ミシガン英雄伝記補遺:透き通る世界を地獄が歩く   作:柴猫

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キアヌAC、ネトフリでやると勘違いしてて見れなかった件、復讐ガンダムとごっちゃになってた私の時間帰して……と思ったらまたフロムが新作をお出ししやがった。多忙と希望とがアサルトブーストでどつき合っている今日この頃です。


遂にUAが100000を突破いたしました!
自分の小説がここまで多くの方に読んでもらえたこと、本当に恐縮の次第です。これからも地道ではありますが書き続けていく次第ですので、どうぞ皆さまよろしくお願いいたします!




それはそうと本編どうぞ。


アビドス編:敵か味方か

 電灯の一つも付けられていない、暗室の中。

 

 よくあるサラリーマンの使う机と椅子に坐しているのは、「黒服」と名乗った異形。

 直立不動で対面するのは、星外において「歩く地獄」と呼ばれた男、ミシガン。

 

 その横で、黒服とミシガンを観察するように、パイプ椅子に座る小柄な男。顔立ちは成長途中の少年のようで、その顔つきは機械のように感情の無い、倒錯した男「レイヴン」。

 

 

 

 

 三人の「大人」が揃う中、最初に口を開いたのは黒服だった。

 

 「……あなたのことは知っています。連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在。あのオーパーツ「シッテムの箱」の主であり、連邦捜査部「シャーレの先生」。

 ――そしてファーロン武装船団の元指揮官にして、ベイラムグループ専属AC部隊「レッドガン」の総長、コールサイン「G1」。

 あなたを過小評価する者もいるようですが、私たちは違います。……まずはっきりさせておきましょう。私たちは、あなたと敵対するつもりはありません。むしろ、協力したいと考えています」

 「ほう?」

 

 その言葉を黙って聞いていたミシガンが唸る。

 

 「私たちの計画において、一番の障害になりうるのはあなただと考えているのです。私たちが目的としているのはアビドス高等学校であり、あなたではありません。私たちとしても、敵対することは避けたいのですよ」

 「敵を増やさないその姿勢には賛成だが、「お前たち」を知らん以上は敵も味方もまずないとは思わないか?」

 「……ああ、思えば「私たち」のことをお話していませんでしたね?」

 

 話の流れが黒服に持っていかれそうなところを、ミシガンは引き戻した。レイヴンは、何も動かない。

 

 「私たちはあなたと同じ、キヴォトスの外部の者……ですが、あなたとはまた違った領域の存在です。適切な名前がありましたので、今はそれを拝借して使っております。私たちのことは「ゲマトリア」、とお呼びください。私たち(ゲマトリア)は、観察者であり、探求者であり、研究者です。あなたと同じ「不可解な存在」だと考えていただいて問題ございません。

 一応お聞きしますが、私たち(ゲマトリア)と協力するつもり」ダンッ!!

 

 レイヴンが上げた視線には、机に拳骨を降ろし黒服を睨む総長の姿があった。

 

 「悪いな、蚊が鬱陶しかったもんで話が聞こえなかった。それで?」

 「……なるほど」

 

 ミシガンの()()に対し、黒服は何かが腑に落ちたように呟いた。

 

 「お前の要求は聞いてやった。ホシノはどこにいる?」

 「……クックックッ。あなたの行動に正当性がないことにお気づきですか、先生?拾ってきた犬猫ではないのです。ホシノはもうアビドスの生徒ではありません。届け出を受け取ったはずでは?」

 「ああ、受け取りはしたさ」

 「それでは――」

 「認めるかどうかは「顧問」の俺の裁量だがな」

 「……なるほど。学校の生徒、そして先生……ふむ。これまた、中々に厄介な概念ですね」

 

 既に話し合いは決裂している。ミシガンはどうあってもホシノを諦めないだろう。それはあらかじめ聞いていたことだ。

 故に黒服は揺さぶりをかける。

 

 「ですがミシガン先生、私たちには彼がいることをお忘れないように。彼の脅威は、貴方が身をもって知っているはずです」

 

 ミシガンの視線が背後のレイヴンに向けられる。

 銃を帯びてはいない。だが意味ありげに持っている()()()()()()()()()()が、初めてアロナと会った時のような、不可解な感覚を持たせる。当のレイヴンは虚空を見つめる、無感情に。

 

 「「暁のホルス」。かつてそう呼ばれた小鳥遊ホシノでさえも、彼ならば抑え込むことが出来る。本来ならもう少しホシノを追い詰める必要があったのですが、彼のおかげで私の実験は加速することが出来ました。感謝していますよ、レイヴンさん」

