み勉強が必要なようだなセリカ!」

 「な、なんで!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここで会うとは思わなかったぞ、チナツ」

 「先生……こんな形でお目にかかるとは……」

 

 顔を合わせるのはスケバンどもをしごいた日以来か。隣には目つきの悪い銀髪がいるが、こっちは初めて見る顔だな。

 

 「アビドス対策委員会の奥空アヤネです。所属をお願いします」

 「それは……」

 『それは私から答えさせていただきます』

 

 会話に割って入ってきたのは、ホログラムの生徒。風紀委員会側の動揺を見るに、上役かなにかだろう……だいぶふざけた格好をしているが、これもゲヘナの治安の悪さの反映か何かか?

 ゲヘナ学園風紀委員会行政官、天雨アコ。本人はただの秘書と言っているが、風紀委員会の副委員長といって差し支えないだろう。ホログラム越しに現れたのは報告を聞いてから、というわけでもなさそうだ。予めアビドスからのアクションに備えているように見える。

 

 『先ほどまでの愚行は、私の方から謝罪させていただきます』

 「なっ、私は命令通りにやったんだけど!?アコちゃん!?」

 『命令に、「まずは無差別に発砲せよ」なんて言葉が含まれていましたか?』

 「い、いや……状況を鑑みて必要な範囲で火力支援、その後に歩兵の投入……戦術の基本通りにって……」

 『ましてや()()()()()()()()()()なのだから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?

 失礼しました、アビドスのみなさん。私たちゲヘナの風紀委員会はあくまで、私たちの学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました。あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言い切れないでしょうし……やむを得なかったということでご理解いただけますと幸いです』

 

 字面だけは丁寧な言葉遣いで謝罪するアコだが、どうにも怪しさがぬぐい切れない。腹に一物抱えている奴の特徴だ。だが何をしにここに来た。

 当然だがアビドスの答えは変わらずNO。自治区で起きた問題はこちらの問題、所属がどうであれ便利屋を裁く権利はアビドスにある。連邦生徒会の自治区基本法にも書いてある文言だ、何も言われることのない主張である。

 

 『ふぅ、この兵力を前にしても怯まないだなんて……これだけ自身に満ちているのは……やはり、信頼できる大人の方がいるからでしょうか?……ねぇ、ミシガン先生?』

 「後ろ盾がいなけりゃ何もできないとでも言いたいのか?」

 『まさかそんなこと露ほども……念のため聞きますが、あなたも対策委員会と同じご意見ですか?』

 「ゲヘナの風紀委員会は多忙と聞く。しごきがいのある奴らはアビドスと俺が面倒を見てやらんでもないが?」

 

 こう会話してると本社との腹の探り合いをしている頃に戻ってきた気分だ。行政官の名は伊達じゃなく、政治はできるということか。

 

 『……もう一度お聞きしますが、便利屋68をこちらに引き渡して頂けますか?』

 「……彼女たちの背後にいる方の正体もまだ分かっていません。ここで引き渡すわけにはいけません」

 「そういうわけで、交渉は決裂です!ゲヘナの風紀委員会、あなた方に退去を要求します!」

 

 アヤネの啖呵を聞いたアコは、先ほどまでの笑顔を別のものに変えた。

 

 『これは困りましたね……うーん……こうなったら仕方ありません。本当は穏便に済ませたかったのですが……ヤるしかなさそうですね?』

 「総員構えろ!」

 

 風紀委員会が銃を構えようとした、その時。

 

 

 ダァン!!

