ミシガン英雄伝記補遺:透き通る世界を地獄が歩く   作:柴猫

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・レイヴンの使う機体

AC NAME:CINDER 4
R‐ARM UNIT;MA-J-200 RANSETSU-RF
L-ARM UNIT;HI-32: BU-TT/A
R-BACK UNIT;SONGBIRDS
L-BACK UNIT;BML-G1/P32DUO-03
HEAD;HC-2000/BC SEEKER EYE Ⅲ(オリジナル)
CORE;BD-012 MELANDER C3
ARMS;AA-J-123 BASHO
LEGS;VP-422
BOOSTER;FLUEGEL/21Z
FCS;IB-C03F:WLT 001
GENERATOR;DF-GN-06 MING-TANG
EXPANSION;ASSAULT ARMOR

・HEAD;HC-2000/BC SEEKER EYE Ⅲ
レイヴンズ・ネストの経営主任が改修したAC用頭部パーツ。
広範囲な成分分析を目的として探査性能を強化したリビルト品は、元の素朴な面影を出来る限り残した改造が施されている。



エピローグ:Alea jacta est ―誰も、過去には戻れない―

 学園都市キヴォトスは、文字通り生徒たちの都市だ。

 ゆえに大人向けの商品、特に酒やタバコといった嗜好品はその流通が固く制限されている。どの惑星にもこんな都市は無い、ある種異常な都市国家。

 ただだからといって、そうした大人向けの店が無いわけではない。

 ここD.Uの奥まった路地にポツンと暖簾をかけている店も、そのうちの一つだ。

 

 そんな店のカウンター席に、真っ白な誰かが座っていた。

 130にも届かない小さな背丈は、一見小学生の子どもにも見える。床についていない足をプラプラさせているのも、それを助長させるだろう。

 

 だがその白さは、何度も巻き直されて薄汚れた包帯の色であり、色素が消えた生気の無い毛髪が相まったがゆえの、”きれい”とは程遠い褪せに褪せた色落ちゆえの濁白であった。おまけにその包帯が包んでいるのが、隠し切れない程の火傷の痕だと分かればどうだろう。健常とは程遠い死人染みた姿には、誰も寄り付こうとはしない。

 カウンターに載せられているのは枝豆と半分ほど減ったお冷。枝豆の方には全く手を付けておらず、ただそこでずっと待っている様子だった。

 

 建付けの悪い扉が、バンと開かれる。

 

 「話は付けてきたぞ、G13」

 「……総長」

 

 ミイラ男、レイヴンの前の現れたのはシャーレのミシガン。どかっと勢いよく隣に座り、胸元からそれなりの厚みのある封筒を取り出す。

 

 「報酬だ。セミナーの会計と連邦生徒会財務室長の小言に耐えながら払ってもらった金だぞ、大事に使え」

 「ええ。今後、ともよろしく、お願い、します」

 

 その言葉を皮切りにミシガンはレイヴンの手元にある枝豆を掴み、レイヴンもそれに手を付け始めた。

 

 「しかし派手にやったもんだ。あのまま帰ったかと思えばその足でカイザーローンの本社を襲撃するとはな、いくら未納だったんだ」

 「そう、ですね。合わせてだいたい、1億を、超えるくらい、です」

 

 

 つい先日、ミシガンが主導した作戦によるホシノ救出作戦において雇われたレイヴン。

 突如として現れた未確認兵器すらとっておき(グラインドブレード)で迎撃したレイヴンは、瓦礫に埋まっていたカイザー理事を引っ張り出して簀巻きに――器用なことにACに乗ったままで縛った――した後、そのまま飛び去った。

 また学校に帰ってこれて目頭が熱くなっていたホシノにブレーンバスターとキャメルクラッチでしごいていたミシガンも、翌日の報道には眉間をもみ込まざるを得なかった。

 

 

