その日は、いつもより風が吹いていた。砂埃が目に入り鬱陶しいことこの上ない、面倒な日だった。
いつものように監視塔に登り、何もない砂漠を監視する代り映えの無い毎日。でも少しだけ期待している部分もある。
先日、ここのトップがMTとかいうロボットを
ただあれのおかげで、うちらも転属されるんじゃないかって噂が立っているんだ。こんな砂漠に陣取ったってなんも面白くないし、俺としては願ったり叶ったりな噂だった。
そうしていつもの哨戒をしてるうちに、ふと何か見えた気がした。
風で砂埃が巻き上がってるだけだろ?そう茶化す同僚に、それもそうかと思いつつ、念のためもう一度確認しようと双眼鏡を向けた。
そこにいたのは、
「て、てきしゅ」
そこから先の言葉は、爆風がさえずって遮った。
『―――攻撃を確認しました!』
「作戦開始!突入しろ、ドラ娘ども!!」
カイザー基地が爆炎を上げたと同時、砂丘から4台のバギーが飛び出す。
ゲヘナ風紀委員会・便利屋68・シャーレ青少年健全育成クラス、そして今回の主役であるアビドス廃校対策委員会。そして先に暴れているおまけ付き、今の俺が出来るコネを搔き集めた戦力だ。
風紀委員会といっても戦力数はオペレーターのアコ含め4人だけだが、委員長のヒナ直々に出向いている特別仕様だ。ここまで協力されるとは思っていなかったが、ヒナにとっては好印象に見えたそうだ。……あの程度で好印象だとすると、ヒナにとっての大人が何なのか聞きたくなるが、まぁこの先嫌でも分かることだろう。
『交戦距離、入ります!』
「ヒナ!」
『了解』
見た目にそぐわない大柄な機関銃を構え、斉射。もはやマシンガンの物量ではない紫紺の津波が、カイザーの軍勢を薙ぎ払っていく。
「玄関掃除は終わらせた!ここからはカビ掃除だ、手を抜くなよ!」
「ん、任せて」
ドローンを起動させたシロコが、ミサイルで隔壁を爆破開通させる。俺も一台くらい貰っておくか。
バギーを滑らせ停車。基地中央へ向かう。
行く先々で黒煙が上がっているが、基地としての機能はまだ健在なのか軍勢は健在だ。MTはきっちり掃除してくれたみたいだが、元からここにどれほど詰めていたのかが分かる。
『敵発見!まもなく接敵します!みなさん、対応の準備を……』
それと共に耳に届く風切り音、直後敵部隊が爆発に呑まれる。
「あれは……」
「砲声からしてL118……トリニティの牽引式榴弾砲?」
「トリニティがいるの!?なんでここに――」
『あ、あぅ……わ、私です……』
広域回線に現れたのは、5と書かれた紙袋を被ったトリニティの制服を着た生徒。
「あっ!ヒフ――」
『ち、違います!私はヒフミではなく、ファウストです!』
「ファウスト……?」
「え!あ、あの顔はあの時の……!」
「あの、どちら様でしょうか?」
『え!?ゲヘナの方もいらっしゃったんですか!?え、ええと……!?
