……なんでこんなきつきつになるんでしょうかね。
撃てども撃てども減らないオートマタ兵士たちを突破しながら、対策委員会は進み続ける。
「ひぃふぅみぃ……今何人倒したんだっけ?」
「もう数え切れないくらい倒したと思うけど……」
「まだまだいそうですね」
隊列を組んで向かってくるカイザー兵士たち。目覚ましにしては随分と乱暴なものだが、今はそうも言ってられない。
「こんな時、ホシノ先輩が居てくれれば……」
シロコの呟きに、三人の顔に影が落ちる。
今朝、ホシノが学校を去った。カイザーの
それを見てシロコが捜索に走ろうとしたところにカイザーの襲撃。1000近いオートマタ兵士たちがアビドスに襲来していた。
そうして都市部の大通りで本隊らしき大部隊と睨み合う中、PMCをかき分けて一人恰幅の良いロボットが現れる。
「初めまして、と言うべきかな。シャーレの先生」
「お前は……」
カイザーPMCの理事、そう名乗った男はわざとらしく咳ばらいする。……ベイラムにいた頃を思い出す。こういう手合いは、どこにでもいるものだというのに。俺も鈍ったか。
「これは何の真似ですか?企業が街を攻撃するなんて……いくらあなたたちが土地の所有者だとしても、そんな権利は無いはずです!」
『それに、学校はまだ私たちアビドスのものです!進攻は明白な不法行為!連邦生徒会に通報しますよ!』
ノノミとアヤネの反論に、理事は鼻を鳴らすだけ。
「アビドスの最後の生徒会メンバー、小鳥遊ホシノが退学した。アビドスの生徒会は、もう存在しないも同然。分かるかね。もはや何者でもなくなった君たちに、誰も救いの手など差し伸べやしない。連邦生徒会も、他の学園も。これまでと同じようにね」
「ふざけたこと言わないで!生徒会が無くても、アビドスには対策委員会がある!!私たちがまだいるのに、そんな言い分が通じるはずないでしょ!」
『―――対策委員会は、公式に許可を受けている委員会じゃない……』
「えっ!?」
非公認の委員会である対策委員会……そうか、そういうからくりか。なぜあの時そこまで頭を回せなかったと後悔するが、そんなもの先と今には役立たない。
「そうだ。所詮非公認の委員会、正式な書類の承認も下りていない。つまり、君たちの存在を示すものは何も無い。だが喜べ。アビドス高等学校が無くなれば、君たちはもうあの借金地獄からは解放されるのだからな」
カイザーがホシノを狙った理由。形だけでもまだ公式の生徒会メンバーを奪えば、アビドスを骨抜きに出来る。だから借金を減らすと約束し、ホシノの身柄を奪った。借金を返す学校が残っていれば、そうなっただろう。
「だが私がこんな田舎にわざわざ来てやったのは、そんな些事を一々説明するためじゃない」
「……!!?」
「シャーレの先生、いやG1ミシガン総長。貴方に契約を申し込みに来た次第なのですよ」
どよめく対策委員会を横目にも流さず、理事は朗々と喋り出す。
「我々カイザーコーポレーションには遠大な計画がありましてね。この件が終われば、我々は大規模な軍備増強を行う計画です。その時に備え、貴方のような優秀な軍人をぜひ我が社にスカウトしたく」
「ふざけないで!!ホシノ先輩を騙しておいて、今度はミシガン先生まで攫うなんて……そんなバカげたこと通ると思ってるの?」
「通るから言っているのだよ対策委員会。それに、我々は小鳥遊ホシノを騙してなどいない」
「……どういう意味」
「分からないか?かつて、『暁のホルス』とまで呼ばれ恐れられるほどの戦闘力を持つ小鳥遊ホシノが、何故昨日の今日で我々との契約を結んだのか、疑問を持たなかったのかね」
こいつらにも心当たりがあるのだろう。風紀委員会と一戦やり合ってから、ホシノの雰囲気が変わったことに。黙りこくった4人に畳みかけるべく理事は口を開く。
「君らの生徒会長は、ある兵器を見た。我々が開発していたゴリアテやパワーローダーを、いや。キヴォトスに存在する
それこそ、やがてカイザーが手に入れる軍事力。そして、君たちの前にいるその大人こそ、その兵器を駆り多くの戦果を挙げた英雄その人なのだよ!」
高い革靴を踏み鳴らしながら、理事はこちらへと歩み寄る。
「レッドガン総長。私は貴方の境遇を残念に思いますよ。連邦生徒会に呼び出されたと思えば、教師の真似事を依頼されるなど、なんと勿体ないことか。それよりも、わが社でその疼く歴戦の腕を思う存分振るってはどうでしょうか?勿論、
