ミシガン英雄伝記補遺:透き通る世界を地獄が歩く   作:柴猫

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久しぶりに長く書けました。


ミレニアム編:ロマンチストは黙れない

 

 「会長、昼食を用意いたしました」

 「分かったわ。そこに置いておいて」

 

 承知いたしました、コンソールキーを叩き続ける細指を見つめながらも、メイドは主の妨げとならぬように昼食を置いた。

 種々の具が入ったサンドイッチと小さく切られたリンゴが置かれたプレートの前には、冷めきったコーヒーがカップを満たしており、メイドの少女はにべもなくそれを捨てる。そうして新しく淹れられた湯気の立つコーヒーに、赤い瞳が向けられることは無いだろうけれども。

 

 「会長、今日はもう休まれた方がよろしいかと。このところ、あまり寝られていないように思われます」

 「いえ。少なくともアレの所在を特定するまでは休む時間などないわ」

 

 未だタブレットと大型スクリーンを睨み続ける瞳には、化粧で誤魔化しているのだろう隈が滲んでいた。誰に対しての誤魔化しかと言われれば、この場にいるメイドか。時たま来る超天才清楚系美少女ハッカーへだろうか。

 

 「申し訳ありません。私がもっと早く現場に急行できていれば、リオ様にここまで手をかけていただく必要はなかったというのに」

 「貴方が謝罪する必要は無いわトキ。連邦生徒会の兵力が撤退したとはいえ、廃墟に対して直接進攻する可能性を予見出来なかった私の落ち度よ」

 

 吐き捨てるようでいてどこまでも自罰的な発言に、従者であるトキは閉口せざるを得ない。それはある種の慣れでもあるのだろうか、何か反論を出すわけでもなく粛々とメイドとしての役割を果たしていく。

 そのサイクルを繰り返してどれほど時間が経っただろうか、日をまたぎかけようとしたところでコンソールに乗せられたリオの細指がピタリと動きを止めた。

 

 「リオ様?」

 「……」

 

 画面上に記されたデータのみを写す赤い瞳は、微かだが動揺している。付き合いの長いトキであるから分かる、微細で、なおかつ彼女が酷く動揺している証左でもあった。

 

 「追加の任務を出すわ、トキ」

 「はっ」

 

 優雅さを忘れていなかった先の動きから、見るまに無駄を無くした動きへとシフトした完璧な従者(C&C 05)に、リオは淡々と任務を下す。

 

 

 

 

 

 

 「廃墟区域から無名の司祭の遺産を持ち帰ったと思われる犯人―――レイヴンの調査をお願いするわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある日のシャーレ。

 今日もまた悪さをしたヘルメットや不良の悲鳴が聞こえる、まさに地獄といった様相を呈するのは俺によるレッドガン式再教育。学生の本分である勉学はもちろんのこと、体をつくるための走り込みやスクワット、基礎的な戦闘訓練にも対応したカリキュラムを組んでやった。受講生は泣いて喜ぶほどに全霊で取り組むとキヴォトスではもっぱら話題となっている。

 よからぬ噂もそれなりに出はしたが、エリ達ら受講修了者たちの行動を見てからはそうした声も少なくなっていった。元よりどんな批判があろうと内容を変えるつもりは無かったが、こればっかりはあいつらの功績と言えるだろう。

 

 そういうわけで住み込みの受講者も大分増え、設置した当番制もアビドスに限らず普及しシャーレが大分充実してきたところ、とある依頼が舞い込んできた。

 

 

 依頼主はミレニアムサイエンススクール。

 このキヴォトスの技術レベルを牽引しているとも言えるほどの科学技術を持った学園であり、合理性と整合性に重きを置いた学園であるという。かつての企業の立ち位置で言うとアーキバスに近いだろうが、そちらと違い暗い噂は聞こえてこず、代わりと言うべきか大分ぶっ飛んだ事故事件の見本市といった学風らしい。ユウカは否定するだろうが。