こ、このL118は、トリニティの牽引式榴弾砲ですが……と、トリニティ総合学園とは一切関係ありません!射撃を担当している皆さんにも、そう伝えておきましたので……』
「ファウスト!遅刻するなら先に一報入れろ!!だが悪くない土産だ、五花海にも伝えておけ」
『え、ええと……つ、伝えておきますね。あはは……』
対策委員会以外は突然の闖入者に混乱しているようだが、まぁ、説明は後で良いだろう。
「ま、まさかまた覆面水着団に会えるなんて……」
「おい、まだ教えてなかったのか?」
「面白そうだから放置しちゃった♡」
「ごめん先生。面倒なことになっちゃった……」
「……アルには後で言っておこう、ムツキも後で呼び出しだ」
えー、と顔を引きつらせるムツキ。こいつら戦場だと言うのに弛みすぎだろう。キヴォトスとはいえ、この態度は少々緩すぎるな。あとで補講のプログラムに付け足しておくか。
そうして視線を目の前に戻す。
そこには砲撃を耐えたと思しき、一台のゴリアテが。
「!?ヤバい皆、全員避けろ!」
『舐めやがって……これでも食らえ!』
「先生!隠れて!」
ゴリアテの主砲が赤みを帯びる……その直前。
「っ!?横!」
ヒナが叫ぶと、施設の隙間を突き破って出てきたのは
『な―――』
驚いたゴリアテが両腕のガトリングを回し始める。だが遅い。
50メートルはある距離を一瞬で詰め、左腕のパルスブレードを二度振るう。
両腕を叩き切られ姿勢を崩したゴリアテの主砲に、バーストライフルの銃身を押し込んで発砲。小気味いい銃声が三つ響いた。
沈黙し崩れ落ちるゴリアテを背に、その機体はゆっくりと振り返る。
丸みを帯びた脚部はアーキバスの量産型フレーム。非対称に四角四面な腕部は、恐らくBAWSの旧型ACのそれか。コアパーツはMELANDERのカスタム仕様……奴にG13のナンバーをくれた時に貸与したものだったか。
頭部パーツはあいつがよく付けていたRaD製だろうか。アンテナや追加装甲が付けられたそれは見たことが無い。新品か、もしくはあいつ自身のカスタム品か。
『―――戦場でこうして、会うのは、初めてですね。総長』
ACから聞こえてきたのは、舌足らずな声。そういえばこいつの声はルビコンでは終ぞ聞くことが無かったな。
「G13!相変わらず元気な機体捌きだな!大掃除はもう済ませたか?」
『ほとんど、終わりました、後は―――』
ACが目を向けた先には、こちらに迫る機甲部隊。戦車にゴリアテ、ヘリに加えてMT混じりのそれからは、聞き覚えのある怒号が聞こえた。
『おのれ……レイヴン!貴様我々を裏切るつもりか!ゲマトリアの飼い犬の分際で、カイザーに歯向かうとは!』
「あいつは……!」
「敵の増援多数!恐らくカイザーの動ける全兵力が……」
全速で迫るカイザーPMCの総力に、G13は自然体に、だが冷静だった。
『―――傭兵は金払いの良いところに付く。まともに金も払えない赤字企業より、信頼出来る組織に付くのは目に見えて明らかだろうに。カイザーの幹部席は随分安いのだな』
『貴様……!!』
先ほどの舌足らずな喋り方ではない、朗々とした口が理事の眉間に皺を作らせる。
『それから、もう一つ』
右肩に備えられた連装グレネードが、カイザーの部隊に向けられる。
『俺の手綱を握れるのは、一人しか知らない』
着弾点をずらして放たれた二発の榴弾が、機甲部隊を襲う。浮足だったカイザー部隊へと突っ込み、ライフルとブレードで兵器群を次々に撃破していく。
「ぼさっとするな!とっととホシノを迎えにいくぞ!」
G13の戦いぶりを見てか、呆然としていたドラ娘どもに喝を入れ、黒服が送ってきた座標へと向かう。今のところ100%信頼できるものではないが……
(G13を送っているんだ。この状況で不意打ちするほど、あいつは金の亡者ではない)
ウォルターの育てた猟犬だ。金が全て、という考えには逆さまになってもならないだろう。
自分を殺した時と、恐らく同じように。
昔のことを、思い出していた。
もう二度と戻らない、おじさんには若すぎる、
自分から手放してしまった、大切な思い出。
失って始めて気づいた、〝奇跡〟みたいな日常。
痛いほど分かってたはずのそれを、私は、また……
「―――ユメ、せんぱ」
ドガアアアァァァァンッ!!!