 

 黒服の賛辞に、レイヴンは何も答えない。「……嫌な勘ばかり当たるのは癪だな」と、ミシガンは誰にも聞こえないように独りごちた。

 

 「それに、本来死している、いやレイヴンに撃墜されたはずの貴方が、なぜか五体満足でキヴォトスに現れた……興味深い事象です。協力していただければ、貴方に解を提示できると思いますよ?」

 「ふん。何度も死にかけ過ぎた俺からすりゃ、今更どうとも思わん。ここに呼んだ理由も本人から直接聞いてやるさ」

 「……左様ですか」

 

 黒服は改めて、目の前の男に問う。

 

 「私からの要求は一つです。アビドスから手を引いていただきたい。ホシノさえ諦めていただければ、あの学校については守ってさしあげましょう。カイザーPMCのことについても、私たちの方で解決いたします。あの子たちもどうにか、アビドス高等学校に通い続けることが出来るはずです。そしてこれは、あのホシノさんも望んでいることのはず。いかがですか?」

 

 場を沈黙が満たす。肌をひりつかせる空気が、その場に満ちた。

 

 「ガリア多重ダムでの襲撃作戦」

 「……」

 「変電施設の破壊により、負傷者含むルビコニアン100名が衰弱死。うち5人は子どもでした。

 こういう言い方はあれですが、貴方が作戦のために殺した人間とアビドス高等学校の犠牲に、何の違いがあるのでしょうか。

 貧しく飢える者たちが、口減らしのために子どもを捨てる。あるいは生き残るために他所から奪う。さして珍しくもない、世の中にはありふれた話でしょう。何も私たちが特別心を痛め、全ての責任を取るべきことではありませんし、取る必要もないことです。企業的に言うのなら、コストカット、でしょうか。そしてそれは私たちが始めたことでもなければ、しなかったところで消えるものでもない。

 持つ者が、持たざる者から搾取する。知識の多いものが、そうでない者から搾取する。大人なら、そして貴方とそちらの世界の住人なら、誰もが知っている……厳然たる世の中の事実ではありませんか?」

 

 黒服の口から発せられたのは、およそキヴォトスの人々が知りえぬミシガンの過去だった。情報源は言うまでもないだろう。この手の大人が、相手を何も知らずに話し合いの場に招待することなどまずないのだから。

 

 「貴方は決して、日向の人間ではない。いくら英雄と祭り上げられたとしても、その手を洗う清水にはなりえません。

 貴方も、そして「私たち」も。ただ今いる立場が違うだけです。他人の不幸より自分たちの利益を優先するだけの、よくいる大人の一人に過ぎない。そうは思いませんか?」

 

 言いたいことが済んだのか、黒服は指を合わせ返事を待った。

 

 

 「お前の言う事ももっともだ」

 

 「ふむ……?」

 「確かに俺はろくでなしだ。英雄なんて肩書も、世間様が望むような大量殺人をしたに過ぎない。生きるために奪って殺した、どこにでもいる倒錯野郎に過ぎない。少なくとも子どもの手本になるような大人じゃないのは確かだろうな」

 

 息を整えるのも束の間に放たれた言葉に、黒服は僅かに首を傾げた。しかしそれも束の間。

 

 「だがな。()()()()()()()()()()()()

 「?」

 「連邦生徒会長が俺の所業を知っていたのかどうか、知ったうえで俺を『先生』という立場に引っ張って来たのか、ホシノの思惑はなんなのか。

 そんなもん、俺が死んだ後でたっぷり熟議させていろ。今俺のやるべき仕事(任務)は、一人で勝手に突っ走る背負い込みの激しい子どもの尻拭いをしてやることだ!」

 

 怒気の入り混じった声に、暗室が揺れたような錯覚を覚えたが、なおも黒服は会話を止めない。

 

 「……それは貴方が与えられた命令ではないでしょう。あくまでホシノが選んだ選択であり、彼女の負うべき責任です。貴方がここに来ているのは、彼女たちの救援に応えただけが理由のはず。なぜそこまで関わろうとするのです?

 放っておいても良いではありませんか。元々、あなたの与り知るところではないのですから」

 「俺が上から命令されなきゃ何もできない木偶の棒だとでも言いたいのか?