 それでもゲヘナ・トリニティと並んで三大学園として位置づけられている大学園である。アビドスから大分規模が大きくなったが、まあ心配はいらん。今はそれなりに使えるドラ娘どもが多くいるからな。

 

 連絡を受けて向かったミレニアムは、まさしく近代都市といった風貌だった。

 几帳面に整理された区画、各所を繋ぐモノレール。中央に聳え立るミレニアムタワーといい、その威容は木星経済圏の企業本社都市に迫るほどだ。

 中身の綺麗さは段違いだが、これは比べるのも烏滸がましいか。

 

 バスから降り―これも自動運転だった―、目的のミレニアムタワーへと向かう。

 空の真上にタワーの天辺が重なるところまで近づくと、入り口が何やら騒々しい。こんな場所で何をしとるんだ。

 

 

 「セミナーは直ちにネストと契約を行えー!!」「即時にACの技術解析許可を保証せよー!!」「ACバラさせろー!!」「ついでに武器も寄こせー!!」「レーザー兵器も持ってるのか!?」「噂の真偽を確認させろー!!」「ハァハァ、あの綺麗なボディを弄れるなんて、想像しただけで下腹部がゾクゾクしてくる……!」

 

 「こんな真昼間からデモか。引きこもりのもやしばかりと思っていたが、随分と元気な連中だ」

 

 それなりにデカい声を出したつもりだが、生徒らが罵倒に気付いた様子はない。実験の爆発で耳が遠くでもなったか。

 

 「そこをどかんか貴様ら!ミレニアムの生徒ならバリアフリーを知らんわけはあるまい!?」

 「だ、誰!?」

 「あの制服って……シャーレの先生!?」

 「確か外から来た人で初めてタンクジャックしたって……」

 「不良をのしまくって全員シャーレに収容してるって噂の!?」

 「皆逃げろ!鬼教師が来たぞ!!」

 「つまり体育教師ってこと!?やだー!もうトレーニングしたくないぃぃぃ!」

 

 蜘蛛の子を散らすように逃げていき、綺麗になったタワー入り口。そこから慌てて出てきたのは、こちらに連絡を寄越したセミナーの会計、ユウカだ。慌てた顔を見るに、デモへの対処を考えていたところか。

 

 「あ、先生!すみません、うちの生徒が」

 「構わん、前の職場でもあいつらの同類は見慣れとる」

 「......軍隊にもそういう人いるんですね」

 「資本に不安のない技術者なんて大抵そんなもんだ。それで、あいつはもう来ているか?」

 「え、ええ。中で待っていますよ」

 

 自動ドアをくぐり、見上げるほど高い天井をしたロビーで、来客用のソファーに腰掛ける小さい白いのに会う。

 

 「ゲヘナ以来だな、G13」

 「総、長」

 

 

 

 

 

 「本日はご足労いただき、ありがとうございます」

 「いや、こちらこそこのような場を用意していただき感謝する」

 

 応接室でユウカと向かい合わせに座るG13。こう見ると長姉と末弟ぐらいに背が離れた両者だが、これから行われるのは決しておままごとなどではない。

 

 ユウカもといミレニアムからの依頼は、独立傭兵斡旋所レイヴンズ・ネストとの技術開発連携、その契約に関する仲介役だ。

 

 カイザー襲撃事件の後、レイヴンズ・ネストの知名度は飛躍的に爆増した。ACという人型高機動兵器の製造やMTレベルの廉価兵器を売れる技術力に、見事に世間の連中は眼が釘付けとなった。

 また報道機関であるクロノススクールを招き入れ、本業である傭兵稼業もアピール。誰であれ拒まず、適正な価格帯の報酬を必ず払い、満足な装備が無ければ弾薬費もこみで貸与。そのおかげで資金不足で凶行に走る生徒が減少しているなんてデータも、妙に信ぴょう性高めに報道されたおかげで、ネストは個人経営且つブラックマーケット出であるにも関わらず妙に信頼性が高くなっている。