「カイザーには名のある歴史家でもいるようだな。どこで知った」
「この場では言えませんが……我々はカイザーコーポレーション。パイプはどこにでもあるのですよ」
戦場を見下ろし、理事は高笑いする。
「勝てば官軍負ければ賊軍。敗者の言う事など気にする必要などないのです。頭の悪い子どもの世話など、もううんざりなのではありませんか?」
「あんた、それ以上言ったら……!!」
「ですが、まぁそうですね。我々ほどの大企業ならば、路頭に迷う子ども数人程度、養うことも出来なくは無いですが?」
「「「……!」」」
「貴方が望むのであれば、アビドス高等学校は残しても構わないでしょう。こんな零細学校一つで歴戦の軍人たる貴方を迎え入れられるのなら、むしろお釣りが出るくらいですよ」
背後に控える大部隊を見せびらかし、理事は俺を見下ろす。
「いかがですか。貴方にとっても後腐れのない、決して悪くない提案だと思いますが」
奴はこちらに手を伸ばす。
ここを渡れば、こいつらがここで戦う必要は無い。俺が奴らの元に行き、アビドスは守られる。
俺は何とかやれるだろう。何せ既にそういう条件で、ファーロンを抜けたのだから。
理事の提案に、俺は―――
『●●先生//へ
実は私、大人が嫌いだった。あんまり信じてなかった。シロコちゃんが連れてきた時だって、●/、ううん。悪い大人だなって見てた。●上から目線で、何も分かっていない人だって。あんまりにも、///似てたからさ。悪い付き合いがあるところとか、さ。
●/:〟正直に言うと、私はまだあなたを信じ切れてない。きっと悪いことをいっぱい●●/
でも先生は、ごまかさずに正直に全部言ってくれた。私はホッとしたんだ。少なくとも先生は噓つきじゃないって、分かったから。試すような真似してごめんなさい。
最後に我がままを言って悪いんだけど、お願い。シロコちゃんは良い子だけど、横で誰かが支えてないと、どうなっちゃうか分からない子で。悪い道に逸れちゃったりしないように、支えてあげてほしい。先生なら、きっと大丈夫だと思うから。あ、でもあんまり殴らないようにしてあげてね。シロコちゃんああ見えて、結構痛がりだからさ。
私、信じてる』
半壊した町の中、わずか4人の少女と数えきれないほどの兵士たちが向き合う。
彼らの視線は一様に一点、キヴォトス屈指の多角経営大企業の理事と連邦生徒会による超法規的権力を与えられたシャーレの先生。
そんな二人の手が硬く結ばれていた。
「そんな……」
「先生……」
「ぅぅ……!!」
『どうして……』
対策委員会の絶望を他所に、理事は高笑いする。
「ハハハハハ!今日は素敵な日になりましたな、ミシガン総長。さて、詳しい契約はわが社の方まで
グシャァッ!!ッ!??グァァァァァッッ!!!」
「え!?」
「素手で!?」
「握りつぶした……」
『理事の手を!?ロボットですよねあの方!?』
流れるように痛みに喘ぐ理事の鳩尾を殴り、呆然とするPMCの軍勢へ腰のツェリスカを発砲した。
「ギャッ!?」
「くぅっ……卑怯な真似を!」
反撃に銃を構えるPMCだが、ミシガンはうずくまる理事を盾にする。
「お、おい止せ!銃を下げろ!どういうつもりだ貴様―――」
「行儀の良い振りは、もうやめだ」
暴れようとした理事に響いた声。決して大きくはない、だが込められた激情の巨大さに理事の口が勝手に閉じた。
「何をぼさっとしている」
「先生……」
「で、ですが。これ以上戦っても」
「無駄口を叩くな!!」
「!?」
「お前たち何のためにここまでやってきた。まさかぽっと出の企業に自らの学校を差し出すために金を稼いできたとも言うのか!」
「でも、もうこれ以上戦ったって……」
「少なくともホシノは!かつての姿を全く知らないこのアビドスを蘇らせようと最前線を張ってきた!そんなことも忘れたのか!?」
鬼の形相で怒るミシガンに、対策委員会はたじろぐ。共に過ごす中で怒る場面は多々あったが、これほどまで本気に怒る姿は初めてだった。
「くっ、は、離せっ!自分が何をしてるのか分かっているのか!ガキどもを借金地獄に落とすのがお前の趣味だとでも言うのか『ドウゥゥンッッ!!!』ヒッ」
「勝ち目がない?終わりが見えない?希望なんてないか?