 これは俺が選んだ仕事で、俺自身に課した任務だ。選択した以上、俺にはそれを全うする義務がある」

 

 話に熱中していた二人は気づかないだろう。

 ミシガンの言葉に、ピクリとだがレイヴンの肩が震えたことに。

 

 「なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?理解できません、なぜ?なぜ断るのですか?どうして?先生、それは一体何のためなのですか?」

 

 初めて素の感情を、いやまるで理解できないものを拒むかのように疑問符をぶつける黒服に、ミシガンはこう吐き捨てた。

 

 「あの馬鹿には責任の取り方を教えなきゃならん。昔に何があったのかは知らんが、責任は共有が出来る」

 「……大人とは「責任を負い、子どもと足を揃える者」、そう言いたいのですか?」

 「逆に聞くが、お前にとっての大人はなんだ?」

 「大人とは、望む通りに社会を改造し、法則を決めて、規則を決め、常識と非常識を決め、平凡と非凡とを決める者です。権力によって権力の無い者を、知識によって知識のない者を、力によって力の無い者を支配する、それが大人です。

 貴方なら、自覚があるはずです。この学園都市における莫大な権力と権限。そしてこの学園都市に存在する神秘。その全てを、一時的にとはいえあなたの手中に収まりました。

 そうしてキヴォトスの支配者になりうる資格を、しかしあなたはそれを迷わず手放した。一体、その選択が何の意味を?真理と秘儀、権力、お金、力、それら全てを捨てるという無意味な選択を、どうしてなのですか!」

 

 刹那、黒服の目の前に広げられていた書類が飛び散り視界を覆った。紙束が床に散らばる中、黒服の視界には拉げた机が目に入った。

 それはミシガンからの警告。そして明確な拒絶であった。

 

 「……良いでしょう。交渉は決裂です、先生」

 「それは最初から分かってる。それで、ホシノはどこだ?」

 「クックっ、ク。話以上に頑固なお方ですね……」

 

 息と、それから身だしなみを整えた黒服は訥々と話し出す。

 

 「ホシノは、アビドス砂漠のPMC基地の中央にある、実験室にいます。「ミメシス」で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。それを、生きている生徒に適用することができるか―――そんな実験を始めるつもりです。そう、ホシノを実験体として」

 

 ちらりと、背後にいるレイヴンを垣間見たミシガンだが、彼の眉はピクリとも動いていなかった。

 

 「そして、もしホシノが失敗したらあの狼の神が代わりに、と思っていたのですが……どうやら、前提から崩れてしまったようですね」

 「そうか」

 

 ミシガンはそれだけ話を聞くと、扉へと歩き出した。顔も見せずに避けたレイヴンを一瞥して。

 

 「―――微力ながら、幸運を祈ります」

 

 それと、と。黒服は席を立って捻じれたネクタイを直して言う。

 

 「ミシガン先生。

 ……ゲマトリアは、あなたのことをずっと見ていますよ」

 

 バタン!と勢いよく閉められた扉が返答だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、ゲヘナ学園。

 キヴォトスで最も危険な場所の一つとして、良くも悪くも内外広く知れ渡っているその自治区に、俺は足を運んでいた。

 

 「……ん?げっ!お前!」

 「人の顔を見るなり随分な態度だな、銀鏡イオリ」

 

 つい先日交戦したばかりの、ゲヘナ風紀委員会の突撃隊長だ。風紀委員会の中でも一目置かれているらしく、調べればすぐに名前が分かった。

 

 「な、何しに来た!まさか、風紀委員会にカチコミに来たのか!」

 「お前俺を何だと思っとるんだ」

 「初対面の子供の顔に一発入れたモラルのなってない奴以外にないだろ!」

 「顎は顔面じゃないからセーフだ」「いやアウトだろ!!」

 

 なよっちいことを言いやがる。オールバニーなんか「もう二度と娼館で働けない顔になってせいせいしました!」とか口走っていたものを。

 

 「空崎ヒナはいるか?一報は入れたんだが、奴と直接話がしたい」

 「……ゲヘナの風紀委員長に、そんなに容易く会えるとでも思ってるのか?」

 「反省用紙100枚書かされた奴より忙しい奴がいるとはな。流石はゲヘナだな」

 「褒めてるのか煽ってるのかどっちかにしろ……!」

 

 随分とあったまっているらしいが、俺にこの程度の怒気は通じない。だがイオリは何かを思いついたのか、ふと悪い顔になった。

 

 「そうだなぁ、どうしても会いたいなら、土下座して私の足でも舐めたらいいぞ?」

 「言ったな?」

 「ああ。ま、大人の先生には無理だと思――」「フゥンッッ!!」

 