 つまり、取引相手としての条件を満たしているということ。

 入り口前のデモは、そうしたネストのアドバタイジングによる結果だろう。ただロボットを作れる怪しげな会社、ではここまで熱は上がらなかったはずだ。……おそらく。

 

 そうした生徒たちからの強い要望を受け、ミレニアムの生徒会であるセミナーも重い腰を上げざるを得なくなり、こうして交渉の席を設けたというのがこの状況ということだ。

 そしてミレニアムからはAC関連の技術を、ネストからは販路と生産の拡充を互いに求めあっている、つまり割れ鍋に綴じ蓋というわけだ。ここに俺が呼ばれたのは、『謎の多いレイヴンをよく知っている先生に付いていてほしい』という、いわば保険。G13もそれを了承した。

 

 「―――販路についてはそちらの名義を使わせてもらいたいが……」

 「ミレニアムのものを、ですか」

 「ああ。ネストはあくまで非合法の企業、警戒しているところも多い。ミレニアム製と名付ければ、それも和らぐはず」

 「こちらとしても、ミレニアムの看板を貸すのは吝かではありませんが……生産設備の設置運用費をそちらで担ってくれるのなら問題ありません」

 「設置についてはこちらが担おう。だが電気代などのエネルギー代はそちらに払ってもらいたい。……看板を掲げている以上、ただの横流し品では傷がつくのでは?」

 「なるほど、一理ありますね。ではそのようにしましょうか」

 

 ユウカの奴め。心配だからいてくださいとは言っていたが、一歩も引いていないじゃないか。この分なら俺は要らないだろうに。契約のいろはや手口も出来ているし、わざと高い要求をふっかけて譲歩させる形も出来ている。これならG13の方についてやったほうが良かったか?

 まぁ今は俺も先生であるため、あっちにはどうやっても付けないだろうが。

 

 任せておいた書類処理を手伝えと喚くアロナに字面で喝を入れ(後でいちごミルクを差し入れろと要求された)、会議の進展を見守る。G13がチラチラとこちらを気にしているが、落ち着かないのだろうか。ACの技術はともかく、口ではまだまだウォルターには及ばないな。

 

 

 そうして会議は終わり、両者互いに手を取って終了の運びとなった。

 結果としてはまぁ、ミレニアムとネストで6:4といったところか。契約内容も目を通したが、特段怪しげなもの(ゲマトリアの匂い)はない。仲介役としてOKの判を押す。

 

 「……じゃあ、早速武器を、見せましょう」

 「もう出来てるのか?」

 「ええ、まぁ。重量バランス、と使用弾薬の調整、だけ、ですけれど。早瀬氏もそれでいいですか?」

 「は、はい。早めにして頂くぶんには全く。むしろいつうちの生徒たちか校舎が爆発するのか分からないので……」

 

 ほとほと困り果てた様子のユウカには同情せざるを得ない。似たような経験は俺も腐るほど経験しているが、こればっかりは良い感じに頑張れとしか言えないのが歯痒いところだ。

 予想以上に酷ければいっそ全員シャーレにぶち込むか、そう考えている横でG13が端末に連絡をかけ、1コールで繋がった。

 

 「便利屋か。今こちらの契約が終わったから武器を……『ど、泥棒ーーー!!』なに?」

 

 持っていた携帯から、スピーカーモードにもしてるのかと思うほどデカい、聞き覚えのある慌て声が室内に響いた。

 

 『あ、レイヴン!?侵入者よ侵入者!!格納庫内に二人、今あの子が追いかけてる最中!』

 「追いかけているだと?格納庫内の警備ロボットは?」

 『朝にマーケット内で爆破騒ぎがあって、それでうち一帯が停電しちゃったの!その隙に侵入されたと思う!』

 「なぜ?予備電源があるはずだ。システムがそれで壊れることはないはず、起動履歴は……いや、今は良い。侵入者の特徴は?」

 『かなり小柄の……一年生かしら?背格好が似てるし、双子っぽいわね?え、なにカヨコ……

 な、なんですってーーー!!?