 

 「許せない……!」

 

 横合いからハルカが奇襲をしかけ、風紀委員会の陣列を崩していく。

 

 

 「許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!うああああああああああっ!!」

 

 対策委員会が引くほどの覇気で乱射しまくるハルカ。中々俺好みの性格だ、便利屋でなければ勧誘しているところだ。

 そこにさらに。

 

 「嘘をつかないで、天雨アコ」

 『あらっ?』

 「偶然なんかじゃないでしょ、最初からあんたが狙ってたのはこの状況だった」

 

 爆撃から復帰したのかカヨコがアコの前に立ちはだかる。

 

 「……最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか、理解できなかった。風紀委員会が他の自治区まで追ってくる理由、それも私たちを狙って?こんな非効率的な運用、風紀委員長のいつものやり方じゃない。だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない」

 

 沈黙がカヨコの考えを肯定する。

 

 「それに、私たちを相手にするにしてはあまりにも多すぎるこの兵力。他の集団との戦闘を想定していたとすれば、説明がつく。とはいえ、このアビドスは全校生徒集めても5人しかいない……なら結論は一つ。

 アコ、あんたの目的はシャーレ。最初から、先生を狙ってここまで来たんだ」

 

 カヨコの結論に後ろ4人が動揺する。が、俺としては納得できる理由だった。

 

 「……うちの特権目的か、アコ行政官?」

 『あら、流石はシャーレの先生ですね。そうですねぇ、もう隠す必要も無さそうですし、事の次第をお話ししましょうか』

 

 アコは観念したかのようにベラベラと喋りはじめる。ハンドサインでアヤネに指示を出す。

 

 『きっかけは、ゲヘナ学園と長きにわたって敵対関係にある、トリニティ総合学園のティーパーティーが、シャーレに関する詳細な報告書を手にしている、と。

 私も一応シャーレという組織があることは知っていましたが、ティーパーティーが関心を注いでいるともなれば、私たちも知る必要があります。そこでチナツさんが書いた報告書を再確認しました。(え、よく見てなかったんですか?)

 連邦生徒会長が残した正体不明の組織……大人の先生が担当している、超法規的な部活。確証は取れませんでしたが、退学処分となった生徒を活動させているとも聞こえました。……どう考えても怪しい匂いがしませんか?』

 「たかが大人一人の組織相手に随分と丁重な対応だな」

 『平時であれば、こんな手段を取る必要は無かったのですがね。ですがトリニティとの条約が控えている中、ただでさえ危険な不確定要素を野放しにするのは迂闊かと。ですので条約が無事締結されるまで、私たち風紀委員会の庇護下にお迎えさせていただきたいのが本音です。居合わせた不良生徒たちも処理したうえで、という形で』

 

 風紀委員たちが続々と結集し、包囲網を厚く伸ばしていく。アコは集結する軍勢を見ながら、勝利を確信した笑みを浮かべる。

 風紀委員会の目的が、俺を監視下に置くこと。それが分かったところで、こっちの意見は変わらん。まだアビドスの問題が残っているのだ、ここで逃げ帰れば伝記に不名誉な一文を残すことになる。

 

 とはいえ彼我の戦力差は圧倒的、となれば。

 

 「便利屋68!!今から貴様らに依頼を出す!」

 「「「!??」」」

 「これよりアビドス廃校対策委員会は、ゲヘナの風紀委員会を丁重におもてなししてやることを決定した!行きつけのラーメン屋を爆破した貴様らには、俺の盾と小間使いをやってもらう!金は貴様らが今受けている渋い仕事の2倍を出してやる。受けるか!」

 

 俺の大声を聞いて社長のアルは、意外にも不敵な笑い声で返した。

 

 「ふふふふっ。この状況でうちに依頼をするなんて、中々見る目があるわね、先生。でも、その依頼は受けるまでもないわ」

 「ほう?」

 「こんな状況で、こんな扱いをされておいて……背中を向けて逃げる?そんな三流の悪党みたいなこと、私たち便利屋がするわけないじゃない!!!あの生意気な風紀委員会に一発食らわせないと気が済まないわ!」

 

 その声を聞き、ムツキとハルカは獲物を目の前にした獣のように笑う。……なるほど、裏社会に足を踏み入れる根性があるわけだ。

 