 〈カイザーローン襲撃!突如として現れた未知の巨大ロボット!!〉

 〈犯人はレイヴンと名乗る傭兵斡旋人!?未払の報酬金を払えと理事の身柄を盾に脅迫か?〉

 〈明るみに出たカイザーローンの金融トラブル。被害者の中にはあのアビドス高等学校も〉

 〈連邦生徒会、カイザーローン本社に立ち入り監査。プレジデント「捜査に全面的に協力する」〉

 〈傭兵派遣斡旋所、レイヴンズ・ネストとは?未知の組織の真相に迫る!〉

 

 〈カイザーローン、レイヴンズ・ネストと示談成立。具体的な金額はどこまで膨れるか〉

 

 

 あろうことか飛び去ったその足でカイザーローンに襲撃を仕掛けたようで、理事を盾にしながら破壊行動をしつくすその様は、銃撃戦と爆発が花のキヴォトスにおいても相当に衝撃的だったようだ。

 まぁそうなるのもしょうがない。キヴォトスでも指折りの大企業に真正面から喧嘩を売り、しかも売り方がACによる直接訪問販売ときた。これを常識外れ、あるいはウォルターの猟犬と呼ばずして何と呼ぶのか。

 

 「そこまで未払金を放ってまであのおじさんが欲しかったのか。お前の契約相手は度し難い変態だな」

 「否定は、しません、が。言い方は、他に、あるの、では?」

 「これくらいがちょうど良かろう」

 

 いつの間にか注文していたのか、ミシガンの目前に並々と麦酒の注がれたでかいジャッキがごとんと置かれる。まだ日も沈むには高いのだが。シャーレにいきなり左遷させられて、酒のない日々に鬱憤が溜まっていたのか。

 

 「ほれ」

 「……?」

 「乾杯だろうが。お前酒は飲めるのか?」

 「あ、あんまり、肝臓に負荷を、かけられないです」

 「なら水で構わん。お前にとって20年ぶり、俺にとっちゃアイスワーム戦以来にな」

 

 掲げられたジョッキに、レイヴンのグラスがカキンと音を立てた。

 

 「……アビドスは、その後、どうです」

 「まぁ、ぼちぼちだな。ホシノが帰って来て、またいつも通り過ごしとる。お前が派手に暴れてくれたおかげで借金の利子はほぼ無いも同然にまでは下がったしな」

 「小鳥遊、ホシノは、随分、しごかれたそう、ですね」

 「年頃の一人称が出て来るぐらいにはな。教訓も叩き込んでやったし、対策委員会も正式な部活として認めさせた。あいつらには組織運営のいろはを叩きこんでやるさ」

 

 ミシガンの眼光が鋭く光り、レイヴンの澱んだ青い瞳を覗き込む。深海に潜り込んでいるような、溺れそうな感覚を覚えさせる両目には、何も浮かんではこなかった。

 

 「黒服に、ついてなら、何も、言えません。ただ、もう、アビドスには、手は出さない、でしょう」

 「お前があんな奴とつるんでいる理由もか?」

 「はい」

 

 怯む様子もない。これはダメだと分かったミシガンは、一先ず黒服のことは無視することにした。

 

 「よく出来た傭兵になったものだな。誰に教わった?」

 「そう、ですね……ルビコンを、出てから、ある運び屋に。色々、教えてもらい、ました」

 「そうか」

 「……聞かないん、ですか?ルビコンの、こと」

 

 今度はレイヴンがミシガンの顔を覗き込む。

 

 「()()の耳に、わざわざ入れるべきほどのものじゃないだろう」

 

 そして誰もいない店内に沈黙が満ちた。耐えきれなくなったように、レイヴンが口を開く。

 