 「どうした?」

 

 ユウカも席から飛び出し、携帯に耳を押し当てようと近づく。俺がスピーカーモードのボタンを押すと、アルの叫びがはっきり聞こえた。

 

 『あの子たちの学生服……ミレニアムの生徒ですって!!?』

 

 

 

 「「「は?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「侵入者を発見、排除します」

 「うわー!!ちょ、ビーム!ビーム飛んできたよミドリ!やっぱりビームライフルを持ってるって噂は本当だったんだ!」

 「お姉ちゃんうるさい静かにして!!もーー!なんでこんなことにー!!」

 「「待ちなさーーーい!!」ってくださーーい!!」

 

 施設の廊下を走って逃げる双子と思しきミレニアム生、そこにレーザーライフルによる追撃を加えていくAL-1S、それを走って追いかけるアルとハルカ。ムツキとカヨコは別室で状況を確認し二人をオペレートしている。

 

 「あの二人このまま武器の生産ラインに逃げ込むつもりよ!」

 「そんなの許しません!!アル様のご信用の為に、ここで死んでください!!」

 「ちょ、ハルカステイ!あの子たちの母校で契約結ぶまでがネストの経営委託期限でしょ!?」

 『あれ?アルちゃん早く契約終わらせたいの?』

 「と、当然でしょ!業務をやってる間は他の依頼も受けられないんだし!便利屋はあくまで中立、フリーの立場なんだから」

 『一日三食、一人当たり個室も用意されてシャワーもある。休日が不定期なのを除けば、こんな好条件な仕事無いと思うけど』

 「うっ。そ、それはそれよカヨコ課長。とにかく!仕事に対しては誠実にこなすのがうちのモットー!というわけで捕まってもらうわよ、泥棒猫ちゃんたち!」

 

 「「いやぁぁぁぁ!!」」と情けない悲鳴をあげて足を動かし続ける才羽姉妹。しかしながらAL-1Sとの距離がどんどん縮まっていく。当然だ、彼女は疲れ知らずの体をしているのだから。

 

 「脅威度を上方修正、強制排除を執行します」

 「ちょ、何か馬鹿でかいの出てきたよ!?なんであの子あんな大きいもの持てるの!?」

 「いいから走ってお姉ちゃん!絶対ヤバいやつに決まってるって!」

 

 複数の銃口が並んだ砲門それぞれから青光烈しく、やがて収束し一つの大きな光となる。逃げ場のない一直線の廊下において、その矛先は目の前を走る二人の背後へと向けられ――

 

 『攻撃中止!とまれ、AL-1S、やりすぎ、だ!』

 「!レイヴン」

 

 硬直するAL-1S。バックパックから砲門を出していたVP-60LCD(拡散レーザーキャノン)が収納され、やっとアルたちが追いつく。

 

 『ほう、アーキバスのレーザー兵器をダウンサイジングしたのかG13。次からはうちのエアコンの修理もお前に頼もうか』

 『勘弁、してくだ、さい。まだ運用法に、難を抱えた、試作品どまり、ですよ』

 『二人とも注目するところそこですか!?というかモモイ!ミドリ!またあんたたちね!!?』

 「げっユウカ!?なんでそこにいるのさ!?」

 『なんでも何も今日!!うちはレイヴンズ・ネストと契約する日なの!!あんた学内掲示板見てないわけ!?』

 「だ、だってあそこ普段大して面白いこと書いてないし」「えっ!そうだったんですか!?」

 『ミドリも見てなかったのね……そこで大人しくしてなさい!今から向かうから』

 「え!?また二週間ゲームに触れなくなるの!そんなの嫌だ!絶対捕まってやるもんか!!」

 