 足を構え、意外にも綺麗なゲヘナの石畳の床に頭をぶつける。俺の頭を中心として蜘蛛の巣状に罅が入り、間近にいたイオリは予想外の衝撃にふらついて体勢を崩した。

 

 「うわぁっ!??は!?ちょ、頭突きで石畳割る奴がいる……」

 

 イオリの顔を見ようとすると、視界の一部が赤く染まった。どうやら額を少し切ったらしい、言われてみれば頭も少し浮ついているようだ。

 

 「次はお前の足を舐めればいいのか?」

 「いや、ちょ、ま、まって」

 「待っている暇はない。人命に関わる事態だ」

 

 腰の抜けたイオリに近づくと、横合いから誰かが近づいて来る気配を感じる。

 

 「さっきの揺れは……っ先生!?」

 

 そのまま風になるような動きで近づき、俺の顔に近づいて来る。……化粧から隈がはみ出ているのが、少しボーっとした頭でも理解できた。

 

 「血が……何があったの?説明して、イオリ」

 「え、いやその」

 「土下座して足を舐めれば風紀委員長に会えると聞いたんだが、どうやら俺の頭一つで済んだらしいな」

 

 割れた床とイオリをじろりと睨みながらも、感情を抑えて風紀委員長はこちらを見た。

 

 「単刀直入に言う。空崎ヒナ、ホシノを連れ戻すのに協力してくれ。見返りならいくらでもやる、今は一分一秒も惜しい」

 「……そんな怪我をしてまで、生徒のために土下座してくれるのね。先生は」

 「どうだ?」

 「元をただせばイオリの不手際が原因だし、断るつもりもないわ。イオリ、先生を医務室に運んで。迅速に」

 「は、はいっ!」

 

 ヒナの圧に敬語が飛び出すイオリを見て、少しこいつのことを見誤っていたかと自省する。

 

 「手当が済んだら、詳しく話を聞くわ」

 「感謝する」

 「いいのよ、先生には元から興味があったから」

 

 そう微笑んだヒナの顔は軽く、こいつもやはり子どもなのだと当たり前のことをまた染み入ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックマーケットに建つビルの一室。

 引っ越ししたてなのか、ダンボールの山が積み重なった味気ない部屋の中央で、陸八魔アルは目の前の黒電話を睨んでいた。

 

 「社長、ホントに受けるの?」

 「……」

 「正直言って、今回の依頼はかなり危険だよ。シャーレからの報酬金は高額だけど……やめておいた方が良いと思う」

 

 カヨコの忠告を、アルは聞き入っているのか無反応で返す。ムツキはアルの次の行動を楽しみに笑い、ハルカはただ直立不動。良くも悪くもいつも通りの便利屋だった。

 

 「……っ!」

 

 覚悟を瞳に宿したアルが、受話器を取った……その時、

 

 ピポピポ、ピポピポ

 

 「あ、あれ?」

 

 コール音がしたのは黒電話ではなく、アルのスマホからだった。困惑するアルの耳に、ムツキの声が入る。

 

 「アルちゃーん、そういえば先生にここの事務所の電話番号教えたっけー?」

 「はっ!」

 「……あ、あの。まだ電話線の契約入っていません、アル様」

 「な、なんですってーーー!!?」

 

 しまらないアルの決意表明に、カヨコはため息をつくしか無かった。

 

 

 

 

 『遅刻した奴はいないようだな!では作戦内容を伝達する、一字一句聞き漏らすな!』

 

 気を取り直してビデオ通信を繋いだスマホから聞こえてきたのは、ミシガン先生の大音声。音量は下げているはずなのに部屋中に響く声に、便利屋一同は聞き入っていた。ビデオの向こうの先生が頭に包帯を巻いているのが気になったが、質問する時間は無かった。

 

 『対策委員会、書記の奥空アヤネです。今回の作戦内容は、私から説明させていただきます』

 「あ、メガネっ子ちゃん久しぶり~って、ほどでもないか」

 『ムツキ!ブリーフィング始まって早々に私語とはいい度胸だな!』

 「ちょ、ちょっとムツキ!出鼻挫かないで!」

 

 ブーブーと不満を漏らすムツキは一旦無視して、ブリーフィングは続く。

 