 「……伝記は、出ましたよ。貴方は、ルビコンで転んで死んだと、そう書かれました」

 「そうか。役立たずどもも日記を書くくらいは出来てたか」

 「レッドガンの、連名で書いて。ファーロン系列の、出版社が出して、ベイラムに、びた一文、無し、だったそう、です」

 「ファーロンの出版社?あいつら出版業界にまで手を伸ばしたのか」

 「あなたの、懸賞金の、半分を、元手に、出来たそう、です。顕彰館も、作られ、ました」

 「まったく……あいつらは変わらんな」

 

 そう言って二杯目のビールを飲むミシガンにつられるように、レイヴンも水を飲んだ。喉を通過していく液体を感じ、息を吐く。

 

 「一応聞いておくか。キヴォトスに何をしにやってきた?というかどうやって来たんだ。ここは入植船の離着陸場以前に大気圏離脱もまだの……いや、密航してきたのか」

 「お察しの、通りです。貴方が、ここに来る、半年前ほどに。総長は、どうして?」

 「よく分からん。気づいたらルビコンからこっちに来ていた」

 「……連邦生徒会長に、呼ばれて、と、聞きましたが」

 「直接会った覚えは無い。気づいたらシャーレに配属されて先生になっていた」

 

 教員免許を取った覚えはないんだがな、そうぼやくミシガンに、レイヴンは肘を付けて姿勢を崩した。

 

 「仮にも、木星戦争の、英雄に、ずいぶんひどい、扱いです」

 「ベイラムほどではないがな。単純に書類の量が多いだけなら捌きようはある」

 「……何だか、想像、できませんね。書類仕事に、追われる、総長」

 「俺を何だと思っとるんだ」

 「あ、いや。いじったつもりは、ないです。はい」

 

 慌てた素振りで訂正するG13は、背丈だけ見れば非常に年相応の姿だった。

 

 「そういうお前も再手術一つで随分と感情豊かになったもんだ」

 「?そう、見えますか」

 「20年前の写真と比べてみろ。首一つ動かせなかった時と比べりゃ、一目瞭然だろうが」

 

 言われて首筋にポンポンと手を当て、考え込むレイヴン。何を思い出しとるんだと内心でツッコまざるを得ない。

 そしていつの間にか、少しだけ頬が緩んでいることにミシガンは気付く。

 

 「それだ、それ」

 「それ……?」

 「笑っているだろう。顔見てみろ」

 

 言われるままにレイヴンが顔に手を当てる。

 そうしてやっと、その瞳が揺らいだ。

 

 「あ……」

 

 ミシガンの地獄耳でなければ聞こえない程小さな声が、色の薄い唇から漏れた。

 第4世代強化人間(イグアス)の世話をしていたミシガンにとって、感情の変化というのは察しなければならない部分だった。

 レイヴンはイグアスに比べて遥かに感情の起伏に乏しいが、だからこそこういう部分は分かりやすい。

 

 

 G13は、再手術を受けていないと。

 受けていればもっと分かりやすく感情が蘇るのだから。

 

 つまり()()()()()()()で、その焼かれた脳に一定の感情を取り戻したのだろう。

 

 

 「……やっぱり、総長は、凄い、です」

 「イグアスに比べりゃ分かりやすい。あいつは何もかもに喚き散らすばかりだったからな」

 「そう、だったん、ですか」

 「思えばお前をレッドガンの任務にアサインした理由もそうだった。お前の感情の起伏を取り戻すために外部からの刺激が必要だろうとな」

 「……それって」

 「ウォルターの提案でな」 

 

 二人の間に、しばしの沈黙が流れる。僅かに漏れる外の喧騒が、俄に大きくなったようだった。

 

 「なんとなく」

 

 ビールを飲み始めていたミシガンの耳に、拙い声がそう響く。

 

 「連邦生徒会長が、あなたを先生として、選んだ理由が分かった、ような気がします」

 

 それを聞いたミシガンは、カウンターにジョッキを置く。

 

 「……お前は」

 「?」

 「俺が先生に……生徒を導ける能力があると思うか」

 