 「ちょっと!!?」ユウカの怒声を無視し、モモイはミドリの手を引いて奥へと走っていく。

 

 『ああもうなんでこんな時に……!』

 『ミレニアムの人だっけ?あの子たちそんなに問題児なの?』

 『え、ええ。ゲーム開発部。ろくに成果も出さない上に、色々と問題行為を働く部活動の一つです。校内に変な建物を建ててカジノもどきでギャンブル大会したり、レトロゲームを探すとか言って古代史研究会を襲撃したり……』

 「何よそれ!?校内でギャンブルはダメでしょ!もっと真っ当な稼ぎ方をね……!」

 『社長ごめん。ちょっと黙ってて』

 『アルちゃんそれ私たちが一番言える立場じゃないよ……あ、レイヴン君も含めてか』

 『君付けはやめろ。とにかく、その二人をなるべく傷つけずに無力化、してくれるか?』

 「で、ですが私たちの武器だと、火力が高すぎて施設を巻きこんじゃいそうです。あ!アル様の狙撃なら……!」

 「もちろん!……と言いたいけど、停電で廊下が暗いし滅茶苦茶に走り回ってるから、一発で倒すのは難しいわね。あと他校とはいえ小さな後輩を傷つけるのも気が引けるし……

 

 考え込み始めた現場に沈黙が満ちる。レイヴンもこれからの取引を考えればなるたけゲーム開発部に傷は負わせたくない。が、不慣れなこともありどう対応するのが正しいのかよく分からない。

 

 

 『あるじゃないか、とっ捕まえる方法が』

 

 レイヴンとユウカ、そして通信機越しにもミシガンの発言に視線が集まる。

 

 『G13、ルビコンでやった化け物退治を覚えているか?』

 『アイスワーム、ですか?はい、まあ』

 『さっきのレーザーキャノンを対人用に作り直したのなら、当然あれもあるはずだな?』

 『……総長、まさか。確かに、あれなら鹵獲も可能、ですが』

 『物は試しだ。安心しろ、キヴォトスの住人はお前が思う数十倍は頑丈だ、多少のマッサージで死ぬほどじゃない』

 

 一体何を言っているのか、理解できない生徒たちは会話の流れだけを察し、あ、これはヤバい奴だなとだけ、理解できた。

 

 『……AL-1S』

 「はい」

 『隣の、試験室に、試作品がある。持ってこい』

 「了解しました、レイヴン」

 『え、ちょ、ちょっと待って!?あれってなんですか先生!?いくら問題児とはいえ、うちの生徒にケガさせるのは看過できませんよ!?』

 『落ち着けユウカ、安心しろ。この状況に対してぴったりな、贅沢な専用兵器だ』

 「贅沢な……?」

 『専用兵器……?』

 

 扉を開けて出てきたAL-1Sの手には、彼女の体躯とはアンバランスにも程がある大型のキャノン砲らしき筒が握られていた。

 

 「目標を確認、直撃を狙います」

 『直撃させるな、足元に撃って爆風を当てろ』

 「爆風ってやっぱり榴弾じゃない!?」

 『静かにしていろアル。G14聞こえるか』

 「はい、ミシガン先生」

 『そいつはG13が使いこなした由緒ある武器だ、貴様も伝統に則って使いこなして見せろ!』

 「……承諾」

 

 廊下を走る二人の足元、着弾までに移動する距離を計算する。二人の背中を追い抜くように、それでいて当たらないように。

 弾道計算完了。発射ポイント確認。ランチャー固定率98%、照準補正よし、90、95。

 

 

 

 消える。背景が、声が、感情が。

 恐怖は無い、ただ何かが、足りない。致命的な、何かが。

 もう一つあれば、()()は完全な―――

 

 

 

 ―お前の名前と同じように、な―

 

 

 