 「ふぅ……それは良いけど、あの兵力と真っ向から戦う気?アビドスと力を合わせてもギリギリだと思うけど……()()を使うの?」

 「もちろん!本当は()()の初お披露目は風紀委員会にしたいところだったしね!やっちゃいなさい!」

 

 先ほどの装置をカヨコが押すと、坂道から何かが回転しながらこっちに向かってくる。

 

 「な、なんだあれは!?」

 「こっちに来るぞ!」

 

 風紀委員会を轢こうとしたところでそれは止まり、立ち上がる。ダンゴムシがそのまま立ち上がったような独特なシルエットには見覚えがあった。

 

 

 ルビコン3の技術屋集団、RaDの開発したヘンテコMT。名前は確か、〝TOYBOX〟。

 なぜ便利屋がと思い、脳裏にG13の顔が思い浮かぶ。確かあいつはあそこの頭目と仲が良かったはずだ。というよりは、ウォルターの付き合いだが。そんなに居心地が良かったのだろうか?

 対策委員会は便利屋の隠し玉に驚き、風紀委員会もまたそれ以上に困惑していた。

 

 「な!?」

 『ロボット!?便利屋のどこにそんな資金が……!』

 「知りたいのなら力づくで聞いてみたら?最も……」

 

 TOYBOXが腹を開き、腹部にびっしりと取り付けられたランチャーを見せつける。

 

 「その子、結構凶暴よ?」

 「新しいおもちゃを手に入れて気分が良いようだな陸八魔アル!ならこれよりアビドス廃校対策委員会と便利屋68による合同作戦を開始する!」

 『うーん……まあ、これはこれで想定していた状況ではありましたが……それにしても、ここまで意気投合が早いとは……その点は想定外でした』

 

 TOYBOXを先頭に、さっきまで敵対関係にあった二つの組織が同じ方向に銃を向ける。

 

 『……まあいいでしょう。風紀委員会、攻撃を開始します。対策委員会と便利屋を制圧して、先生を安全に確保――』

 

 引き金を引き、最前線にいた銀髪の頭に600ニトロ・エクスプレスをぶち込み、鈍い音が響き渡る。

 

 「先制攻撃、続け!」

 「あははっ!先生良い性格してるじゃーん?」

 「また痛……ゔぅぅぅ許さん!!」

 「ま、待ってくださいイオリ!」

 

 他の奴らの相手を任せつつ、俺は突貫してきたイオリの前に立ちはだかる!

 

 「いいのか!実弾が当たればケガじゃすまないぞ!」

 「風紀委員会は武力行使に容赦しないんじゃなかったのか!?」

 「っ!?後悔するなよ!」

 

 イオリと呼ばれた生徒は銃身を持って殴りかかってくる。正面へ滑り込みイオリの右手を掴み、突っ込んでくる勢いそのままに投げ飛ばす。

 

 「くっ!」

 

 不格好な受け身を取りながらも今度は銃撃の構えを取る。狙いを付けていない威嚇射撃なのだろうが……

 

 「セリカ!」

 「任せて!」

 

 風紀委員の相手をしていたセリカが、イオリに対し銃撃。何発か食らい、顔を顰める。俺もアサルトライフルを撃つ。また子どもに銃を撃つことになると、思うことはあるがこの際無視。

 セリカの弾切れと同時に拳銃を構えながら突っ込む。対応に迷った隙に銃床で顎を殴り、遅れてアッパーカット。

 

 「近接格闘の練度が足りん!よく体に叩き込んでおけ!」

 「え?うぎゃぁぁっ!!」

 

 空高く舞ったイオリが地面へ落ち、そのまま目を回して動かなくなった。

 

 『……っ!総員包囲網を強化!まずは対策委員会と便利屋を排除してください!』

 

 包囲網の人数が更に増える。遮蔽に隠れて箱を起動させて指揮を取る。

 

 「便利屋は前線で敵をなぎ倒せ、対策委員会は背中を守れ!アヤネは消耗した奴に順次物資を届けろ、被害状況はこっちで伝達する!」

 『了解!!』

 