 老いた男の声が、レイヴンの耳に染み込んでいった。

 

 「俺は職業軍人だ。役立たずでも戦場で生き残れる方法は教えてやれるが、それ以外は最低限しか教えられん。俺の人生は、先生なんて清廉潔白な職とは、文字通り世界が違う。

 銃社会とはいえ相手は子どもだ。俺がこれまで培ってきた教訓は、あいつらには必要ない」

 「……」

 「連邦生徒会長が俺を呼んだ理由は分からんが、撃ち合っても死人の出ない世界で、G1(木星戦争の英雄)の出る幕はない。そも本来、あっちゃいけないもんだ」

 「でも、小鳥遊ホシノを、救えた」

 「だがあいつの相談に俺は何も言えなかった。軍人の俺じゃ、あいつの背負うものに寄り添いきれなかった。俺の教訓は、あいつを引き戻すには力不足だったんだ。

 ……本当に、よりによってなぜ先生に左遷させられたのだろうな。俺は」

 

 そこにいたのはレイヴンの知るG1ミシガンではなく、己の業と非力さに悩む老人だった。G13の眼には、かつてはあれほど大きく見えた背中が、今は随分小さく見えていた。荒くれも者どもをまとめる傑物である彼も、ここではただの弱い人間だった。

 

 かけられない声に失望したかと顔をあげた男は、自分に一杯の水が差しだされていることに気付いた。

 

 

 「それは違います。総長は、先生としての責務を、果たせています」

 

 「借りたナンバーの分際で、言いますけどね。」自嘲の笑みを滲ませたレイヴンは、コップの水を飲み干して喉を潤した。

 

 「ここの生徒たちは、俺たちが思っているよりも、ずっと大人です。やりたくない仕事をこなし、聞きたくないことにも従う。あっちの、特に企業付きの大人に、ここの生徒たちの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいには、立派な子たちです」

 「まぁ、そうだな。特にベイラムあたりなら、いい下剤代わりにもなるだろうな」

 「ええ。

 それでも、やっぱり子どもでもあります。感情に振り回され、誰かの悪意に利用されることも多い。そうして落ちていく生徒も、かなりいます」

 

 水を飲み終わったレイヴンはコーラを頼み、抜けていく炭酸を眺める。

 

 「……だからこそ、俺たちに出来るのは、せめて彼女たちの、可能性を守るくらいです」

 「可能性、か」

 「ええ。きっと総長は、こういうのは嫌いだと、思いますが。人は誰しもが、可能性を持っています。特に子どもは、そうです。いずれ、誰も思わない方向へと飛んでいきます。

 無論、いい方向ばかりではありません。時に途轍もない方向に、どうしようもない事態を引き起こしかねません。でも、俺はそれでいいと思います。

 導くのではなく、零れないように引っ張る。惑わされないように、背中を押す。キヴォトスに必要なのは、そういう大人なんじゃ、ないでしょうか」

 

 そう語られた言葉に、喉に詰まっていた何かがストンと落ちていったのを感じる。

 社会から見捨てられたろくでなし共を、手の届く限りを掴んでしごきあげ、死なないような力を得られるように叩き込んだ。せめて命だけは奪われないようにと、彼の過去からの教訓に従って。

 『人間が生きるのに必要なのは、一に水と二に食い物、三四が体で、五に尊厳だ』

 キヴォトスには四までは揃っている。あと必要なのは、五を守ることだけだ。

 

 「総長なら出来ます。エリたちのような不良であっても、見捨てない貴方になら。きっと、先生もできるはずです」

 「……俺も年だ。キヴォトスの役立たずを全部は拾えんぞ」

 「それでも、です。

 俺が、保証します。あなたがくれた、このコールサイン(名前)にかけて」

 

 キヴォトスで再会して初めて、二人は真っ直ぐに顔を合わせた。

 しばし瞳を突き合わせていた二人だったが、やがてミシガンが破顔し、いつもの声量に戻った。

 