 思考領域をリセット。

 今は、命令を遂行するのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「外しは、しません」

 

 通信機の向こう側から、誰かが息を飲む音がした。

 

 そうしてけたたましい発射音と共に銃口から射られたのは、激しい雷電を帯びた弾丸。瞬きの間に才羽姉妹を追い抜き、生産ラインへ続く扉の目の前へ突き刺さった。

 

 「え」

 

 弾頭から黄色い爆発が発生する。それは手榴弾とは違いバチバチと電気を伴った物で、才羽姉妹はそれに飲み込まれた。

 

 「「あばばばばば!!?」」

 

 半球状の放電が起きた後、二人はばたりとその場に倒れ伏した。ヘイローは消えているがピクピクと振動しており、生きてはいるようだ。

 

 

 「目標の無力化を確認」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ~ん~た~た~ち~!!」

 

 その後、ネストの生産工場へと正式に案内されたユウカは、応接室でちょっと焦げているモモイとミドリに泣きを入れて絞っていた。G13は便利屋に報酬を支払い契約は終了、その時小言で「あ、あんまり叱ってあげちゃダメよ?」とアルがユウカに言っていたが、あの様子だと聞こえていないな。

 とはいえまぁ、今回はゲーム開発部が完全に悪い。しかも社会的信用があるとはいえ裏社会の組織に侵入するのもよりマイナスだ。少なくとも、俺の古巣じゃ一発でアウト。文字通り首が飛んでいただろう。

 

 そしてなぜ侵入したのかの理由だが、どうやら所属しているゲーム開発部が、このままだと廃部になるからだそうでそれを防ぐためにこんな無茶をしたらしい。

 その事に対して妹の方は割と大人しく聞いているが、姉のモモイは事あるごとに反論をしてくる。ただその元気もユウカの理詰めに押し込まれていくが。

 

 「あれだけ各所に迷惑をかけて、その上今回はレイヴンズ・ネストに襲撃?どう考えても部活動の領域を、いやミレニアムの枠まで越えてるわよ!真っ当な言い訳くらいしてみたらどうなの!」

 「と、時には結果よりも、心意気を評価してあげることも必要……あ、それと訂正!私たちはここを襲撃してない!ただちょっと、ACとか色々見て回っただけだから!」

 「負け犬の言い訳なんて聞きたくない」

 「聞きたいのか聞きたくないのかどっちなのさ!?」

 「無意味な言い訳は聞きたくないってことよ。ミレニアムでは「結果」が全て。あんたたちが無許可でネストに侵入したのも変えられない結果よ」

 「そ、それ以外の結果だってあるもん!私たちも、ゲームを開発してるんだから!」

 「そ、そうですよ!『テイルズ・サガ・クロニクル』はちゃんと、「あのコンテスト」で受賞、も……」

 「お前らちゃんとゲーム作ってたんだな」

 「あれ?もしかして、シャーレの先生?」

 「え!?あのシャーレの先生!?」

 

 ミドリが口を挟んだのを見て疑問を投げかけると、ユウカはため息を我慢したような表情になる。

 

 「その反応を見るに、先生はご存知ないようですね。『テイルズ・サガ・クロニクル』……このゲーム開発部における、唯一の成果です。ゲームそのものもさることながら、レビューが大変印象的でした」

 「ほう」

 「「私がやってきたゲーム史上、ダントツで『絶望的な』RPG。いやシナリオの内容がとかじゃなくて、ゲームの完成度が」」

 「ん?」

 「「このゲームに何が足りないのか数え出したらキリがないけど……まぁ、一番足りてないのは『正気』だろうね」」

 「……」

 「「このゲームをプレイした後だと、『デッドクリームゾーン』はもしかして名作の部類に入るんじゃ……って思っちゃうわ」」

 「わ、私たちのゲームは、インターネットの悪意なんかには屈しな……」

 「例えユーザー数が無限にいたとしても、たくさんの評価が収束すれば、それは真実に一番近い結果よ。それに、あなたたちの持っている「結果」はその「今年のクソゲーランキング1位」だけでしょう?」