 後顧の憂いなく敵をなぎ倒しまくる便利屋を止めようと風紀委員が集まり、包囲網を狭めて来るが、近づこうとする連中を対策委員会が迎撃して背後からの攻撃をさせない。

 それでも止まらない敵の波に徐々に押し込まれていく。集合の指示を出そうとしたとき、アルが動いた。

 

 「押せ押せ!数じゃこっちが有利なんだ!」

 「カヨコ!」

 「了解……掃射モード」

 

 TOYBOXが前線に出てくると、カメラセンサーが光る。

 

 「怯むな!あんなもん温泉開発部のブルドーザーに比べればひ弱だ!」

 「そうだ!集中砲火でスクラップにしてやれ!」

 

 風紀委員が突っ込む中、TOYBOXは何もせずに立ちはだかる。

 

 「え、壊れてないわよね?ちゃんと動くわよね!?」

 「う、動くはず……」

 

 

 スック

 

 

 『え?』

 『はい?』

 

 突如としてブリッジしたTOYBOX。あまりの奇行に敵味方問わず困惑の声が漏れる。……こいつの戦闘データにこんな動きはなかったはずだが……

 

 『ランチャー掃射5秒前』

 「え、ちょっと距離が近すぎ」

 『5,4,0』ドドドドドォン!!

 「何でぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

 

 ブリッジしたまま腹のランチャーを展開し、そのまま火山の如くグレネード(と近くにいたアル)をぶっ放す。ルビコンでのあれも中々だったが、まさかあいつがこんな珍兵器を作るとは……

 

 「うわぁぁぁぁ!?」

 「お、落ち着いて距離を取ってください!あの状態なら移動できないはず……」

 『対象の追尾を開始』

 「はい?」

 

 ブリッジしながらそのまま風紀委員の固まるところへ走っていくTOYBOXに、チナツがあっけなく轢かれてダウン。そのまま風紀委員をなぎ倒していく。

 

 「……なぁ、G13は元気か?」

 「え!?なんでしっ……ん、んっ!ええ、元気そうだったわ、よ?」

 「……そうか」

 

 敵側が可哀そうに見えたのは戦場に立ってから初めてだが、RaDの頭目は何を思ってあのMTを作ったのだろうか。そしてなぜあいつはもっとトンチキな機能をつけたのか……ドーザーに道理を求めるのが間違いと言われればそうなのだが。

 

 『……な、なるほど。だいたい把握できました。シャーレの力、必要となるであろう兵力……想定外もあったとはいえ、予想を遥かに上回っています……素晴らしいですね』

 「声が震えているぞ行政官」

 『ふ、震えていません!この程度の事態で怯むわけないでしょう!?』

 

 威勢を張り続けるアコは、息を整えると再び指示を出す。

 

 『ともあれ、弱点は見えました……第八中隊!後方待機をやめて突入を!』

 

 声を荒げたアコの指令。

 

 

 

 

 それと同時に耳慣れた、風切り音。

 

 

 「総員退避ぃっ!!」

 「え?」

 

 そばにいたアルを抱えて建物内部に走り、入り口のガラスを叩き割ると同時に。

 背中から爆発音が6度鳴り、()()()()()()()()()()着弾音。それらを追うような、特大の爆発音が体を叩き、建物内に叩きつけた。

 

 「ぐぅっ!」

 「きゃあああっ!??」

 

 砕かれたガラス片が防弾ベストを叩き、粉塵が気道に迫ってくる。懐かしい命の危機に、目は塞がずに破壊が止むのを待つ。

 

 「先生!今すぐシッテムの箱で防壁を!」

 「やばそうなものだけ防御しろ、アルも含めてだ!」

 「りょ、了解です!」

 

 おそらく上方からの攻撃。ヘリや航空機の風切り音は聞こえなかった、超上空からの射撃……心あたりは一つだけあった。

 

 

 