 「……はぁ、全く。飼い犬は飼い主に似ると言うが、そういうところは本当にそっくりだな!」

 「そういう、ところ?」

 「ああそうだ!とはいえ、この場では言ってやらんがな!まぁ女子供の多いキヴォトスならすぐに分かるだろう。お前も少しはウォルターの厄介さを勉強しておくといい!」

 「?」

 

 小首をかしげるレイヴンと、いつも通り豪気に喋るミシガン。そこには彼がキヴォトスに来てから隠しきっていた不安はどこにも無く、あの日初めて会ったミシガンその人となっていた。

 「シャーレの先生」ミシガンが始まったのはいつかと問われれば、まさにこの日であるだろう。

 

 小さな居酒屋には、しばし漢の大声がこだましていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 居酒屋から二人が別れてしばらく。

 キヴォトス某所、茜色が濃い影を作る時間帯。一人独立傭兵は、人気のない路地に杖を突きたてながら歩いていた。

 

 (まさか、総長、直々に、BBQに、招待、される、とは)

 

 どうやら今日はアビドス高校の一件の解決を祝してBBQ大会を行う予定だったらしく、受け取り日時を指定したのは、自分もついでに誘うためだったらしい。今夜行うそれに勢いでOKしてしまい、頭を悩ませているところだった。アイスワーム戦後の祝賀会に呼ばれたあの経験が、どうしても頭から外れなかった自分の判断ミス、とも言えるのだが。

 ところで総長はさきほどジョッキを5杯は飲み干したと思うのだが、そのまま生徒に会いに行って大丈夫だったのだろうか。

 

 (……けれど、総長が、変わってないのに、安心したのは、確か、なんだろう)

 

 非日常極まりない経験に衝撃を受けたのは、ミシガン総長だけでなく自分もだ。

 自分を人として扱ってくれた、大切な存在の一人。それが、生きていた。敵ではなく未だG13と呼んでくれた。

 

 

 

 自分が殺したのにも関わらず。

 

 

 

 ―俺には貴様が死神に思えてならんのだ!―

 

 

 ふと、思い出す。過去のこと。

 今はもうない、自分にとって本当の故郷とも言うべき、辺境の開発惑星を。

 そして今に至るまでを。

 

 

 

 『自分の選択が、間違っていて、それをやり直せるとしたら、貴方は、どうしたいですか?』

 

 『……そうですか』

 

 『私は、諦めきれません』

 

 『この透き通った世界に、あるべき未来を、日常を願わずにはいられないんです』

 

 『たとえ、貴方のような―――

 

 ()()が、その未来に立ちふさがってきたとしても』

 

 

 

 誰もが超人と言わざるを得ない、そんな少女が唯一願った、たったそれだけの未来。ミシガン総長が先生として、このキヴォトスに呼ばれた理由を、レイヴンは知った。

 それでも。

 

 

 「誰も、俺を、止められない」

 

 入り組んだ路地の先、影に隠れるような道筋の果て。

 そこにある誰にも辿れないセーフハウスの扉を、ゆっくりと開いた。

 

 

 「お帰りなさい、レイヴン」

 

 声の主は、床まで付くような長い黒髪を持つ、一人の少女。青い瞳にヘイローを戴く少女は、間違いなくキヴォトスの生徒。

 だがそのお辞儀は、どこか人形めいた、ただ適切な応答を繰り返しているような動きだった。彼の脳裏にミシガンからの言葉が蘇る。

 

 「少し、出かけるぞ」

 「?理由の説明を求めます。本機……私の外出は禁止されていたはず」

 「状況が、変わった。お前にも、外で、生活する、必要が、出てきた。今の、お前には、外からの、刺激が、必要だ」

 

 きっと、あの人なら。こんな状態を是としないだろう。人でなかった道具にさえ、情を注いでくれた、あの人なら。

 

 