「!?(一体、何が……)」
突然視界を覆い尽くす日光に、目を閉じかけた。
「お目覚めには少し早かったか、眠り姫?」
声が、出なかった。
そこにいるのはだって、あんな酷いことを言ってしまった、あの大人で。
「「「「ホシノ先輩!!!!」」」」
皆が、いた。
「あ、あれ……みんな、どうやって……だって、私は……」
「ったく手間を取らせやがって、母校でお昼寝とは随分贅沢なサボりじゃないか」
いつものフルメタルジャケットではない戦闘服の埃を払う先生は、普段と変わっていなかった。
本当に、いつも通りに。
ここに来るのは当たり前だと言わんばかりに。
「―――はは。そっか……大人が……ね」
自分でもよく分からない気持ちが、ぐるぐる渦を巻いているのだとようやく分かり始めた。何か言いたいのに言葉が見つからない、生まれて初めての感覚だった。
「……お、おかえり、先輩!」
「ああっ!セリカちゃんに先を越されてしまいました!恥ずかしいから言わないって言ってたのに、ズルいです!」
「う、うるさいうるさい!!順番なんてもうどうでもいいでしょ!」
「……無事でよかった」
「ホシノ先輩、おかえりなさい!」
「おかえりなさい、です!」
「―――おかえり、ホシノ先輩」
ああ、
「……ふ、あはは」
もう、変な笑い声しか出ないや。
「……何だかみんな、期待に満ちた表情だけど……求められているのは、あの台詞?」
「ああもうっ!分かってるなら焦らさないでよ!」
ああ、セリカちゃん怒らせちゃった。なんだか先生にすごく似てきているけど、大丈夫なのかな?多分、心配ないだろうな。
「……うへ。まったく、可愛い後輩たちのお願いだし、仕方ないなぁ……」
後輩たちにカッコ悪いところを見せるわけにはいかないから、何度も何度もまばたきして。
「―――ただいま」
「う”う”ぅぅぅぅいい話だぜぇぇぇぇ!!」
「クロエ派手に泣きすぎ、もうちょっと抑えろよ……」
「……ふふっ」
「社長、ハンカチ要る?」
「ふえっ!?べ、別になな、泣いてなんかいないわよっ!?」
『はぁ、騒がしいこと……』
「何だか私たち場違いな気がしてきました……」
「……そうね」
気づくと、皆の後ろに思いもよらない人たちがいるのに気付いた。
ゲヘナの風紀委員たちに便利屋の子たち、それに見覚えのない不良みたいな生徒……よく見たらシャーレの腕章を付けてる。風紀委員長ちゃんを除いて皆埃だらけで、上で聞こえた戦闘音が嘘じゃなかったんだと、遅まきながら気づいた。
「お前の迎えに用意してやったんだ。ファウストも来ていたぞ」
「え、ヒフミちゃ「ホシノ先輩ストップ!」もご……。そっか、皆が……」
私一人の為に、ここまで多くの人が動いてくれた。
これだけ多くの人を、この先生が動かしてくれたんだ。
そう思うと何だかまた胸が熱くなって、また零れそうになってくる。
遠くから爆発音が聞こえてくる。まだカイザーがいるのかと思ったけれど、広域回線に聞えて来た声は予想だにしていないものだった。
『総長、カイザーは殲滅、しましたが、少しまずい、ことが』
「どうしたG13、こっちはもう寝坊助は起こしたぞ」
『広域レーダーに、感あり。地中から何かが、来ます』
「レイヴン……!?」
一瞬、何も考えられなくなった。
どうしてレイヴンが、黒服の仲間がここにいるのか。あの時を思い出して、背筋が凍る。急いで武器を持とうとしたその時。
砂漠に鯨が打ちあがった。
「な、なんだあれ!?」
シャーレの不良ちゃんが指を指した先にいたのは、奇怪な兵器。蛇のように長い胴体で砂漠に穴を開けながら、カイザー基地を跡形もなく破壊していくそれ。
連なる3つの眼で睨みつけながら、頭上に燦然と輝くヘイローは、ただの兵器とは思えない気配を纏っていた。
「でけぇ……!」
「委員長!早く避難しましょう!」
「何ですかあれ……カイザーの兵器?」
「やっとホシノ先輩を助けたのに……!」
シロコちゃんが蛇を睨みながら零す。