 「止んだか……ケガはしていないな、陸八魔アル」

 「え、ええ。何とか、でも今のは……」

 

 外に出ると、アスファルトにはひびが走り抜け、止まっていた車は原形のないスクラップと化していた。割れた建物郡の窓ガラスが、爆発の衝撃を物語っていた。

 

 「カ、カヨコたちは!?皆はどこ!?」

 「社長!無事!?」

 「ぶ、無事で良かったですアル様!!」

 

 煤けているが、便利屋の連中はどうやら無事だったようだ。同じく土煙の中から後方にいたアヤネも含めた対策委員会が見える。

 

 「ミシガン先生!!」

 「こっちは問題ない。そっちはどうだ!?」

 「大丈夫、アヤネが警告してくれたおかげで逃げ切れた」

 「風紀委員会は……」

 

 ゲヘナの方は奇襲に対応しきれず、包囲していた大部分が爆撃を食らい戦闘不能になっていた。結果論ではこちらの有利になってくれたが、TOYBOX(こっちの突撃隊長)も火を吹いていた。「せっかく提携の分で無料だったのに!!?」とアルの悲鳴が聞こえるが、まだ風紀委員会との戦闘が終わったわけじゃない。

 

 『一体何が……!!?風紀委員会、被害状況の説明を!!』

 『第八中隊以外はほぼ壊滅状態よ、アコ』

 『そうですか……え、ひ、ヒナ委員長!?』

 

 通信に割り込んできたのは、毛量豊かな白髪の子ども。アコより小さい身長だが、俺の直感が腰のホルスターに手をかけさせるほどの威圧感。

 と思えば音も立たせない程の勢いで便利屋が逃げていった。賢明な判断であるのか臆病ものなのか……俺としては尻ぬぐいありきの蛮勇を見せてもらいたかったが。

 

 『ど、どうして委員長がこんな時間に……?え、でも先ほどの被害状況は……』

 「そういうこと」

 

 ホログラム越しで見えていた影が消えると同時に、同じ姿が戦場に現れる。

 

 「い、い、い、委員長!?い、一体いつから!?」

 「……アコ、ここに至るまでの状況、きちんと説明してもらう」

 

 レッドガン食堂のババァ並みの怒りを滲ませながら、狼狽するアコに詰め寄るヒナ。ホログラム越しでも圧倒されているのか、先ほどまでの勢いは無い。

 相手側の通信越しの尋問を見る羽目になるとは……そう思ったが、どうやらそれも見れないらしい。

 

 

 「みんな!!」

 

 凄まじい勢いで乱入してきたのは、ついさっきまで音信不通だったホシノ。

 素早くゲヘナ側をけん制しつつこちらを見ると、俺と視線が合う。

 

 「……無事、なの?」

 「遅い!貴様のほうこそ映画館にでも行っていたのかホシノ!」

 「い、いや……み、みんなが無事なら……ちょっと、昼寝で少し寝過ごしちゃって……」

 

「昼寝ぇ!?こっちは色々大変だったのに!ゲヘナの奴らが……!」とセリカが文句を言うと、先ほどまでの気配が霧散した。

 何かあったのか、いや何かあったのだろう。

 あの時やってきたホシノの眼は、余りにも必死過ぎた。それこそ、こっちが死んでいるとでも言いたいのかと思うほどには。

 

 直前の奇襲の正体。

 あの一瞬で火力支援を行い、誰にも補足されずに離脱できる兵器。

 

 その奇襲の直後、こちらを救助する様に現れたホシノ。

 

 

 

 ……どうやらアビドスには、まだまだ問題は山積みらしい。




TOYBOX Type:Incence
レイヴンズ・ネストが改造した元RaD製の重MT。キヴォトスでの戦闘規模に合わせて小型化されており、本家のモットーとリスペクトが込められている。ネストの兵器はほぼ全てが星外企業製品の改造品だが、RaDの製品は頑丈かつ派手なことから、マーケットでの売れ筋になっている。
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