 

 

 

 

 「AL-1S、仕事の……いや。

 愉快な、遠足の、始まり、だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……そうか。ご苦労だったな」

 

 キヴォトスの夜景を見下ろす摩天楼、その最上階では、今しがた電話でのやり取りが終わったところだった。

 

 「よろしいのですか、プレジデント。今回の騒ぎ、全てレイヴンとやらに譲歩する形で」

 「君も心配性だな。なぁに、腕の一二本引きちぎられようが、その程度で揺らぐカイザーではない。二本三本とまた生やせばいいだけのこと」

 「ですが、相手は一人。斡旋人とはいえ、規模からすれば組織とも言えないような零細企業です。いくらあのロボット……ACとやらが高性能とはいえ、それこそ隙などいくらでもありそうなものですが……」

 「そう見えるかね」

 「はい?」

 「大衆の眼を引き付ける動き、徹底した記録と証拠、何より裏から届いたわが社の機密による脅し。私から見てもあやつの動きは余りにも鮮やかに過ぎ、言い方を変えれば慣れているとしか思えんのだよ、ジェネラル。

 企業を潰す……単騎では実行しようとすら思いつかない、その行動にね」

 

 ジェネラルと呼ばれたそのロボットが息を呑む。企業を潰すなど、個人にとっては夢のまた夢のジャイアントキリング。あまつさえ、それをキヴォトスを代表する企業といっても過言でないカイザーに行うとは。

 ジェネラルは下手人であるレイヴンの底知れなさに気付き、同時にそこを見抜き適切な判断を下したプレジデントの手腕に、改めて尊敬の念を抱く。

 

 「とはいえ我々も黙ってはいられまい。カイザーローンの立ち直しには私が手を出すが、PMCにまでは手が回らん」

 「PMC理事も余計なことをしたものです。アビドスなどとうに斜陽の学園、すぐに武力で潰せばよかったものを」

 「そう怒ってやるな。彼の野心がなければゲマトリアとも繋がりを得られなかったのだし、結果として()()の存在を確認できたのだ。アビドスの土地は未だ私たちのもの、これさえ死守してくれたのなら、それでいい」

 

 余裕を崩さない態度で黒革張りの席に座ったプレジデントは、入り口に控える人影に目をやった。

 

 「ついては、PMCの復興には君の手を借りたいのだ。よろしいかな」

 

 プレジデントの言葉に、その女性は慇懃な礼を取る。

 

 「かしこまりましたプレジデント。ご期待に応える成果をお出ししましょう」

 

 キヴォトスでは割と珍しい、その女性にヘイローはなく、ただ淡々と優秀な成果を出し続ける期待の新人。まさにカイザーが望む理想の人物だった。

 

 「その答えが聞けて良かった。君には期待しているよ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ケイト・マークソン君」

 

  

 

 

 

 「はい。全ては()()の利益のために」

 

 











これにてアビドス編は終了となります。これまでご愛読してくださった読者の皆さま、本当にありがとうございます!
まさか筆に動かされるまま書いた作品がここまで伸びるとは思いもしておらず、感想や高評価が嬉しいのと同時にミシガン総長のエミュが出来ているのか不安もあり、それでも一つ区切りをつけられるところまで来れたのは、誠に皆さまのおかげです。改めて、拙作を読んでくださりありがとうございました。
次回からはパヴァーヌ一章になると思いますが、原作からはかなり違うものに仕上がりそうです。理由?大体イレギュラーのせいです。もちろんミシガンインパクトが主ですが、この作品の主人公はミシガンです。そこは崩さない形で行きたいと思いますので、これからも拙作の応援、何卒よろしくお願いいたします。

ところで皆さんは4周年、お目当てのキャラは引けましたでしょうか?
私は制服アスナ以外はお迎え出来ましたが、新総力戦のゲブラにボコされて後悔しかけてます。話が、違うっすよ……
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