ここは、退くべきだ。助けてもらってあれだけれど、早く避難した方が良い。
「先生!早く逃げましょう!あいつがこっちに来る前に!」
「ご、ご命令とあれば爆薬抱えて突っ込みます!アル様!」
「あはは……流石にやめとこうよハルカちゃん」
「残ってる爆弾全部使っても、破壊できるかどうか……」
言ってる間にも白蛇はこっちへ迫ってくる。
急いで避難しないと間に合わないかもしれない。シロコちゃんから盾と銃を渡され、先生に呼び掛けようとする。
「―――G13」
『はい』
「あのミミズ野郎をぶちのめせるか?」
「先生!?」
耳を疑った。ここに来てるということは、レイヴンはあのロボットに乗ってきているんだろう。
その気になれば、あいつは人を殺せる。容易く、呆気なく。
「何言ってるの先生!?早く逃げよう!」
「あれがアビドスに来ないとも限らんだろう」
「でもあいつは、先生の事を―――」
「ホシノ」
こっちを見た先生と目が合った。
「俺くらいになりゃ
「先生……」
「今はあいつを信用しろ。あいつはレッドガンのおまけだが、悪くない働きは出来る」
白蛇が齎す破壊音の中、静寂がその場に満ちた。回線から聞こえた幼げな声が、沈黙に一滴を垂らす。
『……そう、ですね。レッドガンのおまけに、相応しい働きを、見せましょう』
「言ったなG13!なら気色の悪いゴカイ野郎をアビドスサソリの餌にしてやれ!」
「そんなサソリいましたっけ......?」
了解、と短い返答の後。レイヴンの機体が姿を現わす。巨大兵器と向き合うその姿に油断は無く、負けるつもりも更々ないと言った雰囲気だった。
『ちょうど、試したいものが、あるんだ。デカグラマトンの預言者、相手なら、不足ない』
ちょうどその時、上空に巨大なヘリが飛んでいるのが見えた。ここから見てもかなり巨大な、それこそACが入るくらい大きなものだ。
ハッチから何かが落とされると、レイヴンのACは上空へ飛び上がる。見かねた白蛇がなんとミサイルを発射するも、横に下にと回避するレイヴンには当たらなかった。
そして、レイヴンが布にくるまれたそれを、露にする。
先生を襲ったグレネードとミサイルを捨て、背中に装着されたのは、黒光りする六連の刃。翼のように収納されたそれが、今度は右腕へと装着される。
けたたたましく鳴り響く機械音が、みんなの耳朶を揺らす。耳を塞ぐ間に、右腕から延びる六つ刃が回り始め、刃自体も駆動し始める。その様はまるで……
「ちぇ、チェーンソー!!?」
誰が言ったのか分からない位の轟音が鳴り響く中、レイヴンは真っ直ぐ白蛇の頭に落ちていく。
白蛇はミサイルを発射、それは左腕から延びた緑色の光刃が防ぐ。大口を開けた白蛇が、その口内が眩い光を増していく―――
『それを、待っていた』
下向きにブーストしたレイヴンの機体が、その大口目掛けて迫っていく。
そして
『これで、決める』
圧倒的なまでの暴力が、白蛇の口を突き破った。
横っ腹を裂くように刃を通し、真白の外殻をバターか何かのように引き裂く。
柱のように停止した白蛇が、集束する光と共に爆発した。
「あれが、AC......」
青空の下、燃え盛る基地と白蛇の前に降り立ったそれに、声を零した。
カイザーも黒服も、ここにアビドスの危機は去ったのだ。
黒々と燃え盛る火種を残して。
何とか、何とか新年前に投稿出来ました...
この小説も4月に書き始めてここまで来れました。いつも拙作を読んでくださる皆様のおかげです。
これからも燃え残ったモチベーションに火をつけて頑張っていく所存ですので、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、もう短いですが良いお年を
・対警備組織規格外六連超振動突撃剣
レイヴンが改造したAC専用規格外武装。とある封鎖惑星で作られた武装をサルベージして改造しており、現世代ACに合わせて使用負荷が極限まで下げられている。なお非売品である。