抜かせ!!お前らは一体いつから未来が見える占い師になったんだ!!?道が無いなら作って行けばいいだろうが!これまでと同じように!!」
「「「……!!」」」
カイザーの部隊がミシガンを撃つべく回り込もうとする。それに気づかないミシガンではないが、大柄な理事を盾にしたままでは簡単に動けない。
そこをカバーするように、セリカが銃撃を仕掛けた。
『せ、セリカちゃん!?』
「先生の言うとおりだよアヤネちゃん!非公認だか何だか知らないし、不法組織だって構わない!そんなことは今、何の関係もない!」
「……ん、セリカの言うとおり。まずはホシノ先輩を助け出す。今大事なのはそれだけ」
「私も目が覚めました。私たちに今、こうして迷っている時間はありません」
アヤネも覚悟を決めたのか、通信機越しに頬を叩く音がする。
さてこの人数差をどう崩すか、そう頭を回し始めた矢先に、爆発音が町中に響き渡る。
「北の方で大きな爆発を確認!合流予定のブラボー小隊が巻き込まれて!」
「東の方でも確認!合流予定だったマイク小隊も、大量のC4の爆発で……!!」
「苦戦しているようね、先生!」
爆炎の中から一台の装甲車が現れ、右往左往する兵士たちをなぎ倒していく。
「便利屋の……アルさん!?」
「乗り合い料金の代わりにこの子たちに頼まれてね、助太刀させてもらうわよ!」
「わーお、アルちゃんいつになくテンション高めじゃん」
「想定よりだいぶ状況が変わってるけど……まぁ風紀委員会相手の予行演習には変わりないかな」
「ば、爆弾まだ残ってますアル様!い、今起爆させますか?します!」
「ちょおばか待てハルカっち!ここで爆破させたら全員ビルの生き埋めになっちまうぞ!」「とりあえずその起爆装置しまお、な!?」
「ミシガン先生!拾ってきたけどこの人ら戦力になりますか!?」
運転席から身を乗り出したのは……落ちこぼれエリートのエリじゃないか。
「エリ!初めてのヒッチハイクにしては悪くない奴らを拾ったな!
対策委員会総員、やることは分かったな?」
「うん」「もちろん!」「準備かんりょーです☆」『こちらも支援準備整いました!』
各々の獲物を構えた対策委員会の前に立つ。ちょうどホシノの代わり、最前線だ。盾は少し心もとないが、まあいいだろう。
「なら始めるぞ無法者ども!愉快な大掃除の始まりだ!!」
僅か12人の人数が、カイザーの大部隊を食らいつくしていく。
対策委員会が前線を張って迎撃し、飛び入り参加した便利屋68が横合いから爆撃して戦線をかき乱す。どちらか一方を狙おうとしても、風紀委員会との戦闘ありきとはいえ信じられないほど高いチームワークでカバーが入り、どちらも落とすことが出来ない。ならば守りを固めて消耗戦に持ち込もうとしても、そこにシャーレからの応援部員3名が噛み付き思うように態勢を整えられなかった。
加えて彼らの上司である理事が人質に囚われているのも、攻勢に転じれない理由だった。叩き上げの軍隊であれば別だったのだろうが、根っからの企業付きであるPMCが自らの首輪を持つ上司に危害行為を取れるはずも無かった。
「くそっ、どうなってる!?たかだか10人ぽっちの相手にどうして押されているんだ!!」
「まずあのガキだ!!あいつさえ落とせれば!!」
PMCが視線を向けたのはエリと呼ばれていたポニーテールの生徒。単騎突入する彼女に銃口が向けられるが、そこにミニガンの弾幕が叩きつけられ、辛うじて耐えた兵士がヘッドショットで刈られていく。
「後ろは気にすんな!前だけ見てろ!」
「りょーかい!」
まるでどこを突けば戦線が崩れるのか分かっているように、動きながらSMGで弱点を突く。戦線が緩んだところに便利屋と対策委員会が攻撃を仕掛けていく。
「あの子何なの?隊の動きが分かってるみたいに的確に……」
「ったりまえだろ!エリは連邦生徒会に入れるくらい頭が良いんだ」
「え、そうなの!?」
「お手本みたいな動きだから、あいつにとっちゃカモがネギトロ背負ってるようなもんだぜ」
「言いたいことは分かるけど……ネギトロ?なんで?」
「あれ、そう言わなかったっけ」
「クレア!どうやら貴様には国語の補習が必要なようだな!」
見る見るうちに減りつつあるPMCの惨状に、ミシガンの盾が嘆く。
「あ……ありえん……こんな、たかが12人に我がPMCが!」
「そんなに信じられんのなら自分の眼で確かめてみるか?」
そう言うとミシガンは首を絞めていた理事を蹴とばす。
「なっ……」
「せっかくだ、真上から見た方が戦況がよく分かるだろうな!!」
振り向いた時には既に遅し!突進紛いのスピードで突っ込んできたミシガンが、クロスさせていた両腕を弾き、理事を大空へ飛ばしていた!