 『……コホン。今回の作戦目標は、カイザーPMC第51基地を襲撃し、同基地に囚われているホシノ先輩を救出することです。今回の作戦にあたり、便利屋68の皆さんとシャーレからエリさん方救援部員。そしてゲヘナ風紀委員会から空崎ヒナ委員長含む4名との合同戦線を組みました』

 『ん、みんなありがとう』

 『そうですね☆私たちだけでは、基地の襲撃は難しかったと思いますし……本当に感謝しています』

 「フフッ。鼻につくカイザーの鼻っ柱を折れるんだもの。こんなおいしい話は無いわね」

 『……あんたら大将の店吹っ飛ばした事忘れたの?』

 「うっ!!」

 『セリカっちそれであいつら目の敵にしてたのか……』『いやまあ、妥当じゃね?』

 

 切れ味鋭いセリカの言葉にダメージを受ける便利屋社長。ついでに下手人の平社員も画面外でビクビクしていたが。

 

 「……作戦行動中は風紀委員はこっちを襲ってこない話は本当?」

 『そう言ってるけど、行政官さん?』

 『まぁ、我々としては逆探知でもして貴方たちの居場所を突き止めたいところですが』

 『アコ。今は便利屋に喧嘩を売る時じゃない。分かってるわね』

 『は、はい委員長……』

 

 ひとまず話が落ち着いたところで、アヤネが地図を出す。手作り感あふれるそれは、カイザーの基地を測量した、おおまかな情報だった。

 

 『ゲヘナの皆さんから送られたデータを地図上に書き出してみました。ホシノ先輩が囚われているのは、恐らく基地の中央、管制塔付近だと推測できます。ここのどこかに囚われているホシノ先輩を救出すれば、作戦はクリアです』

 『当然ですが、基地には相応の戦力が待機しているでしょう。更に言えば、51基地の北と東、西方向にも中規模な基地があり、増援が来る可能性もあります』

 『だからあたしらがやるべきなのは、増援を足止めしつつ、素早く対策委員会の委員長さんを救出することだな。こっちじゃどう逆立ちしてもカイザーの物量には敵わないからな』

 

 軍事基地ともなれば、詰めている兵士の数は相当なものになるだろう。それをここにいる僅か12名で突破しなければならない。

 どこか遠いことのようだった作戦が現実であることを感じ、アルは心中で絶叫した。大将と先生、それになんかヤ〇ザみたいな女将さんに飯を奢られたとはいえ、断るべきだったのではと遅まきながら猛烈に後悔していた。

 ……いやしかし、あれほど啖呵を切ったのならばここで逃げるのはアウトローじゃないだろうよと声が聞こえた以上、もう無視するなんて出来ない。もうなるようにやるしかないのだ。

 

 『更に懸念すべき点が一つあります』

 「ま、まだ何かあるんですか……!?」

 

 そういって端末の画面に表示されたのは、カイザーの軍事基地を隠し撮りしたのであろう数枚の写真だった。

 そこに写されていたのは、数階建てのビルはあろうかという巨大なロボットが、カイザー基地を跋扈している写真だった。しかもその体躯に合うライフルを装備し、キャノン砲と思しき筒を背負っているものまでいる。

 

 『一カ月前、うちの情報部が潜入して撮ってきた写真よ。報告では、このロボットが基地周辺を巡回していたらしいわ』

 「これ、何……?」

 『MTだな』

 「MT?」

 『正確にはマッスルトレーサー。本来は建設などを行える汎用機械だが……汎用性の高さを活かしてこういう武装化も出来る。』

 「あ、聞いたことあるよアルちゃん。確かTOYBOXちゃんも元はRaDの戦闘用MTみたいなこと、言ってなかったっけ?」

 

 そういえば言っていたような気がする。余りにも姿が違いすぎるため同じ種類のロボットだとは思えなかった。

 MT。先生のいた場所ではこうした人型機械というのは普通にあり、建設や警備、果ては戦争にまで使われる代物だという。レイヴンはあくまでMTだから期待するなと言っていたけれど……どういう意味だったのか?