 「そ、それはそうだけど……っ!」

 

 何たることか。てっきり変人だが腕は確か、の部類に入るかと思えばそれですらないとは。むしろ今まで存続出来ていたことが不思議なくらいだが。

 

 「話は済みましたか」

 「っ。レイヴンさん」

 「契約についてはまあ、いいです。タイミングが悪かっただけと思えば。物理的損害も、今のところないので」

 ただ、落とし前はキッチリ付けさせてもらいます」

 「わ、私たちをどうする気!?」

 「さぁな」

 「ちょ、ちょっと待ってくださいレイヴンさん!この子たちはあとで私が厳しく言わせますから……!」

 

 雲行きが怪しくなってきた。こいつもああまでされて黙っているほど“善良”ではない。俺も人の事は言えんが、ここは先生として出るべき時か。

 そう思って間に入ろうとしたその時、奥からG14がスマホ片手に出てきた。

 

 「レイヴン。生産工場でこれを発見しました」

 「これは……。どっちのだ」

 「あ、それ私の!」

 「そうか。データを吸い上げろ」

 「了解」「え、ちょっと!」

 

 そのまま解析を始めるG14に、椅子に縛られたモモイが抗議の声をあげる。本当に元気な奴だ。イグアス並みだな、これは。

 

 「やめて!中に入ってる『ドラスト』と『パズモン』には触らないで!まだ今日のデイリー終わってないの!」

 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!それよりあの子、機械みたいなの付いてない?」

 「G14はアンドロイドだからな」

 「そうなの!?もしかしたらここって、エンジニア部より機械に精通してるんじゃ……」

 

 解析が完了したのか、G14は腕につけられたモニターをG13へと見せた。

 

 「これは……」

 「施設と関連するデータは、これだけです」

 

 モニターとにらめっこするG13だが、しばらくして目を離し、モニターを二人に見せるように向けた。

 

 「才羽モモイ、だったか」

 「は、はい」

 「これは、なんだ」

 

 写されていたのは、重機のような太い足に前掲姿勢を取った流線形のコア、肩の長い腕部で組まれた重量級の二脚ACだった。丸みを帯びたデザインはベイラムの物ではなさそうだが、しかしアーキバス製かと言うと無駄が多いような気もしなくもない。

 

 「お前の携帯のデータにはこれしか無かったが、何か理由があるのか」

 「ええと……わ、私たち次のゲームのネタになりそうなものを見つけようとしてここに来たの。そしたらそれがあったから、ミドリのデザイン案になりそうかなって思って撮ったの。その後すぐそのロボットに見つかって落としちゃったんだと思うけど」

 「……整備棟には他にもACがあったはずだが、なぜこれだけなんだ?」

 「え、うーん……追われてたのもあるけど、

 

 それが一番()()()()()形だったからかな?」

 

 本当に僅かだが、目が見開かれている。理由は知らんが、何か驚いているのか。

 

 「ちょっとお姉ちゃん、あんまり失礼なこと言ったら……!」

 「……そうか」

 

 僅かに口元を綻ばせたG13は、そこでようやく椅子に座り息を吐いた。

 

 「分かった。今回は、お前のセンス、に免じて、許してやる」

 「え、いいの!?」

 「本当ですか!?」

 「ああ。早瀬氏も、それで、いいです、か?」

 「は、はい。ええと、つかぬことですが、理由をお聞きしても?」

 

 僅かに上を向いた視線は、何かを思い出している、そんな目つきをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「前任の技師なら、笑って許す、理由になる、からです」

 

 どうやらこいつもまだまだ、あいつと同じ甘ちゃんだったようだ。




というわけでパヴァーヌ一章スタート。初っ端から原作展開とかなり違ってますが、多分大丈夫な、はず。うん。
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