「おわぁぁぁぁぁぁ!!!??」
「喜べ、キヴォトスでこれを披露するのはお前が最初だ!!」
追うようにミシガンも舞い上がり、再び理事を掴み地上へと落とす!
「ミシガン・サンダーフォール!!」
ドゴォォォォォォォォォッッッ!!!
「ギャァァァァァァ!!!!」
その衝撃波はPMC兵士たちを吹き飛ばしながらコンクリートを砕いた!
「……思ったより飛ばなかったな。俺も年を取ったか?」
イグアスは2倍くらい飛ばせたんだがな、そう独り言ちる先生を見て、生徒たちは固く誓った。
―――先生に喧嘩を売るのはやめよう、と。
その後カイザーPMCは撤退、都市部への被害は大きかったものの、大企業から街を守り抜くことには成功した。
便利屋68と分かれた対策委員会は、シャーレからの応援部隊と共に学校へ帰還。ホシノ奪還のための作戦を考えた。
その夜、
人気のないビルに、一人の男が入る。
無機質な自動ドアを通り過ぎ、来客を待っていたように止まるエレベーターに乗り込む。
終始無言のまま、その部屋にたどり着いた彼を、影が出迎える。
「お待ちしておりました、ミシガン先生。あなたとは一度こうして、顔を合わせてお話ししてみたかったのですよ」
英雄を慇懃と迎えたのは、異形の存在。
黒いスーツから見える素肌は、絵の具のような漆黒。顔面には辛うじて顔と認識できる白い罅が走っており、笑みを浮かべた隻眼の男を想起させた。
「お前がホシノのストーカーか。随分と陰気臭い顔をしている」
「クックックッ、手厳しいですね。流石は歩く地獄と呼ばれたお方、初対面でも手加減なしですか」
偉丈夫の射殺すような眼光を目前から浴びながらも、男はその態度を崩すことは無い。
「まぁまずはお入りください。誓って言いますが、罠などは仕掛けていませんので」
窓からの逆光を除き、光源が無い一室。バインダーの光から、業務用と見える机が一つ置いてあるだけの、何もない空間。
その漆黒の空間から、こちらへ呼びかける声がした。
「
声の主を、ミシガンの眼が捉えた。
小さめのスーツからも見えるボロボロの包帯を纏った、杖をついた小学生ほどの身長の男。
異形の男と対照的に白装束にも似た格好、白髪に焼き付いた色素の薄い肌。
まるで見通せない青い瞳が、何の感情も窺えずに黙ってこちらを見ていた。
「おっと、そういえば自己紹介をしていませんでしたか」
背後から部屋へ入り、机に座る黒い男はごく自然体に、滑らかに口を開いた。
「私のことは「黒服」、と覚えていただければ。この名前が気に入っていましてね」
「それとこちら。名前は「レイヴン」、貴方のよく知る傭兵であり―――
我々、「ゲマトリア」の専属傭兵でもあります」
最近のガチャ結果
アイドルマリー:爆死 サオリ:170連目でお迎え(メイドアリス・温泉チナツの所持済生徒すり抜け)
……ネットがアロナへの怨嗟で埋まってる理由を理解しかけてしまった
専用戦技『ミシガン・サンダーフォール』
若き日のミシガンが酒の席で編み出して以降、彼が率いる隊内で恐れられて来た大技。
前方に相手を投げ飛ばし、空中で掴みそのまま地面に叩き落とす。
人はそこに、蛮地の王たる姿を幻視したという。