 

 『……ひとまず、話を戻しますね。カイザーの軍事基地を突破するには、このMTをどうにかしなければなりません』

 「これ、戦闘能力はどれくらいあるの?」

 『先生の話じゃ、ゴリアテを軽量化して機動力を得たくらいらしい。撃破するのは出来なくはないそうだけど……それでも数がいるのがなぁ』

 『しかも報告では、確認できただけで10機はいたそうです。今なら増産されて配備されていてもおかしくない……』

 「そ、それなら潜入するのがいいんじゃないですか?」

 『それは考えたんだけどよ……』

 『基地に入る入り口は南北の2つのみ。その上基地を覆っている高い隔壁と、周辺警戒の監視塔が建てられています。』

 『それに基地周辺は一面が砂原……隠れる所が一切ありません。それに基地にたどり着けても、入り口隔壁をどうにかしなかれば入ることはできません』

 「爆破すれば何とかなると思うけど……それじゃ結局MTちゃんたちを相手しないといけないしなぁ」

 

 上手くやり過ごせないかどうか模索するも、中々いい案が浮かばない。

 

 『……やはりあいつしかないか』

 『先生?』

 『この手の作戦が得意な奴を知っている。今回線を繋ごう』

 

 先生がそう言うと、対策委員会と風紀委員会の表示された画面にもう一つ画面が追加される。

 ……?あれ、暗いけどこの部屋どこかで見たことあるような、と思い出しかけたその時。

 

 

 

 『―――本当に、俺を、雇う気ですか、総長』

 

 声変わりもしていないだろう、途切れ途切れな声が聞こえた。

 

 「レイヴン!?」

 『えっ!?』『この人は……!』

 『……!』

 

 『何弱気を言っているG13。この手の仕事はお前の得意分野だろうが。壁越えに比べれば赤子の手を捻るもんだろう?』

 『……まぁ』

 

 出来るの!?どうやって!?と内心白目を剥くが、話は止まらなかった。

 

 『貴様も金をちょろまかす企業にあくせく評価を稼ぐ必要は無いだろう。ダムの時の授業料を払ってもらおうか。報酬はシャーレで出す。受けるか』

 『いつ、知ったんですか、それ……』

 『ちょ、ちょっと待って先生!本当にこの人雇うの?便利屋はともかく、うちらに襲撃かけてきたのよ!?流石にちょっと……』

 『そもそも、どうやってMTを倒すの?この人ミシガン先生みたいに戦えそうには見えないけど』

 『何を言っとる。うちの役立たずの4番手と5番手の背中に泥を塗ったのがこいつだぞ。カイザー襲撃など出来るに決まってる。そうだろう?』

 『なんで、俺を、選ぶんですか?』

 『お前しかいないからだ』

 『―――』

 『ホシノを救うのには、お前の力が必要だからだ』

 

 こちらに向けてはいない、そう分かっていても背筋が伸ばされる熱を宿した瞳にあてられ、会議の場が静まり返る。

 自然と、声が出ていた。

 

 「……私からも、お願いするわ」

 「社長……!」

 「貴方は信用できる。この私が保証してあげるわ」

 

 長いような時間が経ったのち(微妙な空気に心臓が止まりそうだった)、嘆息したような、何かを飲み込んだように、レイヴンが顔を顰めた。

 

 『……分かりました。その依頼、受けます』

 「ほ、ホントに受けるの?」

 『お前らが、言ったん、だぞ?

 こちらが突撃、兵器破壊を、中心に、敵の注意を、引きます。その隙に、救出を』

 『よし!これでやるべきことは決まったな!

 では全員準備を始めろ!愉快な遠足の始まりだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 アビドスの路地にて、小さな屋台を切り盛りする人…犬影が二つ。

 

 「手が止まってるよ柴!そんなんじゃお客さんの列が散っちまう!」

 「ふぅ、女将さんの人気ぶり、全く衰えてねぇや。これは本気出さねぇとな……!」

 

 屋台として復活した柴関ラーメン。アビドスの名物としても人気のあるその店に、D.Uきっての大衆食堂の店主が助っ人に来たとあってか、店の前には長蛇の列が出来ていた。先ほどもやたら食べまくる金髪の生徒をようやく満足させた後なのだが、それでも息つく暇もなく注文が飛んでくる。

 

 「……セリカちゃん、無事かね」

 「大丈夫だよ、大将。セリカちゃんもアビドスの皆も、凄い子たちさ。きっと夕方には、全部終わらせて帰ってくるさ」

 「言うようになったじゃないか。このまま全員片付けるよ!」

 「おう!」

 

 ダメになったなら、またやり直せばいい。お客さんが消えない限り、店は消えない。かつて隣にいる師匠が溢してくれた一言を心の中で思い出しながら、柴大将は空に向かって呟く。

 

 

 

 「行ってこい、対策委員会」




ミシガン(イオリの足は良く焼けたチキンみたいだったな……何を考えとるんだ俺は)
イオリ(いま、私の足を食的な目で見られたような……)
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